2021年の派遣法改正の変更点とは?派遣受入企業が取り組むべき課題も解説
労働者派遣法が初めて施行されたのは、1986年です。その後2012年を皮切りに度重なる改正を経て、2021年には1月と4月に改正が実施されました。
それまで努力義務とされていた派遣労働者への説明や苦情処理体制の確立、マージン率の情報公開などを義務化し、従来までの取り組みをさらに強化する内容になっています。
派遣受入企業は今後、改正内容を充分に理解した上で、法を守らなければなりません。今回の記事では派遣受入企業の人事担当者の方に向けて、改正の変更点と今後取り組むべき課題について詳しく解説します。
そもそも労働者派遣法とは?
そもそも労働者派遣法とは、派遣労働者を守るためです。
現在の日本においては、派遣労働という働き方は一般化しています。正規雇用の社員よりも低賃金で雇用できる派遣労働者は、企業から重宝されてきました。
しかし派遣労働者にとって契約期間や賃金は、受けるそれぞれの仕事ごとに定められているので、収入がどうしても不安定ならざるを得ない傾向があります。
数々の労働問題でクローズアップされているように、劣悪な労働条件から現場での犠牲者となりかねない派遣労働者を守るために制定されたのが、労働者派遣法です。
2020年4月の改正内容を知っておこう
労働者派遣法は2012年の改正の際に、「派遣労働者の保護」という最優先課題を強調されました。
2015年には「派遣期間の制限」、および「雇用安定措置の実施」などの改正が実施されています。その後は2020年の4月、そして2021年の1月と4月に改正が行われました。
2021年の改正を深く理解するためにも、いま一度2020年の具体的な改正内容を確認しておきましょう。
働き方改革に沿った「同一労働同一賃金」を目指す
2020年4月の派遣法改正が掲げた大きな目的は、日本政府が推進する働き方改革に沿った「同一労働同一賃金」の実現です。
つまり、正規雇用の社員と派遣労目的があります。
ここでフォーカスされた派遣労働者の賃金は、「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」のいずれかの方式に沿って行うことが義務付けられました。
そのふたつの方式を、わかりやすく解説しましょう。
派遣先均等・均衡方式
派遣先均等・均衡方式は、同じ企業の中で同じ職務内容で働く派遣労働者と正規雇用労働者が、待遇において格差が出ないように賃金を設定する方式です。
そこでの待遇は基本給だけでなく各種手当も含み、加えて福利厚生面についても不均衡にならないような配慮が求められています。
また、その賃金設定方式を採用する場合、派遣受入企業が人材派遣企業と契約を交わす際に、賃金などに関する情報を共有しなければなりません。
労使協定方式
労使協定方式は、人材派遣企業が自社の過半数の労働組合員、もしくは過半数代表者との協定に基づいて、派遣労働者の待遇を決める方式です。
この方式により、同一エリア内での正規雇用一般労働者と同様の環境で業務に従事する派遣労働者の賃金は、彼らと同等ないしは同等以上となることが求められます。
ここでのポイントは、労使協定方式を採用する際の賃金の基準となるのが、厚生労働省が統計調査から導き出して毎年公表する「一般労働者の賃金水準」であるということです。派遣先の正規雇用労働者の、リアルな賃金そのものを基準とするわけではありません。
つまり、派遣受入企業からすれば、必ずしも自社の従業員と同等の条件で雇うことにはならないのです。
また、現行の労使協定で決められた賃金が最新版の「一般労働者の賃金水準」で示された同一エリアの賃金より下回っている場合もあります。その際、人材派遣企業は労使協定を新たに締結し直さなければなりません。
派遣労働者への説明の努力義務を課す
人材派遣企業は派遣労働者を雇い入れる時点、および派遣する時点で待遇等についての説明を行う「努力義務」を課されました。
従来においても、説明が不要であったわけではありません。当然ながら常識的に、ある程度の説明はされていました。しかしながら、人材派遣企業によってその取り組み状況に差がありました。
そういった実態が問題視されて、説明する努力義務を課す必要が出たのです。
2021年1月改正の4つの変更点
さて、2021年の改正については、法律の骨子についての変更ではなく、これまでに決められていた内容を施行する際のルールと指針に関する改正です。
まず、2021年1月におこなわれた労働者派遣法改正により、変更されたのは以下の4点です。
- 派遣労働者への説明義務を強化する
- 派遣契約の電子契約締結を認める
- 派遣労働者の苦情処理義務を強化する
- 日雇派遣契約解除の際の休業手当支払を厳格化する
それぞれの項目を、詳しく見ていきましょう。
派遣労働者への説明義務を強化する
人材派遣企業が派遣労働者を雇用する時点での説明に関して、それまでよりもさらに義務が強調されました。具体的には、教育訓練計画やキャリアコンサルティングの内容の説明です。
キャリアコンサルティングとは、労働者の能力開発や職業選択などに関する、指導やアドバイスなどのサポート全般を指します。
そのように人材派遣企業が教育訓練計画や能力開発計画の策定、およびキャリアコンサルティングを行うことによって、派遣労働者の主体性や目的意識などを育むメリットが生まれる可能性があります。
それまでは説明する努力を求めるものでした。しかし、中小規模の人材派遣企業におけるキャリアコンサルティングの実施率の低さによって、2021年1月の改正で説明自体が義務化されました。
派遣契約の電子契約締結を認める
2021年1月の改正までにも、派遣労働者との労働契約や人材派遣企業管理台帳については、電磁的記録によるものが認められていました。
ただし、派遣受入企業と人材派遣企業が締結する労働者派遣契約については、電子契約などのシステム上における契約を締結しても、紙にプリントアウトできる状態であることが必要でした。
2021年1月の改正で、人材派遣企業と派遣受入企業の間での電子契約が認められたことにより、契約更新などの業務効率化が期待できるようになりました。
契約更新漏れなどを未然に防ぐ意味からも、人材派遣企業や派遣受入企業が電子契約に対応するメリットは充分あるでしょう。
派遣労働者の苦情処理義務を強化する
2021年1月の改正項目のうち「派遣受入企業における派遣労働者の苦情処理の義務化」は、それまでにもあった内容ではあります。ただし、派遣労働者から出てくる苦情は派遣受入企業ではなく、人材派遣企業に寄せられる傾向がありました。
あるいは派遣労働者から苦情が発生した際に、派遣受入企業は内容をきちんと把握しないまま、人材派遣企業に対応を丸投げしていたケースもあります。それでは適切な対応にはならず、派遣労働者の不満を増大させるだけでした。
そのような状況を踏まえ、派遣受入企業を労働者の雇用主である派遣元と同様の責任があるとみなし、その立場を明確にしました。そうすることで派遣受入企業に対し、「誠実かつ主体的に対応すること」を求めたのが改正のポイントです。
それにより、すでに派遣労働者を雇用している派遣受入企業や、これから人材派遣を利用する企業は、自社内にしかるべき派遣労働者向けの窓口を設けて、苦情処理のプロセスを策定しなければなりません。
そして実際に苦情処理を行った場合は、その内容を派遣元の人材派遣企業に伝える義務があります。
わかりやすくまとめると、従来の派遣法に含まれていた内容は以下の2点です。
- 派遣受入企業の派遣労働者向け苦情処理担当者の設置
- 派遣受入企業で苦情対応を行った場合の人材派遣企業への報告
2021年1月の改正で追加、強調された内容は以下の2点です。
- 派遣労働者の苦情処理義務を強化する
- 日雇派遣契約解除の際の休業手当支払を厳格化する
日雇派遣契約解除の際の休業手当支払を厳格化する
この「日雇派遣契約解除の際の休業手当支払の厳格化」も、従来から定められていたものが、2021年1月の改正で明文化されたものです。
日雇派遣の契約をしている派遣労働者が、期間中に契約が解除された場合、次の派遣受入企業がすぐに見つからないことがあります。その際、人材派遣企業は休業等による雇用維持や休業手当の支払いなどの、労働基準法に基づく責務を果たす義務を負っているのです。
派遣労働者に契約解除に関する責任がないケースでは、派遣元の人材派遣企業が休業手当を支払うなどの対応を行う義務があります。そういう内容を明確化することで、派遣労働者の雇用を維持および安定化させることがねらいだと考えて良いでしょう。
2021年4月改正の2つの変更点
2021年4月の派遣法改正は、派遣労働者の公平性や雇用の安定化、働きやすさについて強く意識した内容となっています。
目立った変更点は以下の2点です。
- 雇用安定措置についての派遣労働者の希望の聴取を義務化する
- マージン率等のインターネットでの情報開示を義務化する
個別に見ていきましょう。
雇用安定措置についての派遣労働者の希望聴取を義務化する
人材派遣企業は派遣労働者に、雇用安定措置についての希望をヒアリングすることが義務化されました。ヒアリングした内容について、人材派遣企業の管理台帳に記録を残すことも義務づけされています。
雇用安定措置とは、有期雇用契約で契約期間制限の対象となる派遣労働者のために、派遣元の人材派遣企業が講じる義務がある措置です。
人材派遣企業は、以下のいずれかを行わなければなりません。
- 派遣受入企業に契約が切れる派遣労働者の直接雇用を依頼する
- 契約が切れる派遣労働者に新たな派遣受入企業を紹介する
- 人材派遣企業において無期雇用に切り替える
- 上記以外の安定した雇用の継続を図るための措置を施す
これまで以上に派遣労働者の立場を尊重し、擁護する内容となっています。
マージン率等のインターネットでの情報開示を義務化する
人材派遣企業が情報提供の義務を負うマージン率などの情報について、原則としてインターネットでの情報提供が義務化されました。
改正される以前には条文の中に「事業所への書類の備付け」という言葉がありましたが、改正後には削除されています。
情報提供の義務があるのは以下の4種類です。
- 教育訓練および派遣事業の業務内容
- 人材派遣の役務の提供を受けた事業主の数
- 人材派遣事業を行う事業所ごとの派遣事業に関わる派遣労働者の人数
- マージン率(労働者派遣に関する料金の平均額を分母とし、そこから派遣労働者の賃金の額の平均額を差し引いた額を分子とした割合)
2021年4月の改正以前に、マージン率をインターネットで公開していた人材派遣企業が想定よりも少なかったため、今回の改正でマージン率の情報開示が義務化されました。
2021年改正に伴い派遣受入企業が検討すべき課題
2021年の2回にわたる派遣法改正について、派遣受入企業が早急に検討すべき課題は大きく分けると以下の2点です。
- 電子契約の導入
- 苦情処理体制の整備
それぞれを詳しく見ていきましょう。
電子契約の導入
2021年1月の派遣法改正では労働者派遣契約の電子化が認められたので、電子契約をまだ導入していない企業にとっては検討すべき課題です。
労働者派遣契約は3ヶ月単位で更新されることが多く、これまでは契約更新管理に時間と手間がかかっていました。
その上、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、リモートワークが飛躍的に普及していることからも、電子契約の必要性が高まっています。
今回の改正で電子契約を導入できるようになったので、例えば関係者が押印だけのために出社するような必要はなくなるでしょう。
また、これまでのように契約書類を契約先企業に発送し、先方が承認のために法務部などの関係部門に押印の申請をして、また返送してもらうなどの手間も不要になります。
電子契約ツールをまだ導入していない派遣受入企業にとって今回の改正は、派遣関係の契約に限らずメリットが多い電子契約の導入を検討する良い機会ではないでしょうか。
苦情処理体制の整備
2021年1月の派遣法改正では、派遣受入企業が派遣労働者を雇用する事業主とみなされて、派遣労働者の苦情処理を行うことが義務付けられました。そのための体制づくりは、受入企業の喫緊の課題と言えるでしょう。
派遣労働者による苦情への対応について、派遣受入企業は以下の3点を決めておいて、労働者派遣契約に反映させなければなりません。
- 派遣労働者からの苦情の申し出を受け付ける窓口・担当者
- 苦情の処理を行う具体的な方法・手順
- 派遣元の人材派遣企業との連携体制の構築
なお、これらに以前から対応ができている派遣受入企業は、新たに体制を作る必要はありません。現状で対応ができていない派遣受入企業において、早急に手を打つ必要があります。
また新しく付け加えられた内容として、派遣労働者を受け入れる際に説明会を設け、苦情を訴えたい場合のアクションの起こし方や手順について、きめ細かく周知する必要があります。
派遣労働者ができるだけ働きやすい環境を整備するため、派遣受入企業と派遣元の人材派遣企業がこれまで以上に緊密な連携を取りながら、さまざまな対応に真摯に取り組むことが求められています。
まとめ
労働者派遣法の2021年に行われた2回にわたる改正は、この法律の根幹に影響するような大きなものではなく、あくまで施行する際の規則と指針の変更・強化です。
派遣受入企業は、従来の派遣法の内容に対して運用がしっかりとできているかどうかを確認しておけば、今回の改正はそれほど大きな影響はないとも言えるでしょう。
ただし、今回認められた電子契約の導入は、未導入の派遣受入企業にとって検討に値する価値があります。また、苦情処理体制の整備に関しては、徹底されていない派遣受入企業においては体制確立が急務です。
派遣法は頻繁に改正される傾向があり、今後も派遣労働者の待遇改善や公平性の重視から改正される可能性があります。派遣受入企業の人事担当者のみなさんは、常に情報にキャッチアップする必要があるでしょう。