管理職という言葉のせいか、マネジメントという言葉が管理と同じように捉えられることが多いですよね。
しかしそのふたつが示す意味は、明らかに異なります。管理は枠からはみ出さないように「監督」することであり、マネジメントは工夫して成果を目指す「運営」を意味します。そして現代のような右肩上がりではない時代は、管理職には管理ではなくマネジメントが求められるのです。現代のビジネス環境や変化する働き方の背景のもと、本当に求められているのは管理ではなくマネジメントです。
今回の記事ではこの2つの違いを明確にした上で、現代のあるべきマネジメントを掘り下げて解説します。
目次
そもそも管理職とは?
まずは管理職と呼ばれるものについて、定義を明らかにしておきましょう。
管理職の定義
管理職とは、組織内の部門や部署が主体的に業務を進めるための裁量権を持ち、従業員の指揮を執って組織運営に当たる役職を指します。組織を構成する者の数が増えてくると、業務内容を系統別に部署として分け、分担することが合理的です。そのため、企業組織では通常業務に関して管理職に裁量権を認めます。
任された組織の意思決定の責任を担う管理職は、日系企業においては主に課長や部長、外資系企業ではマネージャー、ディレクターなどのポストがそれにあたります。課長の下位役職になる係長や主任は、部分的に管理職機能を与えられているポストです。また、部長の上位役職になる取締役や社長、CEOなどは組織全体の指揮を執る管理職といえるでしょう。
法的な管理職は管理監督者の要件を満たす者
法律の上で管理職を指す言葉は「監督若しくは管理の地位にある者」または「管理監督者」と呼ばれます。この「監督若しくは管理の地位にある者」と認められるためには、以下の4つの要件をすべて満たさなければなりません。
- 企業経営に経営者と一体になって関与する
- 企業の一定の部門を統率する立場にある
- 自身の業務量や執務時間に裁量権がある
- 報酬面で一般職よりも充分に優遇されている
2番目から4番目に関しては、多くの管理職が該当するでしょう。しかし、1番目の「経営者と一体になって」に関しては、必ずしもそうではありません。特に一般的な課長や一部の部長だと、経営者との一体感がないこともありますよね。4つの要件がすべて該当するのは、専務や常務、あるいは〇〇本部長などの経営幹部クラスといえます。つまり、一般的な管理職と法的な管理職には少しズレがあることも、知識として理解しておきましょう。
右肩上がりの時代における管理職の役割
戦後に度々訪れた日本経済の右肩上がりの時代においては、管理職の役割は現代と少し違いがありました。それはどういうことか、詳しく見ていきましょう。
管理とは何か?
そもそも「管理」という言葉は「それぞれの働きが保てるよう全体に気を配り取り仕切ること」を意味します。
一般的な企業での管理体制は、社長を頂点にして底辺で企業を支える社員まで上下に階層を形成するピラミッド構造になっています。その中で管理職として部長や課長などの役職にある人は、業務管理と同時に経営陣の意思を現場の部下に伝え、統制する責任を持ちます。
かつては管理さえすれば企業は回った
かつての管理職の重要な役割は、部下の動きが既存のやり方やルールから逸脱しないように監督することでした。来る日も来る日も同じ事を基準から外れず、多くの量をこなす必要がありました。なぜならこの時代では変化する必要が一切なく、ただ決められることを正確かつ着実に実行すれば、業績は向上していたからです。
だからこそ、管理職にとって部下統率のために最も適していた手法が管理だったのです。その名残として、自らの仕事を部下の管理と考えている前時代感覚の管理職が、いまだにあちこちで見られます。
現代の管理職に求められるマネジメント
しかしながら、デジタル革命で情報格差がなくなった今となっては、ビジネス環境の変化のスピードは相当早くなります。以前と同じ事しかしない企業は、瞬時に置いてきぼりを食ってしまうようなことがデフォルトの時代となりました。ピラミッド型の管理構造で支えられてきたかつての日本の企業は、このような変化の時代においては、従来の管理手法のままでは企業としての成長が困難になってきました。
そこで注目されてきたのが、日本型の管理とは大きく異なる欧米のマネジメントの考え方です。
マネジメントの定義と管理との違い
ここで、マネジメントの定義について触れておきましょう。
マネジメント(management)の意味としては「管理」も含まれますが「経営」「運営」も意味します。動詞はmanageで「やりくりする」「取り締まる」「監督する」「管理する」などの意味です。つまりマネージャー(manager)は「管理者」「監督者」だけでなく「運営者」「経営者」の意味があり、マネジメントの考え方からいえばむしろ「運営者」「経営者」の方が適切といえるでしょう。
企業におけるマネジメントは、ひと言でいえば「上手にやりくりして目標に向かうこと」です。もう少し具体的にいうと、一定の成果を上げるために、効果があると思われるあらゆる手法やリソースを用いて最善の方法で組織を動かすことがマネジメントといえます。ここで最も重視されるのは、成果を上げることです。また、マネジメントは問題解決の手段でもあり、そのために計画性や組織力、リーダーシップなどが大切です。
部下の行動を型にはめる管理は、現代ではもはや有効性が薄れています。時代が求めるマネジメントとは、組織としての成果を目指して、各人の能力を最大限に発揮させるための、あらゆる工夫を施すことです。
管理職によるマネジメントの役割
マネジメントの考え方を広めた最大の功労者のひとりである、オーストリア生まれの経営学者ピーター・ドラッカーのマネジメント論をもとに、マネジメントの役割を見ていきましょう。
彼はマネジメントを、組織に成果を上げさせるツールや機能、機関であって、組織の成果に責任を持つ者こそマネージャーであると断じています。管理職の最大の役割は、企業経営に貢献する成果を導き出すことに尽きます。管理はそのうちの、ひとつの項目に過ぎません。そういう意味では前述の法的な管理職の要件の1番目である「企業経営に経営者と一体になって関与する」は、日本的管理よりも欧米的マネジメントに近い考え方といえるでしょう。
この要件が多くの管理職に欠けていること自体が、日本的管理手法の特徴を図らずも表しているかもしれません。右肩上がりの時代は、日本的管理手法の徹底が経営への貢献に直結できた時代でしたが、もはやそういう時代ではないことを認識しましょう。部署や部門としての成果を出すためにあらゆる工夫と手段を用いることが、何を差し置いても管理職が果たすべき役割です。
マネジメント職なら知るべき労働の5つの次元
ドラッカーのマネジメント論では、労働について5つの次元があることを説いています。「生理的次元」「心理的次元」「社会的次元」「経済的次元」「政治的次元」の5つで、マネジメント職にとって、この5つを理解することが重要です。
それぞれの次元を詳しく見ていきましょう。
生理的次元
生理的次元とは考え方や思想よりももっと本能的な、心身に直接影響を与えるものごとを意味します。
労働で考えればその主体であるメンバーに、かりに多様性を否定するような長時間にわたってひとつの単純作業を延々と繰り返すような仕事を与えると、精神的に疲弊してしまいます。あるいは体力的に過酷な条件で仕事を続けさせると、身体の健康面が破綻します。マネジメントにおいて部下の生理的次元を考えれば、機械のように扱ってはいけないと理解できます。
心理的次元
人間にとって労働とは、喜びと苦しみの両方を与えてくれ ますよね。そのため、労働は自己実現の観点で、心の動きに大きく影響を与えます。マネジメントには、労働を通して自分の価値を知り、人間性を確かめる心理的な側面を考える必要があります。
社会的次元
労働は、メンバー同士やメンバーと社会をつなぐ社会的な営みです。一日の多くが労働に費やされている点からも分かるように、職場はコミュニティとしての重要な役割を果たしています。そのため、マネジメントにおいては職場を、極めて社会的なものとして捉える視点が重要です。
経済的次元
労働は、金銭を得るための手段であることが大前提です。その上で、労働によって得た金銭を使うことで他の労働者の仕事が生まれ、その労働者が金銭を得てそれを使うというつながりが延々と生み出されます。
政治的次元
政治的次元は権力関係や権力構造を意味します。上司と部下や部署間の対立、派閥などの構造からも分かるように、企業活動には権力的な構造がつきものです。マネジメントにおいては、労働の政治的次元について考えることも大切です。
マネジメントに必要な5つの能力
ドラッカーはマネジメントを行うにあたって必要な能力を、以下の5種類に分けて説明しています。
- 問題解決能力
- 組織化能力
- 目標設定能力
- 評価測定能力
- コミュニケーション能力
個別に見ていきましょう。
問題解決能力
マネジメントには問題に対して適切に対処し、解決する力が求められます。その対処の仕方についてドラッカーは、あらゆる決断やアクションにおいて、すぐに必要されているものと少し先に必要となってくるものとを調和させていくことであると説いています。
また、問題とは組織にとって決してネガティブな障壁ではなく、成果を出すために考慮すべき可能性のひとつであるともされています。
組織化能力
マネジメントには、部下をまとめて組織として機能させる力が必要です。組織化する能力は、個の集まりから組織を創造する力です。ドラッカーは、マネージャーが用いることができるリソースの中で、特に人的リソースのあらゆる強みを発揮させると同時に、あらゆる弱みを消さなければならないと説いています。それこそが、個から組織を創造するただひとつの方法であるとしています。リソースを常に考え、リソースを強みに変え、弱みを消しつつ全体を昇華させる力がマネジメントであるという考え方です。
目標設定能力
マネジメントは常に目標に対して真摯に向き合い、具体的に設定する能力が必要です。目標を適切に設定するためには、目標とはどうあるべきかを理解していなければなりません。
ドラッカーは目標について、チームとしての成果をはじめから組み込んでおかなければならないと説いています。あらゆる目標は、常に組織全体の目標から引き出したものでなければならず、現場の末端に近い主任の目標さえ、企業全体の目標に基づいた目標であるべきとしています。つまり、組織全体としての成果を根幹に、それぞれのメンバーに合う視点で適切な目標を設定する能力が必要です。
また、目標設定の観点について、ドラッカーは以下の5つ観点を挙げています。
- 短期的目標
- 長期的目標
- 無形の目標
- 勤務態度および姿勢の目標
- 社会に対する責任としての目標
評価測定能力
マネジメントには、組織を形成する基礎単位であるそれぞれのメンバーを評価・測定する能力が求められるとドラッカーは説いています。
一人ひとりのメンバーには、それぞれの欲求がありますよね。そして、いかなる組織もメンバーのそういう欲求を理解して、評価に対する具体策を施す評価測定能力が必要です。それによって、彼らに自らの価値や役割、位置付けを理解させることができます。
コミュニケーション能力
マネジメントには組織として成果を上げるための、優れたコミュニケーションが必要です。ドラッカーはコミュニケーションについて、それは知覚であり期待であり欲求であって、単なる情報ではないと定義しています。コミュニケーションが成立するためには、受け手の知覚能力を考慮しなければなりません。期待されているコミュニケーションは受け入れられますが、期待されていないものは避けられます。
つまり相手の期待を理解することで、その期待をコミュニケーションに活用することができるのです。コミュニケーションは、受け手の欲求との合致に左右され、コミュニケーション能力次第で、欲求を変化させることもできます。そして、コミュニケーションは単に情報を与えるだけではなく、しっかり相手に知覚させることが重要であるとしています。受け手の期待や欲求を理解して活用しながら、知覚に訴えるコミュニケーションを行う力がマネジメントに求められるのです。
マネジメントスキルを磨くための方法
日頃から実践して訓練できる「ディズニーストラテジー」や、良質な本で学んだことを現場で実践することなどがマネジメントスキルを磨くためにはおすすめです。それぞれを見ていきましょう。
マネジメントスキルを普段に磨く訓練方法
普段からマネジメントスキルを磨くための方法として、「ディズニーストラテジー」を紹介します。
ウォルト・ディズニーがまだ無名で大きな夢を描いていた頃に「夢想家」「現実家」「批評家」という3つの視点を常に意識し続け、その結果夢を実現したことに倣う方法です。現実だけを見ていても、夢は広がりませんよね。夢想家(ドリーマー)は長期にわたる戦略を、視野を広く持って考え、周りに夢を語ります。部下が目の前の現実に向き合うことで精一杯のときに、その先のゴールがもたらすポジティブなイメージを喚起させられれば、モチベーションを上げる力になります。
それとは真逆の現実家(リアリスト)は、夢を現実のものにするための具体的な方法やプランを考えます。具体性がなければ実現性も限りなくゼロに近づくからです。それぞれ部下がタスクを予定通りに進めるために、各部下に具体的に合う合理的な工夫で組織の効率を上げる力になります。
批評家(クリティック)はリスクや課題を見つけ、実現の可能性を高めます。批判のための批判ではなく、課題を見極めるポジティブな視点です。現状で満足しがちな部下に、課題解決がもたらす喜びがあることを教える力になります。
このように4つの視点を意識して実現性を高める考え方が、ディズニーストラテジーです。
本で学んだことを、仕事の現場で実践しよう
マネジメントについて書かれた本はたくさんあります。レビューなどから良さそうなものを見極めてそれらを熟読して学び、得たものを仕事の現場で実践してみましょう。おすすめの本として、ピーター・ドラッカーの『マネジメント 基本と原則 エッセンシャル版』とデール・カーネギーの『超訳 カーネギー 人を動かす エッセンシャル版』の2冊を挙げておきます。どちらもマネジメントのバイブル的な書籍として、世界的なロングセラーです。
ドラッカーの方は、ここでも紹介したような、個と組織に光を当てたマネジメント論です。一方、カーネギーの方は、主に人間の思考・行動パターンの深い理解から発する心理的なマネジメント論といえるでしょう。
『超訳 カーネギー 人を動かす エッセンシャル版』の詳細を見る
まとめ
欧米流のマネジメントと日本的な管理の違いを明確にした上で、現代のあるべきマネジメントを掘り下げて解説しました。もはや右肩上がりの時代に通用していた管理という考え方では、管理職としての役割は果たせません。
マネジメントの中には管理という要素ももちろん含まれますが、それは一部です。あくまで本質的な役割は担当部門や部署としての成果を上げて、企業経営に貢献することだと認識しましょう。