タリスマンの転職コンサルタントが執筆する、転職お役立ちコラム。今回は「カウンターオファー」についてのお話をします。
カウンターオファーとは?
転職先が決まり、現職に退職の意向を伝える際、現職企業側から引き止めの為の条件を提示されることがありますが、これをカウンターオファーと呼んでいます。例えば年収を上乗せしてきたり、希望部署への異動、待遇改善を提案されるなど、提示される条件は様々です。
企業側はなぜカウンターオファーを出すのか?
カウンターオファーを出す多くの理由は、企業として「残ってほしい」という意向もある一方で、「今辞められては困る」という本音もあります。
一般的に健全な組織であれば、誰かが辞めてしまうと仕事が成り立たなくなってしまう、ということはありませんが、今すぐ辞められてしまうと困る企業はあります。いわゆる後釜を育てたり、新たに求人を出して人材を採用し、戦力として動けるようになるまでは、それなりの時間がかかります。
カウンターオファーを受けたある求職者様のケース
以前私が担当したエンジニア(以下A様)は、現職の待遇に満足できず転職活動を開始し、数か月後見事内定を勝ち取り、年収120万円アップのオファーを受け取りました。そこで現職企業に退職を申し出たところ、カウンターオファーが来ました。カウンターオファーの内容はこうでした。
「実は半年後の人事評価でエンジニアリーダーに昇格することを検討していて、その際に昇給したら年収ベースで約100万円上がります。だから今辞めたら損ですよ」と。
確かに120万円アップには届きませんが、環境を変えることなく今の仕事でそこまで年収が上がるとなれば、非常に悩ましいですよね・・・もし金額だけが理由なら私も思い留まる条件です。
A様も同じ考えで、半年後の人事評価での昇格を期待し、現職に留まる決意をされ、内定先には辞退の連絡を入れました。
半年後、突然の退職
そのようにして現職に留まられて、半年ほど経ったある日、私のところにA様から電話がかかってきました。
「お久しぶりです。実はこの度現職を退職することになりましたので、以前内定が出ていた企業にもう一度連絡を取っていただけないでしょうか?」と。
私はびっくりして何があったのかお伺いしたところ、半年後にリーダーになることはなく現状維持のまま条件は変わりませんでした。その事で人事に詰め寄ったところ「昇格することは検討しているとは言いましたが確実とは言っていません」と言われ、その後、別のリーダーを中途で採用したので、もうリーダー職は埋まったとの事。
しかも最後は『Aさんは前に退職したいと言ってたじゃないですか? 納得できないなら別にうちじゃなくてもいいですよ』と言われその場で退職すると言ってしまったようです。
以前内定が出ていた企業様への事情説明
A様が以前内定を頂いていた企業に連絡をし、今までの経緯をすべて説明しました。そのうえで、もう一度辞退したポジションにチャレンジできないか確認をしたところ、「内定の出ていたポジションはすでにクローズをしてしまい、今は地方のエンジニアしか募集がなく、しかも年収は以前のような条件は出せない」と言うことでした。
しかしすでに現職も退職していることから、地方のエンジニアポジションをお受けすることになりました。年収こそ上がったものの、その上げ幅は約50万円でした。
出発の前日にお話ししましたが、まずは一度辞退したにも関わらずA様を受け入れてくれた企業への感謝の言葉と「あの時カウンターオファーを受けずに早く転職しておけばよかった」とおっしゃっていたのが忘れられません。
カウンターオファーを受けて残留しても多くが再度転職を検討
以前カウンターオファーを受けた方が転職活動を再開された割合のデータを取った際、半年以内は60%で1年以内は80%と言う数字が出て驚いたことがあります。
今回のご紹介したA様のようなケースは極端ですが、企業側としても一度辞めようとした人間のことは忘れませんし、辞められた時の為にバックアップを用意するのは当然の流れです。そのバックアップの人に押し出されるように退職される方も目立ちました。
企業としても毎回辞めると言う度に待遇を良くしていたら、まじめに働いている社員にも影響が出かねません。「今辞められては困るが、その方が最後まで得をし続ける組織というのも健全ではない」という企業側の理由も垣間見えた気がしました。
それでは次回も宜しくお願い申し上げます。
この記事を執筆した転職コンサルタント
- Akihiro Sakamoto
専門商社での営業、半導体部品メーカーの営業を経て外資系人材紹介会社に転職。同社製造業界部門の関西の立ち上げメンバーとして前職の経験とコネクションを活かし半導体業界、産業機器業界でのコンサルティング活動に従事。 2018年にはAsia Top Biller for Manufacturing & Operations 2018を獲得しアジア圏NO1の成約実績を達成、その後2019年よりTalisman Corporationに移籍。
現在は、コンサルタント業務以外に社内トレーナーをはじめ企業のHRに対する中途採用アドバイザーやLinkedInでの執筆活動を行っており、人材業界を多方面より経験したノウハウを惜しみなく伝える為、Talismanのコーポレートサイトにてコラムの掲載をスタート。