企業活動の中で、ある特定の業務領域に関して人材が不足して困ることもあるでしょう。そんな時、人材確保として「アウトソーシング」か「人材派遣」を思い浮かべる方もいるかもしれません。
アウトソーシングも人材派遣も、それぞれの特性があります。そのため企業で活用する場合は、自社の状況や業務内容によって使い分けることが望ましいです。
とはいえ、アウトソーシングと人材派遣はしばしば混同されることがあり、どちらを活用すべきか悩む人事担当者の方もいるのではないでしょうか。
今回の記事では、アウトソーシングと人材派遣の違いを明確にし、それぞれのメリットやデメリットと活用の際の使い分けの基準などをわかりやすく解説します。
アウトソーシングとはどんなサービス?
まず、アウトソーシングとはどのようなサービスなのかについて見ていきましょう。アウトソーシングはひと言でいえば、自社の業務の一部を、外部業者に委託する経営手法です。
外部の発注でコストの削減や業務の効率化、リソースの集中や人材不足への対応などを同時に実現できます。外部リソースを活用する方法としては、人材派遣や外注という手法があります。しかし、今アウトソーシングは現代企業が抱えている、多くの課題を解決するアプローチとして注目を集めています。
実際にアウトソーシングのジャンルは、この数年でもバックオフィスや営業、人事採用業務やシステム開発など、ありとあらゆる方面に拡大しています。
このようにアウトソーシングを活用すると、企業総体として生産性が向上するメリットがあります。
アウトソーシングの契約形態
アウトソーシングを外部企業に依頼する際に、企業間で業務委託契約を締結します。ただし、「業務委託契約」は法律用語ではありません。アウトソーシングの法律上の委託形態は、「請負契約」と「準委任契約」の2つがあります。
請負契約は作業のプロセスにかかわりなく、あくまでも成果物の提出に対して対価が発生する契約形態です。提出された成果物が依頼者の求めるクオリティとしての一定の水準を満たしていなければ、対価を支払う義務はありません。
また、成果物が不完全であるなら、依頼者は請負業者に対して補償や損害賠償の請求も可能です。
一方、準委任契約において受注者に求められるのは、基本的に業務の遂行です。成果物の提出の義務は負っていません。
受注者は発注者に命令されることもなく、自分の道具や設備を用いて決められた範囲の作業を行うことで対価が発生します。
例を挙げてみましょう。
事務系のアウトソーシングであれば、決められた時間内に事務作業をこなすことで、報酬が支払われる準委任契約が一般的です。
営業系のアウトソーシングであれば、営業活動で獲得できた顧客数や売上額などに対して報酬が支払われる請負契約が一般的となります。
このように請負契約と準委任契約では、「成果」か「業務の遂行」かという、異なる物差しで報酬が確定します。
アウトソーシングの業務領域
アウトソーシングを業務の領域で分けると、大きく以下の3種類にわかれます。
- ITO/ITアウトソーシング
- BPO/ビジネスプロセス・アウトソーシング
- NPO/ナレッジプロセス・アウトソーシング
アウトソーシング企業(以下アウトソーサー)は、包括的なアウトソーシングサービスを展開する企業もありますが、現状では企業ごとに得意な領域に特化していることが多いです。
これらアウトソーシングの3つの業務領域を、個別に見ていきましょう。
ITO/ITアウトソーシング
ITOは主としてITシステムの開発や運用、ITインフラの構築や設計、サーバーの管理、Webメディアの制作・運用代行などのIT関連のアウトソーシングです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が進行する中で、現在需要が加速度的に増えている、専門性が非常に高い部類のアウトソーシングと言えるでしょう。
BPO/ビジネスプロセス・アウトソーシング
BPOはコールセンターや営業代行、事務代行、人事業務や採用業務の代行、総務系などの特定の、専門性が高い業務部門のアウトソーシングです。
クライアント企業の業務のうち、得意ではない部門や人材が不足している部門の業務遂行、業務改善案の実行などを行います。
例えば、ヘルプデスクの電話問い合わせを応対する業務全般を、コールセンター業務に特化したアウトソーサーに任せるようなイメージで良いでしょう。煩雑な業務をアウトソーサーに任せることで、社員の時間と労力を重要な業務に集中できます。
NPO/ナレッジプロセス・アウトソーシング
NPOは知的業務を対象とするアウトソーシングです。主な業務は、マーケットリサーチやデータ収集および分析など、高度な専門スキルを要する業務領域になります。
そういった難易度が高い業務は、内製にて充分な成果を挙げることは難しいですよね。
ハイスキルを提供してくれる外部企業に任せることで、社内では得られなかった良好なパフォーマンスの成果を享受できます。そしてそのパフォーマンスが業績、そして収益に反映するなら、対価を支払う価値が充分にあるサービスと言えるでしょう。
アウトソーシングが浸透する背景
アウトソーシングを活用する企業が年々増えつつあり、その市場は拡大の一途を辿っています。矢野経済研究所は、国内のアウトソーシング市場をリサーチし、その動向を発表しています。
(参考:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2706)
同研究所では2019年度のアウトソーシング事業の市場規模は、前年度比3.3%増の約4.3兆円(事業者売上高ベース)と推計しています。
大きくはIT系と非IT系に分けられており、IT系アウトソーシングの市場規模が同4.0%増の約2/6兆円、非IT系アウトソーシングの市場規模が同2.2%増の約1.8兆円です。
なぜこれほどにアウトソーシングが浸透しているのか、その背景について触れておきましょう。
少子高齢化による労働人口の減少
まず、アウトソーシングの普及に一役買っているのが、少子高齢化による労働人口の減少です。
現在、国内企業の労働力不足が慢性化しています。中でも中小企業における人材不足はかなり深刻で、多くの中小企業において人材確保が重要課題となっています。
そんな背景のもとで人材不足の領域を外注で解決しながら、さらに業務効率やコストなどの改善によってトータルで生産性の向上を図る期待ができるのがアウトソーシングです。そのため、多くの中小企業に活用される機会が増えています。
市場ニーズの多様化
次に、市場のニーズが多様化していることも、アウトソーシングが普及する大きな要因です。
個人や社会、企業などあらゆる次元の価値観が変化し、市場のニーズはいまだかつてないほど多様化しています。もはや企業は単一あるいは少数の主力商品・サービスだけでは、充分な収益を上げることはできなくなりました。
成熟した市場で企業が業績を拡大するためには、国内においてはニッチな市場をいかに多く獲得するかにかかっています。それと同時に、国外に向けてグローバル市場を積極的に開拓しなければなりません。
このような経営の多角化を進めると、ある部門の赤字を他の部門の黒字で吸収できるリスク分散メリットもありますが、専門性が高い人材を多く確保しなければならない課題があります。
アウトソーシングの活用は、このような課題を解消しつつ市場ニーズの多様化に対応する有効な手段です。このように、少子高齢化や市場ニーズの多様化などの背景が、アウトソーシングの普及を後押ししています。
アウトソーシング市場の今後とCovid-19の影響
2020年は前半からCovid-19におけるパンデミックにより経済活動が一時的、ないし中期的にストップしました。このことは、アウトソーシング市場にもマイナス影響を与えています。
しかし、そのマイナスを上回る勢いで、DX(デジタル・トランスフォーメーション)や働き方改革の推進による業務の変革や効率化を目指す企業が増えています。
また、多くの企業がコロナ禍のもとでの非対面・非接触での業務環境を確保するためにリモートワークを導入し、業務の最適化を加速させています。そのため、業務のアウトソーシング化の機運が高まっているのです。
つまりパンデミックの影響は、アウトソーシング市場全体で見ると縮小よりむしろ拡大というプラスのほうに働いています。
2022年に向けて、アウトソーシング市場はさらなる拡大のステージに突入するでしょう。
企業がアウトソーシングを活用するメリットとデメリット
企業はアウトソーシングを活用することでメリットを享受できますが、デメリットも存在します。それぞれに目を向けてみましょう。
企業がアウトソーシングを活用するメリット
アウトソーシングを実際に活用して企業が得られる3つのメリットを、紹介しましょう。
メリットその1
まず、企業がアウトソーシングを活用すると、人事コストを削減できるメリットがあります。アウトソーシングの活用は、適切に行えばコストの削減につながります。
ここでいうコストとは費用のことだけではありません。スタッフの時間や労力を含めた経済価値全体を効率よく使えるという意味です。
従来であれば、人材が不足している部門や不得手な領域を充実させるために、企業は社員の教育に力を入れて専門性を身につけさせるか、即戦力となる有能な人材を高待遇によって確保する必要がありました。
そうなると、費用や時間がかなりかかります。アウトソーシングを活用すれば、必要な業務を必要な期間だけ任せるための対価のみで済みます。
また、コロナ禍も手伝って多くの企業がリモートワークを推し進め、オフィスの規模をダウンサイジングさせる動きも出ています。その流れの中でアウトソーシングを活用すれば、オフィスその他の設備は最小限に抑えることができます。
もちろん、経営者の中にはコストがかかると考えてアウトソーシングを活用しない方もいるかもしれません。しかし実際は、適切な活用によってコストを削減するメリットがあります。
メリットその2
次に、企業がアウトソーシングを活用することには、高い専門性が確保できるというメリットがあります。
アウトソーサーは基本的に、それぞれが特化した領域に関するスペシャリストです。豊富な経験とスキル、蓄積された高度なノウハウを提供できることを強みとしています。
業務遂行能力が信頼できるので、発注することで依頼企業のサービスや製品のクオリティ向上につながるでしょう。
また、企業が新規事業をまったくの一から立ち上げるケースでは、通常は有能な人材の確保や設備拡張などのプロセスが必要です。そういう場合でも、アウトソーシングを活用することで、人材確保や設備拡張などのプロセスを割愛できます。
はなから高品質のサービス・商品を安定して提供できるのがアウトソーシング活用のメリットです。
メリットその3
最後に、企業がアウトソーシングの活用によって享受できる最大のメリットとして、企業としての生産性を向上させることが可能です。
アウトソーシングの適切な活用によって、その企業の人材をはじめとした経営リソースを、一番強みを持っているコア業務に集中投下できます。
専門性が高くて重要な業務であって、なおかつ自社が苦手な領域を特定して切り出し、それを得意とするアウトソーサーに任せるというシンプルな構図です。
それによって、本業の儲けである営業利益が安定して、企業総体としての生産性のアップにつながるのです。
企業がアウトソーシングを活用するデメリット
次にアウトソーシングを活用するデメリットも、3つお伝えしましょう。
デメリットその1
まず、企業がアウトソーシングを活用しても、それがノウハウの蓄積にはならないというデメリットがあります。
企業がアウトソーシングを活用するということは、その領域の業務のクオリティはまず上がるでしょう。しかし、そのノウハウは自社のものではなく、社内にノウハウが蓄積されません。
ということは、何らかの事情でアウトソーサーがサービスの提供を継続できなくなった場合には社内にノウハウがないために、その業務に関する対応が一時的にできなくなるリスクがあります。
それを避けるためには社内でアウトソーサーとのバイプ役を決め、不測の事態に対応できるように、最低限のナレッジを共有できる体制を作っておきましょう。
デメリットその2
次に、企業がアウトソーシングを活用するとコーポレートガバナンス(企業統治)が弱くなるというデメリットがあります。
コーポレートガバナンスは健全な経営のための企業自身による管理体制を意味します。2000年代に大企業の不祥事が相次いだことから、一部の社員および外注先の独善的もしくは不正な行為や情報漏えいリスクを避けるために注目されはじめた概念です。
アウトソーシングで切り出した部分を丸ごと任せてしまうので、どのように業務が進められるかを把握することは困難になります。
そのため、どうしてもガバナンスが弱くなってしまう傾向は否めません。対策としてはオンラインコミュニケーションツールを使って、定期的に進行状況を共有してもらい、適宜確認するのが良いでしょう。
過度の確認はアウトソーサーに不快感を与えてしまうので、そうならないように配慮しながらほどよい連携をとって進めることが大切です。
デメリットその3
最後に、企業がアウトソーシングを活用すると、セキュリティ上のリスクがつきまとうというデメリットがあります。
アウトソーシングは社外に業務を切り出すものなので、当然ながら重要な情報がある程度外に出ます。もちろん、契約上での規制がかかるので無防備ではないですが、それでもセキュリティリスクがゼロということにはなりません。
企業の重要部分に関係するアウトソーシングであればあるほど、大切な顧客情報や従業員の情報、企業機密に関わる情報を含んでいるケースがあります。
できるかぎり信頼性が高いアウトソーザーを選ぶことと、情報の出し方に細心の注意を怠らないようにして、リスクを最小限に抑えなければなりません。
人材派遣とはどんなサービス?
ここでは、人材派遣とはどんなサービスかについて見ていきましょう。
人材派遣とは人材派遣会社が依頼企業のリクエストに応じて、登録人材の中からそれに見合う人材を必要な人数、必要な期間において供給するサービスです。
派遣にはあらかじめ期間が設定されており、相性がよければ3年間は継続可能です。ただし派遣先企業が同じ人材を継続して雇用できる上限は、一部の特定業務や60歳以上の人材を除き、基本的に3年までと労働者派遣法で明確に定められています。
また、人材派遣が原則的に禁止されている職種や業務があります。これらの適用除外業務と呼ばれる例外規定についても、労働者派遣法で細かく定められているのです。
人材派遣サービスの活用を検討する人事担当者の方は、あらかじめ認識しておきましょう。
具体的は、以下の5つの領域にあたる業種・職種が派遣を禁止されています。
- 港湾運送業務
- 建築業務
- 警備業務
例)駐車場の警備・スーパーの警備・ボディーガード - 医療業務
例)医師・看護師・薬剤師・保健師 - 士業
例)弁護士・司法書士・土地家屋調査士・管理建築士
ただし、建設業でも直接現場の業務に関わらないCADのオペレーターや事務員などは対象外です。また、看護師なども紹介予定派遣や、産休などでの一時的な欠員の補充であれば対象外となります。
人材派遣の雇用形態
一般的に、就職などで企業と直接に雇用契約を結ぶのは「直接雇用」と呼ばれる雇用形態です。正社員以外にも契約社員やパートタイマー、アルバイトなども、雇用形態は同じく直接雇用となります。
それに対して、人材派遣会社を介して派遣先企業が派遣社員を雇用する雇用形態は「間接雇用」と呼ばれます。なぜなら、派遣の任に就く人材が直接雇用契約を結んでいる相手は人材派遣会社だからです。
派遣された人材は派遣先企業の指揮命令下で、正社員と同様に派遣社員の立場で業務を行います。しかしながら、給与の支払いや福利厚生、社会保険などに関する事務はすべて直接の雇用主である人材派遣会社の管轄になります。
人材派遣の2つのタイプ
現在の人材派遣サービスは大きく分けて、一般派遣と紹介予定派遣の2種類があります。
一般派遣とは
まず、一般派遣は人材派遣サービスの基本型と言って良いでしょう。派遣業務の期間は限定的です。また、派遣先企業は派遣される人材を指名できません。事前の書類選考や面接も禁じられています。
とはいえ、受け入れる側としてまったく未知の状態から始めるのが不安な場合は、選考要素のない職場見学や顔合わせという機会を設け、面談をすることは可能です。
紹介予定派遣とは
次に、紹介予定派遣は将来的に直接雇用をする前提での派遣です。派遣先企業は派遣された人材を、派遣期間を終えた時点で直接雇用することを想定して受け入れます。
前提として派遣期間は最長で6ヶ月です。一般的に3〜6ヶ月であることが大半です。なお、雇用される際の雇用形態は必ずしも正社員とはかぎりません。企業都合で契約社員やパートタイマー、アルバイトなどもありえます。
そういった待遇条件も含めて、あくまでも双方の合意のもとで直接の雇用契約に切り替えます。当然ながら派遣先も派遣社員も、それぞれが拒むことは可能です。派遣期間は、試用期間的な意味合いがあると考えて良いでしょう。
紹介予定派遣の終了後にその人材を直接雇用した場合、派遣先企業は派遣会社に紹介手数料を支払うことになります。
また、一般派遣では禁じられている派遣先による事前の書類選考や面接に関しては、紹介予定派遣では派遣社員の合意が得られれば認められます。
このようにさまざまな点で、一般派遣と紹介予定派遣には違いがあります。
一般派遣と紹介予定派遣の違いについは、以下の記事でフォーカスしているので、そちらも参考にご覧ください。
人材派遣が浸透する背景
人材ビジネス3業界と言われる人材派遣業・人材紹介業・再就職支援業の市場規模は、矢野経済研究所によれば2019年度で約7.1兆円となっています。その中で人材派遣業はほぼ95%を占める約6.7兆円(前年度比4.7%増)です。
(参考:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2706)
このように人材派遣が浸透する背景について、触れておきましょう。
人員補充ニーズへの対応策
まず、少子高齢化による労働人口の減少が、人材派遣サービスが浸透する要因のひとつであるのは、アウトソーシングと同様です。
違うところは、人材不足への対応策として、ずばり人材そのものを直接供給してもらう解決策であることです。専門性よりも、とにかく人員数を確保したいケースの多くで、人材派遣サービスを活用する企業が増えています。
特にバイリンガル求人の中でも、ITエンジニア関連職、通翻訳、品質管理、コールセンター関連などに対しては、正社員向け要件のスペックを下げてでも派遣に頼る企業が多い傾向にあります。
正規社員の時間外労働を削減するための対応策
次に、働き方改革の流れからくる労働基準法の改正も、人材派遣の普及に影響を与えています。
それは、労働基準法の改正によって時間外労働について、企業は厳しい目で見られるようになったからです。社員の時間外労働を減らしつつ生産性を維持するために、人材派遣サービスが活用されています
労働基準法改正で、法定労働時間である1日8時間、1週間に40時間を超えて働かせることが基本的にNGとなりました。しかし実情からやむを得ない場合は36協定と呼ばれる労使間の協定を結ぶことで、時間外労働が認められます。
この協定は、労働基準法第36条に基づいて事業主と従業員が結ぶ、法定労働時間を超える業務についての取り決めです。「時間外・休日労働に関する協定届」というのが正式名称です。
労使間でこの協定をあらかじめ結んで、届出を行政官庁にしておけば、従業員に法定労働時間を超えて働かせることができます。
とはいえ、時間外労働にも基準があります。月間で45時間、年間で360時間を超えて働かせることは、特別あるいは臨時的な事情がなければ認められないのです。また、いかなる事情があっても、以下の上限を超えることは絶対に認められません。
- 時間外労働は年間720時間
- 時間外労働と休日労働時間の合計で月間100時間
- 時間外労働と休日労働時間の月間平均時間は80時間
※2ヶ月から6ヶ月までのすべての複数月平均が80時間を超えてはいけない
これを遵守しなければ雇用主は6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金という罰則の対象となる厳格さです。
だからといって社員を増やすのは、人件費が経営を圧迫します。そこで、人材を必要な人数だけ、必要な期間に限定して供給してもらえる人材派遣を活用する企業が増えるのは必然的とも言えるでしょう。
パンデミックによって高まる派遣ニーズ
上述した背景のもとで、一般事務やIT系人材、介護系人材などをはじめとして、現市場では派遣ニーズが旺盛となっています。そしてパンデミックの影響により、食品製造業や物流業などにおいても同様に需要が高まってきました。
従って、広範囲に渡る業界で依然として、ハイクラス人材や専門性が高いスキルを持つ人材派遣を検討する企業が多い状況であると言えます。
企業が人材派遣を活用するメリットとデメリット
多くの企業が人材派遣サービスを積極的に活用するのは、それ相応のメリットがあるからです。もちろん、デメリットもあるので、ここではその両方を詳しく見ていきましょう。
企業が人材派遣を活用するメリット
企業が人材派遣サービスを活用するメリットとして、まずさまざまな面でコスト削減効果があることです。
基本的に派遣社員は有期雇用が前提なので、期間を限定して人材を確保したい場合に最適と言えるでしょう。正規雇用とは違ってあらかじめ契約期間を設定できるので、必要最低限のコストに抑えられます。
また、派遣社員の本来の雇用主である派遣会社が労務全般(給与計算および支払い・社会保険事務・税務など)について責任を負います。派遣先企業はそういった労務コストも必要ありません。
さらに、人材の教育・研修も派遣会社の役割であり、派遣先は必要な資質を持った即戦力の人材を受け入れるので、教育コストもかかりません。
このように、必要な労働力が限定的なものであれば、直接の雇用よりも必要最低限の部分を埋める考えで人材派遣を利用するほうが効率的です。
他にも、専門性が高い領域の業務で、高度な専門性を持つ人材が必要なケースでもメリットが享受できます。そういう人材を雇うためには、本来高待遇でなければ人材確保が困難です。
しかし人材派遣サービスの活用で、目的に適うハイクラス人材を派遣社員として、適切なコストで迎えられることもメリットと言えるでしょう。
企業が人材派遣を活用するデメリット
企業が人材派遣サービスを活用するデメリットについて見ていきましょう。
まず、派遣社員は派遣先企業を決めるのに、業務内容や条件で選ぶことが多いため、帰属意識は特にありません。そのため、正社員とのギャップが大きいと早期の離職にもつながるというデメリットがあります。
また、派遣人材の賃金決定法の「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」のうち、前者が採用されている場合に、気をつけないと人材確保のタイミングを逃します。
労使協定方式は人材派遣会社が労使協定にもとづき、派遣社員の待遇を決める方式です。この方式では、同一エリア内の正規雇用労働者の基準となる賃金があり、それと格差がないようにしなければなりません。
もうひとつの賃金決定法「派遣先均等・均衡方式」は派遣先企業の正社員と格差が出ないように待遇を決める方式です。
「労使協定方式」は人材派遣会社が賃金を決めるので、かならずしも派遣先の正社員と同等にする必要はないものの、同一エリア内で格差がある場合スムーズに人材を確保できなくなります。
さらには、雇用継続に限界があるのもデメリットでしょう。派遣社員が気に入って、継続して働いてもらいたい場合でも、原則的には3年までです。
2021年の派遣法改正の変更点や派遣先企業の課題について、以下の記事で詳しく取り上げているので、ぜひご覧ください。
何が違う?アウトソーシングと人材派遣
アウトソーシングと人材派遣は、しばしば混同されがちです。ここでは、両者の違いを明確にしておきましょう。
業務代行と人材供給の違い
アウトソーシングと人材派遣サービスの違いを簡潔に言えば、前者が「業務の代行」で後者が「人材の供給」です。
どちらも「労働力」に対して対価を支払うという点では、共通しています。ただし、業務の代行というサービスと、人材の供給というサービスなので、サービス自体の質が違います。
業務を社外に切り出すか否かの違い
アウトソーシングと人材派遣をはっきりと区別できる決定的な違いは、依頼企業が業務を社外に切り出すか否かというポイントです。
アウトソーシングの活用では、一定範囲の業務を、その領域の品質が確保される前提で、一括して社外に切り出します。
人材派遣サービスの活用では人材の供給を派遣元から受けますが、業務は社外に出ません。あくまでも社内の人材不足の領域を解決するために、適材を適所に確保して配置できるサービスです。
アウトソーシングと人材派遣はこのようにタイプの異なるサービスなので、その違いを理解して使い分けるのが賢明です。
アウトソーシングと人材派遣の違いを活かす使い分け
人事担当者の方は、自社にとってアウトソーシングと人材派遣のどちらを活用するべきか、迷ってしまうこともあるのではないでしょうか。
ここでは違いを活かして、上手に使い分けるための基準を紹介しましょう。
アウトソーシングの活用が妥当な場合
アウトソーシングの活用が妥当な場合とは、主に高い専門性が必要だけれど必要な期間が限られている業務です。
細かく定義すれば、社内で扱う必要性が低くて、ルールの変更があまりないもの、社内にその業務がこなせる人材がいないもの、その業務を行う設備やスペースがないものなどもアウトソーシング向けです。
例えば、採用業務・ITシステム運用・経理業務・労務管理業務・営業代行・カスタマーサービスなどがそれに該当します。
ただし、いずれにしても企業機密に関連性が高いものは、社外に出すのはリスキーなので慎重に検討する必要があります。
人材派遣の活用が妥当な場合
一方、人材派遣の活用が妥当な場合とは、主に長期的、継続的で、難易度が比較的低いルーティン的な業務です。
細かく定義すれば、少人数でこなせるものやルール変更が多いもの、急に頭数が必要になることがあるものや正社員の監視のもとで進めたいものなどです。
例えば新規事業の立ち上げ・新店舗のオープン時のスタッフ・イベント開催時のスタッフ・店頭販売・接客サービス・データ入力などが該当します。
人材派遣サービスを活用する際の、基本知識と注意点については以下の記事で特集しています。
まとめ
アウトソーシングと人材派遣は似て非なるものです。両者とも労働力に対して対価を支払うサービスではあるものの、業務の代行と人材の供給という質が違うサービスとなります。そして、決定的に違う部分は業務を社外に切り出すか否かです。
それらを踏まえて、どちらを活用すべきかを検討しなければなりません。
専門的で一時的に必要な業務はアウトソーシングに向いています。一方、長期的かつ継続的で、比較的簡単な業務は人材派遣向けとなります。