リストラの波に飲まれる⁉ 製薬会社MRの早期退職・将来性について解説

MR(製薬会社の情報担当者)の年収事情!業界動向・キャリアパスも解説

比較的高い年収が得られ、業界未経験からでもチャレンジが可能なMR(製薬会社の医薬情報担当者)は、年齢を問わず転職志望者からの人気が高い職種ですが、実のところ、その数は2013年をピークに減少が続いています。今、製薬業界では何が起こっているのでしょうか?
今回の記事では、MRにとって「激動」ともいえる2023年以降の製薬業界の最新リストラ・早期退職募集動向を交えながら、今後のMRの将来性・キャリアパスについて解説します。

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MR(医薬情報担当者)の業務と年収事情

MRの業務とは?

まずはMR(Medical Representatives)の業務について整理してみましょう。MRは製薬会社に所属し、自社が取り扱っている医療用医薬品が安全かつ有効に使用されるよう医療現場に情報共有するとともに、現場からの情報を内部にフィードバックする職種です。一部はCSO(Contract Sales Organization)として製薬会社のMR業務を受託するアウトソーサー企業から派遣される形で業務を行うMRもいますが、基本的な業務は変わりません。
その仕事は大きく分けて以下の3種類にわかれます。

<医療情報の提供>
病院や個人開業の医院、調剤薬局などを訪問し、医師や薬剤師に自社の医薬品の情報(薬品の適正使用のための効能・特長・副作用・使用上の注意などの情報)を説明し、医療機関からの問い合わせにも対応します。
<医療情報の収集>
医師や薬剤師から自社製品の有効性や安全性、副作用などの情報を集めて製造部門にフィードバックします。また、医療現場からの要望やアイデアを整理して報告し、新薬開発につなげる役目を担います。
<医療情報の伝達>
医療現場から収集した薬品情報について分析、評価した内容を医療従事者に迅速かつ正確に伝達します。ほかにも医学・薬学の情報を広く共有するための講演会や勤務医と開業医の連携など、医療関係者のネットワークの支援もします。
上記のような3方向の情報活動を通じて、自社医薬品の普及と適正な使用を促進する仕事です。

製薬会社MRの年収事情

ここからは、製薬会社のMRの年収事情や年収が高い背景について見ていきましょう。

MRの平均年収

厚生労働省の『令和5年賃金構造基本統計調査』からMR平均年収を推定すると全国平均で579.4万円(平均年齢41.5歳)となります(その他の営業従事者の企業規模10人以上の給与から算出)。同じく令和4年の国税庁による民間給与実態統計調査によれば、サラリーマン全体の平均年収が約458万円なので、それより120万円ほど高く、高額年収の部類に入ります。
有価証券報告書で公表されている令和4年度における上場製薬会社の社員の平均年収上位10社は以下の通りです。ちなみに、11位までが平均年収で1,000万円を超えています。

順位 平均年収 会社名
第1位🥇 1,560万円 ソレイジア・ファーマ株式会社
第2位🥈 1,351万円 サンバイオ株式会社
第3位🥉 1,275万円 アンジェス株式会社
第4位 1,189万円 そーせいグループ株式会社
第5位 1,099万円 エーザイ株式会社
第6位 1,098万円 第一三共株式会社
第7位 1,096万円 シンバイオ製薬株式会社
第8位 1,094万円 武田薬品工業株式会社
第9位 1,072万円 アステラス製薬株式会社
第10位 1,032万円 大塚ホールディングス株式会社

MRの年収が高い背景

日本の製薬会社は、高い付加価値を生み出していることが国際的に評価されてきました。一つの指標となるデータとして、以下に過去の国別NCE(新規化学物質)の数とシェア率を示しておきます。

発明企業の本社の所在国別、新規化学物質(NCE)の数とシェア出典:情報技術イノベーション財団 | 2022年7月STEPHEN EZELL 「バイオ医薬品における競争力をつぶしてしまった日本:そこから得られる教訓とは」

MRの年収が高い背景には、高付加価値の医薬品ゆえに求められる知見のレベルも高く、それに耐える優秀な人材を確保するためという側面もあります。
また、MRは外回りが基本業務になるため、業務に関する日当・手当などが支給されるのが一般的です。また、転勤も多いので、家賃補助などの福利厚生の手当も手厚くなっており、年収を押し上げる要因となっています。

製薬業界の動向とMRに求められるもの

製薬業界はこの10年ほどの間で、さまざまな大きな変化が見られました。それはMRの仕事のあり方とも深く関係するものです。ここでは製薬業界の動向と今後のMRに求められるものについて、詳しく見ていきましょう。

製薬業界の動向とMR数の変化

ここ10年ほどで製薬業界に起こった大きな変化として、まずは医療従事者が、医療用医薬品情報をインターネットを通して容易に入手できるようになったことが挙げられます。特にコロナ禍において医療機関がMRとの面会を制限することで、この流れは決定的かつ不可逆的になったと言われています。それを示す一例として医薬品、営業&マーケティングのDX事業を展開するM3のプレスリリースを見てみましょう。これによれば、「リモートディテール」と言われるWEB面談ツール等を利用した製薬企業営業マーケティング支援サービスを導入した薬剤数が100を突破したとされています。リモートディテーリングでは、従来の対面での医師訪問と比べ、10倍前後の担当医師、10倍~20倍のディテール回数という圧倒的な効率化を実現できるため、製薬会社にとってもMR関連コストを削減でき、結果的にMRの削減に拍車がかかるという構図が読み取れます。

出典:エムスリー株式会社 | 2021年11月10日プレスリリース「製薬企業営業マーケティング支援サービス「メディカルマーケター」の導入薬剤数が100薬剤を突破」

また、製薬業界では、画期的な効果の新薬群(ブロックバスター)を創り出すビジネスモデルから、未だ満たされない医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)に応える方向にトレンドがシフトしつつあることに加え、これまで収益をもたらしてきた大型薬の特許切れ、及び「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」の普及が進んでいることや、抗がん剤などの患者や処方する医師の母数がかぎられるスペシャリティ領域が伸びていることなどにより、MRの役割が以前よりも縮小しています。

こういった背景からMRの数は2013年度をピークに10年連続で減少しており、2024年3月末の時点でのMR総数は前年比2,963名減で5万人を下回り46,719人となっています(MR認定センター発表2024年版「MR白書」による)。
2022年後半以降、年明けにかけて外資を中心に大規模なリストラがありました(ファイザー約500人規模など)が、2023年に入ってからは日系企業でも早期退職者の募集が相次いでいます。そして2024年もこの流れは止まらず、各社が早期退職を発表している状況です。以下は2023年度から早期退職者の募集を発表した製薬企業の一覧です。(対象はMRに限らない)

社名 対象 退職日
中外製薬 40歳以上の社員・シニア社員 23年6月末
塩野義製薬 50歳以上・勤続5年以上の社員
*管理職除く
23年10月末
アステラス製薬 勤続6年以上の営業部門の社員 24年3月末
参天製薬 50歳以上・勤続3年以上の社員・定年後再雇用社員 23年12月末
杏林製薬 ①50歳以上65歳未満・勤続5年以上の一般社員・定年後再雇用社員
②55歳以上・勤続5年以上の管理職
*MRなど除く
24年1月末
大正製薬 満30歳以上・勤続3年以上の社員 23年9月末
トーアエイヨー 勤続3年以上の社員(生産部・信頼性保証部は対象外) 24年11月末
田辺三菱製薬 45歳以上・勤続5年以上の社員 24年12月末
住友ファーマ 40歳以上・勤続5年以上の社員(生産、再生・細胞医薬事業部門は対象外) 24年11月末
協和キリン 30歳以上・勤続3年以上の経営職・一般職・再雇用社員(研究本部、生産本部CMC研究センター、品質本部グローバルCMC品質ユニットの一部組織) 24年12月末

 

MRの将来性と今後求められるもの

MR数の減少や早期退職の事例を見ると「MRの将来は大丈夫なの?」「自分はリストラされないだろうか?」と不安になるかもしれません。間違いなく今後のMRにはこれまで以上の高い専門性が要求されると考えてよいでしょう。ただし「数から質」への転換期にあるので、新しい医療制度や法律などの理解を深め、患者主体の医療に貢献できる人および、医師や薬剤師と深い信頼関係を築けるMRは活動の幅が広がっていくでしょう。

求められる具体的なスキルや知識としては以下の3系統に集約されます。
・症例ベースの情報
・市場分析に基づく営業スキル
・専門領域の高度な知識
それぞれを見ていきましょう。

症例ベースの情報

インターネットによる情報入手が一般的となった現在、医師がMRに求めるのは、インターネットでは入手が困難な個別の症例に基づいた薬剤の情報や、ほかの病院およびその専門医の処方情報です。
他社製品も含めて、症状に対してどういった処方が効果を上げたのか、細かいデータを収集した症例ベースの情報こそ価値が認められます。

市場分析に基づく営業スキル

MRの訪問面談に多くの医療機関が規制を強めたため、医師との面談機会が減り、関係構築が難しくなっています。かぎられた面談の中で、プロモーションを効果的に展開しなければなりません。
そのためには緻密な市場分析に基づいて、説得力のあるセールスプランを立てていくスキルが重要です。

専門領域の高度な知識

製薬会社の新薬がブロックバスターからスペシャリティ製品にシフトしてきたことや、オンコロジー(がん)領域の薬剤上市がより主流となりゆく傾向から、MRにはより高度な専門知識と最先端の知識が求められます。
そもそも製薬会社は化学だけでなく、生物学の知見も問われる業種です。大卒レベルを超える専門性の高い知識が求められる場合も少なくありません。医療情報を医療現場に伝えるMRには、当然ながら高度な知識が求められます。

 

製薬会社MRのキャリアパス

MRの道を極める選択肢の他にも、キャリアチェンジも存在します。ここでは製薬・ライフサイエンス業界でのキャリアコンサルタントとして5年以上の経験を持つタリスマン株式会社の根津氏にも協力してもらい、MRのキャリアパスについて、見ていきましょう。

MRとしてキャリアアップ

MRという職務を極めていくというキャリアパスがあります。極め方は主に3種類です。
まず、多種多様な製品を幅広く担当する、守備範囲が広いゼネラリストのMRです。次に、ゼネラリストとは逆に、1つの製品や領域の専門性を高めていくスペシャリストのMRという選択肢もあります。
もうひとつはMRとしてマネージャーや事業部長などの、管理職へのステップアップをするキャリアパスです。

MR経験を活かせるキャリアチェンジ

MR経験を活かして、異なるキャリアにトライするという道が2つあります。同業態の中でのキャリアチェンジと、別業態へのキャリアチェンジです。

経験を活かして同業態で別職種に進む

MRとして医療現場で培った経験を活かして、社内異動もしくは別の製薬会社に転職して医薬品のマーケティング職や教育指導担当、流通担当、人材部門担当になるケースもあります。

経験を活かして別業態に転職する

MRの経験と専門性を活かして、たとえば製薬会社ではなくCSO(医薬品販売業務受託機関)の営業部門や臨床開発部門などで働くことも可能です。

前述の根津氏は「MRとして培った知見が活かせる医療関連の職業はたくさんあると思います。なかでも先発医薬品の領域で経験され、26~39歳位までの方には、バイオベンチャー企業やコンサルティングファームで戦略的コンサルタントを目指すなど、比較的多くのオポチュニティがあるので、相談して欲しい」と語ります。

まとめ

製薬業界のMRの数は業界事情の変化によって年々減っており、数から質へと変化していますが、今後も人材需要が途絶えることはないでしょう。ただし、未経験・経験に関わらず、より高度な専門知識を学ぶことがMRとしてのキャリアを積む上では不可欠です。MRとしてキャリアアップするのか、経験を活かして他職種に転職するのか、ご自身のライフプラン・キャリアプランとも合わせよく検討しましょう。

製薬業界マーケティング職のキャリアについて、こちらの記事で解説しています。ライフサイエンス系の業務に関心のある方はご参考にどうぞ!

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