転職活動の面接で、必ずといってよいほど問われる質問が退職理由です。企業によっては、職務経歴書などの応募書類に記載を求められるケースもあります。つまり、その答えを企業が重要視していることは明らかです。
ともすればネガティブな色合いを帯びやすい退職理由についての対策を用意しておくことは、選考をクリアして採用に近づく流れを強めることができます。
この記事では、面接官がその質問を投げ掛ける背景にあるものを明らかにし、そこから逆算して良好な答え方につなげるコツを紹介していきましょう。
目次
面接官が退職理由を問う背景にあるものとは?
中途採用の面接での面接官の焦点は、おおむね以下の2段階に集約されます。
第1段階:入社してすぐ辞めないかどうか
第2段階:自社で力を発揮できそうかどうか
これを判断するために、さまざまな質問がなされると考えて間違いないでしょう。そして、数ある質問の中で「退職理由」に関するものは非常に重要です。
面接官には退職理由に耳を傾けることによって、その2段階がある程度見えきます。順を追って説明していきましょう。
第1段階:入社してすぐ辞めないかどうか
面接官は、見極めの第1段階ともいえる「入社してすぐ辞めないか」に関して、退職理由を聞いて以下の2点で判断します。
●納得できる理由か
●その問題にいかに向き合ったか
それぞれを補足しておきましょう。
納得できる理由か
応募者が述べる退職の理由が、客観的に見て妥当なものかということがまず判断されます。本人にとっては辞めるという結論が当然と考えていても、世間一般の目から見れば「考えが甘い」「思い込みが激しいのでは?」などと思われるケースも結構あるのです。
まずは誰が聞いても「もっともな理由だ」と思えるものでなければ、「どうせ新しい職場でも同じようなことになるだろう」と見られてやむを得ません。その時点で、選考から外れる可能性が高いといえるでしょう。
その問題にいかに向き合ったか
退職理由が客観的に納得できるものであったとして、応募者はその問題にどう対峙したのかが次にフォーカスされます。
すなわち、その問題にきちんと向き合って、自分から解決に向けた、あるいは改善を見据えたアクションを起こしたのかどうかというのが重要です。何もアクションを起こさず、すべてを周りのせいにして嘆いていただけではまったく評価されません。
理想的な職場などそうそうないものなので、誰しも多かれ少なかれ不満はあって当然です。問題はそれに対して主体的にアクションを起こせるかどうかであり、いいかえれば仕事に対する責任感があるかどうかに帰結します。
問題に真摯に向き合いもせずに転職に走るのはやはり安易であり、仕事に対する責任感に欠けると見られても仕方がありません。
しっかりと問題に対してのアクションを起こした上で、その結果をもって退職を決意したと理解できれば、仕事に対する責任感はあると評価されるでしょう。
この2点のどちらか、あるいはどちらもクリアできなければ「すぐ辞める」かもしれないと判断されて、選考から外れる可能性があります。2点ともクリアして「すぐには辞めない」と判断されれば次の段階です。
第2段階:自社で力を発揮できそうかどうか
さて、見極めの第2段階となる「自社で力を発揮できそうか」を判断するために、以下の2点を面接官は考えるでしょう。
●その問題は自社で解決できるか
●仕事に対する価値観が自社と合うか
退職理由にはその応募者の仕事に対する根幹の姿勢が凝縮されていて、多くのことを語るものであることは間違いありません。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
その問題は自社で解決できるか
面接のスペシャリストである面接官なら、応募者が答える退職理由に関して、舞台を自社に置き換えて想像をめぐらせるでしょう。
自社は彼の問題を解決できるような環境になっているか、また彼は自社の環境に置かれた時にどう考えるだろうかなどを想像するに違いありません。
その上で、同じように辞めていきそうだと判断するか、自社では問題なく仕事を継続できると判断するかということです。ひらたくいえば、会社との相性を見極める意味合いもあるでしょう。
さて、自社なら解決できると確信した場合には、いよいよ最後の項目が吟味されます。
仕事に対する価値観が自社と合うか
退職理由に耳を傾ければ、応募者が仕事をする上で何を重要視しているかという、仕事に対する価値観が見えてきます。その価値観の中で重きを置かれている部分は、自社の場合はそれを満足させられるだろうかと面接官は考えるでしょう。
それを叶えることができなければ、やがて自社からも去っていくかもしれないと判断されます。退職理由から伺える仕事に対する価値観で、自社の企業風土に合うかどうかを見られるということです。
さて、この4つめの項目までクリアできて初めて、採用の可能性が生まれると考えられます。あとは他のさまざまな質問に対する答えから企業側が感じる取るものと、経歴・スキルなどの総合判断となるでしょう。
退職理由の答え方5つのコツ
面接官が退職理由を問い掛ける背景にあるメカニズムを解説したところで、転職面接で退職理由を問われた際の、良好な答え方について解説していきましょう。
前述の面接官が退職理由を問い掛ける背景を理解すれば、そこから逆算してプラスの印象を与えやすい答え方にそのままつながります。
面接官が見極めたいことから逆算すれば、退職理由の答え方には対策として、以下の5つのコツが想定できるのです。
●すべての理由を語る必要はない
●ポジティブな表現に置き換える
●状況と対応を具体的に
●志望動機に紐づける
●堂々と自信を持って語る
この5項目を満たす答え方をすれば、面接官の共感を呼ぶ可能性は高まると考えられます。
5つのコツのそれぞれを、詳しく解説していきましょう。
すべての理由を語る必要はない
人が退職を決心するときは、たったひとつの理由だけでそうなることは珍しいでしょう。多くの場合、複数の大小さまざまな理由が重なり絡み合った末に、退職という結論に至ると考えられます。
その複数の理由を、何から何まで洗いざらい伝える必要はありません。ポイントは、伝えるべき退職理由は、応募先企業への転職によって解決されることに限定しましょう。
主に仕事そのものの方向性や考え方に絡めることが得策です。これに関しては後に出てくる「志望動機に結びつける」の項で詳述します。
人間関係や待遇面はNGと知ろう
人間関係などの理由は含めない方が賢明です。それはどこにいっても、その応募先企業であっても、起こり得るといえるのです。
これは面接官が問い掛けで見極めたい第1段階である「入社してすぐ辞めないかどうか」にも引っ掛かってきます。早い段階で選考から漏れてしまうようなリスクを犯してはいけません。
また、実際は重要な理由のひとつになりがちな給与などの待遇面も、ストレートに言葉にすると打算的な印象を与えるだけで、マイナスにしかならないでしょう。
例外としては、パワハラ、あるいはセクハラなどの社会通念上誰もが納得できる理由の場合は別です。そうでない限りは少々の人間関係の不満などは、一切触れない方がよいでしょう。
ポジティブな表現に置き換える
退職を決意するに至るまでには、多かれ少なかれ会社に対する不平不満があって当然です。しかし、それをそのまま伝えると不平不満が退職理由の前面に出てしまいます。
ネガティブな印象を面接官に与え、「もし採用しても、いずれ同じように不満をいうのでは?」と思わせかねません。
退職理由を答える最重要なコツは、内容をすべてポジティブな表現に置き換えるということです。
入社意欲に結びつける
たとえば「仕事が自分に合わなかった」などで終われば、単なる不平不満です。つまり、「ああいう仕事が嫌だった」のではなく「こういう仕事がしたかった」というように、過去ではなくこれからの応募先企業での仕事に結びつけましょう。
「仕事」ではなく「環境」でも「企業理念」や「ビジョン」でも言葉を入れ替えるだけで、すべておなじようにポジティブに置き換えができます。
そうすることによって、退職理由を述べつつもその実、応募先企業への入社意欲を語ることになるのです。
表現の置き換えと「嘘」は違う
ただし、ポジティブな表現に置き換えることと、事実と違うことを伝えるのとはわけが違います。どこまでいっても「嘘」は決してプラスになりません。嘘では表面的、一時的な納得は得られても、面接官の深い共感を得ることは難しいでしょう。
面接官はよく心得ていて、退職は綺麗事ばかりではないことくらい承知しています。それをわかった上で、前向きな成長の機会として捉えているのか、悔恨や不満を引きずっているのかが大きい分かれ目となるでしょう。
前者であることを明確に伝えるには、ポジティブな表現を意識することがもっとも有効であり、自分自身も前向きなメンタルになれます。
これは、面接官が退職理由を問い掛ける背景にある「納得できる理由か」に対応するものです。
状況にどう対応したかを具体的に
転職理由について質問をする面接官は、応募者の愚痴などは一切聴きたくもないでしょう。退職を考えさせた問題となっている事柄をあげつらうだけでは、愚痴となんら変わりません。
自身の課題に対して自主的な行動を起こさないのであれば、「その先もずっと他人任せのまま問題解決能力を培うこともないだろう」などと見なされかねないのです。
応募者にとって問題がある状況に対して、どういう対応をしたかをできるだけ具体的に盛り込みましょう。
そのコツを使った例を挙げてみます。
参考例A
「仕事に関わっていく中で、広報関係の仕事で自分が持つスキルを会社の貢献に活かしたいという希望を強く抱くに至ったので、異動を会社に再三願い出たのですが、どうしても受け入れられなかったのです」
このように、自身のスキルが会社の発展につながるビジョンを思い描いてのアクションを起こしたが、状況は変わらなかったというような具体的なエピソードを盛り込みましょう。
これは面接官が退職理由を問い掛ける背景にある「その問題に応募者はいかに向き合ったか」に対応するものです。
そのアクションが華々しいものでなくても問題ありません。地味であっても、あなたなりに状況を動かそうと前向きに抗った証しになるのです。
志望動機に紐づける
退職理由の答え方における3つめのコツは、理由を志望動機に紐づけるということです。
退職理由が行動も伴っていて、面接官にとって納得のいくものであったとします。それだけで終われば見極めの第2段階の「自社で力を発揮できそうか」の答えは、面接官にはまだ見えません。
先の項で挙げた「広報関係」の例なら、再三会社に異動を希望して叶えられなかったという設定ですが、そこからさらに自ら掘り下げるのです。
なぜ広報関係の仕事をしたいのか、自身のどういうスキルを活かせると思うのか、応募先の企業で広報関係のどのような仕事にチャレンジしたいと考えているのかを、退職理由に紐付けて答えるのが賢明となります。
これができれば、退職理由の答えがそのまま自己アピールになり、「志望動機」をリアルに、わかりやすく補強することに成功するでしょう。
もうひとつ例を挙げておきます。
参考例B
「これからは、IoT技術を使用した商品企画が必要とされる時代だと、私は考えました。IoTに関心を持ち、その方向でのキャリアプランを思い描きながら、必要な勉強もしてスキルも身につけつつあります。しかし、現在の職場では残念ながら未だに商品開発においてIoTを活用する領域がありません。御社が最近取り組み始めた新しい分野なら、このスキルを活かして少しでも企画に貢献できると考えています」
これも退職理由が転じて立派な志望動機となり、入社意欲も示しており、熱意も充分に感じられます。
退職理由を志望動機と紐付けすることは、面接官が退職理由を問い掛ける背景にある「その問題は自社で解決できるか」に対応するものです。
なお当たり前ですが、あなたのビジョンやキャリアプランの実現が望めそうにない応募先企業であれば、そもそも志望動機に整合性がないので採用される可能性は極めて低いでしょう。
堂々と明るく語る
退職理由についての質疑応答の局面は、ある意味では面接の中で最も話しづらい話題ともいえます。だからこそ、できるだけ堂々と明るく答えましょう。
回答した退職理由に対して厳しく指摘や追及を受けることがないとはいい切れません。そうであっても、自信なさげに振る舞ってはだめです。
指摘については素直に受け止め、その弱い部分を前向きに克服する意欲があることを示しましょう。
「その失敗があったからこそ、御社で自らを鍛え直しながら成長したいと思います」と明確に言葉にして、熱意と意欲とを表現することにより、指摘もマイナスにはなりません。
堂々たる態度は内容に信憑性を与える
ハキハキと背筋を伸ばして語ること自体で、自信があるように見えます。せっかく面接官も納得できる退職理由であっても、自信なさげに語るとポジティブには伝わらないのです。
悪くすれば、本当は言えない事情があるのではないかと疑われるかもしれません。
どこまでも真摯な眼差しで、堂々と張りのある声で語っていきましょう。それが面接官の共感を呼び、退職理由を問い掛ける背景にある「仕事に対する価値観が自社と合うか」に対応するのです。
職務経歴書に退職理由を書くべきでない2つの理由
中途採用の選考では多くの場合、履歴書とは別に職務経歴書を応募先に提出します。この職務経歴書にはそもそも決まったフォーマットがなく、退職理由はマストな項目ではありません。
職務経歴はきちんと書く必要がありますが、退職理由は絶対に書かなければならない項目でもありませんので、応募先の企業から特に指示がなければ、極力書かない方がよいといえるのです。
それには下記の2つの理由があります。
●ポジティブな印象を採用担当者に与えづらい
●正しく伝えきれない
それぞれの理由をもう少し詳しく見ていきましょう。
ポジティブな印象を与えにくい
退職理由は文字にすると、どうしてもポジティブな印象を採与えにくいものです。職務経歴書は記載されているすべての内容が応募者の評価の対象となりますが、書かれていないことは対象にはなりません。
わざわざマイナスになりかねない要素を、あえて記載する必要はまったくないのです。
正しく伝えきれない
職務経歴書というものは、簡潔かつ簡明に記載しなければならない文書です。その中で退職理由を簡潔に記載したところで、その理由が正しく伝わるかどうかは甚だ疑問といえるでしょう。
読む人がさまざまなイメージで受け取ってしまうので、実際とは違う認識のされ方をしがちです。
かといって伝えようと思うあまり長文になってしまうのは、間違いなくマイナスの印象を与えるでしょう。
退職理由は面接で必ず質問されるので、そのときにきちんと伝わるように話す方針で問題ありません。
指定のフォーマットに退職理由がある場合
企業から指定された職務経歴書のフォーマットに退職理由の欄がある、もしくはフォーマットは自由でも退職理由を含めるようにとの指示があるケースでは、書かないわけにはいきません。
その場合は、すでに解説した「退職理由の答え方5つのコツ」を応用して退職理由にストーリーをつけつつ、簡潔にまとめるとよいでしょう。
まとめ
転職の面接において面接官が退職理由を問い掛ける背景を明らかにし、良好な回答をするためのコツを、具体例を挙げながら解説しました。
何ごともそうですが、そのテーマの本質的な背景を知ることから逆算すれば、限りなく正解に近いものを見つけることができます。
面接の退職理由に関しても、ぜひ面接官の問い掛けの背景にあるものをよく理解して、そこから逆算し、コツを用いて、あなたなりの素晴らしい答え方を構築しておきましょう。
転職面接で必ず問われるのが退職の理由です。面接官がこれを問う背景を理解し、そこから逆算すればどういう回答がOKでどういう回答がNGなのかが見えてきます。この記事は退職理由が問われる背景を明らかにして、それをもとに答え方のコツを紹介するものです。
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