アウトソーシングとは?人材派遣との違いを含めて簡単に説明
深刻な人材不足が慢性化し、コロナ禍もあって不安定な経済環境で、あらゆる企業がリスクに備えた経営戦略へのシフトを試みています。そんな背景のもと、企業課題の解決策として外部委託形態の一種「アウトソーシング」が注目されています。
アウトソーシングとは社内の業務の一部を、外部企業に委託する経営手法です。人材の専門性の確保や人材不足の解消だけでなく、コスト削減、業務効率化、サービスレベル向上などを見据えてアウトソーシングを活用する企業が増えています。
今回の記事では企業の経営に関与する方に向けて、アウトソーシングの定義や種類、メリットとデメリットを人材派遣との違い含めて簡単に説明しましょう。
そもそもアウトソーシングとは?
アウトソーシングとは「一部の業務を外部業者に任せる」経営手法を意味します。アウトソーシングの活用は近年広がりを見せており、システム開発や人事業務、バックオフィス業務、営業代行などさまざまな分野で導入されています。
外部リソースの活用方法には、これまでも外注や人材派遣などが存在しました。しかし、アウトソーシングは現代企業が抱える課題である人材不足への対応や業務の効率化、多様なニーズへの対応などを解決する糸口となります。
そして経営リソースの集中を実現し、生産性を向上させる新たな時代の「経営手法」として注目されているのです。
アウトソーシングと人材派遣は違う
アウトソーシングは人材派遣とよく混同されることがあります。端的にはアウトソーシングは「業務」の代行サービスで、人材派遣は「人材」の供給サービスです。つまり、アウトソーシングと人材派遣との根本的な違いは、業務を社外に切り出すか否かにあります。
アウトソーシングは、業務をある一定の範囲で一括して社外に切り出すことです。そこには、業務のクオリティが担保されるという前提があります。
例えばスマホに搭載するカメラの設計開発に関する業務を、小型カメラに関して最高水準の技術力を持つ高い企業にアウトソーシングすることで、スマホとしての完成度を上げることが可能です。
人材派遣では派遣会社から人材の供給を受けますが、業務を社外に切り出すことはありません。人手が足りない状態を解決するサービスであり、必要な部署に必要な人数だけ補充して配置できる点が特徴です。
例えば新事業を立ち上げる準備のために、半年間だけ社内作業や簡単な事務的仕事に柔軟に対応できるスタッフを拡充したい場合に、人材派遣が利用できます。
アウトソーシングと人材派遣はタイプの違うサービスなので、それぞれのメリットを理解して使い分けましょう。
アウトソーシングの契約形態は2種類ある
アウトソーシングを依頼する際に、発注者は受注者と業務委託契約を結びます。ただし、業務委託契約という言葉は法律上には存在しません。
アウトソーシングにおいては法律上の委託形態としては、「準委任契約」と「請負契約」の2種類があります。
準委任契約とは、「法律以外の事務」を委任する契約形態です。この契約形態において受注者に求められるのは業務の遂行で、成果物の提出の義務は負いません。
受注者は誰の指揮下にも入ることなく、自分の設備や道具を使用して、決められた範囲の作業を行えば、報酬が発生します。その作業の成果に関しては、基本的に問われません。
請負契約とは作業のプロセスにかかわらず、成果物の提出に対して報酬が発生する契約形態です。発注者は成果物の納品と引き換えに対価を支払います。
なお、提出された成果物が発注者の求める品質水準を満たしていなければ、受注者に対価を支払う義務はありません。さらに、成果物が不完全であった場合、発注者は受注者に対して補償もしくは損害賠償を請求することが可能です。
よりわかりやすく説明するために、コールセンターを例に挙げましょう。ヘルプデスクなどのカスタマーサービスのアウトソーシングは準委任契約として、業務の遂行自体で報酬が発生します。
一方、テレアポなどの営業活動であれば、報酬は「業務によって発生した売上のX%」などと取り決めて行う請負契約となります。成果が上がらなければ、報酬は発生しません。
アウトソーシングの種類
アウトソーシングを業務領域で大きく分けると、主に以下の3種類となります。
- ITアウトソーシング
- ビジネスプロセス・アウトソーシング
- ナレッジプロセス・アウトソーシング
アウトソーサー、つまりアウトソーシング企業は、中には総合的なサービスを展開する企業もありますが、多くの場合それぞれが得意な領域に特化しています。
ここではアウトソーシングの種類を、個別に見ていきましょう。
ITアウトソーシング
ITアウトソーシングはITシステムの開発・運用やITインフラの構築・設計、サーバー管理、Webサイト等の制作・運用などのIT関連の社外委託です。
主に、高度な専門性が必要な業務をアウトソーシングするケースが多いです。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進行する中で、高いスキルが提供されるITアウトソーシングの需要は高まっています。
ビジネスプロセス・アウトソーシング
ビジネスプロセス・アウトソーシングは営業代行やコールセンター、人事、総務系など特定の業務部門の社外委託です。このタイプのアウトソーシングの中では、企業の採用業務を一括して受託きるアウトソーサーが注目されています。
自社の業務のうち、特定の部門の業務遂行および業務設計や業務改善案の実行などを、一括して外部企業に任せる方法です。
例えばカスタマーサービスやヘルプデスクの電話問い合わせ業務全般を、コールセンター業務専門の業者にアウトソーシングするようなケースです。電話問い合わせを外部に任せることで、社員は本来のコア業務に集中できます。
ナレッジプロセス・アウトソーシング
ナレッジプロセス・アウトソーシングは知的業務が対象の社外委託です。アウトソーシングの対象になる主な業務は、調査やデータの収集、分析など、高度な専門業務などになります。
データ分析などは極めて高いスキルが求められる領域なので、なかなか内製で満足いく業務は難しいです。
信頼できる外部企業に委託すると、ハイスキルのパフォーマンスが享受できます。それが業績に反映できれば、非常に活用する価値が高いサービスと言えるでしょう。
アウトソーシング市場が伸びている理由
アウトソーシング市場が伸びている背景に、慢性的な人材不足と企業戦略の変化があります。それぞれの事情を、詳しく見ていきましょう。
人材不足への対応策として
近年の少子高齢化が進む中で、国内企業の労働力不足が深刻になっています。とりわけ中小企業における労働力不足は深刻で、多くの企業では人材確保が課題です。
そんな中で労働力不足を解消しつつ、業務改善による生産性の向上を期待できるアウトソーシングが大いに注目されています。
ニーズの多様化への適応策として
人材不足に加えて市場のニーズが多様化していることも、アウトソーシング市場が広がる大きな要因と言えるでしょう。
ひとびとの価値観が変化し、消費者のニーズはいまだかつてないほど多様化しています。そのため、もはや少数のプロダクトやサービスだけでは、かつてのような収益を上げることはできません。
このような成熟した市場で企業が成長するためには、それぞれニッチである市場をできるだけ多く獲得する必要があります。他にも、グローバル市場を積極的に開拓するなどの経営の多角化が求められるのです。
アウトソーシングは多数のニッチなジャンルに対応するための多様なスペシャリスト群を確保し、全体として経営効率を上げながら経営の多角化を推進できる、常に有効な手段となる可能性があります。
アウトソーシングを活用するメリット&デメリット
実際に企業がアウトソーシングを導入する際の、メリットやデメリットを詳しく見てみましょう。
アウトソーシングを活用するメリット
アウトソーシングの活用によって企業が得られるメリットは、主に以下のとおりです。
- 生産性をアップできる
- コストを最適化できる
- 高度な戦力を投入できる
それぞれに目を向けてみましょう。
生産性をアップできる
アウトソーシングの活用によって企業が得られる最大のメリットは、生産性をアップできることです。
アウトソーシングの上手な活用によって、その企業のリソースを本来得意分野であるコア業務に集中的に投入できます。それによって、企業の屋台骨部分が稼ぎ出す収益が安定し、生産性を向上できます。
法人向けのサービスを展開しているBtoB企業を例にとってみましょう。
A社は営業力に非常に強みがあって、トップセールスクラスが多く在籍している企業です。しかしこのご時世では、新規開拓のための商談のアポイントがなかなか取れずに苦しんでいます。
一方、B社は営業支援サービスを提供するアウトソーサーで、クライアント企業のニーズに応じたサポートを展開しています。
そこでA社はB社に、新規開拓営業の導入部である商談のアポイントまでのプロセスをアウトソーシングしました。
B社はそれを受けて、A社のサービスを分析し、市場調査を行い、潜在顧客をリストアップします。そしてテレアポやメール営業、Webマーケティングなどを駆使するインサイドセールスの手法で、商談ができる見込み客を積極的に獲得します。
A社のセールスは従来のように電話営業などで商談のアポイントをとる作業から解放され、成約率を高めるための資料作成やトークスクリプトの改善など、売るための準備に集中できます。
そしてB社に提供してもらった絞り込まれた見込み客に対し、もともと営業力が強いA社のセールスが水を得た魚のように商談を展開します。次々と成約し、A社にとって高い収益を上げるスキームとなりました。
このように、アウトソーシングでは専門性が高くて重要ではあるけれど「自社が弱い部分」を切り出して、それに強い外部企業に委ねます。そうすれば、自社は得意な部門にリソースを集中して業績を上げられる可能性があります。
コストを最適化できる
アウトソーシングを適切に活用することは、コストの最適化につながります。ここでいうコストとは、費用はもちろんですが時間や労力を含めた包括的なコストの意味です。
企業として苦手な部分をテコ入れするためには、従来であればそれに見合う優秀な人材を、高い報酬を準備して招き入れる必要がありました。あるいはポテンシャルのある人材を教育・訓練・研修などで育て、専門性を身につけさせることが必要でした。
前者は高額の費用がかかり、後者は充分な時間が必要な上に担当する者の多大な労力を必要とするデメリットがあります。
しかしアウトソーシングを活用すれば、必要な期間に必要な分量の仕事をこなしてもらうための対価として、アウトソーサーに支払う変動費のみで、育てる時間も労力も必要ありません。
このように、アウトソーシングは安定した品質が確保される上に、コストが総合的に下がります。経営者の中にはアウトソーシングで品質は確保できてもコスト高になると考え、敬遠する人もいるようです。実際は逆で、コストを圧縮するためにも活用すべきなのです。
高度な戦力を投入できる
基本的にアウトソーサーはその専門領域に特化したスペシャリストであり、充分な経験と蓄積されたノウハウを持っていることが多いです。業務遂行能力において信頼に値し、委託することでサービスや製品の品質向上につながります。
また、新部門や新規事業をゼロから立ち上げる際には、人材確保から要員育成、設備拡張などのプロセスが必要です。アウトソーシングの活用で、そういったプロセスをショートカットして、最初から安定した高品質のサービスを提供できます。
アウトソーシングを活用するデメリット
次にアウトソーシングを活用する際のデメリットも、理解しておきましょう。主なデメリットは以下のとおりです。
- セキュリティリスクが伴う
- ナレッジの共有やノウハウの蓄積ができない
- ガバナンスの脆弱化リスクがある
個別に見ていきましょう。
セキュリティリスクが伴う
社外に業務を切り出すのがアウトソーシングなので、当然ある程度の重要な情報とともに外に出ます。そこにはセキュリティリスクが、常に伴うことになります。
例えばアウトソーシングの対象になる業務としては、ITシステムの運営の委託やヘルプデスク代行としてのコールセンター業務などが挙げられます。それらはいずれも顧客情報や社員情報、企業機密に関する情報などを含んでいます。
可能な限り強固なセキュリティ体制を敷いているアウトソーサーであっても、そのリスクがゼロになることはありません。できるだけ信頼性が高い業者を選定して、リスクを抑えましょう。
ナレッジの共有やノウハウの蓄積ができない
アウトソーシングを活用するということは、その部分の業務の品質は上がるでしょう。しかしながら、必ずしもそのノウハウやナレッジを自社と共有できるわけではありません。
また、アウトソーサーが何らかの事情で突然サービスの提供を停止したり、経営不振で倒産したりすると大変です。社内にノウハウやナレッジが蓄積されていないゆえに、その業務に関する対応が困難に陥るリスクもあります。
そうならないように社内で担当者を決め、万一の場合に対応できる範囲の情報共有ができる体制を作る必要があります。
ガバナンスの脆弱化リスクがある
アウトソーシングを活用すると、その部門がどのように業務が進められているかの把握が、どうしても社内のようにはできなくなります。その結果ガバナンスが弱体化するリスクを伴うでしょう。
そういった事態を防ぐためにはオンラインツールを活用するなどして、監視の意味も含めて業務の進行状況を共有する必要があります。
要するにアウトソーシングは丸投げするのではなく、アウトソーサーとの連携を重視して進めていくことが大切です。
アウトソーシングと人材派遣、どちらを選ぶべき?
アウトソーシングと人材派遣のどちらを選べば良いか、企業にとって迷うような状況もあるでしょう。
ここではその業務がどちらに適しているかについて、判断する基準を解説しますので、参考にしてください。
アウトソーシングに適している業務
アウトソーシングに適している業務とは、主に以下に挙げるような特徴を持つ種類の業務です。
- 限られた期間だけ必要である
- 企業機密に関連性が低い
- ルールの変更が少ない
- 社内で進める必要性が低い
- 専門性が高く社内のメンバーで対応できない
- 社内にその業務を進めるための設備やスペースがない
端的には期間に限りがあるスポット的な業務で、なおかつ専門性が高いものはアウトソーシングに適しています。
具体例としては「労務管理業務」「採用業務」「経理業務」「ITシステム運用」「カスタマーサービス」「営業代行」などです。
人材派遣に適している業務
一方、人材派遣に適している業務とは、主に以下に挙げるような特徴を持つ種類の業務です。
- 専門性が低いルーティン的な内容である
- 突然頭数が必要になる
- 正社員の目が届く範囲で進めたい
- 少人数でこなせる
- ルール変更が多い
端的には長期的あるいは継続的で、比較的難易度が低いルーティンのような業務は人材派遣に適しています。
具体例としては「店頭販売」「接客サービス」「新規事業(あるいは新店舗)の立ち上げ時のスタッフ」「イベント開催時のスタッフ」「データ入力」などです。
まとめ
あらゆる企業がリスクに備えた経営戦略へのシフトを試みる中、経営課題の解決策として注目を浴びるアウトソーシングについて、人材派遣とも比較しながら説明しました。
短期的で専門性が高い業務はアウトソーシング、長期的継続的でルーティンのような仕事には人材派遣が向いています。企業戦略と費用対効果、セキュリティなどを充分に考慮して、アウトソーシングの導入を検討してください。