外資系企業の商品やサービスは、暮らしのなかにすっかり定着しています。それほど身近にもかかわらず、外資系企業の社内や働き方は、イメージや噂が先行しがちで実態は意外と知られていません。給与が高い、残業がない、成果を上げられないとクビになる……。このようなイメージのつきまとう外資系企業に、恐れをなす人もいますよね。
そこで、この記事では、まことしやかに囁かれる「外資系あるある」の真相を探ります。それを知ると、外資系企業が思いのほか、あなたと相性のよいことに気づくかもしれません。
目次
7つの「外資系あるある」
外資系企業に憧れている人は、「フラットな人間関係のなかで、自分の能力を生かしてバリバリと働ける」「成果に見合った給与が受け取れる」というイメージを抱いていますよね。また、「オンオフが明確で仕事もプライベートも充実させられる」と、期待しているのかもしれません。
一方、外資系企業への転職をためらっている人は、「オフィスでは英語が飛び交う」「すぐに解雇される」といったイメージから、不安を覚えていることでしょう。英語力に自信がないと、なおさらハードルが高いと感じることもあります。
しかし、その期待や不安は、実態に基づくものでしょうか。もしかすると、外資系企業のイメージや噂からの思い込みにすぎないのかもしれません。
さまざまな「外資系あるある」のうち、とりわけよく耳にするのは、給与が高い、残業がない、有給休暇を取りやすい、解雇される、成果主義である、人間関係がフラット&ドライである、高い英語力が求められる——この7つです。これが、外資系企業への先入観となっている可能性があります。
7つの「外資系あるある」の真相は…
7つの「外資系あるある」は、外資系の一面を表しているにすぎません。根も葉もない噂ではないとはいえ、誇張や誤解もあります。ひとつずつ、検証していきましょう。
給与が高い
外資系企業は給与が高い——。これは、事実です。外資系企業の平均年収は、日本企業の2倍にあたる約800万円。金融業界やIT業界、コンサルタントファームでは、職種やポジションによって平均年収が1,000万円を超えることも珍しくありません。
なぜ、日系企業に比べると外資系企業は高収入なのでしょうか。主な理由は二つあります。
一つは、給与体系の違い。外資系企業では、基本給にプラスしてインセンティブ給が支払われます。インセンティブは基本給の数%から100%とされ、成果をあげるほど給与は高くなる仕組みです。裏を返せば、成績が振るわないとインセンティブ給は期待できません。それが、退職や解雇へとつながることもあります。その結果、成果を出し続けている社員が集まり、必然的に高収入となるわけです。
もう一つの理由は、福利厚生の違い。日系企業では当たり前となっている退職金、通勤手当、住宅手当、子ども・子育て拠出金などが、ほとんどの外資系企業にはありません。そのぶん、給与が高く設定されているのです。
残業がない
外資系企業は残業がない——。これは、正確ではありません。残業がない=業務量が少ないと理解しているとしたら、むしろ誤りです。一人ひとりの担う業務量は、日系企業よりも多くなるでしょう。
ただし、上司から与えられる仕事が多いという意味ではありません。外資系企業では、仕事内容を遂行するために付与される裁量権は大きく、そのぶん仕事の幅も広がり、タスクも増えるというわけです。当然ながら、タスク管理も本人に任されます。このとき、仕事の過程は重視されません。あくまでも求められるのは、仕事の結果です。だからこそ、成果をあげられると、インセンティブ給や昇進という形で評価されます。
このように、外資系には「成果をあげて生産性を高めれば、仕事の進め方は問わない」という風潮があります。また、仕事は勤務時間内にさばくものと考えられています。そのため、残業すると生産性や時間管理能力が低いと判断されかねません。これが、終業後のオフィスに残って仕事をする人が少ない理由であり、「外資系企業は残業がない」というイメージを生みだす要因です。当然ながら、終わらなかった仕事が免除されるはずもなく、自宅に持ち帰ったり、早く出社して片づけたりと、時間をやりくりしています。
有給休暇を取りやすい
外資系企業は有給休暇を取りやすい——。これは、事実といっていいでしょう。有給消化率を比較すると、日系企業よりも高い傾向があります。しかも、1カ月ほどの長期休暇を取ることも少なくありません。上手に仕事を回して有給休暇を取らないと、残業と同様に生産性や時間管理能力を疑われてしまいます。
ただし、有給休暇を取得するときは関係者との調整が必要だったり、担当しているプロジェクトの重要な局面では休めなかったりするのは、日系企業と変わりません。
解雇される
外資系企業では容赦なく解雇される——。これは、誤解がありそうです。外資系企業といえども、「明日から来なくてよい」といきなり解雇を告げられることはありません。なぜなら、日本国内では労働基準法を守らなければならないからです。
ところが、入社してしまえば安泰とまでは言えません。外資系企業は「職務給」、つまり仕事内容や責任、成果に対して給与が支払われる仕組みです。そのため、成果を出せない=労働契約の不履行とみなされてしまいます。いつまでもパフォーマンスを改善できないと、退職勧奨を受けることも珍しくはないのです。
ただし、退職勧奨は拒否する権利があります。また退職までには1~2ヶ月分の特別退職金手当が提示される可能性があ離、すぐに解雇されるとは限りません。このようにむやみに解雇を心配して、転職の機会を失うのはもったいないです。
成果主義である
外資系企業は成果主義である——。これは、事実です。前項で述べたとおり、外資系企業は「職務給」という賃金制度を採用しています。その根底にあるのが、「成果主義」と「同一労働同一賃金」という考え方です。
一方、日系企業の多くは「職能給」を採用してきました。これは、仕事を遂行する能力——具体的には、業務に関する知識、経験、資格などに対して給与が支払われる仕組みです。このように、「職務給」では仕事や成果が、「職能給」では社員の能力が評価対象となります。この賃金制度の違いが、外資系企業は成果主義であるといわれるゆえんです。
覚えておきたいのは、成果主義とはいえ、意外とチームワークが重視されること。結果さえ出せば、過度な個人プレーも許されるというわけではありません。
人間関係がフラット&ドライである
外資系企業は人間関係がフラット&ドライである——。これは、誤解されがちな「外資系あるある」です。
実は、外資系企業にも上下関係は存在します。日系企業よりも上司が絶対的な存在である企業も少なくありません。上司と部下がファーストネームで呼び合う姿だけを見て、「人間関係がフラットである」と判断するのは早計です。イメージとはうらはらに、上司の顔を立てながら、自分の意見を主張しています。
また、「人間関係がドライである」も正確ではありません。ドライに見えるのは、外資系企業では一人ひとりの業務分担が明確なため、「人は人、自分は自分」という傾向が強く、つきあい残業などもないためでしょう。しかし、多くの外資系企業ではコミュニケーションを大切にしています。何気ない会話からアイデアが生まれる、相手を知ることでスムーズに仕事が進められるといった考えが浸透しているからです。
高い英語力が求められる
外資系企業では高い英語力が求められる——。これは、一概には言えません。業界や職種、ポジションなどによって、求められるレベルが異なるためです。
もし社内公用語が英語であれば、コミュニケーションに不自由しない英語力が必要となります。しかし、オフィスには日本人スタッフが多く、外国人マネージャー(管理職)も日本語が流暢な場合は、英語が堪能でなくても問題はありません。また、取引先が日本国内の企業であり、その営業担当者ならば、英語を話す機会はほとんどないでしょう。
一方、海外のオフィスや取引先とのやりとりが多いとしたら、仕事に支障をきたさないレベルの英語力は必須です。また、マネージャーのポジションに就く場合は、ビジネスレベルあるいはネイティブレベルの英語力が欠かせません。海外の本社・支社とのやりとりが多くなるためです。
たとえ高い英語力が求められなかったとしても、日常会話レベル(目安はTOEIC600以上)はクリアしたうえで、ブラッシュアップを目指しましょう。キャリアアップには英語が不可欠ですし、体制や方針の転換によって英語が必須となることも考えられるからです。
そもそも外資系企業とは?
7つの「外資系あるある」を検証してみると、背景には外資系企業ならではの制度や価値観があることがわかりました。そもそも外資系企業とは何か、どのような企業風土が根づいているのかを確認しましょう。
外資系企業の定義
外資系企業とは、外国の法人もしくは外国人が一定以上出資している日本にある企業です。成り立ちにより、次の3つのタイプがあります。
- 外国法人が日本に設立した純外資会社(グーグル、P&G、マッキンゼー・アンド・カンパニーなど)
- 外国法人と日本法人が共同出資した合弁会社(日本マクドナルド、味の素ゼネラルフーズなど)
- 外国法人が日本法人を買収した外資導入会社(シャープ、ラオックスなど)
外資系と聞いてすぐに思い浮かぶ会社から、日本の会社として認識されている会社まで、さまざまな外資系企業があります。
外資系企業の企業風土
経済産業省の調査によると、外資系企業の構成比はヨーロッパ系が約43%、アジア系が約27%、アメリカ系が約23%です。この国籍によって、企業風土や価値観は異なります。たとえば、アメリカの企業は「ダイバーシティが進んでいる」「チャレンジが推奨される」という傾向が強いようです。
ヨーロッパ系のなかでも、イギリス企業では「伝統や前例が重んじられる」といい、スイス企業は「保守的で慎重」ながら進出先では「ローカライゼーションを進める」といわれます。また、フランス企業が「中央集権型(トップダウン型)」であるのに対して、北欧系の企業はどちらかというと「ボトムアップ型」であり、同じヨーロッパ系でも異なるのです。
アジア系では、韓国と中国は「上下関係に厳しい」といわれ、日本の企業と似ています。しかし、どちらの国の企業にも共通する「徹底した成果主義」は、日本ではまだほとんど見られません。
このように、企業風土にはお国柄が反映されていて、一括りに外資系企業といってもさまざまです。それでも、概して外資系企業は「成果主義」「ワークライフバランスの重視」「スピード重視」「自発性が求められる」といえるでしょう。
外資系企業に向いている人は?
外資系企業の企業風土、それを背景とした「外資系あるある」から、外資系企業への適性を見てみましょう。
- 向上心が強い
- 主体性、自主性がある
- 意見を主張できる
- セルフマネジメントができる
- コミュニケーション能力が高い
- 外国の文化に興味と理解がある
- 英語をはじめとする外国語が堪能である
このような性質があれば、概ね外資系企業と相性がよいと考えられます。
適性に惑わされずに外資系へ!
では、外資系企業との相性に不安があるときは転職を諦めるべきなのでしょうか。いいえ、やすやすと諦めてはいけません。前項であげた適性は、あらゆる外資系企業に当てはまる適性にすぎません。先述のとおり、さまざまな外資系企業があり、それぞれに特有の企業風土があります。そのなかには、あなたに合う外資系企業もあるはずです。
また、考え方や行動を変えるだけで、外資系企業との相性は向上します。転職を諦める前に、相性アップ術を試しましょう。ここでは、外資系企業との相性アップ術を紹介します。
相性アップ術①考え方を変える
外資系企業との相性をよくしたいときは、考え方を変えてみましょう。まずは、「外資系企業には向かないかもしれない」ではなく、「外資系企業に向いているかもしれない」と考えるだけでも違います。外資系企業には向かないと決めつけなければ、適性に気づけるかもしれません。あるいは、いままでは見逃していた相性のよい外資系企業の存在に気づくこともあるはずです。
また、「自己主張ができないから外資系企業ではやっていけない」といった否定的な考えは捨てましょう。「コツコツと目標を達成してきたから、外資系企業でも成果をあげられるだろう」というように肯定的に考えてみると、外資系企業にふさわしい経験やスキルを発見できるかもしれません。
相性アップ術②英語力を磨く
英語あるいは外国語を磨くのも、外資系企業との相性をよくする方法です。それほど高い英語力は求められないとしても、英語でのコミュニケーションに不安を抱えたままでは、外資系企業への転職に踏み切れないでしょう。英語の読み書き、会話に自信がつけば、それはそのまま外資系企業で活躍できるという自信となっていくはずです。
ところで、英語力とは「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つのスキルのこと。まずは、「聞く」「読む」から鍛え直すとよいでしょう。単語や熟語をインプットしなければ、英語は使えるようにならないからです。市販の単語帳や英語学習アプリを活用して、どんどん暗記していきます。
そして、洋書を読んだり、洋画を観たり、ラジオを聞いたりしながら、暗記した語彙を定着させましょう。ある程度のインプットができたら、「話す」「書く」でアウトプットを強化します。もし英会話スクールやオンライン英会話のレッスンを受けるのなら、この段階で始めるとよいでしょう。書く力を伸ばすには、英文添削サービスを利用するのも手です。
まとめ
世間に流布する「外資系あるある」のうち、転職に大きく関係する7つ——給与が高い、残業がない、有給休暇を取りやすい、解雇される、成果主義である、人間関係がフラット&ドライである、高い英語力が求められるについて、真相を探りました。そこには真実もあれば、誇張や誤解もあります。また、本社のあるお国柄が反映され、企業風土も価値観もさまざまです。だからこそ、あなたにぴったりの外資系企業が見つかるはず!
「外資系あるある」に怖気づき、外資系企業への適性がないと思い込み、転職の選択肢を狭めてはいけません。もし外資系企業が気になっているのなら、諦める前に、「考え方を変える」「英語力を磨く」という2つの相性アップ術を試してみましょう。外資系企業に意外と向いている、と感じるかもしれません。