社会や経済のグローバル化が進む中で、ビジネスの世界ではモノリンガルよりバイリンガルのほうが、多くの分野や業種、職種で人材の需要があります。
今回の記事ではバイリンガル人材が、なぜそのように仕事の選択肢が増えるのかという理由を紐解いたうえで、日常生活の中でバイリンガルを目指す独学の勉強法を紹介しましょう。
目次
バイリンガルになれば仕事の選択肢が増える時代
なぜ日本の求人市場ではバイリンガルになると、仕事の選択肢が増えるのでしょうか。それには複数の理由があり、かつ相互に影響し合うことでバイリンガルの価値をさらに高めています。ここではバイリンガルに人材ニーズが広がっている時代の背景にあるものを確認しておきましょう。
交通や通信の発達によるグローバル化
まず大元からいえば、交通手段や通信手段の発達によるグローバル化から始まっています。人や情報が国境や海を越えて、容易に行き来するようになったので、国際的に共通言語として使われる英語の重要性がアップしました。
そしてビジネスの次元で取引がボーダーレスになってくるにつれ、ビジネス英語ができなければ務まらない業務も増えてきています。
国内マーケットの成熟による海外進出
また、国内のマーケットが成熟しており、新たな市場を海外に求める企業も増えています。そのため、海外進出に伴って英語ができる人材が不可欠です。上記以外にも細かい事情を考えると、経済手段としての英語の重要性は高まっているといえるでしょう。
少子高齢化社会による労働力不足
また、少子高齢化による労働人口の不足もバイリンガルの人材価値のアップにひと役買っています。それは人材不足を補うために外国人労働者を雇用する企業が増えているからです。国も働き方改革の一環として、外国人労働者の受け入れを推奨しています。そして、さまざまな国籍の労働者とコミュニケーションを取るためには、やはり英語ができる人が重宝します。そのため、外国人労働者をマネジメントする立場に就く人材には、英語力が条件になってくるのです。
業界特有の事情
業界別でいえば、たとえばコンサルティング業界などは従来から、英語ができるとアサインできる仕事は何倍にも増えるといわれます。
IT業界はグローバル案件やオフショア開発の増加、外国籍エンジニアの雇用などいくつかの理由で英語が話せるエンジニアが非常に有利になっています。また、外資系企業はどの業界も人気があります。しかし、企業の属性上採用条件に英語力を必要とすることが多いです。クライアントが外国籍の場合や、そうでなくとも多くの場合に社内や海外本社とのコミュニケーションにおいて英語がデフォルトだからです。
これらのように複数の理由が絡み合って、現代はバイリンガルが高い人材価値を持つ時代となっています。
普段の生活の中でバイリンガルに近づく勉強法
これまで日本人は義務教育の中学、そして高校を合わせると最低6年間、英語を習ってきました。2011年から小学校5・6年生を対象に英語学習が始まり、2020年からは必修科目として3・4年生から外国語活動、5・6年生は外国語という教科となっています。また、大学でも英語が必修科目となっています。しかし、国際社会の中では、依然英語力の評価が高くありません。実際に30歳前後から上の世代で、英語が流暢に話せる方は多くないのが現状です。
しかしあきらめる必要はないのです。多くの日本人は英会話が苦手でも、文法はおおむね理解している場合が多いでしょう。個人差があるにせよ、多くの人は英語の読み書きにはそれほど問題がありません。辞書を使えば大体の内容は読み取れることが多いです。ある意味、言語として英語を理解するポテンシャルを持っています。
英会話スクールやオンライン講座などを利用するのもよいでしょう。また、インターネットの普及で外国語情報も普通にキャッチできるので、今後は日本人の英語力も向上する可能性があります。しかし本稿では忙しく働きながら転職を考えているみなさんに向けて、あえて独学によって日常生活を送る中で英語を話せるようになる方法を紹介します。大人になっていろいろ経験してきたからこそできる、ツボを押さえた勉強法の実践で、6〜10年間培ってきた英語のポテンシャルを開花させましょう。
洋画を使った3段階勉強法
まず洋画、特にアメリカ映画やイギリス映画を使った勉強法を紹介します。最近ではDVDを購入しなくとも、サブスクの動画サービスなどのさまざまな方法により自宅で過去の映画を視聴できます。これを使わない手はありません。かつて観たことがなくても構わないので、内容に興味が持てる作品を選んでください。
この勉強法は3つの段階があります。第1段階は字幕無しで原語のまま、ナチュラルな状態で全編観てください。意味がわからなくても大丈夫です。しかし、言葉がすべてわからなくても、ストーリー展開や俳優の表情や身振り手振りから、あれこれ想像しながら観ましょう。
第2段階は、続けて観ると飽きるので翌日などで少し時間を置いて行います。このときは日本語吹き替えか、日本語字幕のどちらかで観ます。どちらにするかは相性があるので好みで結構です。ポイントはセリフの意味をしっかり噛み締めながら観ることです。もちろん映画の翻訳が原語のセリフどおりとは限りませんが、意味合いは反映されています。この際に、おそらく1回目に観たときに想定した意味が合っている部分と、まったく違う部分があるでしょう。そのいずれも認識しましょう。
第3段階も、少し時間を置いて行います。このときはまた1回目のように字幕なしの原語で観ましょう。しかし展開やセリフの意味がわかっているので、英語が聞き取りやすく、表現も理解しやすくなっているはずです。これをいろんな映画で繰り返しましょう。だんだんと、精度が上がり「なるほどネイティブはこういう場合そのように表現するのか」という感じで、活きたボキャブラリが増えてきます。
英語字幕で観られるサービスであれば第4段階として、原語でなおかつ英語字幕で観るのも勉強になります。特に、学校では習わなかった英語的な表現や気に入った表現を書き留めて、それを使った文章を自分でも作り、俳優の話すニュアンスを真似て声に出してみましょう。この勉強法のポイントは、ストーリーや俳優の身振り手振りなどの資格情報も含めて、ボキャブラリーを形成できるので、英語表現を内在化(internalize)しやすい点です。学んだことを後で紹介するSNSで知り合った海外の友人と会話するときに積極的に使うと、より一層内在化できます。
英訳コミックを使った勉強法
ここでいう英訳コミックとは、日本のコミックを英語ネイティブ向けに英訳した書籍や電子書籍のことです。
いわゆるアメリカンコミックでも良いのではないかと思う方もいるかもしれませんが、日本のコミックのほうがセリフは圧倒的に多いので、勉強できる量が多くなります。また、日本人が描いた作品のほうが感覚的に理解しやすく、内容と英語表現を関連付ける意味で語学学習に適しています。この場合は、あなたの好きなコミックを選ぶのがよいでしょう。日本の新旧の有名なコミックは欧米でかなり人気が高く、ほとんどがペーパーバックの英訳版で出ています。アマゾン等にて1,000円前後で入手可能です。
方法としてはひたすら読んでいくだけで、楽しんで読むほど効果的です。映画を使う勉強法と同じ考え方で、最初は辞書を引かずにわからなくとも想像しながら読み進めましょう。あとになって文脈から意味がわかることも多いです。その場合はもどって読み返して、表現の仕方をしっかり感じ取りましょう。
コミックの場合は日常会話が多く、それほど難解な単語が出てこない場合が大半です。そのため、ひととおり読み終わったら辞書を引くまでもなくすべてを理解できていることも多いでしょう。そしてネイティブらしい表現のストックが、1冊読み終えるたびに増えていくはずです。同じ本を繰り返し読めば、より深く表現を頭に刻み込めます。
また、コミックによっては(特にミステリー系や社会的な内容のものは)難しい単語や表現も出てくるので、2回目は辞書を使って意味をしっかり取りながら読みましょう。この場合、後で説明するように英和辞典ではなく英英辞典を使うのが鉄則です。
海外ニュースを使った勉強法
海外のニュース動画も勉強になります。キャスターは日本で言う標準語のように、平均的なアクセントで話すことが多く、聞き取りやすいので発音のニュアンスを感じながら視聴しましょう。
YouTubeで視聴すると、設定によって英語字幕が出せます。英語を聴きながらほぼ忠実な英文を読めば、表現やリズムを感じる訓練になります。字幕非対応の動画もありますので、注意してください。ちなみに、ニュースに限らず外国人の一般ユーチューバーの動画を同じように英文を読みながら聴くことで、現代に生きる市井の庶民の英語表現を知ることができます。いずれ字幕を出さなくとも、理解できる範囲が増えてくるのに気がつき、モチベーションが上がるでしょう。
SNSを使った勉強法
SNSが発達、普及した現在、外国人の知り合いを作ることはそれほど難しくありません。
コツとしてはFacebookやTwitter、Instagram、LinkedInなどで日本語学習をしている英語ネイティブ(たくさん存在します)を発言やプロフィールから見つけて、気が合いそうな人にコンタクト申請をします。そしてお互いに「母国語を教え合いましょう」と持ちかけるのです。相手がOKであれば、テキストチャットや音声チャット、ビデオチャットなどでお互いにレッスンを行うことができます。
これは非常に効果的な学習法です。なぜなら、習う側としてももちろん勉強になりますが「日本語を英語で教える」ことも大変勉強になるからです。日本語の使い方を英語ネイティブに正確に伝えるためには、あなたが英語で適切な説明をする必要があり、そのために真剣に調べることで自ずと英語の理解力が高まります。
誠実に相手の日本語力の向上に向き合うことで信頼を得られれば、英語学習の良い相談相手になってくれるでしょう。お互いにどんなことでも質問できる関係性を築ければ、語学上達という共通の目的を持った長い付き合いができます。日常的にさまざまな対話を通して、学習機会があるのです。あなたの英語力は、確実に向上していくでしょう。
バイリンガルを目指して学ぶ際のポイント
バイリンガルを目指して英語を学んで行く際に気をつけるべきポイントとして、主に以下の5つがあります。
- 目よりも耳から学ぶ
- 文法よりも会話で学ぶ
- 英和辞典を使わず英英辞典を使う
- PCや使用ツールの言語設定を英語にする
- 訳すのではなく英語で考える
個別に見ていきましょう。
目よりも耳から学ぶ
かつての義務教育で英語を学ぶ場合は話すことや聴くことよりも英文読解と文法に重きを置いていました。つまり、現在の30歳前後から上の層は、どちらかといえば耳よりも目から学ぶ方法が中心です。
学習方法には諸説ありますが、リーディング(英文読解)とグラマー(英文法)が中心だったかつての英語教育では、結果的に国際水準においては英語力が低いと評価されているのは事実といえるでしょう。
30歳前後から上の層は、耳からの学びが不十分なままで肉付け部分の英文法や英文読解をやってしまっているので、読み書きができても上手に話せないのです。幼い子供が母国語を身につけていくのは耳からの学びが基本で、読み書きは肉付けの段階です。大人になってからバイリンガルを目指して英語を学び直すなら、遅まきながら耳から学ぶことを重視しましょう。もちろん読み書きも大切ですが、「聴くこと」「話すこと」に軸足を置くほうが、自分の中で英語という言語を内在化しやすく、結果的に読み書きのスキルも向上します。
文法よりも会話で学ぶ
ネイティブとたくさん会話すれば、頭ではわかっている文法、つまり言語構造の違いが感覚としてわかるようになります。英語は結論が先に語られ、説明は重要度が高いものから付け足されるため、文章を途中で切っても、成立します。
日本語は結論が最後に来るので、途中で切ると成立しません。たとえば「私は近いうちに、あなたが先日私の友人に薦めていた本を買うつもりです」という文章を途中の文節で切ってみるとどうでしょうか。
「私は近いうちに」
「私は近いうちに、あなたが先日」
「私は近いうちに、あなたが先日私の友人に」
「私は近いうちに、あなたが先日私の友人に薦めていた本を」
ここまでではまだ伝わりません。
「私は近いうちに、あなたが先日私の友人に薦めていた本を買うつもりです」
最後まで聞いてやっと、言いたかったことが伝わります。これを英語で語る場合には、語順が大きく異なります。
“I’m going to buy the book you recommended to my friend the other day soon.”
これなら途中の文節で切っても、文章として成立し意味が伝わります。
“I’m going to buy the book”
(私は本を買うつもりです)
“I’m going to buy the book you recommended”
(私はあなたが薦めていた本を買うつもりです)
“I’m going to buy the book you recommended to my friend”
(私はあなたが私の友人に薦めていた本を買うつもりです)
“I’m going to buy the book you recommended to my friend the other day.”
(私はあなたが先日私の友人に薦めていた本を買うつもりです)
“I’m going to buy the book you recommended to my friend the other day soon.”
(私は近いうちに、あなたが先日私の友人に薦めていた本を買うつもりです)
英語はこのような構造なので、発言や文章を最後まで追うほど情報は詳細になりますが、冒頭だけ聞いても結論は伝わります。日本語と比べると合理的な構造を持つ言語だといえるでしょう。
そこを理解していると自分で話すのも、人の話を理解するのも、さほど難しくないのです。私たちが自由自在に操れる日本語のほうがずっと複雑なので、シンプルで合理的な英語を操れないはずはありません。このため、あまり文法を気にせずネイティブ相手にどんどん会話で学ぶと、言葉の優先順位が体でわかるようになります。
英和辞典を使わず英英辞典を使う
非常に重要なポイントですが、英和辞典を封印して英英辞典だけで学びましょう。英単語を英語で説明する英英辞典は基本的に平易な単語で説明され、必要に応じて難しい単語が説明に使われても、その単語を調べればまた平易な単語で説明されているからです。
知らない単語に出会った際は英英辞典で調べれば、多くの単語はその時点で理解できます。難しい単語ならすべての説明がわかるまで繰り返すと、その単語に関係する多くの単語や表現に触れることができるので、それもまた勉強になります。これを日常的に行うと、調べるたびに知識が増えてモチベーションが上がるでしょう。
PCや使用ツールの言語設定を英語にする
PCのブラウザやソフトウェア、ビジネスツール、オンラインコミュニケーションツールの言語設定を英語にしてみるのも、英語に慣れて上達する方法です。スマホでも言語設定を変えることができるので、普段にいくらでも英語に触れられます。これを実行すると操作に関するすべての表示、ポップアップリストやドロップダウンリストもすべて英語になります。
仕事を効率よく進めるためには、意味を素早く理解しなければなりません。必要に迫られて使う英語だからこそ、個人差はあるにせよ英語力はめきめき向上するでしょう。
訳すのではなく英語で考える
英語で会話をする際に、相手の言葉を和訳して理解し、答える内容の日本語を英訳して話すのでは対応するまでの時間もかかるうえに、とってつけたような表現になってしまいます。賛否両論あるので、選択するのは本人自身ですが、入り口も出口も英語のままで理解することがおすすめです。
これまで「訳す」ことが英語に対する関わり方だったので、とにかく慣れることが必要です。しかし、それができると反応速度は飛躍的に上がり、英語のコミュニケーションレベルが格上げされます。
まとめ
今という時代のビジネスパーソンは、あらゆる方面でバイリンガルであることが人材価値を上げてくれます。それくらい英語の不得手な人が多いので、磨く甲斐があるスキルといえるでしょう。ここで紹介した独学の勉強法は、人によっては絶大な効果が出る場合もあります。もちろん勉強法というものは相性や効果の個人差があり、絶対という保証はありません。
それでも、日々の少しの時間の投資で楽しみながら英語力を磨けるので、転職を視野に入れながら働くビジネスパーソンにおすすめできます。とにかく英語情報の中で生活することが大切です。バイリンガルを目指すみなさんは、ここで紹介した勉強法を参考に、毎日英語に触れながら生活する中で、英語力を高めてください。