IT業界は現代の成長産業の最右翼で、転職志望者にとって非常に人気が高い業界です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の発展やIT人材の不足、コロナ禍による業務のオンライン化などの要素が、IT業界転職の売り手市場を後押ししています。
そんなIT業界の市場規模が気になる人も多いですよね。今回の記事では国内IT市場の市場規模を確認し、今後の予測や注目すべき技術についてわかりやすく解説します。
目次
IT業界の市場規模の現況分析
IT専門調査会社IDC Japanの発表によると、コロナ禍による影響を反映した2020年の国内IT市場は、前年比で2.2%マイナスの17兆8,991億円でした。また、2021年の予測は前年比2.7%増の18兆3,772億円と予測されています。2020年序盤からの新型コロナウイルス感染症の拡大は、緊急事態宣言の最初の発令以降、日本経済全体に深刻な打撃を与えました。飲食業や観光業、宿泊施設などのサービス業や、空港および交通機関などの運輸関連を中心に大幅な業績の落ち込みを誘ったのです。
しかし2021年に入って、サプライチェーンの混乱もようやく収まってきて、製造業を中心とする主要産業は回復しつつあります。また、非接触で仕事を進めるためのテレワークの加速度的な普及や、各種対面サービスのオンラインによる非接触化が進んでいます。それにより、クラウドサービスや通信事業、オンラインコミュニケーションツールなどの分野が現在大変好調です。
企業業務のオンライン化は、コロナ禍が収束していっても一定以上の範囲でデフォルトとなるのは間違いありません。DX進展の波に乗ってもともと成長株であったAIやIoT、RPAなどのハイテク分野も、コロナ禍が拍車をかけてさらに市場が拡大するでしょう。
参考:新型コロナウイルス感染症の2021年3月末時点での影響を考慮した国内IT市場予測アップデート
DXを加速化するIT市場の3つの流れ
国内IT市場の中で今、DXの進展を加速化している3つの流れがあります。
- テレワークの普及
- クラウドサービスへのシフト
- ITサービスのサブスク化
それぞれの流れを、詳しく見ていきましょう。
テレワークの普及
もともとテレワーク自体は、コロナ前から働き方が柔軟や外資系企業やIT企業で普及が進んでいました。これは国を挙げての働き方改革や仕事に対する価値観の変化の多様化を反映していたためです。そして2020年からのコロナ禍により、非対面非接触の必要に迫られる上に緊急事態宣言下で出勤できない環境が加勢して、一気にテレワーク導入が加速しました。
それと同時に、企業の営業活動もオンライン営業の手法にシフトする動きが盛んになりました。そうやって業種や規模の大小を問わず、あらゆる企業からオンライン化需要が生まれたのです。
クラウドサービスへのシフト
クラウド コンピューティングのベースの考え方である「分散コンピューティング」は、1990年代前半から存在していました。クラウドの概念が公に言及されたのは1997年、カリフォルニア大学のラムナト・チェラッパ教授の提唱に端を発しています。
そして2006年、当時Googleのエリック・シュミットCEOがクラウドの将来性に言及したことで注目度が一気に高まります。その年のAmazonのクラウド サービスAWSの開始を皮切りに、大手IT企業がクラウドサービスを相次いで発表しました。代表的なサービスとして、2008年に GoogleがGoogle Cloud Platformの、2010年にはMicrosoftがAzureの提供をそれぞれ開始しています。
これによって、従来のオンプレミス型業務システムに比べて、格段にコスト効率が良くなりました。また、ハードディスクに保存しなくてよく、どこでもアクセスできる利便性も評価されています。そしてテレワークの普及と同様に、働き方改革とコロナ禍の加勢によって、クラウドシフトも加速化しました。
Office 365やG SuiteなどのSaaSはもちろんとして、PaaSやIaaSも含め、企業が業務システムを選択する際にまずクラウドを検討するクラウドファーストの流れが、現在勢いを増しています。
ITサービスのサブスク化
サブスクとはサブスクリプション(subscription)のことで、もともとは新聞や雑誌の定期購読を指していました。近年では解釈が拡大され、製品を購入して所有するのではなく一定の金額を払うことで一定期間、製品やサービスを利用することができるビジネスモデルもサブスクリプションと呼ばれています。
サブスクは料金を払っても製品を所有できず、利用し続けるかぎり利用料が発生する料金形態です。従来の物を購入して所有するのが当たり前の消費者感覚とは大きく異なるため、抵抗感を感じる人も少なくありませんでした。しかし動画配信サービス「Netflix」や音楽配信サービスの「Apple Music」や「Spotify」の登場と成功により、次第にサブスク形態のメリットも認知されるようになります。
そして今、さまざまなITサービスの利用形態として、サブスク型が普及しつつあります。今後ソフトウェアや通信インフラほか、さまざまなITサービス市場をサブスク形態が牽引するでしょう。
IT市場規模に影響を与える7つの技術領域
現在から将来にかけて、IT市場規模に影響を与えると見られる、以下のような7つの技術領域があります。
- RPA :ソフトウェア型ロボットによる生産性の向上
- xR:ユーザー体験の可能性を拡大
- 5G:エンタメから医療まであらゆる分野をパワーアップ
- 量子コンピュータ:未曾有の演算処理能力を提供
- AI:すでにさまざまな分野の革新が進行中
- IoT:利便性と危機管理の担い手
- ブロックチェーン:仮想通貨以外も多くの分野で活用
それぞれの技術を、詳しく見ていきましょう。
RPA :ソフトウェア型ロボットによる生産性の向上
RPA(Robotic Process Automation)とは、主にPC上で完結する業務を、ソフトウェア型ロボットによって自動化する技術を指します。このタイプの業務自動化ツールがRPAツールです。
企業はRPAを導入すると、業務効率化から生産性の向上、人材不足の解消などの改善が期待できます。大手都市銀行において、煩雑な事務処理作業(20種類の事務処理)に関して年間約8,000時間相当の事務処理作業を削減しています。それにより事務を担当社員がほかの重要業務に就けるようになりました。
また、RPAを複数のシステムが関係する事務処理に活用することで、システム連携によって業務の単純化が図れるようになっています。ほかにも保険会社や商社、流通、小売り、不動産、インフラ、自治体などのさまざまな業界で導入が広がっています。これにも、やはり働き方改革とコロナ禍による後押しが働いています。
RPAに携わるならオフィスアプリケーション全般および、WindowsOSやソフトウェアに関する知識が求められます。また、VBAやExcelマクロなどで簡単な自動化を実装できる程度のスキルや、WinActorやUiPathなどのRPAツールに関する知識、PCや周辺機器の接続や操作に関する基礎知識などがあると重宝されます。
また、テクノロジー以外の社会人経験や複数人数での業務経験などが多ければ多いほど、RPAに応用できるので有利です。
xR:ユーザー体験の可能性を拡大
xRとはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、SR(代替現実)、MR(複合現実)の総称で、リアルな世界とバーチャルな世界を融合させることで、新たなユーザー体験が得られる 技術です。現在ではゲームや映像作品などの、主にエンターテインメントの分野での利用がメインですが、今後は医療現場や教育現場などさまざまな分野での活用が期待できます。
ちなみにxRによる現実世界では体験できない多様な体験を意味する、マルチエクスペリエンスという言葉も注目されています。たとえば、CGで作られたキャラクターを現実世界に反映させる人気ゲームの「ポケモンGO」も、AR技術を用いたマルチエクスペリエンスのひとつです。
最近ではxRアプリケーションエンジニアやVR開発エンジニアなどの名称で、求人案件も増えています。xR開発に携わるならGOやBluePrint、Ruby、Java Script、C#などのプログラミング言語が使われており、プログラミングの知識は必須です。また3DCGデザインのスキルや、Unreal EngineやUnityなどのゲームエンジンを扱うスキルも求められます。
5G:エンタメから医療まであらゆる分野をパワーアップ
5Gは2020年3月から大手通信会社でのサービス提供が始まった、超高速・大容量、多数同時接続可能な通信技術です。超低遅延性や超高信頼性もその特徴に含まれます。5Gの普及によってIoTが生活に深く浸透し、日常に触れるありとあらゆるモノがインターネットに接続される時代がやってくるでしょう。
また、医療の遠隔操作や自動運転、前述のxRを活用したスポーツ観戦なども5Gの技術により、精度が向上することも期待できます。あらゆるモノがネットワークでつながる時代には、ネットワークエンジニアのニーズが高まる可能性があります。無線技術や5Gの知識を身につけていれば、なおさら重宝されるでしょう。
量子コンピュータ:未曾有の演算処理能力を提供
今後重要になる技術として注目されているのが、量子コンピュータです。量子力学の原理を活用して高度な計算に対応する新世代のコンピュータといえるでしょう。
従来のコンピュータでは困難だった複雑な計算や膨大な時間を要する計算も、量子コンピュータなら短時間で処理できます。量子コンピュータ「IBM Q Experience」などの、高度な演算能力がクラウドサービスで利用できるサービスもあります。
現在、量子コンピュータの実用化のための検証が進んでおり、おそらく数年後にはさまざまなサービスを裏から支える技術になるでしょう。ITエンジニアにとって、量子コンピュータの動向は注目する価値があるかもしれません。
AI:すでにさまざまな分野の革新が進行中
近年ではAI(Artificial Intelligence)の実用が広まっています。2020年には医療関連や福祉関連、セキュリティや産業デバイスなどの多くの分野にAIサービスが導入されて話題になりました。
これまでAIビジネスは中小のベンチャー企業の活躍が目立ちましたが、大手企業が参入したのでAI市場はより一層活性化するでしょう。実際に2021年3月にヤフーとLINEが経営統合して生まれたZホールディングスは、「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーへ」を標榜しています。
数多くの企業がAI市場の参入のために、AI人材の確保に乗り出しています。具体的に企業が求めるAI人材は、AI開発プロジェクトを仕切ることができるプロジェクトマネージャーやAI開発エンジニアです。ほかにも、ディープラーニングに精通したデータサイエンティストやビッグデータを活用できるDBエンジニアも、AIを導入するに際して不可欠な人材です。
IoT:利便性と危機管理の担い手
5Gサービスの進展によって大いに加速していくと考えられるのが、モノのインターネットであるIoT(Internet of Things)です。すでに実用化が始まっている技術で、多種多様なデバイスがインターネットと接続して価値を生み出しています。
IoTの活用で、製品に搭載したセンサーから取得した情報をクラウドに保管したり、別の場所から共有したりすることが可能です。利便性の向上だけでなく、危機管理にも役立ちます。実用化は医療分野や農業、自動車や交通機関などにおいて広がっています。新型コロナウイルスの感染防止に役立つ、IoT技術を応用した技術としてサーマルカメラでの非接触検温などが活躍中です。
今後も業界を問わずIoTの活用範囲はますます広がり、その開発や実用に携わるエンジニアも幅広い業界で必要とされるに違いありません。IoT関連のエンジニアには、端末やIT機器などのハードウェアとセキュリティやネットワーク、OSなどの多くの知見が求められます。
ブロックチェーン:仮想通貨以外も多くの分野で活用
ブロックチェーンとは時系列でデータを記録する技術であり、フィンテック(金融とITが融合した事業領域)を支える技術です。改ざんができない取引履歴を保持できる性質から、セキュリティの面で非常に優れています。
ブロックチェーンの名が知られるようになったのは、仮想通貨の技術として使われたことによります。しかし最近では、商品の流通経路を証明したり、電力の発電元の確認で使われたりなど、改ざんできない特性を利用してさまざまな分野で応用され始めています。その中で、最近では医療分野での活用も話題となりました。特殊なスキルを必要とするブロックチェーンエンジニアの需要は今後確実に増える可能性があります。
ブロックチェーンの理論体系は難解ですが、実装にはJavaScriptやC++、solidity、Goなどのプログラム言語が使用されています。そのため、プログラミングスキルを持っている人なら、それを活かすことができる分野ともいえるでしょう。
IT業界の市場規模の今後の予測
最後に、IT業界の市場規模が今後どうなっていくのかについて、IDC Japanのレポートを参考にして詳しく見ていきましょう。
IT市場はコロナ禍を経て回復基調にある
産業分野別では、コロナ禍の影響での移動抑制がかかる運輸分野を除いて、ほぼ全ての産業分野で回復する見通しが立っているとレポートは述べています。先に述べた3つの流れや7つの技術に関連する需要は、今後ますます増えていくでしょう。
携帯料金値下げによるスマホの買い替え需要や、在宅勤務の長期化に伴う通信機器や家電の需要に伴う電子部品の膨大な需要も、当面のIT市場の成長に追い風となります。ただし、多くの企業規模に影響を及ぼしているコロナ禍により、経営体力に乏しい中小IT企業の一部には事業継続が困難な状況に追い込まれるところもあります。社員数500名以下の規模のIT企業では、事業継続はできてもプラス成長は簡単ではない状況が続くでしょう。
年商規模別でも同様のことがいえます。経営体力に乏しい年商100億円未満の規模の企業は、業績に深刻な影響が及んでいるところもあり、マイナス成長が続く場合もあるでしょう。
2025年のIT市場は20兆超えか
多くのエコノミストは、全般的な経済活動がコロナ禍以前の水準に回復するのを、おそらく2023年以降になると見ています。レポートでは、2021年度の経済成長率は約2.8%のプラス成長に転じると予測しています。海外経済の復調や政府の景気刺激対策によって下支えはされていますが、回復ペースは緩やかであるとの想定です。
その結果、2020~2025年度の年間平均成長率は約2.6%で、国内IT市場規模は2025年の時点で20兆3,776億円に広がっていると予測されています。ただし、新型コロナウイルス感染拡大や抑制の見通しは、予断を許さない不透明な部分が多いです。今後の状況の変化によっては、予測を大幅に見直す可能性もあるとされています。
コロナ禍が生んだ新しい価値観
コロナ禍を契機にテレワークやWeb会議、遠隔医療、遠隔授業、ネット経由の物販、オンラインイベントなどが社会に浸透しつつあります。閉鎖空間での集会や、対面接触による感染リスク防止の観点だけではありません。本来時間や距離、費用などの制約があってリアルに集まることが困難だった「新たなつながり」を可能にしました。
このような、これまででは実現できなかったITによるつながりが持つ新しい価値を、多くの人が実感しています。それぞれのIT企業にとって、こうした新しいニーズの登場や従来のニーズからの変化を踏まえ、どのような新しい価値を提供できるかによって、成長の舞台の大きさが変わってくるでしょう。
参考:新型コロナウイルス感染症の2021年3月末時点での影響を考慮した国内IT市場予測アップデート
まとめ
IT業界の市場規模は2020年が17兆8,991億円、2021年は18兆3,772億円と予測されています。そんなIT市場にはテレワークやクラウドシフト、ITサービスのサブスク化という流れがあり、それらは働き方改革やコロナ禍で活性化しました。
2025年の時点で国内IT市場規模は20兆を超えると予測されています。IT業界への転職を検討しているみなさんは、今後のIT市場に影響を与える7つの技術を多少なりとも学んでおくことによって、売り手市場であるIT企業への転職がさらに有利になるでしょう。