人材派遣を検討するなら読もう!派遣法における派遣禁止業務とは
人材派遣は、企業にとって必要なタイミングで必要な人材を確保できる、様々な面で効率的な利用価値が高いサービスです。人材不足や働き方改革の影響もあって、活用する企業が増えています。
しかしどんな業務でも派遣を活用できるわけではなく、禁じられている業務もあります。サービスを活用する際には、それを理解して検討しておかないと人事プランに支障をきたしかねません。
今回の記事では人事担当者のみなさんに向けて、人材派遣における禁止業務の種類とその理由を、派遣に関するその他の禁止事項も含めてわかりやすく紹介します。
派遣法の意義と2021年の改正について
労働者派遣法とは、どういう意義をもたされた法律なのかについて、まず解説しましょう。
労働者派遣法は、派遣労働者の権利を守るために制定された法律です。正規雇用の社員よりも低い人件費で雇える派遣社員は、多くの企業から重宝されてきました。
そのため、派遣という働き方は日本で一般化しています。しかし派遣社員にとって働ける期間や賃金は、受ける仕事ごとに変化するので、収入が不安定ならざるを得ません。
その上、正社員と比べて軽んじられることも多く、待遇の格差や劣悪な環境での労働を強いられるようなケースもありました。そういった不当待遇の犠牲者になることから派遣社員を守るために、労働者派遣法が制定されたのです。
派遣法は2020年4月の改正の際には働き方改革に沿った、「同一労働同一賃金」の考え方が法制化されました。つまり、一般社員と派遣労働者の間の不合理な待遇格差を是正して、誰もが自由で多様な働き方を選択できるようにするためです。
続く2021年1月の改正は、派遣元の人材派遣会社や派遣先の受入企業が持たされていた義務をさらに強めるものでした。変更点は以下の4つです。
●派遣労働者の苦情処理義務を強化
●日雇派遣契約解除の際の休業手当支払を厳格化
●派遣契約の電子契約締結を認可
●派遣社員への説明義務を強化
2021年4月の改正は、派遣社員に対する公平性や雇用の安定、働きやすさへの配慮を強調した内容となっています。主な変更点は以下の2点です。
●マージン率等のインターネットでの情報開示を義務化
●雇用安定措置に関する派遣社員の希望の聴取を義務化
これらの2021年の2回にわたる法改正を経て、派遣先である受入企業が対応を検討すべき2つの課題がクローズアップされました。
それは以下の2点です。
●電子契約の導入
●苦情処理体制の整備
電子契約の導入は、まだ導入していない企業にとっては実務的な手間が軽減されるメリットが大きく、他の業務分野にも役立つ検討課題と言えるでしょう。
苦情処理体制の整備は、派遣社員ができるだけ働きやすい環境を整備するため、派遣先の受入企業と派遣元の人材派遣会社が従来以上に連携を緊密にしながら、真摯に取り組むことが求められています。
労働者派遣法の改正と派遣先の受入企業の課題については、以下の記事で特集して取り上げていますので、必ずご覧ください。
https://talisman-corporation.com/ja/dp_hakenhou2021/
派遣法が定める派遣禁止業務とその理由
労働者派遣法が施行された当初においては、人材派遣を行えるのは13種類の専門的な業務に限定されていました。
しかしその後の改正で徐々に増えていき、16種類、26種類と範囲が広がっていくにつれ、必ずしも他の業務と比較して専門的でなくなっています。。
そのため1999年の法改正において、それまでの派遣を認める業務を限定していたやり方をやめて原則的に自由化しました。その上で、禁じるものを指定する方式となったのです。
派遣禁止業務(適用除外業務)の種類は以下のとおりです。
●港湾運送業務
●建設業務
●警備業務
●医療機関における医療関連業務
●士業の業務
それぞれの詳細と、禁止される理由について見ていきましょう。
港湾運送業務
労働者派遣の適用除外となる業務は、6大港湾(東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・関門)と指定港湾での貨物の積荷に関連する業務です。
具体的に該当するのは、船舶への積み込みや荷下ろし、港湾内にある倉庫での仕分け、荷づくり、荷ほどき、固定、移動、梱包、鑑定、計量、トラックの積み下ろしや清掃などです。
人力による業務とフォークリフトなどの機械による業務とを問わず、すべて労働者派遣の適用除外とされています。
ただし、あくまで港湾の現場に直接関わるものが対象であり、港湾業の中での事務業務などは派遣の対象として認められています。
派遣禁止の理由
上記のような港湾関連の業務は、そもそも繁忙期と閑散期のギャップが大きい特徴があります。また、中間搾取による低賃金労働が以前から問題視されていました。
そこで、港湾労働の実態と現場労働者の実情を踏まえて、雇用の安定を図るための労働力需給調整を目的とした「港湾労働者派遣制度」が設けられています。そのため、派遣法では禁じられているのです。
建設業務
労働者派遣の適用除外となる業務は、建設土木工事現場での作業を担当する職人あるいは技能職などの業務です。
具体的には、建築・建設現場での資材の搬送や組立て、建材の加工、コンクリートの合成、壁・床・天井などの塗装、配管や配電、機器の設置、建具の固定や撤去、建築物の解体、清掃などの業務が該当します。
また、大型仮設舞台や大型仮設テント、仮設住宅の組立てなども該当項目です。その他、工事現場に出入りする車両の誘導や管理なども適用除外になります。
ただし、現場に直接関わらないCADオペレーターや施工管理業務は認められています。
派遣禁止の理由
建設業の現場業務において派遣が禁じられているのは、建設業界の構造に端を発します。
建設業界においては一般的に元請の建設会社が、工事の段階ごとに一次下請の専門工事会社に委託します。そこからさらに二次下請、三次下請と降りていく多重下請構造が常態化しているのです。
一方、派遣という形態では直接の雇用主である派遣元の人材派遣会社とは別の、派遣先企業の指揮命令下で派遣社員が働くことになります。
しかし多重構造により複数の企業が介在する建設現場では、指揮命令系統が複雑で責任の所在が曖昧になってしまい、トラブルや労働災害が起きるリスクが懸念されます。それを未然に防ぐという観点から、禁じられているのです。
また、建設現場の実態と労働者の実情に即した労働力需給調整を目的とした「建設業務労働者就業機会確保事業制度」が設けられていることも、建設現場への派遣が適用除外となっている理由のひとつです。
警備業務
労働者派遣の適用除外となる業務は、住宅や駐車場、オフィス、イベント会場、遊園地といった施設での事故の発生を防ぐために警備や監視を行う業務です。
また、本来は認められる販売や受付、駐車場管理などの業務のための派遣も、注意が必要となります。業務内容によっては警備業務とみなされる可能性があ るためです。
たとえば不審者に声をかけたり、混雑時にお客さんを整列させたり、車両の出入りを誘導するなどの行為を繰り返し行うことがそれにあたります。
派遣禁止の理由
警備業は警備業法に法って任に就くことが、法的に定められています。労働者派遣を認めると別の法律が絡んできて、警備業法にもとづいて業務を適切に遂行することが困難なるため禁じられているのです。
また、警備という業務の性質上、人命に関わる事態が発生する可能性があり、労働者の安全面でも問題があります。
さらに、警備会社が直接雇用している人材以外の労働者が警備を担当することに対し、依頼者から見た信頼性という問題もあるのです。そういう面からも、警備業務は労働者派遣には適切ではないとされています。
医療機関における医療関連業務
労働者派遣の適用除外となる業務は、以下のとおりです。
医師/歯科医師/歯科技工士/歯科衛生士/看護師/准看護師/薬剤師/助産師/救急救命士/臨床検査技師/診療放射線技師/理学療法士/言語聴覚士/作業療法士/視能訓練士/臨床工学技士/保健師/義肢装具士/栄養士
介護老人保健施設や助産所などでは、薬剤師などの一部の業務の派遣は認められています。
派遣禁止の理由
医療行為は医師を中心にスペシャリストがチームを形成して遂行するものです。適切な医療を提供するためには、チームメンバー間のコミュニケーションが不可欠となります。派遣元が人選を行う派遣ではリスクがあるので、禁じられています。
士業の業務
労働者派遣の適用除外となる業務は、以下のとおりです。
弁護士/公認会計士/税理士/外国法事務弁護士/行政書士/司法書士/社会保険労務士/弁理士/土地家屋調査士
派遣禁止の理由
これらの士業の業務は、資格を持つ個人が業務の委託を受けて行うもので、性質上雇用主の指揮命令を受けて行うものではありません。そのためそもそも対象とはならず、適用除外です。
他にも建築士法によって専任であることを義務づけられている、建築士事務所の管理建築士などの業務は、派遣の対象にはなりません。
また人事労務管理関係の中で、派遣先企業での団体交渉や労働基準法に規定する協定締結なども、業種にかかわらず労働者派遣の適用を除外されています。
業務以外で禁止されていること
次に業務の種類以外で、禁じられていることがいくつかあります。それは日雇派遣、離職後1年以内の元社員の受け入れ、二重派遣、事前選考などです。個別に説明しましょう。
日雇派遣禁止
2012年10月1日に改正された労働者派遣法で、日雇派遣は原則的に禁止されています。日雇派遣とは一部の例外を除いた、日雇いもしくは30日以内の短期間の労働者派遣のことです。
禁止に至った理由として、短期ゆえに派遣元と派遣先の双方が雇用の管理責任を果たせず、労働災害がたびたび発生したことなどが挙げられます。日雇派遣を禁止することは、派遣社員の安全を守る意味と雇用の安定化を図る目的があるのです。
ただし要件を満たせば、日雇もしくは短期間の派遣が認められています。「人」の要件と「業務」の要件があり、それぞれ以下のとおりです。
日雇派遣に就ける労働者
・雇用保険の適用外である学生
・60歳以上の人
・主たる生計者以外の人(世帯年収が500万円以上)
・副業で従事する人(生業年収が500万円以上)
日雇派遣が認められる業務
財務処理/取引文書作成/受付や案内/添乗/倉庫作業/通訳や翻訳/秘書や速記/ソフトウェア開発/OAインストラクション/機械設計/研究開発/リサーチ/デモンストレーション/事務用機器操作/ファイリング/店頭販売/イベントのアシスタントや案内係/金融商品の営業/セールスエンジニアの営業/書籍の制作/編集/広告デザイン/事業の企画や立案
離職後1年以内の元社員の受け入れ
離職後1年以内の元社員を派遣として受け入れることは、元々の雇用形態に関係なく認められません。これは派遣社員になることで、労働条件が下げられてしまうことを回避するためです。
派遣社員自身が希望したとしても、決して認められません。また、この項目は法人単位での禁止なので、同じ企業の別の支社や営業所への派遣も認められないのです。ただし、60歳以上の定年退職者はこの限りではありません。
二重派遣
二重派遣とは、人材派遣会社から派遣された派遣社員を、派遣先の受入企業が別の企業に対して労働力として提供することを意味します。
まず、仲介が増えることで派遣社員の賃金が搾取されて、安くなるおそれがあります。また、人材派遣会社と派遣社員の間で締結されている雇用契約と、実際の就業状況にギャップが発生し、適切な雇用管理が難しくなりかねません。
そういった理由から、二重派遣は禁じられているのです。そして、二重派遣という違法行為には、職業安定法の労働者供給事業の禁止規定違反に問われます。厚生労働大臣から認可された派遣事業者以外が派遣業務を行うと、その事業主は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
また、労働基準法の中間搾取の禁止違反に問われます。他社に仲介して不正に派遣料金の一部を得ることで、俗に言うピンはねのことです。この行為を行った事業主は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
事前選考(一般派遣の場合)
人材派遣は基本的に、派遣先の受入企業が派遣の任に就く人材を指定できません。これは派遣事業が、人そのものではなく純粋に「労働力の提供」を意図しているからです。
そのため、受入企業が派遣社員の事前の書類選考や面接試験を行うことは禁じられています。派遣先が履歴書を所持することもできません。
しかし、まったくの未知の人材を受け入れるのが受入企業として不安な場合もあり、ミスマッチが起こるリスクも存在します。
そのため、職場見学や顔合わせという名目にて、選考要素のない面談を行うことや、履歴書の代わりに派遣元の人材派遣会社が用意したスキルシートを所持することは認められています。
また、以上はあくまで一般派遣に関してのルールであり、いずれ直接雇用することを前提とした紹介予定派遣はこの限りではありません。
偽装請負
偽装請負とは、名目上は請負契約で人材を受け入れて、実質的には派遣契約のように派遣社員を扱う、違法行為です。
請負契約は派遣元に指揮命令権がある契約形態なので、派遣契約のように受入企業の指揮命令下で働かせるのは違法行為となります。
派遣元が禁止業務に派遣した際のペナルティ
人材派遣会社が派遣禁止業務に労働者派遣を行った場合に適用される罰則は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
なお、派遣先が禁止業務に従事させた場合でも、派遣元がペナルティとして労働者派遣の停止命令を受けます。
もちろん受入企業に対しても、次に述べる必要な措置を取るように勧告がなされ、それに従わなければ企業名が公表されるのです。
違法と知って受け入れた派遣先の措置
派遣先の受入企業が、その人材派遣が違法であると知りながら派遣社員を受け入れているケースがあります。その場合は、受入企業がその人材と直接に労働契約を申し入れたものとみなす措置が取られます。
これは「労働契約申込みみなし制度」と呼ばれる対応です。実際に契約の手続きをするかどうかに関わらず、自動的かつ無条件に受入企業が派遣社員に労働契約を申し入れたという解釈になります。
そして受入企業は、その派遣社員が人材派遣会社と結んでいる労働契約と同等の待遇で雇用する義務が生じます。
この制度が適用される違法派遣の種類は、主に以下のとおりです。
・労働者派遣の禁止業務に該当する業務に就かせた場合
・期間制限に違反して派遣社員を受け入れた場合
・無許可の派遣元から派遣社員を受け入れた場合
・偽装請負の場合
受入企業が以上のような違法派遣であることを知らず、また知らなかったことに過失がない場合に限り、この制度の適用外となります。
まとめ
派遣労働者の権利と生活、そして安全を守るための法律である派遣労働法においては、禁じられている業務があります。港湾運送や建設関連、あるいは警備関連、医療関連、士業などの分野です。その中でさらに、細かく内容が規定されています。
すべての項目においての禁止理由は、一貫して労働者を守るためです。また、業務以外でも日雇派遣や偽装請負などの禁止事項がいくつかあります。
人材派遣の活用を検討している人事担当者のみなさんは、実際の導入にあたって違法行為と知らず法律に抵触しないよう、適切な運用を心がけてください。