人材派遣を活用するなら知っておくべき基本知識と注意点とは
企業経営の効率化や人材不足への対応のために、人材派遣サービスの活用を考える企業は少なくありません。人材派遣サービスは、人材確保に要する工数をショートカットし、その時のニーズに合う人材を必要な人数だけ確保できます。
企業側にとって人材派遣サービスは得るところが大きく、活用する企業も増えているのが現状です。そんな人材派遣を企業が初めて活用する際に、必要な基本知識や注意点があります。
今回の記事では、企業の人事担当者のみなさんに向けて、人材派遣を活用するなら知っておくべき基本知識と注意点についてわかりやすく解説しましょう。
そもそも人材派遣とは
人材派遣とはそもそもどういうものかを、まず確認しておきましょう。
派遣の任務に就く人材は、人材派遣会社と雇用契約を結びます。人材派遣会社は企業から人材派遣の依頼を受け、その企業が求める人材を登録人材の中から選んで派遣します。
派遣された人材は派遣社員として、正社員と同様に与えられた業務を担当します。派遣社員は派遣先企業にて業務に関する指示を受けますが、賃金の支払いや社会保険、福利厚生などに関する事務を担当するのは人材派遣会社です。
このように、人材派遣会社を介して派遣社員を雇用する形態は「間接雇用」です。これと区別して、人材が就業先の企業と直接雇用契約を結ぶ形態は「直接雇用」と呼ばれます。
ちなみに、直接雇用には正社員以外にも契約社員やアルバイト、パートタイマーなどの種類があります。基本的に正社員であれば契約に期間の定めがない上、フルタイム勤務になるケースがほとんどです。
契約社員は期間定めがあって、満了するごとに契約を更新していくタイプの就業形態です。
ここからは間接雇用である人材派遣の種類について、詳しく見ていきましょう。
人材派遣の種類
現在の人材派遣は大きく分けて、一般派遣と紹介予定派遣があります。それぞれを詳しく見ていきましょう。
一般派遣
一般派遣は人材派遣事業の基本型で、遣社員はあらかじめ受入期間が決められています。相性が良くて契約を更新する場合も、その期間には制約があるのです。
労働者派遣法の2015年の改正では、同一の派遣先で派遣社員が働ける上限は、60歳以上の高齢者や特定の業務を除いて3年と明確に定められています。
紹介予定派遣
紹介予定派遣は、前提として派遣期間を終えた時点で、派遣社員を正社員や契約社員として直接雇用することを想定した派遣受入です。派遣期間は最長で6ヶ月、一般的に3〜6ヶ月であることが多いです。
その後に派遣社員と受入企業の双方の合意のもとで、直接の雇用契約に切り替えます。また、紹介予定派遣によって後にその人材を直接雇用した場合、受入企業は紹介手数料を派遣会社に支払います。
とはいえ、あくまでも派遣社員と受入企業の双方の合意が必要なので、受入側も社員側もそれぞれ拒む権利はあるのです。
また、一般派遣では派遣期間中に直接の雇用契約を結ぶことは禁じられていますが、紹介予定派遣ではそれが可能です。派遣期間内でも、受入企業と派遣社員の双方の合意があれば認められます。
その場合も、受入企業は派遣会社に紹介手数料を支払わなければなりません。
このように、一般派遣と紹介予定派遣はさまざまな点で異なります。
派遣が禁止されている職種
人材派遣がそもそも禁止されている職種、業務というものがあります。これらの派遣できない業務(適用除外業務)と呼ばれる例外規定についても、詳細に労働者派遣法で設定されています。
派遣社員の受け入れを検討する企業の担当者の方は、受入にあたってあらかじめ押さえておきたい情報です。
具体的に禁止されているのは、以下の5つの領域に該当するものです。
- 警備業務(駐車場の警備やスーパーの警備、ボディーガードなどの業務)
- 医療業務(医師や看護師、薬剤師、保健師などの医療従事者)
- 士業(弁護士や司法書士、土地家屋調査士、建築士事務所の管理建築士など)
- 港湾運送業務
- 建築業務
上記に該当するものを派遣で受け入れた場合には、派遣会社は処罰される可能性があります。受入側の企業は、後述する「労働契約申込みみなし制度」の対応が必要になる可能性があります。
ただし、例えば建設業であってもCADオペレーターや事務員などの直接現場の業務に関わるもの以外であれば派遣は可能です。また、看護師に関しても紹介予定派遣や、看護師の産休による欠員の補充であれば認められています。
人材派遣を活用する際の重要なルール
さて、人材派遣サービスを企業が活用する際に、いくつか重要なルールがあります。詳しく見ていきましょう。
直接雇用していた人材の派遣受け入れについて
まず、過去にその企業が直接雇用をしていた人材は、その際の雇用形態(正社員・契約社員・パート・アルバイトなど)を問わず、離職日から1年以内は派遣社員として受け入れることはできません。例外は、60歳以上で定年退職した社員の場合です。
派遣社員の受入にあたっては、派遣元によって雇用保険法・健康保険法の遵守が適切になされているかも確認しておく必要があります。
労働者派遣法によって派遣管理台帳の作成義務が定められており、派遣社員ごとに個別に作成しなければなりません。法定記載事項を抜け漏れなく記載し、派遣の契約が終わった後も3年間は保管することが義務づけられています。
期間制限について
派遣社員には期間制限が設けられており、事業所単位と個人単位があります。同じ受入企業の中の同じ部署で、3年以上働くことは不可能です。
例えば、生産管理部門で3年働いた派遣社員が、経理部門に異動することは問題ありません。また、同じ部署でも3年働いた派遣社員と別の人材を、同じ派遣会社から次の3年に向けて受け入れることも可能です。
以下のようなケースは、期間制限ルールの対象外です。
- 派遣社員が60歳以上である
- 派遣社員が派遣元の人材派遣会社で無期雇用されている
- 派遣社員が産前産後休業、育児休業・介護休業などを取得する
- 派遣社員が有期プロジェクト業務に従事している
- 派遣社員が日数限定業務に従事している(1ヶ月間の業務日数が通常の社員に比べて少ない、例えば月10日以下の場合など)
特定目的行為(事前面接)の禁止について
人材派遣の場合、受入企業は基本的に派遣社員を指名できません。
一般的な雇用の場合は、採用前に応募者の書類を審査して、面接で「人となり」を見極めたりお互いの希望条件を確認したりするのは当たり前です。ところが、派遣の受入企業は事前の書類選考や面接は禁じられています。
手元に派遣社員の履歴書を所持することもできません。これは人材派遣という業務形態が、その個人の雇用ではなく純粋な労働力としての雇用を目的とするためです。ただし、このルールは一般派遣の場合であって、紹介予定派遣についてはこのかぎりではありません。
また、一般派遣においても、相手のことをまったく知らない状態で受け入れるのはミスマッチのリスクがあります。
そのため、心配な場合に面接に代えて工場見学などの名目にて、面談形式で顔合わせを行うことは問題ありません。また、履歴書に代えて人材派遣会社が用意したスキルシートを受け取ることも可能です。
労働契約申込みみなし制度について
労働契約申込みみなし制度とは、受入企業がその派遣が違法派遣であると知りながら派遣社員を受け入れている場合に、受入企業が派遣社員に直接の労働契約を申し入れたものとみなす制度です。
契約の実体がなくても無条件で自動的に、受入企業が派遣社員に対して労働契約の申し入れを行ったと解釈されます。そして受入企業は人材派遣会社が派遣社員と交わしている労働契約と同じ条件で雇用する義務を負います。
労働契約申込みみなし制度が適用される派遣の主な種類は、以下のとおりです。
- 無許可の派遣元から派遣社員を受け入れた場合
- 期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合
- 労働者派遣の禁止業務に該当する業務に就かせた場合
- 偽装請負の場合
※偽装請負とは形式上は請負契約で、実態としては派遣契約である違法行為です。請負契約での指揮権は派遣元にあり、派遣契約での指揮権は派遣先にあります。よって請負契約なのに派遣先に指揮権がある場合は違法です。
以上のような違法派遣であることを受入企業が知らず、知らなかったことに過失がない場合、この制度の適用外となります。
しかしトラブルに発展するリスクを避けるためにも、実績があって信頼できる人材派遣会社と契約することが大切です。
企業が人材派遣を活用するメリット&デメリット
受入企業が人材派遣サービスを活用するのは、メリットがあるからです。ただし、デメリットも存在します。
ここではその両方を詳しく見ていきましょう。
人材派遣を活用するメリット
企業が人材派遣サービスを活用するメリットで主だった項目は、さまざまなコスト削減効果とスキルがある即戦力を確保できることです。
派遣社員は基本的に有期雇用が前提なので、企業が短期的な人手不足に対応したい場合に最適です。直接雇用と違って契約期間を限定できるので、人件費を必要最低限に抑えられます。
また、社会保険や給与に関する労務については人材派遣会社が責任を負うのが前提です。受入企業はそれらの労力もコストも必要ありません。そのため、直接雇うよりも足りない部分を埋めるように派遣を利用するほうが、労務コストも抑えられます。
さらに、派遣会社の研修や実務経験でスキルを習得している人材であれば、受入企業としては教育コストも必要ありません。
最後に、専門性が高い分野のプロジェクトで、高度なスキルを持つ人材が必要なケースがあります。そんな場合に自社で採用するよりも、目的に叶うスキルを持つ即戦力の人材を派遣社員に依頼する方が、スムーズに人材確保が可能です。
人材派遣を活用するデメリット
企業が人材派遣サービスを活用するデメリットの主だった項目は、雇用継続に限界があることや時給設定の問題、派遣社員の自社へのロイヤルティが薄いことなどです。
有期雇用はメリットにもつながる要素ですが、ずっといてほしい人材が現れても、最長3年までの縛りがあり、それ以上の継続雇用ができません。
また、一般的な事務業務や簡単な業務であれば平均的な時給設定で問題ありません。しかし専門性が高いスキルを持った人材は時給も高額となります。
他にも、派遣社員は募集エリアに応じて時給の変動もあり、同じエリアの他の企業と時給の足並みを揃えなければ、必要なタイミングで人材を確保できないケースがあります。
これは、派遣人材の賃金決定法のうち「労使協定方式」が採用されている場合です。
労使協定方式とは人材派遣会社が自社の過半数の労働組合員との協定にもとづき、派遣社員の賃金などを決める方式です。
その場合に同一エリア内の正規雇用労働者と同様の環境で業務に従事する派遣社員の賃金は、正規雇用労働者と同等ないしはそれ以上になっていなければなりません。
ちなみに、もうひとつの賃金決定法である「派遣先均等・均衡方式」は派遣先の正規雇用労働者と格差が出ないように賃金を決める方式です。
つまり、前者はかならずしも正社員と同等の賃金で雇う必要はないものの、同一エリアと足並みを揃える必要があるので、どちらが派遣先にとって都合が良いかはケースバイケースです。
さらには、派遣社員は必ずしもその企業に愛着があって志望しているわけではありません。業務内容や条件、スキルで派遣先を選ぶことが多いため、正社員よりも帰属意識や愛着が薄くなるのは否めません。
正規雇用の社員との温度差が著しいと、早期離職にもつながりやすいというデメリットがあります。
派遣社員を受け入れる際の注意点
企業が派遣社員を受け入れるに際して、いくつか注意すべき点があります。受け入れ準備と受け入れ初日、受け入れ後に分けて注意点を解説していきましょう。
派遣社員の受け入れ準備
派遣社員に伸び伸びと活躍してもらうためには、受け入れの準備が大切です。人材派遣を企業が受け入れる際の、具体的な準備項目やポイントを確認していきましょう。
業務で使う備品など準備だけでなく、速やかに良好な人間関係を構築できるように配属部署内での指揮系統を整理し、労働環境を整えておかなければなりません。
受け入れる初日までに済ませておくべき、具体的な準備を確認しておきます。
社内に周知する
人材派遣を受け入れることおよびその目的を、社内に周知します。
派遣社員が初めて出社した時点で、情報が全社にちゃんと伝わっていなければ、派遣社員は不安を感じ、既存社員は不信感を抱きかねません。
派遣された人材が所属することになる部署のメンバーには、その人材が担当する業務内容やその範囲、勤務日時やシフト、契約期間といった基本情報を伝えておきましょう。
また、同様の情報を関連部署にも通知しておくほうが賢明です。
指揮系統を明確にする
派遣社員が何かしら不安や疑問を持った際に、いつでもコンタクトを取りやすいように、業務、契約、苦情などのそれぞれの窓口となる責任者を決めておく必要があります。
これら指揮命令者や派遣先責任者、苦情窓口担当者については、契約書に記載しなければならない項目です。
任命された責任者は各自、前もって派遣契約に関する資料を精読し、自分の役割を深く理解しておく必要があります。
業務に関係する備品を準備する
自社に速やかに馴染んで業務に就けるように、業務に関係してくる備品などを準備します。入館証や身分証、業務用の機器、デスク、事務用品、マニュアルなど、チェックリストを作成して抜け漏れがないようにしましょう。
前任者からの引き継ぎ資料や、PC業務に必要なネットワーク権限なども忘れてはいけません。
派遣社員の受け入れ初日の案内
派遣社員の受け入れ初日の案内は、派遣される人材にとって非常に大切です。過去の経験の程度に関わらず、勤務初日というものは誰しも緊張感と期待と不安を併せ持った状態でしょう。
職場の第一印象は、その後の派遣社員のパフォーマンスレベルや定着の仕方にも反映することがあるので、重要なポイントです。
受け入れの担当者は、派遣社員をしっかりと案内できるよう、手順書などを事前に用意しておくと良いでしょう。
以下のような項目を、手順書に書いて整理しておくのが賢明です。
【関係者への紹介】
業務上の関係者である派遣先責任者や指揮命令者、そして所属部署のメンバーなどに派遣社員を紹介します。
【社内設備、各フロアの案内】
それぞれのフロアの概要や、非常口、非常扉、非常階段、立ち入り禁止区域を確実に伝えます。
【設備の使用方法および使用ルール】
社内電話やFAX、コピー機、プリンタなどの設備の使用方法やルールを説明します。
【備品の保管場所および利用ルール】
事務用品やコピー用紙などの備品類の保管場所や利用時のルールを説明します。
【社内ルール】
出退勤のルール、社員食堂、ロッカールーム、給湯室、休憩室などの利用について説明します。
また、取引先関係や機密情報の取り扱いに関するルールは特に重要です。誓約書などの必要があれば、あらかじめ署名の必要があることを派遣会社に前もって伝えておきましょう。
【業務の説明】
部署内の業務の流れや会社全体の流れ、受け持つ業務内容とその役割を説明します。派遣社員に安心して、仕事に向き合ってもらうために必要です。
業務ごとに質問がある際の質問する窓口や質問方法について、確認しておくのが良いでしょう。派遣社員が社内に早く馴染めるように、組織図や座席表などを配布するのも一案です。
派遣社員の受け入れ後のフォロー
派遣社員にスキルを活かして活躍してもらうためには、一緒に働く正規社員たちとの円滑なコミュニケーションが重要です。
派遣社員の受け入れが完了したら、受け入れ企業はその人材が職場との良好な関係性を築けるようにフォローしなくてはなりません。
受け入れ担当者は、所属部署の責任者と連携を取って、派遣社員にとって働きやすい環境を常に配慮しましょう。社内への適応状況も常にチェックし、業務習得の進展などを確認しつつ、相談しやすい雰囲気を作り出すことが大切です。
事前に明確にされている指揮系統が、実際の業務にあっても適切に機能し、派遣社員がスムーズに指示を受けられているかも確認が必要です。
また、必須事項として業務範囲と契約内容の一致の確認作業があります。契約書から逸脱しているような働き方になっていないか、派遣社員から定期的にヒアリングを実施しましょう。
ほかにも、派遣契約期間の長さにもよりますが、求める業務を適切に遂行してもらうための知識獲得やスキル向上の支援を適宜実施していくことも有益なフォローです。
まとめ
人材派遣会社から派遣社員を受け入れる際には、さまざまな注意点があります。受け入れ前に準備すること、受け入れ当日に行うべきこと、受け入れ後に配慮すべきことなどをわかりやすく解説しました。
人材派遣の活用にはデメリットもありますが、多くの場合にメリットのほうが大きいです。経営効率や人材不足で悩んでいる企業の人事担当者のみなさんは人材派遣を、受け入れの注意点を認識しつつ活用し、企業の生産性を向上させましょう。
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