最近では多くの企業において、管理職になるためにはある一定水準の英語力が求められる傾向があります。実際に、管理職に昇格する際にTOEICのスコアがいくらという条件が設定されているケースも多いです。
また管理職だけでなく、全社員のTOEIC受験を義務付けてスコアを管理している企業が多数存在しています。
この記事では、管理職で英語が必要とされる背景を詳しく掘り下げ、そのうえで管理職が英語力を磨くことのメリットやブラッシュアップの方法なども紹介しましょう。
目次
管理職に英語力が求められつつある背景とは?
昨今では外資系企業ならずとも、グローバル展開している企業では管理職に英語が求められる傾向が強まっています。その主な要因は、知識と情報の流れが日本から海外拠点ではなく、海外拠点から日本に入ってくる「知識還流」の傾向と、英語が企業の公用語化しつつある状況の2点です。
多国籍企業も視野に入れた転職活動に励むみなさんにとっては、この背景を理解しておいた方が有利になりますので、詳しく解説しておきましょう。
リバースイノベーションの影響
時代の流れとして、管理職には英語力が求められる傾向にあります。なぜ英語が重要なのかは、もちろんビジネスを取り巻くあらゆる環境のグローバル化や、企業自体の多国籍化傾向によるところが大きいでしょう。
国際的な競争力を伸ばそうとする企業であれば、その管理職、とりわけ上級管理職においては英語力の有無がフットワークに直接反映します。もともと海外展開の目的は、新しいマーケットの開拓とコスト削減でした。海外進出のビジネスモデルは、国内で生み出した製品、サービスやテクノロジーを海外に持ち出して提供する、もしくは現地で生産するものです。
一方、現在の海外進出事情はかなり変化しています。進出先のニーズを見極めて現地でのイノベーションに取り組み、その成果を日本に還流させたり、ほかの海外拠点で展開したりという「リバースイノベーション」と呼ばれるスキームが作られます。
そのために、進出先の人材力を活用することが重要になっています。現地の人材からナレッジを共有したり緊密に連携をとったりするために、日本側の管理者にもそれなりの英語力が必要となるのです。
統括機能の国外移転が助長
この傾向を推し進めている要素が、統括機能の国外移転です。マーケットの最先端が日本国内ではない業界および企業の場合は、情報速度で遅れをとる日本よりも、最先端のマーケットが存在する国や地域に拠点を置くべきという発想に至りました。
また、経営リソースの集中という面や税務面などから、特定の国や都市に統括機能をおいた方がよいと判断する企業もありますよね。こうした動きは、イノベーションや意思決定という機能が、国内から海外に移り、さらには世界中に分散するということにつながります。
つまり、情報や知識の流れが、「日本国内→海外拠点」という従来の「トップダウン型」から「海外拠点→日本国内」「海外拠点→海外拠点」という流れが加わり、複雑に入り組んだ「ネットワーク型」に変化しているのです。
英語のビジネス公用語化
以上のような背景から、海外進出企業のすべてとはいわないまでも、海外拠点と密接にコミュニケーションを取ることが、多くの企業の管理職にとって意思決定のために必要な仕事になりました。
しかも、従来であれば海外拠点とコミュニケーションを取る必要があったのは、国内で海外拠点を統括する管理職と、海外に赴任する管理職におおむね限定されていたものです。これに対して、現在は前述のような理由で現状は変化しつつあります。
このためマーケティングや開発、生産とそれを支える財務や人事、経営戦略などのあらゆる部門が、海外拠点とインタラクティブなコミュニケーションを取らなければなりません。また、従来であれば本社勤務はほとんど国内出身の人材ばかりでした。
そしてグローバルとローカルの双方の事情を考慮しながら、意思決定を行うことが必要になったのです。こうした国際ビジネスの一連の変化のなかで、英語のビジネス公用語としての位置付けが、揺るぎないものになってきました。
しかし、現在ではインタラクティブな知識移転を促進するために、海外拠点から人材を本社に赴任させることが、この20年で大幅に増えています。もはや、国内本社においても、英語でコミュニケーションを取ることが求められるような状況が増えています。
コミュニケーション効率によって言語が淘汰された
企業が海外拠点間で、コミュニケーションを取り合ううえでは、現地の管理職は他国の拠点の人材とスムーズにやり取りができなくてはなりません。そのためには、現地の管理職は世界に共通する言語を話す力が必要です。
さらには、海外に統括機能を移転した場合は、その拠点にて本社で使われていた日本語を公用語にするのは効率が悪くなります。現地で採用する人材が使用できる言語でなければ、業務がスムーズに進まないのは明らかですよね。
企業の言語政策は、事業構造の将来像と深く関わっています。日本と海外拠点の間で、どのような活動を展開していくのかを想定し、それを踏まえた公用語を考える必要があります。そういう理由で、グローバル展開する企業では、全体の公用語が日本語から英語にシフトしつつあります。
また、英語が流暢に話せてビジネススキルもあるような優秀な人材を多く確保するのには、時間も費用もかかるでしょう。それならいっそ日本国内においても社内公用語を英語にしてしまって、強制的に人材の英語力を高めようという発想に至る企業が増えているのです。
管理職が英語力を身につけるメリット
上記のように公用語が英語になっている企業の、全社員の英語力がめざましく伸びているかというと、なかなか現実は厳しいという声が多いです。とはいえ、テクノロジーやノウハウなど、業務に関わる知識の伝達や移転には、国内海外ともに現場を巻き込んだ コミュニケーションが必要です。
よって、少なくとも管理職は国内、海外を問わず共通の言語である英語でコミュニケーションが取れることが極めて重要になります。日本側の管理職が英語を自在に操ることができるとすれば、どのような変化が想定できるでしょうか。管理職がビジネスレベル以上の英語力を身につけることの大きなメリットを、詳しく解説していきましょう。
本社と海外拠点を有機的に連動させることが可能
国内の管理職が英語を自在に操ることができれば、英語を公用語とすることによって、本社と海外拠点間の架け橋となる重要な仕事を担うことができます。海外拠点とのオンライン会議や電話、メールなどの全てのコミュニケーションレベルも底上げされるでしょう。定例的な会議はもちろん、日常的なメールおよびテキストチャット、ビデオチャットや電話などで本社と海外拠点の情報は常に同期し、有機的に連動させることが管理職の英語力で実現します。
そうなれば管理職としての仕事の幅も広がり、ダイナミックに業務を進めることが可能です。
海外拠点リーダーの現地化をもたらす原動力となる
また、国内の管理職の英語力が高ければ、海外拠点における人材登用にメリットが生まれます。それは、海外拠点でリーダーとなるにふさわしい人材像を考えれば、一目瞭然です。海外拠点でリーダーとして望まれる人材は日本人ではなく、いうまでもなく現地の優秀な人材でしょう。
現地の従業員たちや取引先、クライアントと現地の言語でコミュニケーションが取れて、現地の文化や習慣、経済環境も理解している人材に、本社としてはリーダーを担ってもらいたいと考えます。ところが、そういう優秀な人材を登用したとしても、彼や彼女らが日常の業務遂行において密接にコンタクトを取る必要がある本社の管理職の英語力が低いと、コミュニケーションをとるのが難しくなるでしょう。
共通の言語がない場合、日本語を理解できない現地の人材と認識の統一や伝達がネックになります。そうなると、リーダーを現地の人材に任せるのではなく、日本からリーダーを派遣することになるでしょう。
つまり、本社管理職の英語力不足が、海外拠点の人材登用に制限をかけてしまうのです。実際、平均的な英語力が低い国の企業は、海外拠点への本国からの赴任比率が高い傾向があります。ところが本社の管理職の英語力が高めれば、海外拠点の布陣に現地の優秀な人材を登用する道を開くことが可能になります。
つまり中長期的に考えて、管理職の高い英語力は海外の現地法人を発展させるための原動力となる可能性が高いのです。現地法人発展すれば全体としての企業価値が上がり、そのキーポイントを担う管理職の人材価値が上がるということこそが、管理職が英語力を磨くメリットにほかなりません。
ではどのレベルの英語力を目指せばよいのでしょうか。以下で触れておきましょう。
管理職が目指すべき英語レベルの目安
ビジネスでの英語力を客観的に評価する指標として、現在もっともよく用いられているのはTOEICです。TOEICの公式データによると、上場企業の中で採用条件にTOEICを使用または使用を予定しているのは70%以上です。同じく、昇進条件にTOEICを使用または使用を予定しているのは60%以上となっています。
採用条件に、TOEICを使用も予定もしていないと答えた企業は少数派です。上場企業のほとんどが採用や昇進の際にTOEICスコアを参考にしている、あるいは今後参考にしようと考えていることが分かっています。
仕事で実際に英語が使われるかどうかはともかくとして、人材価値としてのTOEICスコアが求められているのは間違いありません。
管理職として求められるTOEICスコアの実例
では、管理職として求められるTOEICスコアはどのくらいなのでしょうか。公開されている企業のデータから確認しましょう。
まず、入社の時点でTOEICスコア600以上あるいは700以上の条件を設けている大手企業は非常に多く見られます。ベーシックレベルの600以上の条件を設けているところは、「NEC」「ニトリ」「楽天」「富士通」「日立」ほか多数です。
カンバセーションレベルの700以上の条件を設けているところは、「ファーストリテイリング」「ブリジストン」「ソフトバンク」「NTT東日本」「三菱自動車」ほか多数となります。
ビジネスレベルの800以上が入社の条件となっている企業もあるのです。「住友不動産」「野村ホールディングス(グローバル社員入社時)」「NTTコミュニケーションズ」「サムスン」「パナソニック(国際広報入社時)」などです。
次に管理職という観点から整理すると、「係長」以上にTOEICスコア600以上の条件を設けているのは以下の企業などです。
- 住友林業
- トヨタ自動車
- ソニー
課長以上にTOEICスコア600以上の条件を設けているのは以下の企業などです。
- 日立
- マツダ
- ソニー
同じく課長以上にTOEICスコア700以上の条件を設けているのは以下の企業などです。
- シャープ
- 楽天
- 住友商事
さらに、管理職や上級管理職、幹部などにTOEICスコア800以上の条件を設けているのは以下の企業などです。
- 楽天(上級管理職)
- 三菱商事(課長)
- 日立(幹部)
そういう状況を考え合わせると、役職がない場合にも最低でも600以上、役職を目指すなら少なくとも700以上、できれば800以上のTOEICスコアを持つことが求められます。
出典:会社の昇進に必要なTOEICの点数と英語力の実態 | 英語ジョブ.com
転職での英語力の優位性とブラッシュアップの方法
ここまでの内容で、外資系企業でなくとも、グローバルな展開を視野に入れる企業に転職するためには、英語力があると有利です。ましてや、管理職を志望するのであればなおさら。ビジネスマンとしてのスキルを持つうえにビジネス英語を話すことができれば、学歴や職歴以上にものをいうビジネス環境といえるでしょう。
現職の多忙な中で転職活動に励みながら、なおかつ自身の英語力をさらにブラッシュアップすることであなたの優位性は際立ちます。
忙しい中でも英語力を磨くことができる方法を、紹介しておきましょう。
オンライン英語講座で学ぶ
ビジネス英語が学べるオンラインスクールやオンライン講座は、迷うくらいたくさん存在します。英語ネイティブの講師が担当してくれるところも、多く見られます。それぞれ特色やコストが違うので、自分に合った内容とコストパフォーマンスで選ぶとよいでしょう。
また、世界最大級のオンライン学習プラットフォーム「Udemy」では、ビジネス英語で検索すると実に10,000件の講座がヒットします。学びたい項目をピンポイントで扱っている講座が多く、1,000円台のコスパな講座も多くの選択肢があるのです。ビジネス電話やビジネスメールに特化したもの、会議での英語やクライアントをもてなす際の英語など、あなたが磨きたい分野だけを受講できます。
スマホアプリで学ぶ
iOSアプリやAndroidアプリの中で、英語学習系のものも花盛りです。ネイティブによる英語発話の聴き流しトレーニングや、すぐに現場で使えるビジネス英会話フレーズが満載のもの、自動採点できる発音練習など、工夫されたアプリがたくさんあります。
ほかには、ビジネス英語の定番的な表現はもちろん、出張や会議、電話などのシーン別のレッスンや、営業、技術、企画などの職種別のレッスン、製造業やサービス業、情報通信などの業界別で役立つレッスンなどです。また、ビジネス英語やTOEIC対策としてのトレーニングに特化したものやポイントが解説されているアプリなど、コスパで学べる実践的なアプリが揃っています。例えば以下のようなアプリです。
ビジネス英会話 – 社会人の英語学習アプリ、リスニングにも対応
スタディサプリENGLISH – ビジネス英語・英会話
ビジネス英語
トレーニング TOEIC ® test
スタディサプリENGLISH – TOEIC®L&Rテスト対策 TOEIC®英語学習
「Google Play」や「App Store」で「TOEIC」「英語学習」などで検索してみてください。
英字新聞デジタル版や英語ニュースサイトで学ぶ
英字新聞のデジタル版や英語ニュースサイトで学ぶのもおすすめです。音声や動画が観られるものもあり、リーディングとリスニングの双方を磨けるのです。英語で現在進行形のニュースに触れることにより、時事問題の英語表現を知ることができるのは大きいメリットといえるでしょう。
また、自分が知っている時事知識と関連させてリーディングやリスニングをすれば、知らなかった英単語や表現も推測できるようになります。現実世界で起きていることが対象という生きた英語で学べるので、スキルアップしやすいといえるでしょう。
例えば以下のようなものがあります。
The Japan Times Alpha
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NHK World-Japan
BBC Learning English
Breaking News English
まとめ
多くの企業において、管理職にある一定水準の英語力が求められる傾向の背景を掘り下げて解説し、管理職に英語力があることのメリットを示し、目指すべきレベルの目安とブラッシュアップの方法も紹介しました。
多忙な中でも、地道に学ぶ価値がある英語力なので、ここで紹介した方法も参考に、先々のためにリソースを割いて英語力をブラッシュアップしてください。