プロジェクト推進室に新しい人を雇うために、菅沢は佐久間とのコーチングを通して、職務記述書(ジョブディスクリプション/以下JDと約します)を作っていく事になりました。前回は、『JDをしっかり作って、最短時間で適切な人を雇えること』という目標に対して、心の本質を聞く質問をしています。
『心の本質』とは、コーチされる側がたてたゴールを達成できたときに起こる良いことと、できなかった時に起こる悪い事を言います。深く聞き進める事によって、ゴール達成に対する気持ちをより強くするために行います。聞く際に重要な事は、コーチされる個人にとって起こる良いこと悪いことを、物理的な事のみならず精神的な本質にたどり着けるように聞いていくことです。
前回は「達成できたらどんないいことが起こるか」という、心の本質を聞く質問に対して、菅沢は、達成できれば、部署の価値を上げる事に貢献でき、自分の不安も解消されると伝えています。
今回はもし達成できなかった場合の起こる悪いことにフォーカスし、佐久間は菅沢に聞いていきます。また、菅沢は『心の本質』を明確にできたことで、菅沢と自分の部下である東堂とのコーチングについて佐久間に質問をしています。
プロジェクト推進部の背景:
彼らはオミヤゲドットコムという会社のプロジェクト推進部の社員です。
プロジェクトマネージャーの佐久間はチームメンバーの成長のためにOne on One(一対一の面談)をコーチングで行っています。主に直属の部下で、女性管理職のプロジェクトリーダー菅沢を対象としています。
主な登場人物:
佐久間省吾 35歳 プロジェクトマネージャー
菅沢莉子 32歳 プロジェクトリーダー
東堂聡志 28歳 プロジェクトメンバー
<心の本質を聞く その2>
お疲れ様です。菅沢さん。コーチングでのOne on Oneのセッションを早めてほしいというリクエストでしたね
はい。すみません。お時間取らせて、前回の本質を聞いてくださるコーチングを体験して、早くいろいろ進めたくなってしまって
そうでしたか。それは、うれしいです。では続きを聞いてもいいでしょうか
はい。お願いします。えっと、『プロジェクト推進部で適切な人を雇えたら』、の心の本質を聞いてもらっていたのでしたよね
はい、前回は達成できた時に起こるいい事でした。今回は達成できなかった時に起こる悪い事を聞きますね
では、時間もかかって、適切な人が雇えなかった場合、①どんな悪いことがおきますか
ジョブ・ディスクリプション(JD)が適切でなかったということになり、他部署に対しても、人事に対しても時間を取らせてしまいます。そのうえ、適切な人ではなかった場合、人を育てる時間が予定よりもかかります
他部署も人事も時間がかかり、なおかつ雇ってからも育つのに時間がかかるんですね。そうなるとどんな悪い事が起きますか
時間がかかる事自体は仕方がないにしても、私が作るJDがよくないと判断される可能性もあり、そうなると、私達が雇うべき人をきちっと把握できていないと周りから思われると思います。部署の価値を下げます
それと、もし、適切な人を雇えていなかった場合、その方が仕事に慣れるのに時間がかかることで、モチベーションも下がるのではないかと。そうするとフォローも必要になると思います
雇った人のモチベーションが下がってフォローが必要になると、どんな悪いことが?
その結果、もしお互い、違和感を持ってしまったら、よろしくない方向に行ってしまうのではないかと
辞めてしまわれるかもです。そして私が自信を失います
そうですね。部署の価値も下がると自分の自信に影響しますし。ダブルでよくないです。自分も辞めたくなるかもしれません
はい。ちゃんとしたJDと、面接官同士のしっかりしたコンセンサス、同意が必要ですね。そしてそれには何より、コンセプトがはっきりした職務明細書を作らないといけない
②はい、達成できたときに起こるいい事と達成できなかった時に起こる悪い事を明確にできたことで、JDはしっかりした考えを反映して作らないといけないと思いました
そうですか。よかった。③この後、どのように時間を使いますか。前回会社のミッションを部署のミッションに落とす方法と、会社のカルチャーを伝える方法を考えたいとおっしゃってましたが
え、っと今日はこの後、コーチングに関する質問に切り替えてもいいですか?
いいですよ。じゃあ、いったんここで終わりにしましょうか
はい。あの、佐久間さん。④心の本質を聞く質問って、毎回したほうがいいですね
はい、そうです。自分が東堂さんにコーチングでOne on Oneするときにもということですが
心の奥に隠れている感情も含めた本質をはっきりさせたいときにはしたほうがいいですね。例えば、東堂さんが明日から宇宙飛行士を目指したいと言ってきたときなんかは特に
え? 佐久間さん、宇宙飛行士好きですね。もしかしてなりたかったんですか?
なれるものならなってみたかったですね。私は毎日のようになりたい職業変わってましたから。小さいころは
想像つかない。っていうか佐久間さんの小さいころが想像つかない
そんな失礼な。菅沢さんは? 小さいころ何になりたかったですか?
はぁ、小さいころは人の役に立ちたくて、看護師とか考えてました
そうなんですね。人の役に立ちたい。いいですね。どんな風に役に立ちたいと思ってましたか?
そうですね。病気になっても、前に進める勇気を与えられて、自分も満たされたいと思ってたのかもしれません
そうなんですね。なりたい理由にはそれぞれ自分の感情が必ずあるものです。心の本質は、達成したい本当の理由を明確にするためのものです
そうですね。今回も自分の自信につながることがはっきりしましたから
ご自身達成したことがわかっていても、前に進む気持ちを強くしたいと思ったら、自分でもやってみることをお勧めしますね
私も、次回のOne on One で実践してみます
セッションのポイント
1 達成できたときにおこる事と対比して、聞き、出てきた言葉をサマリーして、復唱し、そして、何度か繰り返します。
2 心の本質はどちらの方向から聞いても、最終的に自分が一番大事にしたい気持ちにつながることが多いです。そして、それをコーチされる側が認識することが大事なポイントです。
3 時間をどのように使うかは必ずコーチされる側が決めます。
4 『心の本質』を聞く質問は目標が変わったタイミングで聞くと、背景にある感情が目標達成への気持ちを後押ししてくれます。
コーチングのチェックポイント
心の本質の質問は、達成できたときにおこるいい事に対して達成できなかった時に起こる悪いことも同時に確認できているだろうか
どのように時間を使うかを常にコーチされる側に確認できているだろうか
まとめ:
コーチングでは『心の本質』は達成できたときに起こる良いことと並行して、達成できなかったときに起こる悪いことも並行して聞きます。深く聞いていくと、別の方向から、同じ結論に達することがあります。今回の場合は、達成できれば、自信につながり、達成できなければ、自信を失うです。どのようなゴールにも背景に感情が流れています。その感情をコーチングで明確にすることで、しっかりゴールにたどり着くことができます。
*この物語に登場する人物名、団体名、システム等はすべて架空のものです。
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