労働基準法の定める管理監督者とは?管理職との違いやその特徴を解説

労働基準法の定める管理監督者とは?管理職との違いやその特徴を解説

「管理職は残業がつかない」「管理職は労働組合に入れない」などといわれることが多いですが、果たして本当でしょうか?実は、管理職でもそれが当てはまらない場合があります。それを分かつのは労働基準法での「管理監督者」として認められるかどうかです。
今回の記事では労働基準法の管理監督者と管理職の違いを確認し、管理監督者の7つの特徴を解説します。管理職への昇格を控えているみなさんには関係があるので、注意深く読んでください。

「管理職」と労働基準法が定める「管理監督者」

一般的に管理職といわれているのは、「課長」や「次長」「部長」などの役職です。一方、労働基準法で定義される「管理監督者」は、必ずしも管理職と一致する者ではありません。
ここでは一般的な「管理職」労働基準法が定める「管理監督者」を、それぞれ定義づけて整理しておきます。

一般的な「管理職」

一般的に管理職は「部下を持つ役職」です。係長・課長・次長・部長などが典型的な管理職です。係長・課長・次長の3つは自身よりも上位の管理職の指揮下にあるので「中間管理職」とも呼ばれます。
部長に関しては上位職として取締役(役員)が存在します。取締役は上級管理職ともいわれる立場なので、構図としては中間管理職のように思えるかもしれません。
しかしながら、取締役はいわゆる社員ではないので、部長は社員の中の最上位となり、中間管理職ではないとされています。
また、係長の下に主任やチーフ、リーダーなどの役職を置いている場合もあります。それらは管理職の機能を一部有している職位で、厳密には管理職ではありません。境目の基準は決裁権があるかどうかです。
人選や予算、計画や戦略の決定など、業務遂行に関する項目を決裁する権利があるかどうかでいえば、主任クラスは一般的にありません。

労働基準法が定める「管理監督者」

労働基準法が定義する管理職は正確な表記をすると「監督若しくは管理の地位にある者」です。長い名称なので、通例として「管理監督者」と呼ばれています。これが法的な管理職と考えてよいでしょう。
管理監督者は労働基準法において「時間、休憩及び休日に関する規定」の適用から除外されると、第41条で定められています
つまり、管理職の中でも管理監督者にあたる人には、時間外労働や休日出勤という概念そのものが無意味なのです。定時以外に、もしくは定休日に仕事をしても手当はなく、また逆に定時内に必ずしも仕事をしなくてもよいのが管理監督者です。
いわゆるタイムカードによる勤怠管理を受けない人たちです。それでは、管理監督者の法的な定義とは何なのかについて、確認しておきましょう。

管理監督者の4つの条件

「管理監督者」と認められるためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
これらがひとつでも欠けていたら、労働基準法上の管理監督者には認められません。しかし一般的に、課長クラスでは以下の条件をすべて満たすのはなかなか難しく、おおむね部長以上の役職の中の一部の人が相当するといえるでしょう。
・経営者と一体になって企業経営に参画する
つまり役職の肩書きだけでなく、実際に代表者を含む経営幹部との意見交換ができる会議などに参加でき、自由に発言ができる立場かどうかが問われます。役職に就いていても経営幹部と話をする機会を持てない場合は、管理監督者とはいえません。
・企業の一定部門を総括する立場にある
所属企業の中でひとつの「課」や「部」などの部門を統括する立場にあるかどうかが問われます。課長職や部長職であっても、部下を持たされていなければいわゆる「名ばかり管理職」であり、管理監督者とは認められません。
・自らの仕事の時間や量に裁量権がある
管理監督者は自らの仕事の時間や量に、裁量権があるものです。管理職でありながら、さらに上位の役職に裁量を委ねられている場合は、管理監督者とは認められません。
・報酬面で十分に優遇されている
給与や一時金などの報酬面で、一般社員と比べて明らかに優遇されているかどうかが、問われます。管理職になる前の給与よりも下がる場合もありますが、そういうケースでは管理監督者になったとは認められないでしょう。

働き方改革による管理監督者の変更点

従来、管理監督者の労働時間に関して、労働法上は「把握を行うことが望ましい」という表現にとどまっていました。しかし働き方改革による法改正によって、管理監督者の労働時間を把握することが必要になりました
改正労働安全衛生法第66条では、従業員が一定の労働時間を越えた場合に医師による面接指導の実施義務を定めています。そのため、その対象となる従業員の労働時間を把握しなければならないとされています。
加えて厚生労働省は労働時間の把握をする労働者の対象として管理監督者も含まれると通達を出しているので、管理監督者においても労働時間も把握する必要があるとなったわけです。

管理職と管理監督者の違いからくるよくある誤解

管理職のよくある誤解として代表的なものは「残業がつかない」「労働組合に入れない」です。しかしこれらは、管理監督者にあてはまることです。
管理職であっても管理監督者でなければ「時間、休憩及び休日に関する規定」の適用を受けるので、時間外労働の手当の支給を受ける権利があり、残業代は本来つきます。もちろん組合にも入れます。
しかし実際にはその辺の誤解は広く浸透していて、課長クラスで管理監督者とはいえない管理職でも残業がつかず、組合に入っていないケースが多いのも事実です。

労働基準法上の管理職「管理監督者」の7つの特徴

労働基準法上の管理職である管理監督者には以下の7つの特徴があります。

  • 時間外休日手当はつかない
  • 深夜残業手当はつく
  • 有給休暇は取れる
  • 労働者代表にはなれない
  • 労働組合には入れない
  • 36協定の対象外
  • 安全配慮義務がある

それぞれを見ていきましょう。

時間外・休日手当はつかない

管理監督者には労働基準法の第37条で触れている、割増賃金についての規定が適用さません。そのため、時間外労働や休日出勤に該当する労働があっても、手当てはつきません。
ただし企業によっては、管理監督者にも残業代を支給するケースもあるようです。管理監督者には、そもそも振替休日や代休・半休などとは無縁です。なお、企業によっては、管理監督者にも時間外・休日出勤手当を支給するところもあるようです。

深夜残業手当はつく

深夜残業手当とは労働基準法で定める深夜時間帯(22時から翌朝5時まで)に働く場合の手当てです。労働基準法の第37条の深夜労働の割増賃金に関する規定に限っては、管理監督者にも適用されます。
そのため、一般社員と同様に深夜残業手当がつきます。時間の制約を受けない管理監督者といえども、健康を害するおそれがあるような深夜残業は慎重にということでしょう。

有給休暇は取れる

給与が支給される休暇日である有給休暇は、管理職とは関係ないと思われることが多いです。それは間違いで、管理監督者ではない管理職はもちろん有給休暇が取得できます。
さらに労働基準法の第39条における有給休暇についての規定は、管理監督者にも適用されます。それどころか、有給休暇が年10日以上ある管理監督者は、一般社員がそうであるように2019年の法改正以降は年5日以上の有給休暇を取得する義務があります。
まだ徹底されていない企業もあるかもしれませんが、法的にはそうなっています。

労働者代表にはなれない

労働者代表とは労働組合がない企業において、労働者の過半数によって選出される代表者のことです。
労働者代表について労働基準法施行規則第6条で規定される中で、管理監督者は対象から除外されています。そのため、管理監督者が労働者代表に選出されることは不可能です。

労働組合には入れない

労働組合法第2条では、企業に属する人を「雇用者」と「非雇用者」に分けた場合に、取締役や人事権を持つ監督的地位にある上級管理者は組合に属することができません。
そのため管理監督者との指定はないのですが、条文の定義から解釈すれば、管理監督者は労働組合には入れないと考えるのが妥当でしょう。

36協定の対象から外れる

36協定とは、企業が社員に法定労働時間(原則として8時間/日、40時間/週を超えて稼働してもらうために必要な、労使間の協定です。
管理監督者に対しては、労働基準法の「時間、休憩及び休日に関する規定」の適用を受けないため、36協定は対象外となります。

安全配慮義務の対象である

安全配慮義務とは、社員が労働に従事するにあたって、身体や生命の安全を確保するために必要な配慮を行う企業側の義務のことです。
労働契約法第5条では安全配慮義務について、管理監督者にも適用されると定めています。つまり企業は安全配慮義務の観点から、管理監督者の身体や生命が脅かされないよう配慮しなければなりません。

労働基準法の管理監督者と管理職の違いが生むトラブル

最後に、労働基準法の管理監督者と一般的な管理職の違い、もしくは混同が生むトラブルについて触れておきましょう。
よく発生するのが俗に言う「名ばかり管理職」の問題です。管理監督者とは到底いえない管理職に対して、企業にとって都合の良い部分だけ管理監督者として扱うために起こるトラブルです。
典型的な例は残業や休日出勤を強いるも、その手当てを支給しないという構図です。課長になって役職手当てはつくものの、かつての残業代に見合うほどの額ではなく、かえって課長になる前より給与総額が下がるケースがトラブルに発展することがあります。
そういう不適切な企業の処遇が度を超えると、過去にいくつもあった訴訟に発展するわけです。代表的なものは以下のとおりです。
・1965年:橘屋割増賃金請求事件
役員報酬もなく取締役会に呼ばれることもなかった取締役工場長が割増賃金を請求して起こした裁判。原告は一般社員同様に、時間の拘束や活動の制限を受けていました。管理監督者とは到底認められず、割増賃金の支払いが命じられました。
・1978年:静岡銀行割増賃金等請求事件
出勤時間の裁量権のない支店長代理職が割増賃金の支払いを要求して訴えた裁判。自分の仕事の時間や量に裁量権がなく、経営会議にも参加できませんでした。管理監督者に当たらないとされ、割増賃金の支払いが命じられました。
・1983年:サンド事件
裁量権も充分な待遇も与えられない工場の課長が、残業代の支払いを求めて起こした裁判。原告は充分な待遇も裁量権も、経営参画の権利もありませんでした。管理監督者の条件をいずれも満たしていないので、残業代の支払いが命じられました。
・1986年:レストランビュッフェ事件
未払いの時間外手当の支払いを求めてレストランビュッフェ店長が起こした裁判。原告は勤怠管理をされており、時間内は完全に拘束され、業務内容も一般社員と同じでした。管理監督者として認められず、時間外手当の支払いを命じられました。
・1997年:株式会社ほるぷ事件
出版会社支店の販売主任が、管理監督者ではないのに残業代が支給されないのは不当であるとして起こした裁判。原告はタイムカードで勤怠管理され、支店営業会議において議決権もありませんでした。管理監督者と認定できず、時間外手当の支払いが命じられました。
・2004年:日本マクドナルド事件
日本マクドナルドの現職の直営店店長が、過去2年分の割増賃金の支払いを求めた裁判。原告は店舗では重要な立場を担うも、経営者と一体的な立場とはいえず給与待遇も充分ではありませんでした。管理監督者には認められず、割増賃金の支払いが命じられました。

まとめ

ひとくちに管理職といっても、一般的な管理職と労働基準法が定義する管理監督者があります。これが混同されることにより、トラブルに発展することさえあります。
その実質的な立場が管理監督者なのかそうでないかは、適切な処遇であるかどうかにも影響します。これから管理職になるみなさんは、ここで紹介した情報をぜひ理解した上で仕事に臨んでください。

管理職に必要な資質に興味のある方はこちらの記事もどうぞ!

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