転職活動に励むみなさんも、いずれ転職が決まれば退職というプロセスがあります。この退職には煩雑な手続きが伴います。
次の就職のタイミングに差し障りのないように、円滑に進めなければなりません。とはいえ、初めての退職の場合、何をどうすればよいかわからなくても無理はないでしょう。
この記事では転職の前後にどのような手続きが必要なのか、そして退職プロセスの一般的なスケジュールを解説し、抜け漏れがないようにチェックリストも紹介します。
目次
退職前に必要な手続きとは?
まずは転職をする場合に、退職にはどのような手続きが必要なのかをひとつずつ挙げて解説しましょう。
直属上司への退職意向の表明
退職プロセスはここから始まります。一般的には直属の上司に退職の意向を伝えるのが基本です。上司の頭越しにさらに上の幹部や経営者に伝えるのは、上司との関係性に悪影響を与えかねません。悪くすると気分を害した上司が、スムーズな退職の流れに非協力的になることがあるかもしれませんので、くれぐれも「頭越し」は避けておきましょう。
また、「相談」の形で伝えると「引き留め」される可能性が高くなるので、気をつけなくてはなりません。上司はさまざまな理由で、引き留めようとすることが多いです。もちろん、真剣にあなたのことを思って引き留める場合もあるかもしれません。しかし、単に今辞められて業務が回らなくなる、あるいは部下がやめると自分の指導力の評価が下がると考える場合もあるでしょう。
そのため退職を伝える際は、相談ではなく熟考した末の「決定事項」として伝え、それまでの感謝を心から伝えた上で、退職日の予定を相談するという態度で臨むのが賢明です。
ただし、上司がその話を受け入れないケースも考えられます。その場合はやむを得ないので、その上位者に話をしましょう。
退職願の提出
まず口頭で上司に伝えた退職の意向を会社も了承したなら、社内のルールに沿った「退職願」もしくは「退職届」を提出します。以下が、一般的な「退職願」と「退職届」書き方の見本です。
【退職願の例】
【退職届の例】
このどちらがよいかは、会社で決まっている場合もあれば、どちらでも可の場合もあります。会社の人事部で、定型の用紙が用意されている場合もあるでしょう。念のため会社に確認することをおすすめします。ニュアンスとしては「退職届」は一方的な感があるので、どちらかといえば「退職願」のほうが適切です。理由は詳細に書く必要はなく、「一身上の都合により」で問題ありません。
業務の引き継ぎ
会社に退職願が受理されれば、流れている業務と並行して「引き継ぎ」の作業に真摯に取り組まなければなりません。退職することで同僚や上司に負担をかけてしまうのは仕方ありません。しかしそれを少しでも軽減し、自分が担当していた業務が滞りなく受け継がれるように丁寧に引き継ぎを行うべきです。それが円満退職にもつながります。
必要であれば資料やリストを作成し、業務のすべてを委ねるプロセスとなります。顧客や取引先のパーソナルな情報も、できるだけ後任者に伝えるか、記録として残しましょう。
貸与品の返却
最終日までに、会社から貸与されていたすべてのものを返却しなければなりません。一般的に、返却すべき対象となる項目は以下のとおりです。
【健康保険被保険者証】
会社員はその会社もしくは会社の組合を通じて健康保険に加入しているので、退職と同時に無効となります。そのため保険証は返却しなければなりません。扶養家族の分もあれば、そちらも忘れないように気をつけましょう。
【身分証明書(社員証・社章)】
これらはその会社に所属していることを証明するものなので、すべて返却する必要があります。
【名刺】
自分の名刺の残りだけでなく、仕事を通して過去に受け取ったすべての名刺も、原則的には返却しなければなりません。
【通勤定期券】
会社に通うための通勤定期券なので、返却します。
【経費で購入したすべての備品】
会社の経費で購入したものは、基本的にすべて返却の対象になります。
【業務の中で作成あるいは受領した書類やデータ】
業務上の情報を勝手に処分したり持ち帰ったりすると、トラブルになりかねません。業務にかかわるデジタルおよび紙の情報は、基本的にすべて返却します。現実的には、引き継ぎに不要な重要性が低いものは、紙であればシュレッダーにかけて破棄、データであれば消去することも多いです。
ただし、あくまでも社内のルールを確認した上で進めるほうがよいでしょう。
必要書類の受け取り
退職時に受け取る必要がある書類が、複数あります。雇用保険関係などは、きちんと手続きしなければ失業給付を受給するのに支障が出るので、気をつけて進めましょう。
【離職票】
雇用保険の失業給付を受けるケースでは、これがないと手続きできません。受け取るまでに時間がかかる場合もあります。
会社が社会保険事務所に給与情報などを提出し、それをもとに社会保険事務所が作成してものを会社に郵送してくれます。
退職日までに届かない場合もあるので、その場合は郵送してもらいましょう。
【雇用保険被保険者証(会社が保管している場合)】
雇用保険の被保険者である資格を示すもので、次の転職先に提出する必要があります。基本的には入社した時点でもらっているはずですが、もし一紛失していた場合は再発行が必要です。
その場合はハローワークに「被保険者番号」を会社で確認した上で申請すれば再発行してもらえます。
【年金手帳(会社が保管している場合)】
こちらも次の職先に提出する必要があります。転職先が未定の場合は、国民年金に加入しなければなりません。自己保管で紛失していた場合は、社会保険事務所に再発行を申請しましょう。
【源泉徴収票】
転職先の会社が年末調整を行う際に、必要になります。同じ年の間に就職しなかった場合は、自分自身で翌年に所得税の確定申告をするときに使用することになるでしょう。
退職の一般的なスケジュールを把握しよう
退職のスケジュールは、会社によってルールも違えば、離職者自身の身の振り方によっても変わってきます。ここでは一般的な退職プロセスの流れを把握するために、参考としてよく見られる典型的なフローを紹介しましょう。
一般的に退職の意向を伝えるのは、実際の退職日の1〜2ヶ月前が妥当であるとされています。その場合の、退職日までのフローはおおむね以下とおりです。
【2ヶ月前〜1ヶ月前】
上司に退職の意向を伝えて退職予定日の相談、会社への退職願(退職届)の提出
【1ヶ月〜2週間前】
社内での引き継ぎ作業
【2週間前〜退職日前日】
取引先への挨拶まわりと引き継ぎ
【退職日】
社内での挨拶まわり・貸与されたすべての備品の返却・必要書類の受け取り
退職前の手続き以外に重要な「引き継ぎ」
手続きにかまけて、「引き継ぎ」をおろそかにしてはいけません。円満退職のためには、引き継ぎを最優先で行いましょう。ここでは引き継ぎの作業における注意点を解説しておきます。
引き継ぎ完結の目標日を設定しておく
引き継ぎの作業は一般的に、進んでいる業務と並行して行われます。そのため、普段以上に多忙になる可能性が高いと認識しておきましょう。あらかじめ必要と思われる引き継ぎ項目を書き出して、退職予定日の3日前には少なくとも完結する目標を立て、逆算してスケジュールを立てることをおすすめします。
途中経過を随所に確認する
余裕を持ったスケジュールを立て、実際はそれより早く進むくらいの方が、精神的にはよいでしょう。退職日の3日前までには完全に引き継ぎが終了できるよう組んでおけば、万が一予定外の残務整理が入ったとしても、3日の余裕があれば対応できます。
また、 スケジュールに沿って進みながら進捗状況を常に気にかけ、もし遅れている部分があれば軌道修正するなどが必要です。スケジュール立てる段階では、以下の項目をよく考えましょう。
残務をすべて整理できるまでには、どのくらいの日数が必要か 仕事内容および進め方をすべて後任者に引き継ぐためには、どのくらいの期間が必要か あいさつ回りをすべき取引先は何件あるか
引継ぎ内容は形に残す
引き継ぎにおいては、あなたが関わってきた仕事内容やその進め方を、できるだけ詳細に伝えることが大事です。案件別の進捗状況はもちろん、顧客によっては注意点や申し送り事項もあるでしょう。また、過去の経緯で知っておく方がよいエピソードなどもあるかもしれません。
後任者とできるかぎり時間をともにして詳細を打ち合わせ、一連の業務を一緒に行うのが理想的といえるでしょう。そうやって後任者の仕事を間近で見れば、引き継ぎ事項の抜け漏れを防げます。
データファイルにまとめて保管する
誰しも一度説明されただけでは、把握できないこともありますよね。引き継ぎの内容はできるだけテキストファイルにして、PCの共有フォルダに入れておきましょう。自分がいなくても、後任者が資料を確認して解決できる体制を作っておくのが望ましいのです。
ファイルにまとめるポイント
徹底した社内外への挨拶
仕事をしていれば多くの人との関わりが生まれており、その先退職した後もどこでどのような巡り合わせでお世話になるかわかりません。関係した取引先にはすべて連絡して、挨拶をしておきましょう。社内で関わった人たちへの対応も同じく大切です。
取引先にはあいさつ回りを
引き継ぎなしに後任者が前触れなく顧客を訪れたとしたら、会社の体制に疑問を持たれる可能性があります。取引先には、可能なかぎり後任者とともに退職の挨拶に行き、あなたが去ってからも関係が問題なく維持できる体制があることを伝えましょう。
キーマンには連絡先を伝える
退職後にあなたにしかわからない類いの問題や、緊急用件が発生する場合もありえます。大事をとって、後任者か上司などのキーマンには、退職後も連絡が取れるように個人の携帯電話番号やメールアドレスを伝えておきましょう。そうすれば、お互いに不安がなくなります。
退職後に必要な手続きと対応
退職してからすぐに次の転職先に就職するのであれば、引き続き社会保険全般の資格を引き続き持つことができるので問題ありません。しかし、以下の場合はいずれも手続きが必要になります。会社に属さない空白期間は資格を失うからです。
退職してから転職活動をする場合 転職活動はしてきたがまだ就職先が決まっていない場合 就職先は決まっているがすぐには入社しない場合
退職後には、それまでの健康保険に代わる国民健康保険の加入手続きや、年金の種別変更手続きなどを自分で行なわなければなりません。具体的には「健康保険」「年金」「失業給付金」「住民税」に関する手続きです。それぞれの手続きは煩雑なので、以下に要点をまとめておきます。
健康保険について
健康保険が失効してからどうするかは、3つの選択肢が考えられます。手続きの仕方や提出書類、申請場所などがそれぞれ違うので注意が必要です。
「任意継続被保険者制度」を利用する
健康保険を条件付きで継続する方法です。ただし、この制度が利用できるのは退職の日までに2ヶ月以上の被保険者期間が継続してあることが前提となります。極端な例でいえば、入社して2ヶ月経たないうちに辞めた場合は制度の対象外です。
また、加入できる期間は最長で2年までとなります。就職しないかぎり、3年目は国民保険に加入しなければなりません。
申請先:健康保険組合もしくは離職した会社 必要なもの:印鑑と住民票および保険料1ヶ月分 申請期限:退職後20日以内
国民健康保険に加入する
国民健康保険は、地方公共団体が運営する健康保険制度で、自営業者などが基本的に加入している健康保険です。
申請先:居住地の市区町村役所の健康保険窓口 必要なもの:印鑑・身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)・健康保険資格喪失証明書 申請期限:退職後2週間以内
家族の健康保険の扶養に入る
家族が健康保険に加入しているなら、その家族の扶養に入って保険が使えるケースがあります。条件は、その家族の3親等以内であることです。また、年収が130万円を超えると対象外となります。
申請先:扶養に入る家族の勤務先 必要なもの:退職証明書または離職票のコピー・退職した会社の源泉徴収票 申請期限:退職後できるだけ早く
失業給付金について
失業給付金は、必ずしも失業者が申請しさえすれば受け取れるというものではありません。
以下の3点の、規定の条件を満たす必要があります。
求職の申請を居住地の管轄のハローワークに行っていること 退職日までの2年間に、雇用保険加入期間が通算で12ヶ月以上あること 完全なる失業状態であること
失業保険の給付額は、退職理由が自己都合か会社都合かと、直前の半年間の給与のふたつの要素から決まります。
申請先:居住地を管轄するハローワーク 必要なもの:印鑑・雇用保険被保険者証・写真2枚(直近3ヶ月以内、縦3cm×横2.5cm)・本人名義の普通預金通帳・離職票1と2・身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど) 申請期限:離職票が交付されれば極力速やかに
年金について
20歳から60歳までのすべての日本国民は、国民年金の対象です。勤めているときは、給与から厚生年金と併せて保険料を天引きされます。しかし、失業して資格がなくなった場合は、国民年金へ加入することになるのです。
第1号から第3号まで3種類ある国民年金の被保険者ですが、会社に勤務している場合は第2号です。退職すると、種別を第1号か第3号被保険者に変更しなければなりません。
第1号被保険者
通常は「第1号被保険者」になります。一定の条件を満たせば、保険料の支払いが免除される「第3号被保険者」になれます
申請先:居住地の市町村役所 必要なもの:印鑑・年金手帳・退職証明書または離職票・身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど) 申請期限:退職後2週間以内
第3号被保険者
第3号被保険者になる条件は、配偶者が第2号であることです。また、年収が130万円を超えていると対象外になります。
加入手続きは、配偶者の会社を通じて年金事務所が行ないます。
申請先:配偶者の勤務先 必要なもの:退職証明書または離職票のコピー・前の会社が発行した源泉徴収票 申請期限:できるだけ早く
住民税について
住民税の納付の仕方に関しては、転職先が決まっているかどうかと退職する月によって異なります。
転職先が決まっている場合
転職先が決まっているなら、その会社で特別徴収(給与からの天引き)を継続 できます。その場合は、自分で納める必要はありません。前の会社と次の会社の2社間で手続きをしてもらう方法もありますが、現実的にはどちらにも頼みにくいものです。
そのため、退職する時点で普通徴収に切り替えてもらっておき、次の会社で改めて特別徴収への切り替えをするのが適切でしょう。
転職先が決まっていない場合
1~5月に退職した場合は、前々年の5月までの住民税を一括で天引きされます。その影響で給与の手取りの額が通常より少なくなることがあるので、注意が必要です。心配であれば会社に確認すれば、いくら引かれるかが分かるでしょう。
6~12月に退職した場合は、その月の分は天引きされ、それ以降は自分で納めることになります。
退職の手続きに関する必要項目チェックリスト
最後に、以上で紹介したこまごまとした項目のチェックリストを参考に載せておきます。
種別 | 項目 | 確認日 |
提出するもの |
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返却するもの |
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受け取るもの |
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退職後の手続き | □ 雇用保険被保険者離職証明書(離職票) | / |
□ 健康保険任意継続被保険者資格取得届 | / | |
□ 健康保険厚生年金保険被保険者資格喪失届 | / |
まとめ
退職というプロセスの中でのさまざまな手続きや注意点、一般的なスケジュールを解説しました。
転職活動と並行して退職のスケジュールを進める場合には、双方の兼ね合いが大変な場合もあるでしょう。
それでも、転職後に良いスタートを切るためには、円満退職を目指す必要があるので、ここでの情報も参考にしながら余裕を持って進めてください。