コンサルティング業界でコンサルタントとして働くために、特に資格は必要ありません。
それでもコンサルティングファームの系統や業務内容によって、特定の資格を保有していると、転職活動の選考の際や入社後の案件のアサインに有利に働く場合があります。
今回の記事ではコンサルティングファームの系統別に、その事業内容の概要を確認した上で、取得していると有利な資格について紹介します。
コンサルティング業界への転職を検討しているみなさんは、ぜひ参考にしてください。
目次
資格なしでなれるコンサルタントが資格を取得する意義
コンサルティングファームに転職する場合に、応募要項の中で何らかの有資格者であることが候補者の条件であることは極めて稀です。
専門性が高い特殊なポストのピンポイントなハイクラス求人を除けば、ほとんど見られません。
では、資格を持っていることがまったく無意味かといえば、そんなことはありません。有資格者は、そのジャンルの基礎はもちろん専門知識やスキルを学んで身につけ、資格試験に合格するレベルに達した努力は事実です。
そのため、面接官の印象として信頼性は上がるでしょう。だからこそ、取得するとコンサルティング業界全般あるいは、コンサルティングファームの系統や求人ポストの業務内容によって有利に働く可能性がある資格が存在するのです。
また、最近のコンサルティングファームの人材市場では、多くの場合にコンサルティング未経験者にも「ポテンシャル採用」を行うことが多いです。
理由のひとつには、多くのコンサルティングファームが優秀な人材の確保に苦労しており、経験者だけに限定すると必要な人材ニーズが満たせないからです。
もうひとつの理由はコンサルティング案件の内容が非常に多様化しており、もはやコンサルティングのノウハウが優れていても、あらゆる案件を抽象化して適切な改善策を提案できる時代ではなくなってきました。
そのため、クライアントの携わるそれぞれの領域ごとに、精通した専門性が高い人材が必要になっています。そのため、コンサルティングは未経験でも案件対象領域の専門性を求めて採用されます。
入社後にコンサルティングスキルを身につける流れはもちろんですが、そもそも案件は誰かが単独で担当するよりもチームで担当するのが一般的です。
コンサルティング未経験でもチームの中において、対象案件の領域に関するスペシャリストとして人材価値があるわけです。
その流れからいえば転職活動において、求人ポストに関係する専門資格を持っていることは、採用条件ではなくともアピールポイントになり、ライバルと差別化する武器にもなるでしょう。
さらにいえば直接業務と関係のない専門資格であっても、自分自身の時間やエネルギー、費用などのリソースを割いて研鑽し、専門資格を取得した行動は立派であり、ポテンシャルの採用の後押しの材料になる可能性は高いです。
資格取得の過程で得たことが、現職(前職)の仕事に活かされたエピソードなどを面接で語れば、面接官に与える印象もアップするでしょう。
ここからは、コンサルティングファームの系統ごとに、取得すると有利な資格を紹介します。
戦略系コンサルに有利な資格
戦略系コンサルティングファームとは、クライアントの経営課題の解決のために、有効な経営戦略を提案し実行をサポートする企業です。
具体的には経営ビジョンを見直してより明確化し、その企業が保有するあらゆるリソースの力を最大化するような中長期戦略を策定します。
全社レベルでの改革と特定の部門レベルでの改革を、使い分けて実行します。
従来は経営方針や経営戦略の提案までが仕事でしたが、近年では企業の内部に入って現場の社員を巻き込み、改革の実行面も含めて包括的にサポートをするのが一般的です。
戦略系コンサルティングファームで働くにあたって有利と思われる資格はMBAとIT資格です。
MBA
MBAは一般的に資格として扱われることが多いですが、厳密には経営学の学位です。経営に関して実務を重んじつつ体系的に学びます。
イメージ的にコンサル関連資格のアイコンのような感じですが、特に戦略系コンサルティングファームの選考やアサインに関して有利に働くと思われます。
MBA取得には、2年間の英米の経営大学院もしくは日本の大学院修士課程の受講などが必要です。比較的、海外で取得したMBAのほうが高く評価される傾向にあります。
IT国家資格
戦略系コンサルティングファームでは、従来からコンサルティングにITの要素が絡むことが多く、その傾向はDXの進展とともにDX案件が急増し、顕著になってきました。
そのため、戦略系コンサルティングファームにおいてはIT人材の採用が拡大しています。
そんな背景の中、国家資格である高度情報処理技術者資格の「ITサービスマネージャ試験」「ITストラテジスト試験」「プロジェクトマネージャ試験」などを取得すると選考やアサインに非常に有利に働く可能性があります。
これら3資格は後の「IT系コンサルに有利な資格」の章で紹介します。
総合系コンサルに有利な資格
総合系コンサルティングファームとは、幅広い業界(インダストリー)を対象に企業の課題に応じて適切なコンサルティングを行います。
官公庁や金融、製造、流業、医療などのインダストリー別のチームと、戦略や財務会計、人事組織などの切り口ごとのソリューション別のチームに大きく分かれます。
複雑な要素が絡む案件は、必要な領域ごとにスペシャリストが選ばれて混成チームを組んでプロジェクトを進めることも珍しくありません。
総合系コンサルティングファームで働くにあたって、有利と思われる資格は以下のとおりです。
●中小企業診断士
●経営士
●インダストリーごとの専門資格
それぞれを見ていきましょう。
中小企業診断士
中小企業経営者は、日本の経営者のうちの大半を占めます。中小企業診断士は、中小企業の経営状態を正しく見極め、経営者へ適切なアドバイスができる人材であることを証明する国家資格になります。
中小企業基本法において、中小企業経営者が有効にリソースを活用するサポートを行う経営コンサルタントとして位置づけられている資格です。
経営士
一般社団法人日本経営士協会が認定する民間資格で、国内でもっとも歴史がある経営資格として有名です。5年以上の経営管理の実務経験が必要です。
合格率は7割を超えるので一見難易度が低いと思われがちですが、受験者の多くが経営実務のベテランなので合格率が高めになります。経営実務経験がある方におすすめです。
インダストリーごとの専門資格
上記の経営に関する包括的な資格以外に、総合系コンサルティングファームの各インダストリー別でそれぞれ資格が存在します。それらを取得することで、専門性の裏付けとなり、選考やアサインに有利となるでしょう。
インダストリーが金融であれば証券アナリストやCFA(Chartered Financial Analyst)、ファイナンシャル・プランナー(FP)、流通であれば販売士、医療であれば医療経営士や医業経営コンサルタントなどが挙げられます。
IT系コンサルに有利な資格
IT系コンサルティングファームは、ITシステムの導入によって企業の経営課題の解決・改善をサポートします。従来のメイン業務は、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)の導入のサポートでした。
しかし経営課題が多様化する現代では、個々の企業の改革ニーズに対応するオーダーメイドのシステムの開発・導入がIT系コンサルティングファームの重要なミッションです。
また、DX案件が急増しているので、人材不足が叫ばれるIT人材の確保に積極的です。
IT系コンサルティングは専門性が高いので、IT関連資格を取得していることで評価の対象となるでしょう。
IT系コンサルティングファームで働くにあたって、有利と思われる資格は以下のとおりです。
●ITストラテジスト試験
●プロジェクトマネージャ試験
●ITサービスマネージャ試験
●ITコーディネータ
●PMP
個別に見ていきましょう。
ITストラテジスト試験
経営ビジョンにもとづいたIT戦略を立案し、ITコンサルタントとしてビジネスの方向づけができる人材である証明となる国家資格です。
ビジネスモデルや企業活動のプロセスについて、ITを活用して事業を高度化、最適化するための戦略を策定できて、組込みシステムやIoTを利用したシステム開発をマネジメントし、新しい価値を生む戦略を策定できるスキルを測る試験です。
プロジェクトマネージャ試験
ITプロジェクトの全責任を持って意思決定し、クオリティコントロールやコスト管理、納期管理を行い、成果物を完成させるマネージャー人材であることを証明する国家資格です。
開発プロジェクトの計画を作成し、必要なリソースを調達して計画に沿ってプロジェクトを円滑に進捗させるための知識とスキルを見極める試験です。
ITサービスマネージャ試験
ITシステムの適切な活用によって、企業のITサービス投資の成果を最大化できる人材であることを証明する国家資格です。
高度な能力を持つIT人材として、ITサービスの提案から設計・運用・改善に至るまでの活動をマネジメントするスキルや、ある程度の経営知識やビジネススキルが問われる資格です。
ITコーディネータ
経済産業省が推進する民間資格で、企業経営とITの両方の知識を持って、経営戦略を実現するIT化のサポートを行うスペシャリストであることを証明します。
ITコーディネータは民間試験ではありますが、経済産業省が策定したITSS(IT Skill Standard:ITスキル標準)の1〜7のレベルのうち、試験判定が可能な範囲の最高レベルである「レベル4」と認定されます。
PMP
プロジェクトマネジメントに関する国際基準の知識体系PMBOK(Project Management Body of Knowledge)に準拠した国際資格です。
これを取得するとプロジェクトマネジメントができる人材として、国内はもちろん海外でも評価されます。
コンサルティングファームにおいては、先行に有利な上に、入社後にグローバル案件にアサインされる可能性が高まります。
プログラミングやコーディングなど、何らかの実践経験があればクライアントの課題をIT戦略に落とし込む手法もある程度リアルにイメージできるでしょう。
そのため、資格取得だけでなく、プログラムを作るなどの経験を積んでおくとより有利です。
財務・組織人事系コンサルに有利な資格
財務・組織人事系コンサルティングファームは、企業の経営課題に対して、財務面や人事面、組織体制面にフォーカスして改善策を提案し実行をサポートします。
他系統のファームが戦略を重視する動的な改革を打ち出すのに対し財務状態や組織構造などの静的な部分にメスを入れる違いがあります。
財務・組織人事系コンサルティングで働くにあたって、有利と思われる資格は以下のとおりです。
●公認会計士
●税理士
●USCPA(米国公認会計士)
●社会保険労務士
それぞれの内容を見ていきましょう。
公認会計士
公認会計士とは会計のスペシャリストで、財務諸表監査(会計監査)を独占業務とする国家資格です。医師と弁護士に並んで3大国家資格と呼ばれる、権威ある資格といえるでしょう。
それだけに合格率はおよそ10%と、合格難易度は非常に高いです。
資格取得の条件としては試験合格だけでなく、時期の前後は問われませんが2年以上にわたって監査などの業務補助に従事することが取得条件として求められます。
税理士
税理士とは税務のスペシャリストとして、独立公正に適正な納税義務の実現を担う、税理士法にもとづく国家資格です。
資格取得の条件として、税理士試験に合格することと、2年以上にわたって会計や税務に関する事務に従事することが求められます。税務相談や税務の代行、不服審査手続きなどが行える資格です。
USCPA(米国公認会計士)
USCPA(U.S. Certified Public Accountant、米国公認会計士)はアメリカの資格でありながら世界的に認知度や評価が高く、150ヵ国以上でおよそ40万人が取得して、さまざまな分野で活躍しています。
日系企業でも会計基準のグローバル化が進む中で、財務系コンサルティングファームの一員としてUSCPAを保有することは人材価値を高めるひとつの要素といえるでしょう。
社会保険労務士
社会保険労務士とは社会保険や労働災害保険のスペシャリストで、社会保険労務士法にもとづく国家資格です。
労務管理や社会保険、労災保険に関する手続きのサポートや指導ができます。
資格取得の条件として社会保険労務士試験の合格と、実務経験も2年以上必要です。
経営者視点とは異なる、労働者側に配慮した視点から経営課題に取り組めるので、人事系コンサルティングファームに重宝されます。
まとめ
コンサルティングファームの採用活動では、未経験でもポテンシャル採用が普通に行われます。資格は必要ではないにせよ、業務に関連する資格を持てば、持たない候補者よりも有利な要素となるでしょう。
コンサルティングファームへの転職を目指しているみなさんは、ここで紹介した情報を参考に適切な資格への挑戦を検討してください。
転職活動中の取得が間に合わなくとも、挑戦のプロセスを面接で語るだけでもプラスになるでしょう。