今も昔も隣の芝生は青く見えるとよく言ったものだが、ここ最近’’ある相談’’が多く舞込んでくる。私自身2010年からライフサイエンス業界に特化したリクルートメントビジネスを行っており、ジュニア層からエグゼクティブ層の候補者の転職サポートを行っている。数々の相談を受けてきているが、この’’ある相談’’、もちろん過去にも同じような相談はあるにはあったが、それほど頻繁ではなかった。しかしここ2~3年、特に20代30代の人からの、この相談が非常に多くなってきている。 この’’ある相談’’とは…
「未経験でも転職はできるのか。」という相談だ。
今回は転職で未経験の業界、職種にチャレンジしたい求職者に焦点をあてている。チャレンジする時に必要なメンタルと転職市場のリアリティを記載したいと思う。
転職市場でいう“未経験“とは一体何か
背景については後ほど記載したいと思うが、まず、彼らが言う「未経験でも転職はできるのか。」という相談だが、これはいったいどういう事なのか。下記に述べる3点が最も多い相談だ。
1 | 2 | 3 | |
業界 | 変える | 変えない | 変える |
職種 | 変えない | 変える | 変える |
転職例 | ライフサイサイエンス業界営業 ↓ IT業界営業 |
ライフサイサイエンス業界営業 ↓ ライフサイエンス業界広報 |
ライフサイサイエンス業界営業 ↓ IT業界マーケティング |
ライフサイエンス業界を専任としているので、以下ライフサイエンス業界を事例に挙げて話を進めていきます。ご自身の業界だったらどうなのかとイメージしながら読んで頂きたい。
ライフサイエンス業界 20代 営業職(MR)の場合
1.業界を変えたい・職位/職務は変えない
例)ライフサイエンス業界の営業からIT業界、金融業界などで同じく営業職で転職したい。
現在営業職をしていて、違う業界の営業職で転職したい。ということですが、可能性はゼロではない。もちろんプロダクトや販売ルートなどは変わるが、営業の経験はあるので、業界は未経験ではあるが、職務に関しては未経験ではない。あとは本人の業界を変えてでもやりたいという本気度。やっぱり思っていたのと現実(期待値や年収)は違った。という事で、元の業界に出戻りするケースが多い。
2.業界は変えない・職位/職務を変える
例)ライフサイエンス業界の営業から、ライフサイエンス業界内でマーケティングや企画、広報などの職種に転職したい。
現在営業をしていて未経験ですがマーケティングを希望しています。だとよっぽどポテンシャルが高くないと難しいでしょう。ましてや、そのような案件には現役のマーケティングで若手の求職者も応募しているので、かなり厳しい。本人の英語力も問われる。また過去マーケティング関連の業務のサポートをしたことがある、や、今マーケティングを学ぶ学校に行っているなど、MBAを保有している、などポテンシャルを感じさせる武器を持っているかで左右される。
3.業界を変えたい・職位/職務を変える
例)ライフサイエンス業界の営業からIT業界、金融業界、コンサルティング業界などでマーケティング、コンサルタント、人事などの職種に転職したい。
現在営業をしていてコンサルティング業界で、コンサルタントを希望しています。だと、2を更に上回った知識や経験値、自頭の良さ、人柄などを身にまとっていなければかなり難しい。過去約8年間この仕事に携わっているが、3のケースで転職をサポートし見事転職できた方は、5人もいなかったと思う。それほど厳しい状況だという事をご認識頂きたい。
1から3全てに共通することではあるが、未経験の場合、採用する企業側が設定している年齢は20代後半までがほとんどとなっている。30歳手前は正直ギリギリラインだ。
よっぽどのポテンシャルを感じなければ採用には至らない。
もちろん相談するリクルーターの、あなたの経歴や人物像の企業への売り込み方にも左右される。
業界を変える。職位を変える。採用する側みたら、どんなに優秀でも素人だ。あなたはその現実にしっかり向き合って転職活動をしているだろうか。
転職動機が甘いと採用されにくい
転職活動をしている候補者に、なぜ業界を変えたいのか、職位/職務を変えたいのか主な理由、背景をヒアリングすると、だいたいが下記の内容のいずれかの回答が返ってくる。
モチベーション | 1、現在の職種、業界に将来性を感じない |
2、一生同じ仕事が嫌 | |
3、やりがいを感じない | |
業界状況 | 4、今の職位はどんどん人を切っていく |
5、合併の話が多く、事業縮小などが頻繁 | |
6、早期退職制度の実施の過多 |
1.2.3.に関しては少々転職への本気度を感じない。転職の目的が、その仕事や会社が好きとか嫌いとか、自分に合ってるとか、合ってないとか。モチベーションで変わっている。
4.5.6.に関しては、今在籍している業界の動きやトレンドにもなってくるが、時が経てば新しい業界に転職しても同じ現象が起こる可能性は十分ありうる。やはり状況次第で転職活動をしているような気がする。
双方ともに、最終的に転職する目的、価値を見いだせていないのではないだろうか。
もちろん事業縮小で退職が決まっている、既に仕事をしていない。という人は別問題ではあるが、気分や、状況の変化に流されてはいないだろうか。
もしそういう転職であっても、すぐに立ち打つ事ができる何かを用意する必要がある。
その時に準備するのではなく、計画的に、そして将来を見据えたプランを日々考える必要があると私は常々思う。あなたの隣にいる人、同僚、先輩、部下、全てがコンペティターになりうると考えていいのではないだろうか。転職市場には自分より先行く猛者達と闘い、勝利しなければならない。
あなたの武器は何ですか?
あなたの武器はなんなのか。(ここで言う武器とは“スキル“の事を言います。)キャリアアップを希望しているのなら、手持ちの武器を見直す必要がある。あなたの武器で、あなたの行きたい業界、職位の採用担当者達のハートを打ち抜く事ができるのだろうか。採用側の手元には若くて経験のある候補者のレジュメが毎日山ほど届く。果たしてその候補者と比較検討された時、1次面接にコマが進むであろうか。
【武器を見直す際に重要なチェックリスト】
今の職場で十分なパフォーマンスをたたき出しているか (魅力的なレジュメか数字で表現できているか) |
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会社に貢献しているか (何かにノミネートされたり表彰されたり) |
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社内公募などでチャンスを待ちながら武器を増やす努力をしているか | |
合わせ技が使える武器を持っているか |
(※)合わせ技とは、“未経験ではあるがこの経験とこの資格がある。”という時に用いる。
例えば営業からマーケティングに転職したい場合、極端ではあるが、マーケティング未経験ではあるが、20代後半、TOEICスコア800以上で、MBAを保有している。という具合だ。
武器を増やす事により、市場価値を上げていく事を地道に行って頂きたい。
給与は下がって当たり前。現状維持は超ラッキー。覚悟と理解が必要
それでもやっぱり業界を変える、職位を変える、と決断したい方。肝心なことを忘れていますが、年収は下がってしまう可能性が大いにある事をご存じだろうか。
年収を下げてでも業界、職位を変える覚悟はできているだろうか。
そして自身の現在の業界の年収相場はお分かりだろうか。給与水準の高い業界であればあるほど年収の開きは大きい。
また職位を同じ業界で変えたとしても、既存メンバーの給与に合わせる為交渉が難しく、下がる可能性が高い。あなたがスーパースター並みの候補者であれば別ではあるが、現状維持も難しい状況である事はスタンダードな知識として知って欲しい。業界内、外でもある程度の給与水準をリサーチすることがおススメだ。もちろんリクルーターに確認する事も可能だ。
もし内定が出た時にある程度の情報があれば、希望通りの年収でなかったとしても覚悟をしていた分、受け入れるマインドにはなっているのではないだろうか。
しかし知らずに話が進み内定が出て条件提示の時に、思っていた内容でなかった、こんなに下がるとは思っていなかった、などという事になれば、双方の時間の無駄に成りかねない。
採用側はやっぱり採用しないものなのか
先程も申し上げたように、業界、職位を変える事は、採用側からすると素人を採用するも同然。中途採用は即戦力が必要である中で、業界未経験、職位未経験者を採用して企業に何のメリットがあるのだろうか。
考えて頂きたい。あなたが採用側の立場になった時、未経験者を採用しますか?
どんな候補者だったら未経験でも採用しますか?
しかしそれでも採用してくれる企業もごくわずかではあるが中にはある。それはもちろん、本人の武器の数、転職を始めるまでの準備期間での準備、リクルーターと二人三脚でのやりとり、などしっかりと長期的プランを立てている必要がある。むしろそのプランがない人にはなかなか企業は振り向いてくれないだろう。
実例から見る転職成功ポイント
転職成功事例:
年齢・性別 | 30代前半 男性 |
現業界・職種 | (前)製薬メーカー MR → (後)マーケティング |
年収 | (前)1300万円 → (後)950万円 |
学歴 | 薬学系大学卒 |
保有資格 | MBA TOEIC 800以上 |
実績 | MRとして社内売り上げTOP5 |
社内公募でマーケティングに希望するも、上司に話を幾度となく先送りにされる。
現職では可能性がないと見切り、転職活動を開始。
未経験という事もあって、書類選考はほとんど通過にならず。私自身が企業に直接候補者をポテンシャル採用として売り込む。当時オープンではなかったポジションだが、検討してもらうまでにこじつけた。
年収は950万にさがるも希望の職種で、年収が下がる事は(下がり幅)も理解していた事から、転職期間約7か月でマーケティング職に転職。現在も就業中。
これがリアルな転職事情である。
これを聞いて引き続き転職活動するのも、検討するのもあなた次第なのだ。
未経験業界、職種にチャレンジしますか?
異業種で活躍の場を見出したい。職位/職務を変えてキャリアアップしたい。チャレンジをしたいという事を反対している訳ではありません。是非チャレンジして頂きたい。ただその前に私がお伝えしたいのは、貴方自身の保有武器、マーケットの現状を知る事が大事ですよ、と言うこと。そして更にはモチベーションで転職をしてはいけないと言うことだ。
十分な準備期間を設け、今の仕事をしながら、今の職場での自分の適性は何なのか、立ち位置は確認できているのか、保有武器は増やす事ができるのか、いつだったら整うのか、などしっかりとご自身と見つめあうことが大切だ。
やりたいことが決まれば逆算し、そこに寄せていく。何もまだ決まっていないのなら、まずは与えられた仕事を最大限に発揮すること。それが武器になり糧になる。経験が後に活かされ、時には合わせ技となり、やりたい事、自分にしかできない事に変わっていくのではないでしょうか。業界、職位/職務を変えて花開く人もいれば、準備期間中に今やっている仕事、そしてその延長線上に自分のやりたい事につながる可能性を見いだせる人も出てくるでしょう。
ご自身が行きたい業界、なりたい職位/職務の採用側の「この候補者は覚悟ができているのか」という視線に応える事ができるよう、しっかり準備し計画を立てる事をおすすめします。