部下が大きく成長したと感じる時とは、
「仕事を期日前に、ミスなく終え、成果を出した」
「より良い方法を自ら提案して、実施し、仕事の効率を上げた」
のどちらでしょう。
多くの人が後者だと思うのではないでしょうか。
なぜなら、後者のような成長がそのまま組織を成長させることになるからです。
両者の違いは、自ら考えて行動できるかどうかです。
上司がヒントを出すこと無く、より良い方法を考えて提案できるようになるには、適切なガイドが必要です。適切なガイドとは、ヒントやアドバイスを与えるのではなく、相手が自らの考えをまとめることを助け、行動に移す際に背中を押すことです。
コーチングとはこのようなガイドを行えるコミュニケーションツールです。
具体的には傾聴、承認、質問といったサイクルのコミュニケーションで相手の潜在意識の中から考えを引き出し、最終的には自発的なアクションプランを導き出す手法です。
そのためにコーチする側は、コーチされる側の気持ちや考えをコーチが鏡となって写しだし、言葉の真意を深掘りしていきます。
その中で、目指す先が何なのか、障害がどこにあるのか、乗り越えるためにはどんなことが必要かを聞き出していきます。
もし、上司との定期的なOne on One (一対一の面談)でコーチングが効果的に機能すれば、部下は自らの考えで行動が進み、短期間で大きく成長します。
ここではある会社のプロジェクト推進部を舞台に、上司と部下とのOne on Oneの様子を会話形式で見ていきながら、目標達成のためのコーチングの手法を数回に分けて解説していきます。
下記はこの面談の舞台の背景と登場人物についてです。
彼らはオミヤゲドットコムという会社の社員です。彼らはMade in Japanの製品だけを売る通販のジェイズグッズカンパニーという部門を2020年4月までに立ち上げなくてはなりません。プロジェクト推進室の使命は、このビジネスの中核となるMade in 他国製品を制御する“EXO”というシステムを、3月第一週までに立ち上げることです。
プロジェクトマネージャーの佐久間はチームメンバーの成長のためにOne on One(一対一の面談)をコーチングで行うことにしました。主に直属の部下で、女性管理職のプロジェクトリーダー菅沢を対象としています。
主な登場人物:
佐久間省吾 35歳 プロジェクトマネージャー
菅沢莉子 32歳 プロジェクトリーダー
東堂聡志 28歳 プロジェクトメンバー
目標を明確化する その1
セッションのポイント
① コーチングでまず大事なことは、まず、コーチングを行うという事を相手に伝え、相手にその知識があるかどうかを確認することです。もしコーチングの知識がない場合は、簡単にでも、説明してから行いましょう。ずいぶん浸透したとはいえ、まだ、アドバイスをもらえる、ティーチングをしてもらえると思っている人や、テーマを自分から伝えることを知らない方もいます。
② 次に大事なことは何のためにコーチングを導入したいのか明確にすることです。
今回は、人と部署の成長が大事であるという事を佐久間は菅沢に伝えています。
③ 部下にコーチングを行う場合、上司は、部下が短期間に成長してくれることを望んで導入することがほとんどです。ですが、どのようなゴールを彼らが出してくるのかは、彼ら自身から引き出し、数値にこだわらず、将来を見据えた広い質問をしましょう。その方がより、自由で、彼らの潜在意識からの回答が得られます。
④ 目標を伝えてもらったら、いつどのような形でそれが達成できたかを、確認する方法を聞くことも大事です。これはコーチとコーチされる側が達成時に確実に達成できたことを共有できる目安になるからです。
⑤ コーチングの時間は、100%相手の時間です。会社の個人の目標についてのテーマがメインだったとしても、時には、もっと別のことを解決しなくてはいけなくなる場合もあります。例えば、他部署との軋轢を早急に解決しなくてはいけない。もしくは家庭のことが気になっていて仕事に集中できないなどです。一見、目標と関係なさそうなテーマがでてきたとしても、コーチされる側から出てくるテーマを大事にします。
今回、佐久間はプロジェクトをしっかり立ち上げたいと思っている菅沢に、菅沢の目標について確認しています。ここで目標達成のためのコーチングについて確認します。
目標達成のためのコーチングの手順は一般的に下記のようになります。
1 目標を明確にする
2 現状把握をする
3 課題や障害を確認する
4 課題の優先順位を確認する
5 アクションプランを導き出す
6 フォローアップする
日ごろ品質改善活動をされている方や、PDCA(計画、実施、チェック・振り返り・アクションプランを考える)を実施されている方には非常になじみのあるフローだと思います。
これまで部署でもコーチングを行ってこられたマネージャーの方には、上記のようなテンプレートを元にコーチングを実施してみたという方がいらっしゃるかもしれません。
また、こういったフローを使っても、なかなかうまくいかずにやめてしまったという経験の方もいらっしゃるかもしれません。
よりよく続けていただくために、ここで、コーチングをうまく進めるための物理的な注意点をお伝えします。
コーチングが使えない場合とその対策:
急いでいる場合や、トラブルに見舞われているときには、他の方法をとらざるを得ない場合があります。
たとえば、解決を急ぐトラブルの場合や、メンバーが全く未経験の事象に対処する場合です。通常コーチングではしない指示命令、ティーチングやアドバイスが必要な場合もあります。
そういった場合でも、後日振り返りでコーチングを導入することによって、次回からより自発的な行動につなげられます。
面談時間:
コーチングは導入からアクションプランまでを導き出すのに20分から40分が必要です。コーチングで面談を行う場合、余裕を持って60分の面談時間を設定することをおすすめします。
頻度:
毎回のアクションプランについての進捗確認もセッションの一部です。週一回または二週間に一回、もしくは最低一ヶ月に一回は行いましょう。
環境:
コーチングは潜在意識を引き出すコミュニケーションです。誰かに聞かれていると思うと潜在意識に降りていく妨げとなります。コーチする側とコーチされる側以外に聞いている人のいない環境を用意しましょう。
コーチングでOne on One(一対一の面談)を行う際のチェックポイント
□ コーチングで相手の話を聞くときにはコーチングだと伝え、相手に知識があるか確認しているだろうか
□ コーチングを導入する目的を相手に伝えているだろうか
□ 個々のゴールを確認する際には、数値でない場合は達成したときの状態を共有してもらっているだろうか
□ 面談をキャンセルした場合は、必ず再度の設定を提案できているだろうか
□ 面談時間は正味40分を確保できるように、時間を設定しているだろうか
□ 一対一のコーチングを行う時には、他の人に聞こえない環境を用意しているだろうか
*この物語に登場する人物名、団体名、システム等はすべて架空のものです。