転職先が決まって退職予定も決まると、誰しも転職後のことに思考が行ってしまいがちですよね。しかし、退職する前に果たすべき重要な仕事が「引き継ぎ」です。引き継ぎを適切に行うことは社会人としての責任であり、円満に退職するための条件でもあります。
とはいえ、引き継ぎに重要なことは何かを知りたい方も多いのではないでしょうか。今回の記事では引き継ぎの方法と注意点をわかりやすく解説しましょう。
目次
退職時の引き継ぎはなぜ重要なのか?
まずは引き継ぎの重要性を理解するために、引き継ぎをしないと会社や自分自身にどういうリスクがあるのかを紐解いてみましょう。それがそのまま、引き継ぎを行うべき理由になります。
引き継ぎを行わない場合の会社のリスク
引き継ぎを行わずに退職すると、後任者は以下のようなことがわからなくなり、仕事を進めづらくなります。
【進行中の取引においての相手企業の担当者が誰なのか】
後任者が取引先に初めて電話をする際に、先方担当者の名前がわからず失礼な印象を与えるかもしれません。
【どの顧客にどんな提案をしていたのか】
取引を引き継いで進めようにも、どういう切り口でいけばようか困ります。
【仕事をどのように進めていたのか】
全体的にどういう進め方で行けば効率的かわからず、試行錯誤からはいらなければなりません。
【今後の予定はどのようになっていたのか】
取引先との大まかな約束があるかもしれず、先方に迷惑をかけかねません。
【どの仕事がどこまで進んでいるのか】
具体的な進捗がわからないので、先方にいちいち聞かなくてはならず信頼感を損ないます。
【必要な資料はどこに保管されているのか】
大事な情報がわからないまま、手探りでビジネスを進めなければなりません。
このように、顧客との取引上のことを後任者がわからなければ、顧客はないがしろにされていると感じて憤慨するかもしれません。また、過去に約束していたことがあっても果たせなくなり、トラブルにつながるリスクがあるのです。
引き継ぎを拒否した場合の退職者のリスク
もし引き継ぎを拒否して、退職したとしましょう。その時点で実害はなくとも、まず円満な退職という運びにはなりません。その上に、その先どこでどういう巡り合わせによって、前の職場との関係性が生まれるかわからないのです。
その場合に引き継ぎを行わなかったことが理由で、前の職場の人があなたに対する悪い評判を関係者に伝えるリスクがあります。また、さほど険悪な退職にはならなかったとしても、後任者にとってわからないことが出てきたり困った事態に陥ったりするたびに、頻繁に問い合わせが入るという煩わしい事態にもなりかねません。
退職時の引き継ぎは法律的にも義務
退職時の引き継ぎは、実は労働契約法(第二条)、及び民法(第一条)で定められた義務です。労働契約を結んでいるかぎりは、誠実に業務を行わなければならず、故意に会社の利益を損ねてはなりません。
会社独自の就業規則に、退職時の引き継ぎの義務について記載のあるケースも多いです。引き継ぎをしなかったことで、会社に大きな不利益を被らせ、損害賠償を請求されるおそれがあります。
とはいえ、義務だからやむをえず引き継ぎを行うというのも感心できません。そこに至るまでの会社への感謝を示し、自身が努力してきた足跡を残す意味でも、きちんと引き継ぎを行いましょう。
これで引き継ぎはスムーズに!下準備4つのフェーズ
引き継ぎを行う際に、以下のような下準備の4つのフェーズで進めていけば、スムーズにいくでしょう。
Fase1:上司と退職日や後任者について相談する
Fase2:すべての業務内容を洗い出す
Fase3:優先度から引き継ぎ項目を決定する
Fase4:退職の引き継ぎ期間の工程表を組む
それぞれのフェーズを見ていきましょう。
Fase1:上司と退職日や後任者について相談する
退職する旨を会社に告げて合意が得られたら、まずは退職日をいつに設定するかについて直属の上司と相談しましょう。
また自身の後任者について、意見を求められることがあります。後任者を決めるのは会社側ですが、適任者に迷う場合は前任者の意見を参考にすることが多いです。相談された場合は仕事の内容とそれに対する適性などを考え合わせて、真摯に意見を述べましょう。
Fase2:すべての業務内容を洗い出す
後任者に引き継ぐ内容に、抜け漏れがあってはいけません。まずはすべての業務内容を、くまなく洗い出すことから始めるのが賢明です。例を挙げましょう。
- 週末に向けての顧客フォローの仕方
- 新規獲得までの効果的なステップ
- 定期的に必要なシステムのメンテナンス
- 週に1度あるいは毎日のルーティン
- 規則性がなく発生するルーティン
こういった項目をすべて書き出しましょう。
Fase3:優先度から引き継ぎ項目を決定する
全ての業務内容を項目にして書き出したら、引き継ぎする項目を決める作業に移ります。そのために、それぞれの項目の業務上の重要性から優先順位をつけましょう。
そして優先度の高いものから、引き継ぎ項目として確定させます。そうしておけば、何らかの理由で引き継ぎに十分な時間が取れなかった場合でも、重要性が高い項目だけは引き継ぎを済ましておくことが可能になります。
一旦すべてに順番を決めておいて、優先度の低いものに関しては、必ずしも自分のやり方を踏襲してもらわなくともよいでしょう。そういう内容は、後任者と一緒に項目の確認だけを行なって、やり方は後任者に任せておけば問題ありません。
そういう考え方で洗い出した業務の項目と優先順位を、念のため上司にも確認してもらいましょう。そして抜け漏れがなさそうか、順位として問題がないかの意見をもらえば安心でしょう。
Fase4:退職の引き継ぎ期間の工程表を組む
引き継ぐべき項目がはっきりしたところで、引き継ぎ期間と引き継ぎのスケジュールとなる工程表を組みましょう。優先順に、引き継ぐべき項目と日程を、内容の深さの度合いから想定して、日程に組み込んでいきます。その際に以下の2点に留意して組むのが賢明です。
- 退職日から逆算して「間に合わない」を避ける
- 取引先への挨拶回り日程も並行して設定する
それぞれの留意点を、詳しく見ていきましょう。
退職日から逆算して「間に合わない」を避ける
上司と相談して設定した退職日から逆算して、余裕を持って引き継ぎのスケジュールである工程表を組みましょう。退職日の手前ギリギリに完了するような予定にしてしまうと、大変リスキーです。その間に自分や後任者の都合、そのほか何らかの事情で引き継ぐ作業が押してしまう場合だってあります。
そうなれば 、引き継ぎが完了しないまま退職日を迎えるなんてことになりかねません。そうならないよう、くれぐれも十分に間に合うような日程を組みましょう。目安として引き継ぎ完了日は、最終出勤日の3日前を目標にするのが妥当です。そうしておくことで、不慮の事態が発生して引き継ぎが多少遅れたとしても、最後の3日間で何とか完了に持っていくことができるでしょう。
取引先への挨拶回り日程も並行して設定する
取引先への後任者の顔つなぎを兼ねた挨拶回りは、業務そのものとは別に、退職者と後任者が一緒に行うべき重要な引き継ぎ項目のひとつです。それらを業務の引き継ぎ作業と並行して、確実にこなしていかなければなりません。すべての取引先に出向くのは現実的ではありませんが、重要顧客や優良顧客には欠かせない項目です。
この時は、必ず前もってアポイントを取りましょう。ノーアポで訪問して不在の場合、挨拶できないまま辞めるのは良くないです。かといってまた出直すと、二度手間で予定が押してしまう要素となります。
退職時の引き継ぎの上手なやり方
ここからは実際に引き継ぎの作業を進めていく際の、上手なやり方について紹介していきます。基本姿勢としては「引き継ぎながら進捗状況を常に把握する」と「引き継ぐ内容は書いたものに残す」の2点を守りましょう。常に工程表通り、順調に進んでいるかを意識して、遅れないように調整しながら進められます。
また、引き継ぐ内容は書いたものとして残しましょう。紙に記載してファイリングするかPC上で作成してデータファイルとするかは、後任者が使いやすいほうを選べばOKです。以上2点を基本姿勢とした上で、引き継ぎの上手なやり方として、以下のような3つの方法を紹介します。
- 後任者の疑問が消えるまで質疑応答を繰り返す
- 資料の記載は後任者に任せる
- ●未解決の問題はより慎重に引き継ぐ
これらを詳しく解説した後に、万が一の場合を想定した「引き継ぎが間に合わない場合の対処法」についても触れておきます。
後任者の疑問が消えるまで質疑応答を繰り返す
引き継ぎには工程表はありますが、工程さえ守ればOKではなく、きちんと伝えるべき内容が伝わっているかがより重要です。スケジュールを気にするあまりに、後任者の理解があやふやなままで先に進んでしまうことは避けましょう。
その都度でそういう不安を払拭するために心がけたいのは、後任者の疑問がゼロになるまで質疑応答を繰り返すことです。ほんの少しでも疑問点が残っていれば、そのまま進んではいけません。項目ごとに、完全に納得するまで質疑応答を繰り返してから次に進むようすれば、引き継ぎのクオリティは担保されるでしょう。
資料の記載は後任者に任せる
そしてこれが大変重要なポイントですが、紙にせよPCにせよ引き継ぎの内容を資料もしくはマニュアルにする作業は、あなたではなく必ず後任者に任せましょう。自分でやるほうが早いと考えがちですが、引き継いでいる内容を文字に起こしていく作業によって、後任者は再びそれを認識しながら形にできます。それによって、記憶への定着の度合いが向上するのです。
また、別の面からいえば、他人の言い回しや表現法は細かいニュアンスが伝わりにくいケースもあるでしょう。その時は説明を受けた後なので理解していても、時が経ってから退職者が記載した資料を読み返して、意味が取りにくいこともありえます。重要事項の意味を取り違えてしまうと大変なので、そういうことを避けるためにも、後任者に自分の表現で記載してもらいましょう。
未解決の問題はより慎重に引き継ぐ
担当していたすべての取引が順調なものであればよいですが、中には何らかの未解決なトラブルが絡むような問題を抱える取引もありますよね。そういう問題は、より慎重に経緯や事実関係を引き継いでおく必要があります。
将来に解決できるように、自身の見解や希望が持てる対策なども、真摯に伝えましょう。また、まだ発生していないけれど今後問題になるかもしれない事象があれば、入念に伝えておくべきです。今すぐの手を煩わせる問題でなくても後任者に前もって伝えれば、万が一の場合に初動の対応も変わってきます。
自身が辞めた後に関係した取引が好調に継続、発展することが退職者の評価として残り、同業界内でのあなたの人物評の一端を担う可能性があるのです。そのことでどんなプラスがあるか、あるいは逆に取引が不調になればどんなマイナスがあるかわかりません。責任感を持って慎重に引き継ぎましょう。
引き継ぎが間に合わない場合の対処法
さて、いくら余裕をもって工程表を作っていたとしても、何らかの事情で引き継ぎが間に合わないケースもありますよね。自身の事情や後任者の事情、会社の事情のいずれであっても、それは仕方がありません。だからこそ、重要な引き継ぎを先に済ませておくことが大事となります。その上で、残っている引き継ぎに関しては、後日あなたがまとめたものを後任者に送りましょう。
そしてメールや電話にて必要最低限の質疑応答をする形で、引き継ぎを最後まで完了するのが理想的です。その労力はボランティアにはなりますが、それまでお世話になった会社でもあり、あなたへの評価は上がるので意味があると考えましょう。その上で半年くらいの期限を決めて、何かあれば連絡をもらうことで対応する約束をしておけば、迷惑をかけることなく退職ができます。
退職時の引き継ぎに関する注意点
引き継ぎを行う際の、ここまでで触れていない細かな注意点として、以下の3点について解説します。
- 有給休暇の消化も考慮する
- どこまで引き継ぐかの線引きを考える
- 引き継ぎ一切不要と言われた際の適切な対応
個々の注意点ごとに、見ていきましょう。
有給休暇の消化も考慮する
引き継ぎのスケジュールとなる工程表を作る際に、取引先への挨拶回りも組み込んで考える 必要があります。その上で、もし有給休暇の残日数を消化してやめる場合は、その日数を反映させた工程表を作りましょう。
どこまで引き継ぐかの線引きを考える
例えばあなたが自ら考案した何らかの手法が優れていて、業務の効率化に大きく寄与しそうなものがあるとしましょう。それを引き継ぐ義務があるかという点について触れておきます。退職にはなっても、心からお世話になったと感謝をしている人なら、迷うことなくそういう手法を引き継ぐでしょう。
しかし、自分の功績が額面通りに評価されず、そういう不満から転職を決意した人もいます。そうであれば、心情的に自分の優れた手法残しておくことには、納得できない場合もあるかもしれません。そんな場合にどこまで引き継ぐかという、線引きの考え方について見ていきましょう。
基本的には、社内リソースで作ったすべてが会社の資産
前提となるのは、あなたが社内のリソースを使って生み出したすべての成果物が会社の資産であるいうことです。社内のリソースとは、わかりやすいところではPC等の端末や筆記用具、レポート用紙、原稿用紙などです。
しかしそれだけではありません。会社のオフィス空間内での作業自体も社内リソースの活用です。さらにいえば、社外での作業であっても、あなたが勤務時間内に作成したものであれば、「営業時間」というリソースを使って作成したものと解釈できます。
つまり、いくら自分のオリジナルのアイデアで作成したとしても、営業手法やPCツール、Excelのフォーマットなど仕事がらみのものは全て会社の資産であると考えて良いでしょう。なので、個人的な感情は差し置いて、社員としての責任において引き継ぐべきだと考えましょう。
先ざきの必要性を考慮して線引きする
とはいえ、実際にありとあらゆるものを引き継ぐのは現実的ではありません。多くの成果物があっても、どこまで引き継ぐかの基準としては、会社にとっての先ざきの必要性があるかどうかです。
いくら役に立つツールを考案していたとしても、会社の今後の方向性から考えて使わないと判断できるなら、無理に引き継ぐ必要はありません。それがあることで会社の生産性に寄与しそうなものがあれば、ぜひ引き継ぐようにしましょう。
引き継ぎ一切不要と言われた際の適切な対応
まれにですが、会社との折り合いが悪くて、やめる際にも会社のほうから「引き継ぎは一切しなくていいよ」などと申し渡されるケースもあります。そんな風にいわれれば、引き継ぎなんてもういいか、などという気持ちなるかもしれませんよね。
しかし、ここでよく考えてみる必要があります。その後も同じ業界や周辺の業界で働くならもちろん、まったく別の業界に進むのであってもどこで関係性が出てくるかわからないでしょう。少なくともお世話になった顧客にはきちんと筋を通しておかなければ、後あとの悪評につながりかねません。「あの担当者はいい加減な人だった」という印象を残すリスクが大きいです。
つまり、会社がどういおうと自分自身の信用に関わる問題です。将来のためにも顧客への挨拶や、後任者への最低限の引き継ぎはしておきましょう。
社内外への退職挨拶メールについて
社内の人たちや社外の顧客、あるいは関係があったパートナー企業の人たちには、直接の挨拶とは別に、一般的に退職挨拶メールを送ります。それは、在籍中にお世話になったことへの感謝の気持ちを、襟を正して伝えるため 、あなたの最後の印象を好ましい形で残すためでもあります。退職の理由や転職する先がどこであれ、その先にも何らかの縁があって顔を合わせることもありえます。
そのため、去り際の印象は大切にしておきましょう。とりわけメールというものは記録が残ります。宛てられた人が後あとに読み返すことがあっても違和感がない書き方になっているか、念入りに文章を推敲してから送りましょう。
また、大人数になってしまうとはいえ、一斉メールを使用するのに戸惑う人もいるかもしれません。しかし個人的な関係性ではなく仕事上のつながりなので、一斉送信は失礼にあたりません。ここからは、退職挨拶メールを送付するタイミングについて、社外、社内別に解説しましょう。
社外への挨拶メールは「退職2週間前」に
社外への退職挨拶メールは、退職日の2~3週間前に送るのが適切です。なるべく早めがよいでしょう。少し早過ぎないかと感じる人もいるかもしれません。しかし、それは後任者への引き継ぎをしやすい環境を作るためです。また、今後も縁があるかもしれない取引先に「先んじて手を打てる人だ」というポジティブな印象も残せるでしょう。
社内への挨拶メールは「最終出勤日」に
最終出勤日は、有給休暇の消化などで退職日と異なる場合も多いでしょう。社内の人たちへの退職挨拶メールは、退職日ではなく最終出勤日に送るのが一般的です。社外への挨拶メールとは異なり、社内に向けた挨拶メールは事実上「最後の挨拶」となります。そのため、「最終出勤日」が適切なのです。
ただし、社内で独自の慣習がある場合は、そちらに倣いましょう。時間的にはなるべく業務のコアタイムを避けて、定時の1時間前くらいが賢明です。
まとめ
退職の際の引き継ぎは、会社に無用な負担やリスクを残さず、自分自身の去り際の印象をよく保つためにも大切な作業です。上司と相談して、項目に抜け漏れがないよう、また余裕を持って完了できる工程表を作って取り組みましょう。
ここで紹介した下準備の4フェーズに沿って行い、後任者に資料作成を任せながらきちんと進めていけば問題は残らないはずです。取引先への挨拶回りや社内外への退職挨拶メールも抜かりなく行い、後を濁さない巣立ちを目指しましょう。