採用基準の正しい決め方を知って、ほしい人材を逃さない!
「企業は人なり」「人的資本経営」といった言葉からわかるように、企業にとって人材は大きな財産です。企業の発展は人材があってこそ。それゆえに企業と人との相性は無視できません。どれだけ才能ある人材でも、企業文化や業務内容が合わなければ実力を発揮できないものです。
人材獲得競争が激化するなか、人材を採用できた喜びもつかの間、ミスマッチや離職に悩まされてはいないでしょうか。もしそうだとしたら、原因は採用基準にあるかもしれません。今回は、ほしい人材を逃さない採用基準の正しい決め方を探っていきます。
採用基準とは何か
そもそも採用基準とは何か、また、採用基準がなぜ重要なのかを改めて確認しましょう。
採用基準とは
採用基準とは、採用選考における「ものさし」です。
自社の求める人材像に合致するか否かを測るツールであり、社内で採用選考に関わるすべての人が共有しておくべきルールといえます。
採用基準の重要性
では、なぜ採用基準を決めることが重要なのでしょうか。理由のひとつは、適任者を見極めるためです。任せる仕事を全うできるのは、どのような適性があり、どのような能力をもつ人物なのか——。
たとえば、仕事Aでは「ネイティブと同等の英語力」が不可欠であり、仕事Bでは何よりも「協調性」が必要であり、仕事Cでは「主体性」が欠かせないとします。仕事Aの適任者は仕事B・Cの適任者とは限らず、逆もまた然り。採用基準がなければ、適任者であるか否かは判別できません。あらかじめ採用基準を明確にしておけば、適任者を採用できる可能性が高まります。
採用基準が重要な理由のもうひとつが、採用選考の属人化を防ぐためです。採用選考は、採用担当者の仕事ですが、採用を担当している人や部署だけでは完結しません。たとえば、新卒採用の場合は、たいてい役員面接があり、中途採用の場合は、入社後に直属の上司になる人が面接に同席することが多く、社内のさまざまな人や部署がさまざまな立場で採用選考に関わります。誰かの主観に偏った採用選考にしないためにも、共通の「ものさし」が必要なのです。
採用基準の正しい決め方
採用基準があると、適任者を採用できる確率は上がります。しかし、ものさしの目盛りが狂っていると正しく長さが測れないように、不合理な採用基準では正しく人材を評価できません。採用選考の精度を上げるために、採用基準の正しい決め方を押さえておきましょう。
採用基準の決め方 3つのステップ
採用基準の正しい決め方で、確実に押さえておきたい3つの手順をまとめました。この3つのステップを踏まえて、自社の採用基準の決め方をまとめた「ものさし」をつくりましょう。
ステップ1:人材要件の定義
最初のステップは、人材要件の定義です。企業の経営理念や経営戦略を踏まえ、求める経験やスキルを明確にしていきます。そのために、担当業務の内容を洗い出したり、役職者や現場の社員に求める人物像をヒアリングしたりするなどして念入りに準備します。
あわせて行いたいのが、コンピテンシーモデルの構築。コンピテンシーとは、英語のcompetency(能力、適性)がもとになった言葉で、「優れた成果を発揮する行動特性」を指します。つまり、成果につながる行動の根底にある、動機や価値観などのこと。知識やスキルとは異なり、なかなか見えづらいため、安定的に好成績を上げている社員たちを観察、調査して、共通する行動特性を抽出して明らかにしていきます。それを体系的に整理して、部署や職位、仕事内容ごとに類型化したものがコンピテンシーモデルです。採用選考のほか、人事評価やキャリア開発に活用されています。
ステップ2:ペルソナの設定
次のステップは、ペルソナの設定です。これは英語のpersona(仮面、人格)で、マーケティングでは自社の製品・サービスのユーザー像を指します。採用基準を決めるときのペルソナは、採用したい人物像のこと。前項のコンピテンシーモデルをもとにしながら、イメージを膨らませていくとよいでしょう。具体的にイメージできない場合は、「想定したペルソナがどのような応募書類を書くのか」、「面接でどのような受け答えをするのか」などを想像することで、採用したい人物像を描けるはずです。
ステップ3:評価項目の決定
最後のステップは、評価項目の決定です。ステップ1・2を通して、採用したい人材が具体的に見えてきました。それをもとにして、業務遂行に不可欠な知識やスキル、自社にマッチする価値観などを評価項目に定めます。そして、それぞれの評価項目を点数化すれば、採用基準は完成です。
具体例をあげると、新卒採用ならポテンシャルを重視して、人柄・主体性・コミュニケーション能力など、中途採用なら即戦力を重視して、実績・経験、スキル、適応性などが、よく評価項目に用いられています。
自社のコンピテンシーモデルやペルソナを明確にして、ふさわしい評価項目を決めてください。
採用基準の決め方が合っているか
あなたの会社に採用基準はありますか。これから決める予定の方もいらっしゃるかもしれません。いずれにしても、適切な採用基準でなければ、ほしい人材の獲得はおぼつかないはずです。自社の採用基準を上手く利用できているのか、または改善の余地があるか——。それは、現在、自社が抱えている採用課題から判断します。
選考過程における「採用担当者(人事部)と現場(配属先)、役員の選考結果が一致しない」、入社後に「採用した人材が活躍してくれない」「採用してもすぐに辞めてしまう」といった問題が起きているとしたら、採用基準の改善が必要かもしれません。
そのときは、採用基準の内容と運用を見直すべきです。採用基準を明確化しているか、不合理な採用基準になっていないか、そもそも採用基準がきちんと活用できているのか……。迷ったときには前項の「採用基準の決め方3つのステップ」に沿って、自社の採用基準をチェックしてみましょう。
採用基準を設定するときの注意点
採用基準は、労働法などに定められたものではなく、企業が独自に決める「ものさし」といえます。とはいえ、採用選考に関する禁止事項と配慮すべき事項に注意しなければなりません。
禁止事項とは、採用選考に関して、雇用対策法が禁じている年齢制限、男女雇用機会均等法に定められている性別による差別が該当します。どちらも例外はありますが、基本的に「年齢」「性別」を採用基準にしてはいけないと心得ましょう。
配慮すべき事項とは、厚生労働省が、公正な採用選考の基本として「本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とすること」を掲げ、適性・能力に関係のない事項として明示している下記の14項目が挙げられます。
<本人に責任のない事項>
- 1 本籍・出生地
- 2 家族
- 3 住宅状況
- 4 生活環境・家庭環境
<本来自由であるべき事項>
- 5 宗教
- 6 支持政党
- 7 人生観・生活信条
- 8 尊敬する人物
- 9 思想
- 10 労働組合(加入状況や活動歴) 学生運動などの社会運動
- 11 購読新聞・雑誌・愛読書
<採用選考の方法>
- 12 身辺調査の実施
- 13 本人の適性・能力に基づかない事項を含んだ応募書類(社用紙)の使用
- 14 合理的・客観的に必要性が認められない健康診断
以上の項目は、本人の適性・能力を評価する基準としては不適切であり、就職差別につながるおそれがあるため、採用選考では配慮しなければならないとされています。
採用基準の決め方を知れば、ほしい人材を採用できる
採用基準とは、採用選考における「ものさし」であり、採用したい人材を獲得するためには欠かせません。この記事で解説した採用基準の決め方3つのステップに沿って基準を定め、採用選考にしっかりと活用してください。
採用基準を設定してもミスマッチや離職率が改善されないようであれば、3つのステップに戻り、採用基準の問題点を確認し、現在の自社の状態に合った採用基準を定め直す…というふうにブラッシュアップします。
自社で定めた採用基準を上手に活用し、必要に応じて改善することで、採用したい人材を獲得でき、定着率の向上も期待できるでしょう。
また面接における採用基準もこちらの記事でご紹介しております。是非参考になさってください。