今すぐ活用できる!ビジネス向け10個のフレームワークとその使い方

今すぐ活用できる!ビジネス向け10個のフレームワークとその使い方

フレームワークは市場分析や戦略立案のために使われる考え方の枠組みであり、便利な思考ツールです。主要なフレームワークを覚えておくと、さまざまなビジネスの市場分析やマーケティング戦略を考えるのに役立つでしょう。また、コンサルティングファームのようなビジネススキルを問われる企業への転職においても役立つ可能性があります。

今回の記事ではビジネス向けの代表的な10個のフレームワークについて、概要と使い方をわかりやすく紹介します。

フレームワークとは

フレームワーク(framework)とは、直訳すれば「枠組み」や「構造」という意味です。つまり、フレームワークは市場分析や戦略立案などの知的作業を、効率的に進めるための考え方の枠組み、あるいは理論モデルを意味する図式化された思考ツールです。情報や状況、環境、考え方を整理しやすいようにフレームワークのマトリクスや図表に落とし込み、それに沿って分析や思考を効率的に進められます。

いずれのフレームワークも、実際の事業展開で有用性が認められてきたメソッドを、状況に応じて使えるように落とし込んでいるので、市場分析や戦略立案などを効率的に進めることができます。ITシステムやアプリケーション開発で使用されるWebフレームワークと区別するために「ビジネスフレームワーク」と呼ばれる場合もあります。このビジネスフレームワークには、大きく分けて市場分析向けのものと、戦略立案向けのものがあります。以下では、それぞれの代表的なフレームワークを5つずつ紹介しましょう。

5つの代表的な市場分析フレームワークと使い方

市場分析を行うための代表的なフレームワークには、以下の5つがあります。

  • PEST:自社を取り巻くマクロ環境を分析する
  • 5フォース:自社の競争力を分析する
  • 3C:自社の位置付けを分析する
  • VRIO分析:自社のリソースの価値を分析する
  • STP分析:自社商材の最適なポジショニングを分析する

それぞれのフレームワークの概要と使い方を見ていきましょう。

PEST:自社を取り巻くマクロ環境を分析する

PESTは企業を取り巻いているマクロ環境を分析できるフレームワークです。マクロ環境を構成する4つの要素(Politics:政治・Economy:経済・Society:社会・Technology:テクノロジー)の頭文字を取ってPEST、あるいはPEST分析と呼ばれます。分析を使うと、マクロ環境が将来においてその企業に及ぼすかもしれない影響を予測できます。マクロ環境の構成要素を補足しましょう。

  • Politics:政治=市場に政治が影響を与える規制や指導
  • Economy:経済=経済の成長や景況
  • Society:社会=社会の人口や構成比
  • Technology:テクノロジー=テクノロジーを駆使したITサービスやデジタルデバイス

主に商材を企画するフェーズや、ターゲット層の範囲が広大なマスマーケティングや、海外に進出するグローバル戦略を立案する際の環境分析に使用されます。

PESTの使い方

PESTの使い方に関して、例を挙げて解説しましょう。自社商材を取り巻いている環境を、例えば以下のように分析します。

  • Politics:その商材の販売にはさまざまな規制が掛けられている
  • Economy:景況は好調なので商品の需要は見込める
  • Society:その商材を求める年齢層の潜在顧客は数多く存在する
  • Technology:Webで手軽に購入できる体制が作られる

仮に上記のような状況分析となった場合、ボトルネックは「規制」なので、現状では規制に抵触しないように注意を払って製造と販売方法を徹底すれば、マーケットは大きいので好業績が見込めると判断できます。そして、規制厳守の条件付きで拡大生産および積極的な広告プロモーションに踏み切れます。

このようにPESTは、企業が市場に向けて大きなアクションを起こす前に、必ず認識しておくべき制約要因を把握するために有効です。

5フォース:自社の競争力を分析する

5フォースはその名の通り5つの競争要因(5 Forces)を分析するフレームワークです。経営学者マイケル・ポーター(米国)の世界的ベストセラーとなった『競争の戦略』で提唱されました。自社の競争力を客観的に判断するために、売手・買手・競合・新規参入・代替製品という5つの要素から競争構造を分析します。

一般的にビジネスの戦略を考える際に前提とされるのは、売手・買手・競合の3者です。ところが5フォースを用いれば新規参入や代替製品という要素が加わり、よりリアルな分析ができます。

5フォースの使い方

5フォースの各要素を洗い出した後の手順を、例を挙げて解説します。例えば自社商材と同じような機能を果たせる代替製品が、市場に多く出回っているとしましょう。その状態は、市場価格が時間を掛けて緩やかに下がる要因となります。また、同じ市場への新規参入企業が多ければ、それらの認知度が徐々に上がるにつれて競争が激しくなる要因となるでしょう。

価格や品質、あるいは意匠性や独自性などのいずれのポイントで競うかはともかく、競合状態の激化は避けられません。つまり、これらは直ちに目の前の脅威となるわけではなくとも、中長期的に脅威となります。そこで、状況がそうなった際に市場優位性を持つために、差別化要素を鋭意開発して代替製品には真似のできない商材に進化させ、新規参入や既存の競合にも差別化するためのアクションを今すぐに始める決断ができます。

3C:自社の位置付け、ミクロ環境を分析する

3Cは大前研一氏が考案したフレームワークで、1982年に自著の『The Mind of The Strategist』で提唱して話題になり、広くビジネス界で用いられるようになりました。市場分析を行う際には常にプレイヤー3者(自社:Corporation・顧客:Customer・競合相手:Competitor)を考慮に入れるべきということです。3つの頭文字を取って3Cや3C分析と呼ばれます。外部要因が顧客と競合、内部要因が自社で、その関係性を客観的に分析します。

3Cの使い方

3Cを実践するためには、まず自社商材を販売する対象となるターゲットの顕在ニーズと潜在ニーズを、大小を問わずすべて書き出しましょう。次に自社の「強み」と「弱み」、競合他社の「強み」と「弱み」もすべて書き出します。

その上で、個々のニーズに対して、自社と競合はそれぞれどのように対応できているのか、またはできていないのかを客観的に見ます。すべての顕在および潜在ニーズに対してそれを実行すれば、自社と競合の優劣や拮抗の状態が相対的に把握できるでしょう。その分析結果を踏まえて市場に存在するニーズに対し、自社の強みを最大限に活かし、競合が真似できないアプローチは何かを導き出すのが、3Cの有効な使い方です。

VRIO分析:自社のリソースの価値を分析する

VRIO分析とは、企業の持っている経営リソースの「経済的価値」を分析するフレームワークです。SWOT分析の「強み」と「弱み」を洗い出すためにも有効で、よく併用されます。

以前は競争力を決定づけるのは、企業が外部環境に向けて行うアクションであると考えられていました。それに対して、経営学者ジェイ・B・バーニーが1991年の論文で内部環境である経営リソースも競争力を決定づける要素となりえると主張しました。経営リソースを分類すれば、以下の4つです。

  • Value:経済価値
  • Rarity:希少性
  • Imitability:模倣可能性
  • Organization:組織

これらの頭文字を取ってVRIO分析と呼ばれます。VRIOを順に分析していくことで、自社の状況を判断できます。

VRIO分析の使い方

VRIO分析を進める手順に沿って、使い方を解説します。

まず「Value:経済価値」の段階では、経営リソースである資本力やキャッシュフロー、人材や設備などが優れているかどうかを客観的に評価します。その結果、経済価値が総合的に芳しくなければ「競争劣位」と呼ばれる状態と判断できます。この状態への対応としては、経営リソースの充実策を最優先するのが賢明です。経済価値が総合的に良好であれば、次の段階に進みましょう。

「Rarity:希少性」の段階では、その事業や商材の業界内での希少性はどうかを評価します。これは競合との比較による相対的な判断が必要です。第1段階の経済価値は良好でも、希少性がクリアできない場合は「競争均衡」と呼ばれる状態と判断できます。この状態への対応としては、充分に持っている経営リソースを有効活用し、商材の希少性を高めることを目指した施策を練るのが妥当です。希少性がクリアできるなら、次の段階に進みましょう。

「Imitability:模倣可能性」の段階では、その事業や商材を競合が真似ることができるかどうかを評価します。第2段階の希少性をクリアしても、模倣可能性が高い(真似されやすい)場合は、「一時的競争優位」と呼ばれる状態と判断できます。この状態への対応としては、経営リソースを駆使して希少性を維持できるように、競合が簡単には模倣できない要素を商材に付加する施策を練るのが妥当です。模倣可能性が低いなら、次の段階に進みましょう。

「Organization::組織」の段階では、経営リソースをフル稼働するために、組織体制が良好かを評価します。第3段階の模倣可能性をクリアしていても組織体制が芳しくない場合は、少なくとも「長期的競争優位」と呼ばれる状態を維持できます。この状態への対応としては、当面は優位性が維持できるので、それが危うくなる前に組織体制を盤石に変革する施策を練るのが賢明です。組織体制が良好な場合はリソースを最大限に活用できる、「持続的競争優位」と呼ばれる理想に近い状態となります。前向きな事業拡大や新たなチャレンジに臨みやすい、最高の環境です。

VRIO分析を用いれば、このような一連の分析で企業の盤石さを明らかにし、劣る面を補強して競争力を高める戦略を立案できます。

STP分析:商材の最適なポジショニングを分析する

STP分析はマーケティング戦略のスタートラインとなるターゲット設定を効率よく進めるためのフレームワークです。STP分析では以下の3段階で市場を分析して、ターゲット設定を行います。

  • S:セグメンテーション
  • T:ターゲティング
  • P:ポジショニング

各段階を見ていきましょう。

<S:セグメンテーション>
セグメンテーションは「区分」や「分割」を意味します。マーケティング上のセグメントは、同じ属性や志向性を持つ人たちをグループにして、市場をいくつかのグループに分けることです。グループ分けに使われるのは、例えば以下のような指標です。

  • 居住地域
  • 年齢
  • 性別
  • 職業
  • 趣味
  • 価値観
  • ライフスタイル

市場のニーズを確かめるためには、確かな裏付けがある情報をもとに進めなければなりません。顧客層のニーズを調べるのには、ソーシャルメディア分析などを使えば自社商材と関連ジャンルの顧客層の動向を捉えるのに有効です。ユーザーの心理や行動規範をまとめられ、気づかなかった顧客像の発見につながる場合もあります。

<T:ターゲティング>
セグメンテーションによるグループ分けで、市場に存在するニーズを把握した後は、商材や市場環境から考えて、どのグループをターゲットとして絞り込むかべきかという意思決定であるターゲティングを行います。

<P:ポジショニング>
ターゲットが決まったら、市場における自社の事業や商材の優位性を見極めて明確に位置付けするポジショニングを行います。ポジショニングを行なうには、縦軸と横軸で十字を切って4象限とするマトリクス「ポジショニングマップ」を使います。

STP分析の使い方

STP分析のセグメンテーションとターゲティングは、市場の的確な把握と自社商材の深い理解があれば問題なくできるでしょう。重要なのは、その先のポジショニングです。それには、以下のような3つの段階を実行します。

第1段階:ポジショニングマップの設定
第2段階:競合をポジショニングマップ書き込む
第3段階:自社をポジショニングマップに書き込み競合状態を分析する

順を追って手法を解説します。

<第1段階:ポジショニングマップの設定>
まずターゲットの顧客層が商材の購入を検討する際に、基準として意識するであろう項目の中から重要なもの2つを軸に取って4象限のマトリクスを作ります。「使いやすさ」「洗練度」「機能性」「耐久性」「テイスト」など商材ごとに多数あるはずですが、優先順位が高い2つを軸として選びます。

例えば雑貨店を新規出店する際の、適切なポジショニングを設定するための分析としましょう。縦軸に「品数」と横軸に「駅からの距離」の2本軸のマップを作ってみます。縦の「品数」軸は上に行くほど「豊富」下に行くほど「絞り込まれている」です。横の「駅からの距離」軸は左に行くほど「近い」右に行くほど「遠い」ことを示します。すると縦横の軸で分けられた4象限のマトリクスは、大きくは以下の4つに分割されます。

ポジショニングマップ

  • 左上の象限:品数は豊富・駅から近い
  • 左下の象限:品数は絞り込まれている・駅から近い
  • 右上の象限:品数は豊富・駅から遠い
  • 右下の象限:品数は絞り込まれている・駅から遠い

<第2段階:競合をポジショニングマップに書き込む>
次に縦横の要素のバランスを考えて、適切な位置に競合他社を書き込みます。それぞれの象限の中でも、上下左右のバランスの違いを反映させて記入しましょう。すべての競合を書き込んだマップ上において、密集している領域は競合が激しく、空いている領域は競合状態が少ないと考えられます。

<第3段階:自社をポジショニングマップに書き込み競合状態を分析する>
最後に自社をポジショニングマップに書き込み、その領域の状態を分析します。仮に自社が品数は平均的で駅から近い物件を確保している場合に、マップの左端に近い上下の中央あたりに来ます。その周辺に競合が多いとしましょう。しかしその上は空いているとすれば、品数を豊富にする戦略を取ることで競合に差別化できます。そのためには、例えば以下のような施策が考えられます。

1:レイアウトを工夫して多くの品を陳列できるようにして品数を増やす
2:かさばらないアイテムの仕入れ数を増やしてかさばるアイテムは絞り込み、品数の総量を増やす
3:店頭に出せるワゴンや什器を充実させて店内と店頭をあわせた品数の総量を増やす

また、分析は複数のマトリクスで行えばさらに精度が上がります。そこで縦軸はそのまま「品数」とし、横軸に「中心価格帯」を設定したマトリクスに競合を書き込みます。左に行くほど中心価格帯が「安い」、右に行くほど「高い」です。自社が当初想定していた中心価格帯で、マトリクスに自社を書き込みましょう。平均的な価格帯だとしたらマトリクスの左右の中央あたりで上の部分に来ます。

そこに競合が多く、その左が空いていれば、品数はそのままで中心価格帯を低めに設定した品揃えが考えられるでしょう。総合的に「駅に近い」「品数は豊富」「値頃な品を多く扱っている」雑貨店というポジショニングで、競合と差別化できます。このように、セグメント、ターゲティング、最後に自社が可能なもっとも有利なポジショニングを見極めるために、STP分析は有効です。

5つの代表的な戦略立案フレームワークと使い方

ここからは、より実践的な戦略立案のための主要なフレームワークの概要と、その使い方をわかりやすく解説しましょう。

ビジネス上で戦略立案を行うための代表的なフレームワークには、以下の5つがあります。

  • 7S:リソースの最適な扱い方を見極める
  • アンゾフマトリクス:成長戦略を見極める
  • SWOT分析:最も有望な領域を見極める
  • アドバンテージマトリクス:競争優位性を見極める
  • PPM:ライフサイクルによる方向性を見極める

7S:リソースの最適な扱い方を見極める

7SはMBB(3大戦略系コンサルティングファーム)の1つであるマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱しました。組織が保有する経営リソースを7つに分類して相互関係を明らかにし、戦略立案の材料とするためのフレームワークです。この7要素は比較的改善しやすいハード3Sと、改善に時間が掛かるソフト4Sに分類されます。7つのSの詳細は以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。

7Sの使い方

7Sの使い方に関して、例を挙げて解説しましょう。ハードとソフトのそれぞれのSを洗い出して、客観的に評価します。

ハードSで改善が必要な部分は、具体的な変革のアクションを起こして改善します。例えば現行の戦略では遅かれ早かれプライオリティを失くしてしまうのであれば、それが維持できる方向に戦略をシフトするのが妥当です。仮に、若年層向けのサービスをメインで打ち出す戦略であれば、少子化によって年々市場が縮小します。そのため、サービスのターゲットを中高年層にシフトできるようリソースを投下して、プライオリティを維持します。

ソフトSで改善が必要な場合は、中長期的に改善する手を打たなければなりません。例えば組織としての営業力が競合より弱ければ、営業のキーマンとなる優秀な人材を外部から確保し、計画的かつ徹底的な社内研修に取り組んで営業部門全体の営業力を底上げします。なお、ハードとソフトのどちらが大事ということではなく、その2つが有機的に連動していることが重要です。例えば人材の部署異動や研修などを行っても、それらを支えているシステムや組織構造が不完全なら良好なパフォーマンスは期待できないでしょう。

その逆にシステムや組織構造などの企業の基礎部分がどんなに信頼できる盤石なものであっても、企業の価値観が社員に浸透しておらず、適材適所の社員配置がなされていなければ、盤石な基礎を活かせません。このように、個別の事象と全体の有機的な連携を包括的に考えて、手を打てるのが7Sの考え方の強みです。

アンゾフマトリクス:成長戦略を見極める

イゴール・アンゾフ(米国の経営学者)は、ビジネスの拡大戦略において、4つの方法論を提唱しました。そのもととなるのが、縦軸に市場、横軸に商材を取る4象限のマトリクスです。縦軸は下が「新」上が「旧」で、横軸は左が「旧」で右が「新」です。以下の4つの象限に分かれます。

  • 左上の象限:既存市場×既存商材
  • 左下の象限:新市場×既存商材
  • 右上の象限:既存市場×新商材
  • 右下の象限:新市場×新商材

アンゾフマトリクス

自社のリソースから市場と商材のどの組み合わせが最適化を検討し、その組み合わせに応じて戦略を立案します。

アンゾフマトリクスの使い方

アンゾフマトリクスで自社商材の状態を認識した後に、各象限に対応する以下のような戦略を立案します。

  • 既存市場×旧商材に市場浸透戦略
  • 新市場×旧商材に新規市場開拓戦略
  • 既存市場×新商材に新製品開発戦略
  • 新市場×新商材に多角化戦略

個々の戦略を見ていきましょう。

【既存市場×旧商材に市場浸透戦略】
既存市場に対して既存商材を展開し、市場の深堀りを進めてシェア拡大を図るのが市場浸透戦略です。イメージ広告やWebマーケティングなどで企業のブランディングを図って認知度を上げ、興味を持つ潜在顧客層を増やすことを目指します。

注意点としては、自社のシェアがすでに充分高い、あるいは市場が飽和状態などで成長の余地が残されていない可能性を考慮する必要がある点です。なぜなら、その場合はリソースを投入して戦略を実行しても、回収できるほど利益が得られないからです。

【新市場×旧商材に新規市場開拓戦略】
新しい市場を開拓するために既存商材を投入することで、シェアの獲得を図るのが新規市場開拓戦略です。既存製品で新しい市場を開拓する場合、ターゲットを見直した上でポジショニングを最適化します。

例えば、これまで国内市場だけを相手にしていた商材を、海外マーケットに進出させることも新規市場開拓戦略です。あるいは、従来は男性向けに販売していた商材を、女性向けにアプローチするのもまた新規市場開拓戦略です。新しい市場の開拓を既存商材で成功すれば、すでに製造コストが抑えられている上に生産数を拡大できるので、より大きな利益が獲得できます。ただし、既存商材でも新市場では新商材のように認知度はないので、それを高めるため広告プロモーションを行う必要があります。

【既存市場×新商材=新製品開発戦略】
既存の市場に対して、新商材を投入してシェアの獲得を図るのは新製品開発戦略です。競合の既存商材に対する新商材の優位性を積極的にアピールして、顧客を獲得します。この戦略を盛んに手掛けるのは清涼飲料水やビール、製菓などです。これらの市場では多くの企業が次々と市場に新商材を投入します。商材の開発力が鍵となるので、トレンドを的確に捉えて顧客は今何を欲しているのかを察知するスキルが必要です。

【新市場×新商材=多角化戦略】
新しい市場に新しい商材を投入することで、シェアの獲得を図るのが多角化戦略です。4つの戦略の中で最も難易度が高い分野ですが、成功した場合に得られる利益は大きくなります。多角化戦略ではすでに保有しているリソースを流用して、新商材の開発を進めることも可能です。そうやって、リスクを軽減させつつ実行に移すことができれば、もし失敗しても損失を最小化できます。

SWOT分析:最も有望な領域を見極める

SWOT分析は経営学者ヘンリー・ミンツバーグ(米国)が提唱し、ケネス・R・アンドルーズ教授(ハーバード・ビジネス・スクール)によってビジネスに活用されるようになりました。SWOT分析では企業のビジネス環境を、外部環境と内部環境に分けて考えます。外部環境はOpportunities(機会)とThreats(脅威)に分類し、内部環境をStrengths(強み)とWeaknesses(弱み)に分類して評価します。

この分析手法はマーケティングや広告でよく使われ、BtoB企業の営業戦略の立案にも有効です。ただし強みや弱みは相対的なものなので、比較する対象によって評価が異なります。分析する際の軸が明確でなければ、分析の精度は低くなるおそれがあります。そのため、別の有効なフレームワークも併用しながら分析を進めるのが一般的です。

また、戦略策定の際のSWOT分析は、一度実施すればそれでよいのではありません。分析した要素それぞれを掘り下げつつ、繰り返し見直しを行いましょう。SWOT分析の中の「脅威」を分析するのに適しており、併用される場合が多いです。

SWOT分析の使い方

SWOT分析を行うには、その材料になる内部環境と外部環境を洗い出す作業から入ります。まず内部環境である自社の「強み」「弱み」を洗い出しましょう。その作業には、3Cによってミクロ環境である自社の位置づけを認識し、VRIO分析によって自社のリソースの価値を分析することでより的確な材料が準備できます。

次に「機会」と「脅威」を洗い出しましょう。機会はビジネスチャンスのことです。現状で自社のリソースで対応できるビジネスチャンスを、可能な限り挙げてみましょう。PESTによってマクロ環境を分析すると、ビジネスチャンスを認識しやすくなります。脅威は5フォース分析によって分析するのが効率的です。

これらの作業によって集められた材料を掛け合わして、以下のような表に思いつく限りの戦略や施策を書き出します。その中から実現可能性を考えて、有効な戦略・施策を絞り込みましょう。

O:機会 T:脅威
S:強み S×O S×T
W:弱み W×O W×T

S×O:機会と強みを活かしてできること→考えられるビジネスチャンスを捕えて商材の強みを発揮する、最強の戦略を考えましょう。
S×T:強みを活かして脅威に対抗するためにできること→脅威に対抗するためには強みを活かすのが最も有効です。不利な立場を強みによって有利に置き換える戦略を考えましょう。
W×O:弱みで機会を逃さないためにできること→商材の弱みのせいでせっかくのビジネスチャンスを逃がすのはもったいないので、弱みがマイナスの影響を与えないような施策を考えます。
W×T:弱みと脅威が生むリスクを避けるためにできること→商材の弱みと脅威がどちらもあるのは最もリスキーな状態です。撤退も含めて、少しでもリスクを避けて損失を最小化する施策を考えます。

このようにSWOT分析を行うことによって、SWOTの多くの項目から想定できる戦略や施策を整理します。とりわけS×Oは最も力強い戦略につながるので、最優先で考えましょう。

アドバンテージマトリクス:競争優位性を見極める

アドバンテージマトリクスは、MBBの1つであるBCG(ボストン コンサルティング グループ)が提唱しているフレームワークです。アドバンテージマトリクスによって、企業の競争優位性確保の可能性を分析できます。

マトリクスの2つの軸として縦軸に「競争要因の多さ」、横軸に「優位性確保の可能性」を設定し、事業領域のタイプを以下の4つに分類します。縦軸「競争要因の多さ」は上が「多い」、下が「少ない」、横軸「優位性確保の可能性」は左が「低い」、右が「高い」です。

アドバンテージマトリクス

4つの象限ごとに以下の事業モデルに分類します。

  • 左上の象限:分散型事業
  • 左下の象限:手詰まり型事業
  • 右上の象限:特化型事業
  • 右下の象限:規模型事業

分散型事業とは、競争要因が多く、優位性確保の可能性が低いのでスケールメリットが働きません。大企業は参入せず中小企業が競い合う領域です。アパレル販売業や地域密着型飲食業、理容業、建設業などが挙げられます。手詰まり型事業とは、競争要因が少なく、優位性確保の可能性も低いので、事業のライフサイクルとして衰退期に入っており、差別化も収益性を確立するのも非常に困難な事業領域です。セメント業や鉄鋼業などが挙げられます。

特化型事業とは競争要因が多く、優位性確保の可能性が高いので、特定の分野にフォーカスして圧倒的な強みを持てば市場優位性を確保することが可能です。製薬業や医療機器製造業、計測機器製造業などが挙げられます。規模型事業とは競争要因が少なく、優位性確保の可能性が高いのでスケールメリットが働きやすいです。積極的に規模を拡大することで、企業の成長が見込まれる事業領域です。半導体製品製造業や自動車製造業などが挙げられます。

アドバンテージマトリクスの使い方

自社がどの象限=事業領域に属するかを見極めたら、その領域の属性と自社のリソースから何ができるかを考えましょう。一般的に収益性の確立が困難なのは、分散型と手詰まり型です。分散型の典型例は人気がある販売スタッフの集客力に頼っているようなビジネスモデルで、規模の拡大は現実的ではありません。

特化型に事業転換するのであれば、特定分野にフォーカスして圧倒的な強みを打ち出すことで勝機があります。規模型に事業転換するのであれば新規出店攻勢でシェアを拡大してスケールメリットを獲得する戦略で収益性を確立することが可能です。

また、出店攻勢が無理でも、運営ノウハウがパッケージ化できればフランチャイズ展開が考えられます。このようにアドバンテージマトリクスは、自社が属している事業領域を判断し、収益を安定継続的に確保する戦略、施策を検討できます。また、場合によっては事業転換にて市場優位性を構築する戦略立案に役立てることが可能です。

PPM:ライフサイクルによる方向性を見極める

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)はBCGによって構想された古典的な経営分析のフレームワークです。自社の展開する事業がライフサイクル上、いずれの段階にあるかを確認して、リソースの最適な戦略的分配を検討するためのフレームワークです。

縦軸に「市場成長率」、横軸に「マーケットシェア」を取る4象限のマトリクスで、追加投資や撤退などの経営判断を行います。縦軸の「市場成長率」は下が「低い」、上が「高い」、横軸の「マーケットシェア」は左が「高い」、右が「低い」です。

PPM

  • 左上の象限:花形
  • 左下の象限:金のなる木
  • 右上の象限:問題児
  • 右下の象限:負け犬

PPMの使い方

マトリクスで自社の事業がライフサイクルのどの段階にあるのかを認識して、各段階で以下のように戦略を検討します。

<花形>
市場成長率もマーケットシェアも高く、これから大いに成長が見込まれる優良事業のことです。ライフサイクルにおいては成長期に当たり、追加投資で業績を伸ばしやすい状態です。ただし市場成長率が高いのは競合企業が多いことも意味するので、競争優位性を確保するためにも積極的にリソースを投入していく必要があります。そのため、売上は伸びるけれどもコストも投じるので、利益率は低い傾向にあります。

<金のなる木>
市場成長率は低いけれど、マーケットシェアは高いので安定して高い収益が獲得できる事業で、ライフサイクルにおいて成熟期に当たります。ただし市場成長率が低いのは市場規模が頭打ちであることを意味するので、追加投資は見合わせなければなりません。金のなる木で得た利益は、成長株の花形やテコ入れすべき問題児に投下するのが有効です。

<問題児>
市場成長率は高いけれども、マーケットシェアが低く売上は伸びにくい事業で、ライフサイクルにおいて導入期に当たります。市場自体は有望なので、マーケットシェアを上昇させることで花形に成長することが期待でき、リソースを積極的に投入するのが常道です。利益率は低い傾向になるので、金のなる木で得た利益を投入する必要があります。

<負け犬>
市場成長率もマーケットシェアも低く売上も利益も少ない事業で、ライフサイクルにおいて衰退期に当たります。再生の糸口がない限り、市場からの撤退という選択肢を検討しなければなりません。このようにPPMで事業のライフサイクルを見極めれば、対応の仕方を判断できます。理想的な循環は、多角経営によって金のなる木の利益で問題児を花形に育て、負け犬は損失を最小限に抑えて撤退を検討し、また新たな事業を起こすという繰り返しです。

フレームワークを使う上での注意点

最後にフレームワークを使う上での注意点を挙げておきましょう。

まず、フレームワークを使う上で、注意を怠ると誤った判断のもとになる要素があります。それはターゲットと軸の設定です。フレームワークを使った分析の際には、ターゲットと軸の設定が明確かつ的を射たものでなければなりません。なぜなら、分析の持つ意味が真逆になる場合があるからです。

例えば「価格が低い」という要素は一般的には「強み」になりますが、高級志向の顧客層であればむしろ「弱み」になるでしょう。「駅から近い」は電車通勤の顧客層には強みでも、自動車で移動する顧客層には「弱み」となります。このように、「誰に向けて」の商材なのかが曖昧なまま軸を決めて市場分析しても、意味をなさない結果になりかねません。

また、2つの軸を設定する際に類似した項目や連動するような項目は避けましょう。例えば「グレード感」と「中心価格帯」の2本軸を取ったマトリクスは、類似の項目なのであまり意味のない分析になります。「年齢層」と「高級感」などは、例外はあってもおおむね連動するので、分析の意味が薄いでしょう。

2本の軸はできるだけ、関連性が少ない事象で選ぶのが効果的です。例えば「駅からの距離」と「テイスト」のような、それ自体は関連性のない組み合わせの分析によって、新たな戦略のヒントが見つかる場合が少なくありません。潜在顧客が購入・利用を決定する際に優先順位の高い指標のなかで、できるだけ関連性が少ない指標を組み合わせましょう。

最後に、フレームワークを用いて立案した戦略が功を奏し、事業が拡大基調に入った際に注意したい点があります。拡大基調にあっても、時として何が原因で花形が問題児に逆戻りしたり、金の生る木が負け犬に転落したりで、経営状態が悪化しないともかぎりません。

そのような悪循環を避けるためには、戦略立案フレームワークによって攻めている最中でも、コンスタントに市場分析フレームワークで事業の健康状態をチェックする必要があります。市場分析を怠らず、絶えず自社のマクロおよびミクロの環境を認識していれば、現業は順調でも中長期的、あるいは短期的に迫っている脅威を察知することが可能です。脅威が察知できれば、その視点で戦略立案フレームワークによって対抗策を打ち出し、未然にリスクを回避することができます。

なおここで紹介した主要フレームワークも含めて、さまざまなフレームワークを解説したおすすめ本を以下の記事で紹介しています。フレームワークをより深く学びたい方は、ぜひ参考にしてください。

まとめ

フレームワークを上手に用いれば企業の内部環境や外部環境を認識できて、有効な経営戦略を立案するために役立ちます。ただし、単体のフレームワークだけに頼るのは不完全なので、できるだけ複数のフレームワークを併用して、安定した分析結果を出しましょう。そしてコンスタントに市場分析を行えば、戦略立案に前向きに反映できます。取り組まれているビジネスにて市場環境の分析や戦略の立案に、ここで紹介したフレームワークを役立てましょう。

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