ゴールを再度明確にする② 見たいものを整理して見る【職務記述書(JD)を書くためのコーチング5】

プロジェクト推進部のプロジェクトリーダー、菅沢は部署の価値を高めるため、他部署との連携した改善やプロジェクトの立ち上げのための部下を採用することになりました。上司、佐久間とのコーチングを通して、職務記述書(Job Description/ 以下JDと略します)を新たに作ります。

前回は「会社のミッションを、部署のミッションに落とし込む」というテーマを目標達成のためのコーチングフローを使って行い、菅沢は、下記の二つのアクションプランを出しています。

1 会社のミッションが修正されたときのメールを読んでよく理解する。
2 ミッションが修正されたときの経緯を知っている人からヒアリングする

今回のコーチングはこのアクションプランの確認からとなります。
その後、前回の積み残しのゴールについてのコーチングになります。今回、会社のカルチャーについての話が出てきます。自分の中にあって、羅列して整理したいものを一緒に見ていくというコーチングのやり方もあります。考えを整理するためのセッションです。佐久間は曖昧な言葉が出てくる度、丁寧にひらって菅沢に問いかけ、より具体的な文面にしていきます。

プロジェクト推進部の背景:
彼らはオミヤゲドットコムという会社のプロジェクト推進部の社員です。
プロジェクトマネージャーの佐久間はチームメンバーの成長のためにOne on One(一対一の面談)をコーチングで行っています。主に直属の部下で、女性管理職のプロジェクトリーダー菅沢を対象としています。

主な登場人物:
佐久間省吾 35歳 プロジェクトマネージャー
菅沢莉子  32歳 プロジェクトリーダー
東堂聡志  28歳 プロジェクトメンバー

<ゴールを再度明確にする その2>

佐久間
菅沢さん。では①前回の振り返りをしたいですが、いいでしょうか
はい、会社のミッションをまずよく理解するためのアクションプランでした
菅沢
佐久間
そうでしたね。どうでした?
社長からのメールはミッションに対するより大きな思いが込められていて、そこから読み解くのは難しかったです
菅沢
佐久間
そうでしたか
けど、人事と買い付けの部長さんたちとミーティングを持たせていただいたのは大変参考になりました。佐久間さんも同席してくださってありがとうございました
菅沢
佐久間
いえ、私も聞きたかったですし。本来、会社のミッションが変更になった時に、部門の長である私が、部門内に落とし込むセッションを持つべきだったかなと思っていたので、便乗もさせてもらいました
そうなんですね
菅沢
佐久間
今後の展望とか、我々に期待していることとかも話してくれてましたね。参考になったんですね
はい。部署としてどこまでできるかはおいておいても、②部門間をつなぐ役割と、テクノロジーを最先端レベルで導入していきたいという思いはとても参考になりました。そしてどちらも、今回作ろうとしているプロジェクト推進部のミッションにつながると思いました
菅沢
佐久間
部署のミッションにつながると思ったんですね
はい、なので、今回、②『部門とのよきパイプラインとなる』とか、『テクノロジーへの理解と導入』とかを候補者向けに書いていければと思います。まずは部署のミッションとして文書化しますね
菅沢
佐久間
それはアクションプランの一つですね
はい。そうしたいです。できればそれをたたきにして、佐久間さんと東堂さんにも見てもらって意見交換をしたいです
菅沢
佐久間
では、③『文書化して、部内で意見交換する』もアクションプランに入れましょう。では、今日の時間はどんな風に使っていきますか
もう一つ明確にしたい、会社のカルチャーについて考えたいです
菅沢
佐久間
会社のカルチャーについてですね。詳しく話をしてください
会社のカルチャーというのはなかなか言葉にするのは難しいといつも思っています。文書にすると結構生生しくなるというか。でも実はここが合わないと一番難しいのではないかと思うんです
菅沢
佐久間
カルチャーを言葉にするのは難しい。そして合わない人が入ることも厳しい状況になると?それってどんな感じですか
カルチャーが合わないと仕事の完成度にも影響が出たり、コミュニケーションの取り方にも問題が出てきたりすると思うのです
菅沢
佐久間
仕事の完成度やコミュニケーションに影響すると思うんですね
はい。うちの会社は堅実な小売り業界に見えていて、その実、日本の会社の中ではベンチャー的で、スピード重視なのではないかと思います。進みながら考えるみたいな
菅沢
佐久間
スピード重視なカルチャーだと思っているんですね
そうですね。他にも、感じていることがあって
菅沢
佐久間
④では、カルチャーについて考えたいというのは、菅沢さんの感じるカルチャーについてまずまとめてみたいということでしょうか
そうですね。カルチャーについては、ある意味書いてる文書があるわけではないので、私が思う会社と特に自分の部署のプロジェクト推進部のカルチャーみたいなものを、できる限り羅列してみたいです
菅沢
佐久間
わかりました。では続けてください。まず一つは進みながら考えることを大事にするスピード重視だということでしたね。他には?
それと似ていますが、導入してみてだめなら、やめて、別の方法を考える。つまり失敗を恐れずに目的のために再挑戦するみたいな
菅沢
佐久間
目的のためには失敗を恐れず再挑戦するですね
失敗を恐れるぐらいならタイミングを大事する
菅沢
佐久間
タイミングを大事にするとは?
新しいビジネスライン、Made in Japanのみの店舗、ジェイズグッズカンパニーを作って、ゆくゆく輸出をめざすことがそうです。オリンピック、万博を控えている中で、日本の観光産業の拡大と多様性に合わせた展開だと思うのです。日本をよく知ってもらうタイミングでもありますし、ビジネスの展開の好機だと思います
菅沢
佐久間
ビジネスの好機を逃さないというのが、タイミングを大事にするということでしょうか
そうですね。あと、社内的なものもあるかなと。オミヤゲドットコムのいいところはある意味官僚的な手続きが最小限な分、コミュニケーションの速さを実現できていると思うのですが、社内間のメールにしても、ミーティングにしても、プレゼンの機会でさえも、タイミングを大事にしていると思います
菅沢
佐久間
なるほど、社内におけるタイミングも大事にしているということですね
はい。そういう意味では、他部署やメンバーを尊重して仕事を大事にしているカルチャーもあるように思います
菅沢
佐久間
いいですね。⑤大きく四つでたと思います
一つ目、 失敗を恐れず再挑戦する
二つ目、 考えるだけでなく、すすみながら考える(スピード重視)
三つ目、 タイミングをのがさない(好機を逃さない)
四つ目、 他者を常に尊重する
で、よかったでしょうか。他にはありますか
ありがとうございます。はい、思いつくものもありますが、どれも似通ってくるので、サマリーしてくださった四つが私の思いつくカルチャーかと思います
菅沢
佐久間
カルチャーを羅列してみてどうですか
このまま、羅列したカルチャーに順応しやすい人と書くわけにはいかないので、少し文章に起こしてみて、ミッションと同じように、佐久間さんと東堂さんに見てもらいたいです
菅沢
佐久間
では、文章に起こしてみるというアクションプランですね
はい、それでお願いします
菅沢
佐久間
いつまでに、文章に起こしますか?
来週のこの時間までに、できれば、その時、東堂さんにもはいってもらって、一緒にレビューしたいです
菅沢
佐久間
わかりました。では、次回のミーティングに入ってもらえるように伝えてもらえますか
了解しました
菅沢

セッションのポイント

1 定期的にコーチングしている場合は、必ず振り返りからします。
2 会社のミッションが変更された経緯を他部署のマネージャーからヒアリングし、同時にプロジェクト推進部への期待を聞いた菅沢と佐久間。
菅沢は他部署からの期待を上手に理解し、そしてそれを部署のミッションへ変換しようとしています。
3 コーチされている側が、コーチングの途中でやってみたいことを言った場合、アクションプランとして整理しておきます。今回は聴いていませんが、できればコーチングの最後に、それを実際にアクションプランとするかどうか確認したほうがいいでしょう。途中で述べたアクションプランはコーチングの最後に別のアクションプランと矛盾してくる場合もあるからです。
4 カルチャーがどういったものかを考えながら話している場面です。コーチングのテーマは様々です。まずは心に浮かんだことを整理して見たいという場合があります。そういった場合も、コーチは今、見たいものがどういったものなのかを確認します。
5 大きく4つ出たと言っています。ランダムに話をしているので、コーチ側でサマリーし、間違いないか確認します。

コーチングのチェックポイント

前回のアクションプランがあった場合は、必ず振り返りからしているだろうか
途中でアクションプランを出てくる場合、それらを整理して聞いているだろうか
見たいものが何なのかを整理してコーチングできているだろうか

まとめ:

コーチングは目標達成のためのコーチングフローだけではなく、コーチされる側が見たい景色を見る手伝いをするといったお題も取り扱います。ビジネスシーンでは目標達成をテーマにすることが多いですが、それ以外にもコーチングのテーマにあげられ、それぞれにやり方が存在します。
例としては、人間関係をよりよくしたい、目に見えない不安を具体的にしたい、矛盾したやり方をどちらもやり遂げたい、などです。
*この物語に登場する人物名、団体名、システム等はすべて架空のものです。

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