日本国憲法では、所得に応じて納税をおこなう「納税の義務」があります。会社員の場合は、会社が年末調整で従業員の代わりに納税していますが、退職すると自分で納税しなくてはなりません。
退職後の確定申告は、その後の就職や退職金の有無によって申告すべきかどうかが異なります。しかし、自分が確定申告の義務があるのかどうか分からない人も多いでしょう。実は確定申告を怠ると、罰則が課せられることも。このため、確定申告についてしっかり理解することが重要です。
そこで今回は、退職後の確定申告の対象や申告方法について解説します。これから退職を控えている人やすでに退職した人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
年末調整と確定申告の違い
まずは、年末調整と確定申告の違いについて理解しましょう。 会社員は、毎月給与から大まかな税額が天引きされていますが、生命保険控除や住宅ローン控除などは考慮されていません。そこで年末調整で、最終的な税額を調整します。
これに対して確定申告の場合、個人で1年間の所得を自分で計算し、申告しなくてはなりません。年末調整では、会社が従業員の代わりに1月~12月までの1年間の給与所得を計算し、所得税の清算をおこないます。
一方、確定申告では自分で所得の申告をおこない、所得税を清算しなくてはなりません。しかし、確定申告が必要なケースとそうでないケースがあるため、退職後は自分がどちらになるのか知っておきましょう。
退職後確定申告が必要なケース
まず、退職後に確定申告が必要な人について解説します。
基本的に12月31日時点で会社に勤めていない人は、年末調整が受けられないため、確定申告の対象になります。たとえば、退職後フリーランスになった人は、給与所得と事業所得を合算して確定申告しなくてはなりません。
また退職後、2社以上でアルバイトしている人も確定申告しましょう。このように9月に中途退職し12月31日までに再就職しなかった人は、確定申告が必要です。
確定申告の方法
確定申告が必要だと分かったら、どこでどのように申告すべきなのかが気になりますよね。次に、確定申告の時期や場所、やり方について解説します。
確定申告の時期と場所
確定申告の提出期間は、郵送や窓口の場合、毎年2月16日~3月15日までと決まっています。ただし、オンライン申告の「e-Tax」は、1月4日から申告が可能です。
郵送や持参する際の提出先は、住所地を管轄する税務署や還付申告センターとなります。管轄の税務署を確認するには、国税庁ホームページの「組織(国税局・税務局等)」から検索しましょう。
確定申告の方法は3種類
確定申告の方法は、持参・郵送・オンラインの3種類です。申告書類を持参する場合は、税務署か申告期間のみ設置される還付申告センターへ持ち込みます。
税務署の開庁時間内に持参することが難しい人は、税務署の時間外収受箱へ投函して提出することも可能です。郵送の場合、確定申告書は「信書」扱いになるため、「郵便物」(第一種郵便物)又は「信書便物」で管轄の税務署へ提出しましょう。
また提出日は、郵送物に表示された通信日付印が提出日になります。通信日付印とは、郵便局で郵便物の引受けもしくは到着した日付のことです。そのため、3月15日の通信日付印があれば、税務署に届くのが15日以降になったとしても期限内の提出になります。
オンライン申告の「e-Tax」は、事前に登録さえすれば、PCやスマホ、タブレットからも利用可能。確定申告期限内であれば、オンラインで24時間いつでも申告可能なため、郵送や持参の手間を省きたい人におすすめです。
確定申告の必要書類
確定申告に必要な書類は、基本的に申告書と源泉徴収票、控除証明書の3つです。申告書には、いくつか様式があるため、自分に合ったものを選びましょう。
確定申告書には、大きく分けて白色申告と青色申告の2種類があります。青色申告は、特別控除を受けたい個人事業主向けの様式であるため、退職した人は白色申告書を選びましょう。
白色申告書には、給与所得者や年金受給者向けの「申告書A」と個人事業主向けの「申告書B」があります。しかし「申告書B」は、給与所得者や年金受給者の人でも使えるため、どの様式か迷った場合は「申告書B」を選ぶと無難です。
申告書は、税務署は国税庁ホームページ「所得税の確定申告」からダウンロードできます。
確定申告で必要な書類は、退職した人のケースごとに異なるため、注意が必要です。以下にそれぞれのケースで必要な書類をまとめました。
年度途中で退職し12月31日まで再就職しなかった人
- 確定申告書(白色申告のA・Bどちらでも可能)
- 退職した会社で発行された給与所得の源泉徴収票
- 関係機関から発行された社会保険料の控除証明書
退職後再就職したものの源泉徴収票が年末調整に間に合わなかった人
- 確定申告書(白色申告のA・Bどちらでも可能)
- 退職した会社と現在の会社で発行された給与所得の源泉徴収票
- 関係機関から発行された社会保険料の控除証明書
退職金をもらった人
- 確定申告書(白色申告書B)
- 申告書第三表(分離課税用)
- 退職した会社で発行された給与所得の源泉徴収票
- 退職した会社で発行された退職所得の源泉徴収票
給与所得とは、勤務先から受け取る給料や賞与などを合わせた所得のことを指します。退職所得は、退職の際に会社や社会保険制度などから受け取る退職手当のことです。
退職後確定申告するポイント
退職後確定申告する際のポイント5つを解説します。
退職金について
退職金をもらった際、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない人は、確定申告をすると払い過ぎた税金が返ってくる可能性があります。会社が退職金から差し引くべき住民税や所得税が、そのまま含まれているため税金を多く払っているケースもあります。また「解雇予告手当」や「未払い賃金立替制度から弁済された給与」をもらった場合も、退職金として扱われるため注意しましょう。
失業保険について
失業保険には消費税がかからないので、確定申告不要です。しかし、失業中に社会保険料を払っていた場合、確定申告をすると来年の支払い額が安くなることもあります。
住民税の申告について
住民税は、確定申告をすると税務署が該当の市区町村へ通知を出すため、別途住民税の申告は不要です。前年の所得に対して課税される住民税は、今年所得がなかった人でも納税義務があります。
払い過ぎた税金が戻る「還付申告」とは
還付申告とは、どのような制度なのかピンとこない人も多いでしょう。ここでは、還付申告について、手続きの方法や期限を解説します。
還付申告とは
還付申告とは、確定申告の提出義務がない人でも、申告することで払い過ぎた税金の還付を受けられる制度です。
確定申告と間違われることも多いですが、還付申告とは目的が異なります。確定申告の目的は、納税すべき税金を申告するためですが、還付申告は払い過ぎた税金を返してもらうためです。
特に年末調整をしていない人や退職所得の受給に関する申告書を提出していない人は、還付申告で税金が返ってくる可能性が高いでしょう。
還付申告に必要な書類と手続き
還付申告に必要な申告書類は、確定申告する際とほとんど変わりません。
還付申告では、一般的に確定申告書Aを使用します。また退職金を受けとった人で、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない場合、確定申告書Bと「第3表」が必要です。
年末調整をおこなっていない人は、給与所得の源泉徴収票や社会保険料の控除証明書などを提出します。提出先は、確定申告と同じく管轄の税務署です。
還付申告の期限
還付申告の期限は、申告対象になる年の翌年1月1日から5年間です。たとえば、2020年の申告に関しては、2025年12月31日までが期限となります。この期間内であればいつでも申告可能ですが、確定申告と重なる2~3月は、還付金の振り込みが遅くなることもあるため、避けましょう。
還付申告ができる対象者は、給与所得者で以下のような条件を満たす人です。
年度途中で退職し年末調整を受けていない人 医療費控除や住宅ローン控除など各種控除を受けられる人 災害や盗難などにより資産に損害を受けた人 寄付金を送った人
確定申告と違って期限が長いため、この5年間で心当たりのある人は還付申告をしてみましょう。
確定申告する際の注意点
確定申告は、正しい金額を納税するための制度です。そのため、お金が戻るだけではなく、不足分は支払う必要があります。確定申告をすべき人が、申告しなかった場合は相応のペナルティが発生するため注意しましょう。たとえば、確定申告をせずに納税義務を怠った場合、無申告加算税や延滞税が納税額に追加されることもあります。
退職後、ついうっかり確定申告を忘れた場合、そのままにせずなるべく早く申告することが重要です。意図的に確定申告せず、納税義務を免れようとした場合は犯罪になります。懲役や罰金を科せられる可能性もあるため、確定申告忘れには十分注意しましょう。
まとめ
退職したら自分は確定申告が必要なのかどうか、まずは確認することが重要です。確定申告すべき人が申告を怠ると、懲役や罰金などの罰則を科せられたり、払い過ぎた税金が受け取れなかったりする可能性があります。
面倒に感じる確定申告ですが納税は国民の義務です。きちんと税金を清算し、新しい一歩を踏み出しましょう。