管理職になると、仕事のやりがいや報酬と同時に責任も増えます。ポジションが上がるのは良いことですが、企業から求められている成果を上げなくてはなりません。そのために部下の管理を徹底して叱咤激励によって部署を盛り上げようとする管理職の方もいますが、今の時代にそういうやり方で部下のモチベーションを維持するのは逆効果になることも多いでしょう。
どうすればうまくマネジメントできるか、悩んでいる管理職の方も多いのではないでしょうか?この記事では、管理職が望ましい結果を出すために最も重要なスキルや、それを磨く方法について解説します。
目次
カッツモデルとは?
カッツモデルとは1950年代にアメリカの経営学者であるハーバード大学のロバート・L・カッツ教授が提唱した、それぞれのマネジメント層に応じて求められるスキルのバランスを考えるフレームワークです。最近では、カッツモデルあるいはカッツ理論の名で取り上げられ、人材育成や研修および組織開発の指針を構築する際に広く活用されています。
「管理職」が指すもの
管理職をひと言葉で表現すると、組織内の個々の部署が業務を主体的に進めるための決裁権を持つ役職です。組織を構成する数が増えてくると、業務の系統を分けて部署単位で分担することが合理的になります。そのため、企業などの組織では日常的で規模が小さい仕事などには、ある程度部署として独自の判断を管理職に認めます。
つまり、仕事の内容によって権限委譲され、その権限によって組織をまとめ牽引するのが管理職の担う役割です。一般的な管理職の概念は、主に課長や部長などを指します。カッツモデルでは「ミドルマネジメント層(管理者層)」に分類されます。
その下位の係長や主任などは、管理職機能を部分的に与えられる役職です。カッツモデルでは「ロワーマネジメント層(監督者層)」に位置づけされます。
一方、上位管理職ともいうべき取締役や支社長、社長や会長、CEOなどは組織全体をマネジメントする経営幹部です。カッツモデルにおいて「トップマネジメント層(経営者層)」に分類されます。組織ごとに決裁権の基準や範囲は異なるため、管理職になった場合には、自身に権限委譲されているのはどの範囲までかを充分理解しておく必要があります。
詳しくはこちらでも解説しています。
管理職は部下から見て上司ですが、仕事をする中で上司と部下の関係は、とても重要な人間関係だといえるでしょう。管理職として自分が理想的であると胸を張れる人は、そう多くはないかもしれません。転職を考えている管理職のみなさんの中には、管理職として自身のあり方に納得できておらず、転職後に心機一転、立派な管理職として頑張ろうと考えている人も多いのではないでしょうか。この記事では転職後の新しい職場でも、もちろん現在の職場でも活かせるように、管理職のあるべき姿についてさまざまな角度から検証し、それに近づく方... 現代の管理職にとってあるべき姿とは?必要な要素を日頃に磨ける方法 - 35ish |
カッツモデルが説く管理職に必要な3つのスキル
ここではロバート・L・カッツ教授がカッツモデルで説く、管理職に求められる3つのスキルの内容に触れておきます。現代の理想的な上司像としての管理職に求められるさまざまな要素の中で、カッツモデルにおいて重要とされているのは以下の3つのスキルです。
- テクニカルスキル
- ヒューマンスキル
- コンセプチュアルスキル
個々のスキルを詳しく見ていきましょう。
日々の業務遂行のための「テクニカルスキル」
企業活動において、日常の業務を「組織として」遂行するために必要な知識とスキルがテクニカルスキルです。たとえば、業務遂行の遅延を気にかけるあまり、遅れている部下の担当部分を取り上げて自分でやってしまうので、管理職の仕事とはいえません。
テクニカルスキルとは、自分自身が業務をこなすことではなく、あくまで組織として円滑に進めていくためのスキルです。このスキルは、現場に最も近い係長や主任などのロワーマネジメント層には欠かせないといえるでしょう。なぜならビジネスは現場の業務を着実に前に進めていかなければ収益は上がらず、いくら優れた戦略を基にしていても意味をなさないからです。
内部を盛り上げ外部とつながりを深める「ヒューマンスキル」
リーダーとして、部署内にポジティブな影響を与えるスキルがヒューマンスキルです。これは上から下まで、あらゆるマネジメント層に求められます。
ヒューマンスキルは、単に人間関係を良好にして、職場の雰囲気を盛り上げる力を意味するだけではありません。組織を目標に導きつつ部下を育成する能力であり、それを身につけるためにリーダーシップやコミュニケーション能力は欠かせないものです。
また、ヒューマンスキルは内部だけでなく、外部との関係性の中での相互理解や合意形成のためのファシリテーションやコーチング、プレゼンスキルなどの相互作用で包括的に発揮されます。そのような意味では、ヒューマンスキルはビジネス上のスキルとは異なり、深く人間性に関わるスキルであるといえるでしょう。
ヒューマンスキルに含まれる主な要素は以下の7つです。
- コミュニケーション:周囲と良好な人間関係を築く能力
- リーダーシップ:組織内をまとめて導く能力
- コーチング:部下のモチベーションを維持、もしくは上げる能力
- プレゼンテーション:他社にアイデアを伝える能力
- ヒアリング:他の人の主張や意見に耳を傾ける能力
- ファシリテーション:内外の人たちとの合意を形成する能力
- ネゴシエーション:内外の人と交渉する能力
ヒューマンスキルのレベルは、人としての成熟度が影響します。たとえば取引先にプレゼンテーションをしたり交渉をしたりなどの対外的な仕事は、その人の内面の成熟が基本になければ、成果が出にくいものです。それと同時に、どこまでも謙虚に他者の話を最後まで聞き、深く理解するという能力も欠かせません。
このスキルは狭義の管理職であるミドルマネジメント層はもちろんのこと、ロワーマネジメント層からトップマネジメント層に至るまで、広義の管理職とされる全員に必要です。誰しもこのヒューマンスキルを磨けば、ビジネスパーソンとしてだけでなく人間として成長することが望めます。
課題の本質を見極める「コンセプチュアルスキル」
向き合っている課題の、本質を見極める力がコンセプチュアルスキルです。
仕事にはさまざまな不具合や課題がありますよね。しかし、その本質を見極めて把握すれば、やがて問題を解決できます。コンセプチュアルスキルでは、将来のビジョンを鮮明に描き、現在の環境を的確に分析をベースにした戦略を構築します。同時に課題を分析することにより目標を設定し、望ましい方向に組織全体を導くでしょう。
このスキルは、特に組織全体の舵取りをする取締役や支店長、社長などの経営幹部であるトップマネジメント層に求められるものです。
マネジメントの3つの層とスキルバランス
ここまでで、マネジメントに必要な3つのスキルを紹介しましたが、管理職はそのどれかひとつがあれば良いというわけではなく、3つとも必要です。ただし、役職の位置付けによって、3つのスキルが求められるバランスが異なることをカッツモデルでは説いています。
以下の図は、カッツモデルによるマネジメント層別のスキルバランスを表現したものです。
ここからはカッツモデルによる、マネジメント層ごとに変化するスキルバランスについて詳しく見ていきましょう。
ロワーマネジメント層のスキルバランス
係長や主任などの最も現場の最前線を受け持つ「ロワーマネジメント層」に、ヒューマンスキルはもちろん求められますが、現場に最も近いゆえにテクニカルスキルも非常に重要となります。スキルバランスが示す通り、業務に関してはスペシャリストでありつつ、それに埋没することなく管理職としての立場を常に認識していることが必要です。
ミドルマネジメントのスキルバランス
課長や部長などの管理職のイメージを代表する「ミドルマネジメント層」は、ヒューマンスキルをメインにしつつも、コンセプチュアルスキルとテクニカルスキルもバランスよく持つ必要があります。
トップマネジメントのスキルバランス
ミドルマネジメント層であれば、直接部下に具体的な指示を与えます。しかし、組織全体としての戦略を構築し実行する役割である取締役や支店長、社長などの「トップマネジメント層」は、現場に個別に細かい指示を与えることはまずありません。ヒューマンスキルはやはりメインではあっても、課題の本質を見極めるコンセプチュアルスキルが重要になる立場です。
最重要スキルはヒューマンスキル
以上のようにマネジメント層によって、3つのスキルが求められるバランスが変化します。しかし、注目すべきはヒューマンスキルに関してはどの層においても最も重要で、層が異なっても同じバランスで求められるということです。
総括すると、いわゆる一般的に管理職といわれる課長と部長に関していえば、ヒューマンスキルを最重要としつつ、部下を指導できるだけのテクニカルスキルと部署を導くコンセプチュアルスキルを持つべきでしょう。
管理職にヒューマンスキルが強く求められる背景
近年ではミドルマネジメント層を中心に、企業の管理職においてヒューマンスキルが強く求められる傾向があります。例えば実務を3〜5年経験したエンジニアにも求められます。この年次のエンジニアはIT業界でもニーズがありますが、同時に上流工程でクライアントとの接点が増える時期でもあります。
その時に必要になるのが、ヒューマンスキルです。以前はテクニカルのスキルがメインでありヒューマンスキルは重視されませんでした。しかしクライアントと接する中で企業の顧客価値を高めれば、市場も拡大できるという考え方に変わりました。単にクライアントの要求を満たすだけではなく、深い信頼関係を築く必要があります。そうすることで、新たなニーズが生まれるでしょう。
このため、現在では選考におけるテクニカルスキルとヒューマンスキルの比重はほぼ同じにされています。だからこそ、クライアントに接する役割を担うIT業界のマネジャークラスの人材において、テクニカルスキルだけではなくヒューマンスキルが求められるのです。
これはIT業界を例に挙げましたが、他の業界も同じです。
ヒューマンスキルを磨くために
ここからはヒューマンスキルを磨くための方法について、触れておきましょう。
研修を受けてみる
ヒューマンスキルは形や数字にして表すことのできない、抽象性が高いスキルです。手応えが欲しい場合には、ヒューマンスキルをテーマにした個人向け研修プログラムに参加しましょう。
近年は、ヒューマンスキルの研修を開催している企業や講師も増えています。研修に行くと自分自身の長所や短所とまともに向き合うことになるため、成長への具体的な努力ができるようになる可能性があります。非常に数多くありますが、顧客満足度が高いといわれている管理職向けの公開講座を運営している企業は以下です。
NTTラーニングシステムズ
SMBCコンサルティング
リクルートマネジメントスクール
グロービス(GLOBIS)
みずほセミナー(みずほ総合研究所)
日常の中で意識して磨く
先に紹介した研修は、行けば得るものがあるはずですが、費用も掛かりそのための休暇も取る必要があります。多忙なビジネスパーソンには、難しい場合があるかも知れません。そんな方には、仕事や私生活を含む日常の中で磨く方法を紹介します。
異なる意見に傾聴する
ヒューマンスキルを磨くためには、自己理解を深めるだけでは足りません。周りの人たちを理解し、自分と異なる意見も受け入れることも必要です。そのためには、他者の話に真摯に耳を傾けることが大切となります。これはコミュニケーションを円滑するには、欠かせないポイント。
本来誰しもが、自分の意見を聞いてもらいたいという欲求を持っています。しかし、ヒューマンスキルを磨くためには相手の話をさえぎることなく最後までしっかり耳を傾け、本質を理解しようとする姿勢が必要です。時には相槌を打ちつつ相手の意見をしっかりと受け止めることで、深い信頼関係を構築できるでしょう。
自ら積極的に行動する
役職を持つと、より強いリーダーシップや統率力が求められます。ところが権限による命令で人を動かそうとするのはリーダーシップに逆行する行為で、部下の心はどんどん離れるかもしれません。そうではなく、役職があっても自ら積極的に行動するようになれば、部下の信頼を獲得して自ずと統率力やリーダーシップが培われます。
ダイバーシティを理解する
現代は、さまざまな背景や価値観を持った人材が入り混じっています。かつてのように、トップダウン型のアプローチでは組織を動かすのは難しいのが現状でしょう。
多様性を理解し、個人を尊重しつつ組織としての大きい目標達成に向けて組織を活性化できるマネジメントが求められています。一人ひとりの個性や特質を見極めて向き合うことで、信頼関係を築いて同じ目標を目指す組織にすることができるでしょう。
感性を高める
感性が鈍いと思われると、人はなかなかついてきません。そのため、管理職でありながらもし感性に自信がないなら、磨いておく必要があります。感性は良質な情報量に比例するともいわれます。一流の芸術や文学、最新の情報などに意識してどんどん触れることで、感性は自ずと磨かれるでしょう。
以上が日常の中でヒューマンスキルを磨く方法です。意識してトライすれば、それなりの成果が上がります。
まとめ
管理職に求められるものを、カッツモデルを紐解いて3つのスキルとして紹介しました。管理職としてさらなるキャリアアップを目指すなら、特にヒューマンスキルを磨くことが大切です。個人研修プログラムに参加するのもよし、日常の中で意識して磨くこともできます。管理職のみなさんは転職やキャリアアップのために、ここでの情報も参考にしながら、ヒューマンスキルを磨いていってください。