ITエンジニアが転職先を探す場合には、一般的に転職エージェントや求人メディア、ビジネスSNSを利用します。その中で日本進出から10年を超え、最近注目されているのがLinkedInです。
LinkedInは活用の仕方次第で、転職活動に大いに役立ちます。今回の記事ではITエンジニアのみなさんに向けて、LinkedInの有効な使い方について解説します。
目次
ITエンジニアの転職の現状
まずは、ITエンジニアの転職マーケットの現状を確認しておきましょう。転職市場全体としては、2022年に入って全業種で採用が活発です。詳しく見ていきましょう。
IT系企業のIT人材ニーズ
IT系企業では、コロナ禍で一時採用を見合わせていた企業も採用を再開し、かつてないレベルの人材ニーズが生まれています。DX(Digital Transformation)の進展やウィズコロナ時代への対応を見越して、積極的にIT人材に投資する傾向が強くなっています。
特に大手IT企業では、即戦力となるIT人材の確保に苦労しています。なぜなら、一般の事業会社においてもIT人材を積極的に採用しており、人材獲得競争において競合が大幅に増えているからです。そんな背景から、大手IT企業の一部では積極的な実務未経験者のポテンシャル採用や、年収引き上げなどの対応も見られます。
インターネット関連業界のIT人材ニーズも、継続的に伸びを示しています。Webサービス企業やデジタルマーケティングを手がけるIT系コンサルティングファームなどでは、年間数百人規模のIT人材の採用が続いている現状です。SaaS(Software as a Service)系企業の採用も一時期は落ち着いていたものの、再び活発化しています。とりわけマーケティングのデジタル化をサポートするSaaS系企業が、採用枠を積極的に拡大中です。
また、インターネット業界での目立つ傾向として、スタートアップ企業への転職が活況を呈しています。これまでは大手企業からスタートアップ企業に転職すると、一旦年収が下がるケースがたくさんありました。ところが、最近では技術力に加えて資金力も兼ね備えた、堅実なスタートアップ企業が増えてきています。こうしたスタートアップは人材確保のために、転職前の年収の保証だけでなく、プラスアルファのある魅力的な条件を提示して、優秀なIT人材を確保しています。
非IT系企業のIT人材ニーズ
非IT系企業でも、IT人材を求める流れが強くなっています。製造業や流通業、金融業などのいずれの業界でもDXとIT人材への投資が増加中です。
事業会社はDXへの対応のみならず、CX(Corporate Transformation:企業の根底からの変革)推進要員の人材確保が加速しています。付け加えると事業会社の中でIT人材ニーズがあるのは、何もIT部門だけではありません。事業部門でもIT人材を採用する動きが生まれています。その目的は、事業部門が直接ITベンダーとのやりとりを担って、より現場に近い視点で事業部門のソリューションを促せる点です。
一般的にITベンダーに対して窓口となる担当者は、スタッフの中で比較的ITに明るい人が選ばれるにせよ、ITの専門家というわけではありません。その窓口をIT人材が担えばベンダーとの情報のやり取りや、成果物のフィードバックなどにおいて、過不足ない的を射たやりとりが期待できます。それはより良好な関係性の構築と成果物の品質向上に、プラスになるでしょう。
なお、事業会社ではコストおよび工数削減のため、システムのクラウド化や標準化を進めています。そのため採用時にはシステム開発や保守運用のスキルだけでなく、ビジネスの実情に即した要件定義スキルなども重視されます。ほかにも、近年ではITシステム停止が経営問題に発展することなどが多いため、セキュリティー対策要員のIT人材ニーズも増加傾向が顕著です。
また、人材派遣業界ではITエンジニア派遣の稼働率が極めて高く、派遣需要に対してITエンジニアの頭数の確保が追いついていません。そのためIT人材の確保に注力しており、20〜30代の若手や中堅にとどまらず、40〜50代まで幅広い層からエンジニア人材の確保を図っています。
ITエンジニアが転職を検討する際の3つのフェーズ
ITエンジニアにとって転職を検討する際には、以下の3つのフェーズを通して行うのが効率的です。
フェーズ1:人脈を広げて生きた情報でマーケットを知る
フェーズ2:マーケットの中で自分のスキルが活かせる場を認識する
フェーズ3:スキルを活かせる場に立つために、足りないものを知って補う
各フェーズを見ていきましょう。
フェーズ1:人脈を広げて生きた情報でマーケットを知る
ITエンジニアは同じ現場の環境下やリモートワークで業務を行うため、仕事で社外の人と接する機会は少ないです。その結果、マーケットにおいて自分の位置付けや人材価値がどれくらいなのかを分かっていない人が多くなる傾向があります。
一方、IT人材が深刻に不足していて、ニーズは大変旺盛です。高給を保証してでもIT人材を確保したい企業が後を絶ちません。そのような願ってもない売り手市場であるため、自分をある程度は高く売らないともったいないでしょう。
そのために、まずマーケットを知る必要があります。自社の現場しか知らなければ、何の比較もできないからです。とはいえ、マーケットの実情はネット情報ではなかなか知ることができません。社外の人との交流や、IT関連の他社の様子を知って初めて、マーケットを立体的に見ることができます。つまり、人脈を広げると、そのまま生きた情報源を持って、マーケットを知ることができます。
フェーズ2:マーケットの中で自分のスキルが活かせる場を認識する
人脈を広げていきマーケットを知っていくと、自分や自社の環境を他者や他社と比較することができます。そしてほかのITエンジニアやほかの企業が展開していることを考え合わせ、業界を見渡せば、自分のスキルが業界でどういう位置にあるかが見えてきます。
そうなると、自分のスキルが活かせる場所はどこなのかがわかってきます。その場所を認識し、現在の職場よりも環境が良い、あるいは報酬がアップするようであれば、転職を検討するに値するでしょう。
フェーズ3:スキルを活かせる場に立つために、足りないものを知って補う
スキルを活かせる場所に転職したいとなれば、その場に立つために自分に欠けているものは何かを謙虚に見つめることが必要です。
何も欠けていなければ、そのまま転職できる可能性は高いので、企業にアプローチすればよいでしょう。しかし、欠けているものがあるなら努力をする必要があります。ITの特定の領域、英語、プレゼンスキル、マネジメントスキルなど、補うアクションを起こしましょう。
ITエンジニアにとってのLinkedInとは
ここでは、ITエンジニアにとってのLinkedInとはどういう存在かを解説します。
柔軟性と汎用性が高いビジネスSNS
LinkedInはWantedlyと同じく、転職メディアではなくビジネスに特化したSNSです。その性質上、ビジネスと距離がある話題を発信したりチェックしたりする必要はなく、効率よくビジネスに関しての活動ができます。
業界や分野にこだわらず、世界中の人や企業とつながることができ、つながり方も濃くも緩くもできます。プロフィールをどこまで公開するか、誰に向けて公開するかも自分で範囲設定可能です。キャリアやスキルをアピールすることができ、履歴書や英文レジュメを公開することも可能です。企業アカウントやユーザーである著名人にメッセージを送ることもできます。
そして、LinkedInに掲載されている求人情報が検索でき、ダイレクトな応募も可能です。また、一定のポイントを押さえれば企業のリクルーターやヘッドハンターからのスカウトを受けることもできます。
LinkedInとWantedlyの比較
多くのITエンジニアが活用しているWantedlyとLinkedInと比較してみましょう。
ユーザーに関して
まずはユーザーという切り口で比較します。国内個人ユーザー数はLinkedInがおよそ280万人、Wantedlyが300万人を超えていて同じくらいの人数です。
ただし、Wantedlyは日本の企業であることに対して、LinkedInはアメリカのグローバル企業で、全世界の7億人を超えるユーザーともつながることが可能です。ユーザーの年齢層は、LinkedInの方が高めです。Wantedlyは20代のユーザーが半数を占めています。登録ユーザーの年代別の割合は、以下の表のとおりです。
10代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | |
12% | 25% | 23% | 17% | 14% | 9% | |
Wantedly | – | 50% | 31% | 14% | 5% | – |
ユーザーが所属している業界別ではどちらも、情報通信業界の割合がトップです。LinkedInは情報通信業界に次いで、ソフトウェア業界、コンサルティング業界、教育関係と続きます。Wantedlyは情報通信業界に次いでコンサルティング業界、広告業界です。
職種でいえば、LinkedInは分野が多岐に渡ります。一番割合が高いのは事業開発で、教育、営業と続き、その次がITエンジニアです。一方、WantedlyはIT系の分野が中心で、ITエンジニアが最も多く、デザイナー、セールス、マーケティングなどが続きます。
サービスに関して
LinkedInとWantedlyの基本的なサービスはユーザー間でビジネスのつながりを作ってもらうことです。個人・企業ユーザーとのつながりやプロフィールの公開などの、基本的なサービスに関して、両者は非常に近いといえるでしょう。
なお、LinkedInとWantedlyはいずれも給与などの具体的な採用条件、待遇などの詳細情報を募集ページに記載できません。雇用条件の詳細は、先方の企業とやりとりするまで確認できないところは、転職サイトと異なります。
違いを理解して使い分けよう
機能的にはよく似たLinkedInとWantedlyですが、あえて違いを挙げるとWantedlyのほうが転職メディア寄りで、LinkedInのほうがネットワーク作りの要素が強いです。外国籍のユーザーとつながったり、外資系企業にアプローチしたりするなら断然LinkedInがおすすめです。
国内のITエンジニア需要に関してはWantedlyのほうが奥行きはありますが、外資系企業のITエンジニア需要はLinkedInのほうが充実しています。そのようなさまざまな違いを理解して使い分けましょう。
ITエンジニアの転職にLinkedInが適している3つの理由
ITエンジニアにとって、転職にLinkedInを活用することは有効です。その理由は先に述べた「3つのフェーズ」の実行には、LinkedInが非常に適しているからです。詳しく見ていきましょう。
LinkedInで人脈を広げてマーケットを知ることができる
LinkedInは「人脈を広げて生きた情報でマーケットを知る」ために大いに役立ちます。なぜなら、LinkedInは日本を含む世界中のビジネスパーソンや企業とワンプラットフォームでつながることができるからです。サインインすれば、7億人のユーザーのプロフィールが閲覧可能です。
気になるユーザーのプロフィールを閲覧すれば、「このようなスキルを持つ人がそういう分野の仕事をしているのか」「こんなキャリアを持つ人がそのような企業で活躍しているのか」などをいくらでも知ることができます。その気になれば連絡し、相手が応じてくれれば詳しい話を聞くこともできます。そうやって人脈を広げて多くの人と情報に接するうちに、マーケットのさまざまな事情がつかめてくるでしょう。ひるがえって、マーケットの中での自分の位置付けを客観的に認識できるようになります。
LinkedInで自分のスキルが活かせる場を探せる
マーケット事情や相場観が実感できるようになれば、自分のスキルが活かせる分野や領域がわかり、LinkedInの中で具体的な企業などを探すことができます。GAFAを含む多くの海外企業が、LinkedInを通じて採用活動を行なっているのは事実です。もし転職したいと思える企業があるなら、採用担当者を探してメッセージを送ることもできます。
そしてやり取りを通して、企業の求人に対する考え方を聞ける可能性があるのです。気になる企業を見つけたら「私にできる仕事はありますか」とダイレクトに聞いてみればよいでしょう。その時点で直ちに採用されることは難しいとしても、多くの場合にあなたのプロフィールを確認した上で、先方から具体的なフィードバックがもらえます。「あなたならこういう領域のスキルを磨けば採用を検討できる」「英語をこれくらいのレベルにブラッシュアップしないかぎり当社では採用できない」など、丁寧なフィードバックがもらえることも多く、参考および励みになります。
企業の採用担当者が直接、求めている人材の詳細を教えてくれるのです。本当にそこに入りたいのならそれを目標にスキルアップをすれば、入社できる可能性は確実に高まります。闇雲に頑張るのではなく、このように自分に欠けているものを知った上でそれを補う努力をすればよいので、とても効率的です。
LinkedInで足りないものを補える
足りないものを補うことにも、LinkedInは役に立ちます。足りないものを充分に持っているユーザーを探しましょう。そういうお手本とすべき人たちのプロフィールを見るだけでも、自分のブラッシュアップの参考になります。
もちろん、プロフィールの閲覧で終わらず、実際につながって積極的に交わりましょう。その人たちの価値観や思考パターン、スキルアップの方法などを知ることで刺激になり、自身の研鑽の糧となります。また、お手本となるユーザーに相談すれば、具体的にトレーニング方法の助言がもらえる場合もあります。努力を認めてもらえれば、公開しているスキルを裏書して推薦してもらえることもあります。そうやってLinkedInの活用で一歩ずつ、転職成功への階段を昇っていきましょう。
LinkedInでITエンジニア求人に応募する方法
LinkedInでITエンジニア求人を検索し、直接応募する方法を紹介します。
求人検索と2種類の応募方法
LinkedInにログインして、トップページの「求人(Jobs)」タブから、検索ページに行きます。ITエンジニア関連の、志望する仕事に関連するキーワードを複数入れて検索します。都道府県や市区町村で絞り込むことも可能です。
該当する企業がなければ、求人アラートを設定して待ちましょう。該当する企業があれば、直接応募が可能です。すぐに応募しない場合は求人情報を保存できます。応募には通常の「応募(Apply)」と「簡単応募(Apply easily)」があります。
「応募(Apply)」ではその企業の公式サイト内にある応募ページに誘導されます。そこでガイダンスに従って応募します。「簡単応募(Apply easily)」は検索ページから、そのまま速やかに応募プロセスが完結します。
求人側からスカウトを呼び込む方法
LinkedInでは企業に直接応募できるとともに、スカウトを受けることもできます。スカウトを受けやすくするための工夫をすると、多くの場合求人側からのオファーを呼び込むことができます。それがあなたの希望する条件を満たしている企業かどうかは別ですが、アプローチをもらえる確率は非常に高いです。具体的には、以下の2つのことを実行しましょう。
まずはプロフィールを、時間をかけて詳細に記載します。これでほとんどの場合何らかの反応があります。例えば写真を載せる方が、人脈拡大やスカウトを受ける際にプラスに影響すると、LinkedInは発表しています。
次に転職に興味があることを、他のユーザーから見てはっきりとわかるようにしましょう。OpenTo Work機能を使用すれば、あなたのプロフィール写真が「#OPENTOWORK」というフレーズが並ぶグリーンのフォトフレームで囲まれます。そうしておけば企業の採用担当者やヘッドハンターも、あなたを転職志望者と認識できるのです。興味のある職種や希望勤務地を指定しておくと、それに該当する候補を探している採用担当者やヘッドハンターの検索にヒットしやすくなります。OpenTo Work機能を活用しているユーザーは、オファーメッセージがおよそ4割増加したとLinkedInは発表しています。
なお、LinkedInのプロフィールを充実させる方法については以下のページで特集しています。
また、「求人検索」「2種類の応募方法」「OpenTo Work機能の設定」の具体的な手順に関しては以下のページで詳しく解説していますので、そちらを参考にして下さい。
まとめ
これまでITエンジニアの転職にはWantedlyがよく使われてきましたが、最近話題のLinkedInもITエンジニアの転職に活用できるビジネスSNSです。LinkedInはITエンジニアが転職を検討するための3つのフェーズの、すべてにおいて役立ちます。
エンジニアはLinkedInとWantedlyを上手に使い分けるのがおすすめです。転職を検討するITエンジニアのみなさんは、ここで紹介した情報を参考に転職活動のストーリーを組み立ててください。