【在宅派遣と派遣法に関わる注意点】コロナ禍の今だから考えたい、派遣社員の在宅勤務
派遣社員の在宅勤務は可能なのだろうか?——新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下(以下、コロナ禍)において、このような疑問を抱いたことはないでしょうか。
いまだ収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染症。社会や日々の暮らしに多大な影響を与え続けています。感染拡大を食い止めるために「新しい生活様式」が実践され、働き方にも変革が起きているのは周知のとおりです。テレワークの広がりはその最たる例でしょう。
ただ、スムーズに導入が進んでいる企業がある一方で、二の足を踏んでいる企業も少なくありません。そもそもテレワークになじまない業種もありますし、セキュリティの問題や生産性の低下の懸念など、導入にあたっての課題は多岐にわたるからです。人材派遣を利用している企業にとっては、派遣社員がテレワークの対象者になるのかどうかも悩ましいところではないでしょうか。
今回は、派遣社員の在宅勤務について考えます。在宅勤務の可否から、導入にあたっての注意点やメリットまでをやさしく解説します。
1. まずは用語の整理から〜在宅派遣・テレワーク・在宅勤務〜
コロナ禍で見聞きする機会がぐんと増えた「在宅派遣・テレワーク・在宅勤務」の3つのワード。理解しているつもりでも、改めて意味を問われるとどうでしょう。
この3つは「派遣社員の在宅勤務」を理解するうえで、キーワードとなるものです。まずは、用語の整理から始めましょう。
1.1. 在宅派遣
近年、インターネット上でも散見されるようになった在宅派遣ですが、明確に定義されているわけではありません。「派遣社員のテレワーク」といった意味合いで便宜的に使われています。そもそも、然るべき機関の文書では見受けられない言葉で、たとえば、厚生労働省では「派遣労働者のテレワークについて〜」、日本人材派遣協会では「派遣社員の在宅勤務に関する〜」といった文言が使われています。
1.2. テレワーク
テレワークとは、tele(離れた所)とwork(働く)を組み合わせた造語で、情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。種類は大きく「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」の3つに分けられます。テレワーク=在宅勤務と思われがちですが、実はそうではないのです。
テレワークと同じ意味合いで使われている言葉にリモートワークがありますが、こちらはテレワークのように明確に定義づけされていません。ただ、両者に大きな違いはなく、基本的にはテレワーク=リモートワークという認識で問題ないでしょう。強いていうならば、国や自治体がテレワークという言い方で統一しているからか、民間企業などでもオフィシャルにはテレワークを使い、カジュアルな会話ではリモートワーク(略してリモート)を使うといった傾向があるようです。
1.3. 在宅勤務
上記のとおり、在宅勤務はテレワークの一形態で、読んで字のごとく、自宅を就業場所とする働き方です。
ちなみに「モバイルワーク」とは、移動中や移動の合間のいわゆる「スキマ時間」を活用した働き方で、具体的には新幹線や飛行機の中、カフェやファミレスなどで行うことを指します。「サテライトオフィス勤務」とは、レンタルオフィスやコワーキングスペースといった企業・団体の本拠地とは別の場所にあるオフィスで就業する働き方です。
在宅派遣というと、在宅勤務のほかモバイルワークやサテライトオフィス勤務までを含めることもありますが、本記事では「在宅勤務」に絞って話を進めていきます。
2.1. 厚生労働省の見解は「派遣社員の在宅勤務は可能」
2020年、厚生労働省は新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として、日本経済団体連合会(経団連)や日本商工会議所、日本人材派遣協会など関係各所に対し、派遣労働者に係るテレワーク等の実施を要請しています。
テレワークは、もともと「働き方改革」の一環として政府主導で推進されてきましたが、派遣労働者に関しては今回ほど盛んに推し進められてきませんでした。コロナ禍を機に大きく進展した形です。
2.2. 派遣社員を在宅勤務に切り替える場合の注意点
厚生労働省からの要請があるとはいえ、「今日から在宅派遣で!」とすぐに切り替えられるわけではありません。
「労働者派遣契約書」の【就業場所】に関する変更が必要になります。
また、在宅勤務になることで新たな業務が加われば、【業務内容】を追加しなければなりません。これは、労働者派遣法に関わる部分だからです。
しかし、厚生労働省は「緊急の必要がある場合についてまで、事前に書面による契約の変更することを要するものではない」という見解も示しています。ただし、派遣先企業と派遣元企業の間で十分話し合い、合意しておくことは必要です。
契約変更の例
在宅勤務を基本とし、必要が生じた場合(週1~2日程度)に派遣先の事業所に出社して就業する場合
・派遣先の事業所:○○株式会社○○営業所
就業の場所:派遣労働者の自宅
ただし、業務上の必要が生じた場合には、○○株式会社○○営業所○○課○○係での週1~2日程度の就業あり(〒000-0000 ○○県○○市○○○○ Tel 0000-0000)
・組織単位:○○株式会社○○営業所○○課
・指揮命令者:○○株式会社○○営業所○○課○○係長○○○○
*ただし個人情報保護の観点から、自宅の住所まで記載する必要はない。
2.3. 在宅派遣をめぐっては裁判に発展する例も
契約関係とは別の角度からも見てみましょう。
【コロナ禍において正社員には在宅勤務を認め、派遣社員には出社を求めることについて】の法律家の見解です。
「労働者派遣法は派遣社員と正社員との不合理な待遇の相違を禁止しており、合理的な理由なく正社員にのみ在宅勤務を認め、派遣社員に出社を求めることは不合理な待遇にあたり、違法な取り扱いになる」
(引用:BUSINESS LAWYERS「コロナ下で正社員に在宅勤務を認める一方、派遣社員に出社を求めることの問題点」)
厚生労働省も「雇用形態の違いを理由にテレワークの対象者を分けてはいけない」としています。
このコロナ禍では、派遣社員だからという理由だけでテレワークが認められず、裁判まで発展したという事例もありました。そのような事態を招かないためにも、上記の見解を心に留めておきたいところです。
2. 派遣社員の在宅勤務は可能なのか? 派遣法に関わる注意点とは?
直接雇用の正社員やアルバイト、契約社員とは雇用形態が異なる派遣社員の在宅勤務について、疑問が生じるのは無理もありません。
派遣社員は派遣会社と雇用契約を結び、企業は派遣会社と労働者派遣契約を結びます。「労働者派遣契約書」には業務の内容や就業場所といった具体的な就業条件が定められていますから、おそらくここがネックになり、ややこしく感じるのではないでしょうか。たしかに、自社の従業員に比べるとハードルが高いことは否めません。
ところが、厚生労働省の見解を知ると、意外に柔軟に対処できることが分かってきます。さっそく見ていきましょう。
3. 在宅派遣を導入した場合の企業側のメリットとクリアにしておくべき課題
派遣社員を在宅勤務に切り替えた場合に得られる3つのメリットと、導入に際してクリアにしておくべき3つの課題を紹介します。
3.1. 3つのメリット
1.BCP対策につながる
BCP(事業継続計画)とは、テロや災害、システム障害など緊急事態が発生した場合でも、被害を最小限に抑え、事業活動が中断しないように対策や方法をまとめた計画のこと。
PCや回線といったハード面の整備やITツールの導入などテレワーク環境をしっかり整えておくことで、出社できない事態に陥っても業務の遂行は可能となり、事業活動の継続が望めるのです。
2.コストの削減
交通費やオフィスコスト(水道光熱費や消耗品費など)の削減が見込めます。
3.優秀な人材の確保
経験や高いスキルがあっても、出産や介護をはじめとするさまざまな事情によりオフィス勤務を諦めざるを得なかった人材の獲得につながる可能性が高まります。
3.2. 3つの課題
1.就業条件の確認
派遣会社を通して派遣社員に在宅勤務での就業条件を明示し、就業の可否を確認する必要があります。というのも、派遣先側では在宅勤務適用の準備が整っていたとしても、派遣元の就業規則に規定されていない場合や、そもそも派遣社員が在宅勤務に対して積極的ではないケースもあるからです。
2.労働環境の整備
派遣社員が自宅に備えている個人のPCを業務に使用することは、セキュリティ上の問題からおすすめできません。まずはPCやタブレット端末などIT機器の扱いについて考える必要があります。IT機器使用にともなうインターネット回線(大容量データを高速で送受信できるかどうかなど)の見直しや、クラウドサービスやWeb会議システムツールの導入など、情報共有ができ、チームワークを保て、業務の効率化を目指せるような環境の整備は必須です。
また、セキュリティ対策も欠かせません。不正アクセスによる情報漏洩やデータの書き換えといったリスクを回避するために、セキュリティソフトの導入や情報セキュリティに関する社内規定の整備、情報セキュリティ教育の実施など、セキュリティ対策は万全にしておく必要があります。
3.指揮命令や管理に関するルールの整備や業務フローの見直し
在宅勤務に切り替わってからも業務が円滑に進むよう、指揮命令や勤怠管理などの新たなルールづくり、業務フローの見直しなども必要になってきます。上記2に共通する部分もありますが、特に気をつけたいポイントを以下に記します。
・テレワーク化出来る業務範囲の洗い出しや、紙資料の取り扱い、FAXの送受信、外線電話の応対など、オフィスではルーチンワークである業務についてのフローの見直し。ペーパーレス化する、電子印鑑に切り替えるといった解決策が考えられます。
・コミュニケーションツールを活用し、いわゆるホウレンソウ(報告・連絡・相談)の頻度を増やせるような工夫。
・ITツールを用いて遠隔でも行える勤怠管理の仕組みの整備。
4. 意外に柔軟に導入できる在宅派遣
もともと「働き方改革」の一環として政府主導で推進されてきたテレワークが、コロナ禍を契機に加速度的な広がりを見せています。ただ、スムーズに導入が進んでいる企業がある一方で、なかなか導入に踏み切れない企業もあります。セキュリティの問題や生産性の低下の懸念など、企業によって事情や課題は異なるからです。
人材派遣を利用している企業にとっては、派遣社員の扱いにも苦慮するところでしょう。しかし、厚生労働省の見解を知れば、意外にも派遣社員の在宅勤務は柔軟に対処できることが分かります。さらに、導入する際の注意点やメリットなど幅広い角度から見つめてみることで、自社にとって最善の方針が定まってくるはずです。