管理職の退職が及ぼす影響とは?在職強要やタイミングについても解説

管理職の立場にある人が退職することは、役職に就いていない人のそれと比べて、さまざまな面で影響を及ぼします。退職を告げる時期などもベストなタイミングに迷うこともあるでしょう。
また、必ずしも円満退職になるとは限りません。場合によっては在職を強要される場合もあります。この記事では管理職の退職に関して起こりえるさまざまな事柄について解説します。

管理職の退職が周りに及ぼす影響

管理職は会社組織の中で、主に課長職や次長職、部長職などを指します。ある部門や部署を統括し、ある程度の裁量や権限を持って業務を進める重要な役職といえるでしょう。
そんな管理職が退職をすることになると、周囲に及ぼす影響も大きいものがあります。ここでは具体的にどのような影響があるのかを見ていきましょう。

会社への影響

管理職が辞めると、会社としては組織上のその役割を任せる人材を内部あるいは外部から確保しなくてはなりません。
その部門や部署の中で、退職する管理職の部下の中から適任者が選ばれるのが一般的です。しかし場合によっては、外部からリクルートすることもあります。
また、その管理職の退職がトリガーとなって他のスタッフが退職を考え始める場合もあるでしょう。中にはその管理職が、見込みがある部下を数人引き連れて退職するような場合もあり、トラブルや訴訟沙汰になることも過去にありました。
他には、辞めた管理職が同業種に就職する場合、辞めた会社でつながりがあった個人や法人の顧客が、管理職が行った先に鞍替えしてしまうこともあります。これも場合によっては、訴訟問題に発展することがあるのです。
このような管理職の同業種への転職には法的な規制があり、それについては後の「法的な注意点」にて詳述します。

部下への影響

管理職の退職は部下にとって、大なり小なり動揺を与えることが多いのは事実です。退職するのが人望を集めていた人であればあるほど、その動揺も大きくなりがちだといえます。
それは心情的なものだけではありません。業務の上でも、上司であり部署の中枢である人が代わるので、少なからず緊張感を生むことは否めないでしょう。
そういう意味からも、できれば突然の退職は避けたいところです。部下に対しては自分の退職後にも部署の業務が円滑に進むように、配慮しておくことが望まれます。
後任者が決まっていれば丁寧な引き継ぎの作業を行い、決まっていなければ信頼できる部下に業務上の重要な項目の判断基準などを伝えておくことが、適切な退職準備といえるでしょう。
ただし、退職理由を詳細に説明する必要はありません。退職理由は会社にとってネガティブなものになりがちなので、むしろ避けるべきでしょう。
辞める側にすれば心情的には不満を部下にいい残したくなるかもしれません。しかし、今後も組織に残って頑張っていく部下には余計なことをいわないスタンスが好ましいと考えられます。

取引先への影響

管理職が退職すること自体が、直ちに取引先に大きい影響を与えるわけではありません。ある程度の引き継ぎ期間を経た、円満な退職ならまったく問題にはならないでしょう。
問題となるのは突然の退職です。取引先にすれば管理職のような立場の人が突然辞めるとなると、社内事情が芳しくないと考えてしまっても無理はないでしょう。
まして、その管理職の信頼が厚く、パイプ役となっていたのであれば取引自体が再考されかねません。よって、よほどのことがない限り、関係する取引先には、最低限の説明と引き継ぎを前もって行っておくべきです。
また、取引先が次の就職先などについて訊いてくることもあるでしょう。しかし、もしそれが取引先の鞍替えなどにつながる場合は、次に述べる「競業避止義務」違反となって法的な問題が生じる可能性があります。
顧客を取ってやろうという意図はなくとも、結果的にそうなった場合には訴訟に発展することもありえるでしょう。管理職の中でも「管理監督者」に該当する部長職や執行役、エグゼクティブマネージャーであれば慎重に行動することが賢明です。

法的な注意点

管理職といっても他の一般社員と同様に、会社と雇用契約を結んでいる一社員です。管理職が退職すること自体は、法的な問題はありません。
ただし、その管理職が労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合は注意すべき点があります。
ここで前置きとして管理監督者を少し説明しておきましょう。

管理監督者の定義

法的な管理監督者とは以下の要件をすべて満たす管理職のことです。

●経営者と一体になって会社の経営に関与する者
●会社の一定部門を総括する立場にある者
●自分の仕事量や時間に裁量権がある者
●給与面で充分に優遇されている者(目安は役職に就く前の1.5 倍の給与)

組織上の役職として管理職であっても、これらの要件を満たさない場合は法的な管理監督者に該当しません。その場合は、管理監督者が適用を除外される労働基準法上の「時間、休憩及び休日に関する規定」が適用されるのです。
つまり、時間外労働や休日出勤に関して一般職と同様に一定の制限があり、それを超えてはならず、その範囲内の労働には対価が支払われるべきとされます。
つまり、管理職だから時間外手当は支給されないというのは実は間違いで、管理監督者にあたらない管理職は本来時間外手当が支給されるべきなのです。
しかしながら、現実的にはその線引きが曖昧となっています。部下を持たない「名ばかり管理職」も含めて、管理職を任命することで時間外手当がつかない立場にくくられてしまいがちです。その中で、しばしば残業代の未払い請求などの訴訟問題が起こっています。

管理監督者の退職の注意点

さて、退職する管理職が法的にも管理監督者と認められる立場の起こり得るトラブルに目を向けて見ましょう。
上記の管理監督者の定義からすれば、管理職と呼ばれる人たちの中で、管理監督者に充分該当すると思われる管理職とは、部長職およびその上位職である執行役やエグゼクティブマネージャー、シニアマネジメントなどになります。
彼らには労働基準法ならびに商法、会社法における「競業避止義務」が課せられるのです。
競業避止義務には2種類あります。

●在職中に使用者の不利益になる競業行為、つまり競合他社との兼業などを禁止すること
●退職後に競業他社への就職を禁ずる特約が就業規則や入社時の誓約書に示されている場合の履行義務

実際に問題化して訴訟が起こされるのはほとんどが後者の、退職後の競業他社への就職の場合です。
多くの会社では、自社の就業規定で退職後の一定期間は同業他社への就職を禁止する旨を定めています。あるいは入社時の誓約書に同様の趣旨が含まれることもあるでしょう。
もちろん、会社の就業規定よりも法律が優先されるので、一般職の者は就業規定に関係なく、基本的に退職後において前職の就業規則の制約を受けることはありません。
しかし、競業避止義務の対象者である者(部長・執行役等)の場合は、会社から差し止め請求や損害賠償請求がなされることがありえます。
ただ、この競業避止義務の有効性については、日本国憲法22条1項の「職業選択の自由」との関係が問題となって、未だ明確な判断基準はありません。あくまで訴訟になった場合の個々のケースによって判断されているのが現状です。
いずれにせよ、退職した管理職が管理監督者に該当し、退職後に競合他社に就職した場合の一部においては、訴訟を起こされることがありえます。

在職強要と対応の仕方

管理職などの要職に就いていた人が会社に退職の意向を伝えた時、引き留めをされることはよくある話です。
しかし、引き留めという範囲を超えた、脅しを伴った強引な「在職強要」が一部の会社ではあって、時折問題となっています。
ここでは在職強要の具体的な例と、対処の方法を解説しておきましょう。

退職届を受理しない

上司に退職届を提出したものの、受け取りを拒否されたり、受理されずただ保留されたりというケースです。
もちろん、このように悪意によって退職届を受理されなかったとしても、退職を申し出ること自体は口頭でも通用します。よって、退職届が受理されなくても退職はできるのです。
ただし、口頭だけで退職を伝えた場合には、後に退職をめぐる何らかの裁判になった場合に、退職を申し出た証拠になりにくいのは否めません。
退職届が受理されない場合には、万一の場合の備えとして内容証明郵便で退職届を会社に送付するのがよいでしょう。実際に退職の意向を伝えたという証拠を残すことになるのです。

損害賠償を請求される?

退職の意向を伝えると、「あなたが退職することは我が社に損害を与えるから損害賠償を請求します」などと、脅されるケースも実際にあります。
しかし、管理職を含む一般的な会社員がその会社と結んでいるのは「期間の定めのない雇用契約」です。
この雇用契約は退職をいつでも申し出ることができて、2週間の経過を以って契約が終了するとされています。そして、退職した場合に会社が損害を被ったとしても、その賠償責任はありません。
ちなみに「期間の定めのある雇用契約」とは契約社員や嘱託社員などの、3ヶ月間や1年間などの雇用期間が決まっている場合です。
この契約においては、期間が終了するまでは、病気や怪我や親の介護などのやむを得ない理由がなければ、原則として退職できません。しかしそれでさえ、途中で辞めたとしても、実際に損害賠償が認められることはほとんどないのです。

懲戒解雇にされる?

管理職が退職を申し出ると、「どうしても辞めるなら懲戒解雇にする」と脅されるケースもあります。自己都合ではなく懲戒解雇にされてしまうと、離職票にその旨が記載されるのです。
これは次の就職に際して、不利に働くおそれがあります。しかし懲戒解雇というものは、就業規定などに大きく違反して、職場の秩序を乱して経営に悪影響を与えた場合に認められる処分です。
そういう事実がない場合に、懲戒解雇を適用することはできません。会社側は引き留めのために脅しでいうだけなので、無視すればよいのです。
万一、本当に懲戒解雇として離職票に記載された場合でも、不当であればすぐに弁護士に相談して、撤回させることができます。

管理職が退職意向を告げるタイミング

前述のように一般的な会社員は「期間の定めのない雇用契約」なので、退職希望日の2週間前に申し出れば法的には問題ありません。
しかし現実問題として、管理職の立場にある人なら、少なくとも1〜3ヶ月前には退職の意向を会社に伝えておくほうがよいでしょう。社内外の引き継ぎなどを考えれば2週間では無理があります。
円満退職を望むのであれば、社内の周囲の人たちや取引先へのマイナスの影響は、できるだけ抑えることが必要です。
また、早めに退職意思を伝えることで、会社は慌てないで最適な後任者を探すことができます。それは取引先への対応を考えても、望ましいことです。

繁忙期の退職避けるのは自分のため

業界や業種によって、繁忙期がある程度決まっているものです。この繁忙期や繁忙期の直前のタイミングで退職するのは、できるだけ避けるべきでしょう。
部門や部署、ひいては会社、そして取引先にできるだけ迷惑をかけないための配慮としても当然のことです。しかし、それだけではありません。
次に行くところが決まっている退職なら問題ありませんが、転職活動を退職後に始める場合には不具合があります。
志望された会社からすれば、前の会社の繁忙期やその直前に退職する人というのは、あまりよい印象を持たれないおそれがあるのです。法的に問題はなくとも、ビジネスパーソンとして無責任であると思われかねません。
自分の希望に沿う転職先を見つけるためにも、前の会社に対して不義理をせずに、きれいな辞め方をするべきです。
もちろん、元の会社に大きい不満や恨みがあったとしたら、心情的にはそこまで配慮する気にならない場合もあるでしょう。それでも、万一そういう細かい部分で就職先が狭められるとすれば、結局自分自身が損をするだけです。
不満も鬱憤も飲み込んで、円満な退職の仕方をする管理職こそ、次の職場でも大いに活躍ができるのではないでしょうか。

まとめ

管理職の退職について、さまざまな角度から想定できる影響やトラブルについて解説しました。終身雇用が崩壊しつつある日本の会社の中で、管理職の退職、転職は今後増えていくことでしょう。
転職を検討している管理職のみなさんは、ここでご紹介した退職に関して想定できる情報なども参考にしていただき、できるだけ円満な引き際を迎えて、素晴らしい転職先に巡り合ってください。

Talisman編集部

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