現代に生きる私たちにとって欠かすことができなくなっている「IT」は、今後ますます生活のすみずみに浸透していくのは間違いありませんよね。人材不足からIT業界の求人は多く、売り手市場の様相を呈しています。しかし目まぐるしく変化するIT業界の今後は、どうなるのかが気になっている転職志望者の方も多いでしょう。
この記事ではIT業界への転職を考えている方に向けて、IT業界の現状について解説し、今後の見通しや伸びそうな分野について詳しく紹介します。
目次
IT業界の現状はどうなっているのか?
IT業界は新規参入する企業も多く、競争が激しくなって差別化が難しい状況です。そのため、技術革新に注力するのと同時に、従来にはなかった多様なサービスを打ち出す企業が増えています。
そんなIT業界の、現在の市場規模について触れておきましょう。
現在の市場規模
IT業界の市場規模は、情報ソースによって対象の範囲が異なるので、諸説が存在します。ここでは総務省の情報通信白書を基にして見ていきましょう。
2019年においての企業のIT投資額はおよそ14.3兆円規模です。14兆円と言ってもピンとこないかもしれませんので、比較対象を挙げてみましょう。
まず、国内の「アパレル市場規模」は15兆円から10兆円で推移(経済産業省令和2年「繊維産業の現状と経済産業省の取組」)しており、ITの投資額ベースとほぼ同じレベルです。また、「道路運送業」の市場規模がおよそ17.5兆円(日本運輸経済研究所「運輸白書2021」)。年々増加して社会問題化している日本の医療費は2021年度概算で約44兆円(厚生労働省「令和3年度 医療費の動向」)となっています。
それらとの対比から考えれば、やはりIT業界は巨大な市場規模を持っていると言っても過言ではありません。
IT人材不足の現況
IT業界では以前から、エンジニアの人材不足が深刻な問題となっていました。もちろん、IT業界は転職市場で人気が高く、未経験者も含めて志望する人たちが増えつつあります。それでも、IT業界の人材ニーズは一層拡大しているため、人材不足はまったく解消されていません。今後もさらに人材ニーズの拡大は加速すると予想されているため、人材不足は解消よりもむしろ深刻化に進む可能性があります。求職者の側からすればIT業界の求人の現状は、完全なる売り手市場です。
下の表は、2022年11月~2023年1月における、IT通信業を含む業種別の転職求人倍率を比較したものになります。
【業種別転職求人倍率比較表】
業種 | 2022年11月 | 2022年12月 | 2023年1月 |
IT/通信 | 6.12 | 7.01 | 6.57 |
メディカル | 1.33 | 1.45 | 1.29 |
金融 | 1.72 | 2.00 | 1.84 |
メーカー | 2.62 | 3.02 | 2.76 |
メディア | 4.70 | 5.31 | 4.65 |
商社 | 1.48 | 1.70 | 1.52 |
小売/流通 | 0.47 | 0.54 | 0.50 |
レジャー/外食 | 0.57 | 0.66 | 0.59 |
エネルギー | 1.58 | 1.80 | 1.71 |
建設・不動産 | 3.84 | 4.33 | 4.07 |
コンサルティング | 6.70 | 8.23 | 7.81 |
人材・サービス | 7.69 | 8.31 | 7.88 |
その他 | 0.29 | 0.34 | 0.31 |
全体 | 2.23 | 2.54 | 2.34 |
この結果を見ればわかるように、この3ヶ月におけるIT/通信業の求人倍率は、1人当たりで、およそ6.5社の求人があるという状態を示しています。コンサルティング・人材サービスも高い求人倍率となっていますが、全体の平均2.37倍の3倍近くにもなるという結果です。
IT業界の今後の求人事情の見通し
IT業界全体の求人事情としては、今後も人材ニーズは継続的安定的に旺盛であると考えてよいでしょう。
現在はほとんどすべてのビジネスにおいて、デジタル技術なくしてはサービスが完結しません。また、機械学習やブロックチェーンなどの先端技術は今後本格的に普及する可能性があります。このような社会および経済のデジタル化の勢いから考えれば、この売り手市場の状態は当面失速することは考えられません。
2030年頃にはIT人材が最大で79万人不足するという経済産業省の予測が、どれだけ実勢を反映しているかはわかりません。それでも、人材不足がまだまだ続くことは間違いないでしょう。現段階では、専門性が高い技術職などのポストをはじめとして全体的な人材ニーズの供給が追いついていません。そのため、企業は優秀な人材を確保するために30代後半でのベテラン層を以前よりも良い条件で募集したり、給与面だけでなく、柔軟な働き方をアピールしたりするようになっています。
ポテンシャル採用が増加中
最近では、特にAI関連やIoT関連、ブロックチェーンなどの先端技術に関して、精通した技術者を獲得する競争が激しくなっています。ただし、そのような先端技術の知見がある人材は圧倒的に少ないため、技術職採用は全般的にポテンシャル採用を行なう傾向が強くなっています。
たとえ即戦力にはならなくとも、入社後のスキルのブラッシュアップで求める人材に成長するという前提で採用されます。そのため候補者側としては、選考段階で自発的にスキルを磨く習慣があることや、先端技術の情報に対してアンテナを常に張っていることなどをアピールするのが賢明です。
ここまで見てきたような状況から考えて、IT業界全体としては今後も旺盛な人材ニーズがあるでしょう。
IT業界で今後伸びていく分野
IT業界は全般的に伸びると予想されますが、なにぶん技術革新のスピードが激しい業界なので、縮小する分野もあればさらに伸びる分野もあります。ここでは今後伸びていくと考えられる、以下のそれぞれの分野に目を向けてみましょう。
- AI・ビッグデータ
- IoT
- 5G
- AR・VR
- ブロックチェーン
- eコマース
- クロステック
AI・ビッグデータ
IT業界で最も注目されている分野のひとつであるAIは、あらゆる産業で導入による効率化が期待されています。
AIは今後のITの発展のためにも欠かすことのできない技術となっています。検索エンジンもそうですが、産業用ロボットやハイテク商品に搭載されるAIなど、さまざまな場面で使われています。また、AIを活用した自動運転や介護ロボット、接客ロボットなどのさまざまな新技術も開発がかなり進んでおり、実用化される時代も目の前に迫っているといえるでしょう。製造業だけでなく、サービス業でもすでに金融系の銀行や保険、証券などを始め、多くの分野で実用化が始まっており、今後の実用化の準備に入っている企業も多いです。
また、AIはそれ自体で活躍できるのはなく、膨大に蓄積されたビッグデータを活用して初めて力を発揮できます。そのためAIの普及にはビッグデータに関する技術も重要で、その方面の知見がある人材も必要です。
さらにAIを使った技術が広く活用されるようになれば、そのAIをハッキングなどから守らなければならないので、AI関連のセキュリティエンジニアの役割も重要になります。企業の業務効率化や自動化などでの活用も間違いなく増える見込みがあり、AI関連の人材がさらに必要となるでしょう。
IoT
IoTは電化製品の一部であるセンサーやデバイスをインターネットと接続し、情報をやり取りすることにより、デバイスの制御やデータの収集、サービスの提供などを行なう技術です。電気ポットや洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの家電製品や、乗用車やバス、工場の設備や装置などのさまざまなところにIoT技術が活かされつつあります。
例えば洗濯機にIoTを導入すると、天気の情報を合わせたり洗剤の量を自動で調節したりできます。他にも車とスマホを連動させたカーナビや、農業にIoTを応用させる動きもあります。このように、IoTでさまざまなものとインターネットをつなげて、それぞれの利便性を高めます。
また、IoTはビッグデータおよびAIと深い関係にあります。IoT製品のセンサーやデバイスが取得したデータはクラウド上のビッグデータに集約され、AIによって解析されて製品へのフィードバックはもちろん、新しいサービスを生み出すヒントになっていきます。
そのようにIoT分野はAIやビッグデータと相互に関連し合いながら、さらにニーズが拡大することが見込まれています。
5G
通称5Gとは「第5世代移動通信システム」のことで、高速大容量、高信頼・低遅延通信、多数同時接続という3つの特色を持つサービスです。
5Gの商用化は日本では2020年3月から始まり、総務省や大手通信事業者を中心に、5G技術の研究開発や5G普及のための環境整備が進められています。また、携帯電話事業者による全国展開される5Gの均一な通信サービスとは別に、「ローカル5G」の構築および運用が始まっています。これは地域や企業が主体となって、敷地内などの特定エリアでの個別ニーズに応じて柔軟に利用できる自営のネットワークです。
総務省は2020年から、安心安全分野やインフラ・建設分野、農業分野、モビリティ分野などを中心に課題解決モデル構築を目指すローカル5Gを活用した開発実証を推進しています。5Gの活用が幅広い分野で進むと、新たな付加価値の創出や業務の効率化などの恩恵をもたらされるでしょう。
AR・VR
ポケモンGOの普及で日本も有名になったAR・VR技術は今後さらにニーズが拡大すると言われています。ARとは「拡張現実感」の意味で、コンピューターを使ってリアルの地形や風景、感覚などに情報を加える技術です。
一方VRとは「仮想現実感」の意味で、コンピューターによって生み出される三次元空間を視覚その他の感覚によって疑似体験できる技術です。AR・VR技術は一般人にとって身近なゲームだけでなく、教育や医療などのさまざまな分野でも期待されています。
ブロックチェーン
ブロックチェーンという分散型台帳を作る技術によって支えられている仮想通貨は、登場した当時に一気に話題になりました。ところが、いくつかの不祥事を通してひとまずブームが終わったと言われた時期もあったのです。
しかし、実際は下火になったわけではなく、多くの人たちが仮想通貨の取引やマイニングを行なってきました。そして2021年の前半に機関投資家による大規模な投資が相次いだ仮想通貨は、新たな投資先として世間の注目を集めています。海外ではその動きは一般化しており、日本でも大企業が参入しています。もはや仮想通貨はベンチャーではなく安定した分野になりつつあるのです。
また、ブロックチェーンは、今や仮想通貨だけに使われる技術ではありません。改ざんや削除、不正ができないという最大の特徴を活かして、小売業の配送システムや自動運転車のデータの保護、著作権管理システムや個人認証システムなどのさまざまな分野に応用が始まっています。
eコマース
年々市場規模を拡大してきたeコマース業界は、ウィズコロナ時代に非接触非対面でモノを購入できる特徴により、まだまだ伸びていく分野のひとつです。日本政府によるキャッシュレス化推進も、eコマース業界にとっては追い風となっています。
クロステック
クロステック(X-Tech)とは、既存のビジネスと先端技術を組み合わせた新たな製品やサービスおよびその取り組みを意味します。クロステックが発展している背景として、DX(デジタルトランスフォーメーション)がグローバル規模で進んでいることが挙げられるでしょう。
さまざまなクロステックの種類の中で、特に注目されている分野は以下のとおりです。
- FinTech (金融)
- AutoTech (自動車)
- InsurTech (保険)
- HealthTech (健康)
- MedTech (医療)
- SportTech (スポーツ)
- AgriTech (農業)
- EdTech (教育)
- RETech (不動産)
- HRTech (人事)
今後IT業界に求められるエンジニアの職種
目まぐるしく変化するIT業界の今後において、特にニーズがあると思われるのは以下のようなエンジニアの職種です。
- AIエンジニア
- 組み込みエンジニア
- DevOpsエンジニア
- セキュリティエンジニア
- クラウドエンジニア
それぞれを詳しく見ていきましょう。
AIエンジニア
AIを学習させる、重要な役割を担うのがAIエンジニアです。あらゆる分野にAIが活用されていくと予想され、AIエンジニアには機械学習の効率的な設計が求められています。
AIエンジニアにはプログラミングスキルだけでなく機械学習やディープラーニングの高度なスキル、数学や統計学の知識などが要求されます。人材の絶対数は、まだまだ不足しているのが現状です。
にもかかわらず、AI開発に参入する企業も一層増えると言われています。そういうことから考えて、AIエンジニアの人材ニーズは当面増え続けると考えてよいでしょう。
組み込みエンジニア
さまざまな製品の中に、アプリケーションを組み込むのが組み込みエンジニアです。電子レンジや冷蔵庫エアコン、スマホなどの電気製品や自動車などを作動させるアプリケーションを組み込むのが仕事で、特にIoTには欠かせない職種です。
以前は組み込むべきアプリケーションがネットワークに接続されることなどなく、独立して動作していました。そのため、外部との連携は想定せずに作られていたのです。しかしIoT製品では、AIやネットワークに関する知見も求められるようになりました。今後もモノがインターネットにつながるのは当たり前になるにつれ、組み込みエンジニアの人材ニーズも増えていくでしょう。
DevOpsエンジニア
開発者と運用者が連携して、効率的に開発を進める考え方がDevOpsで、インフラ構築から運用までをひとりで行なえるのがDevOpsエンジニアです。
ミドルウェアやクラウドなどのインフラ環境の構築や運用、パフォーマンスの改善や監視などがDevOpsエンジニアの業務として挙げられます。ほかにもサービス全体に影響する業務として、ソリューション提案やサービス課題の抽出、スケーリングや自動化を見据えた運用体制改善などの重要な職務を任される機会が増えています。システムがクラウドに移行して従来とは異なる分野がたくさん増えており、それらを上手に統括できるDevOpsエンジニアの人材ニーズは旺盛です。今後は膨大なデータを、負荷を減らして扱うための分散処理やコンテナ技術が必要不可欠になります。
それに伴い、さまざまな OSSや最新ツールに精通しているDevOpsエンジニアの人材ニーズは今後ますます増えていくでしょう。
セキュリティエンジニア
セキュリティエンジニアは、巧妙化するサイバー攻撃や情報セキュリティインシデントから、企業の情報資産を保護する重要な役割を担います。情報はこれまでの経営資源はである「ヒト」「モノ」「カネ」に加わり、保護する価値があるリソースです。
個人情報や企業の機密情報のインターネットを介してのやり取りは、社会や経済のデジタル化が進むにつれ活発になっています。そんな中で情報セキュリティ対策の重要性は増し、セキュリティエンジニアの重要性もまた高まっているでしょう。また、ウィズコロナでリモートワークが加速度的に普及する背景のもと、セキュリティの面で安全な環境を整備し、管理できる人材としてセキュリティエンジニアのニーズは今後も伸びる可能性があります。
クラウドエンジニア
クラウドを利用してのシステム設計や構築、運用を担当するのがクラウドエンジニアです。近年ではオンプレミス型からクラウドへ、インフラ環境を移行する企業が増えています。開発プロジェクトにおいても、インフラ環境をクラウド上に構築するアプローチが一般的になってきました。そんな中で、クラウドエンジニアの重要性も増しています。
IT業界では、クラウドファーストと呼ばれるクラウドでのシステム構築を前提とする考え方に立って、クラウドネイティブというコンテナ技術の活用による開発手法に移行する傾向が強まっています。また、リモートワークの拡大により、クラウドサービスの利用は一層普及すると考えられるでしょう。このようにさまざまな側面から、今後もクラウドエンジニアの人材ニーズは旺盛であると考えられます
IT業界への転職を目指すために必要な資質
転職志望者がIT業界に入って良いパフォーマンスを発揮するためには、身につけておきたい資質があります。それらを整理して、「エンジニア職」と「非エンジニア職」に分けて解説しましょう。
エンジニア職に必要な資質
エンジニアを目指すなら、さまざまなスキルが必要です。また、ITは進化を続けているので、常に知識をアップデートすることも求められます。その土台となるのが以下の項目です。これらの項目はエンジニアを目指す準備段階、あるいはエンジニアになってから早い段階で身につけましょう。
IT基礎知識
ITに携わる技術者なら分野を問わず押さえておくべき「ソフトウェア」「ハードウェア」「ネットワーク」「データベース」「セキュリティ」の5項目に関する基礎知識です。
プログラミングスキル
ITエンジニアの仕事の基本となる必須のスキルです。
コミュニケーションスキル
開発チームでのミーティングやクライアントとの面談および交渉など、エンジニアはさまざまな場面でコミュニケーションが必要となります。
ほかにもドキュメント作成スキルや英語スキルなども、できれば身につけましょう。以下の記事で詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
また、エンジニアになってから、仕事に取り組みつつスキルを磨くためには以下の記事が参考になるでしょう。
さらに、近年のWebサービスの開発作業において欠かせないのは、フレームワークの活用です。これに関しては以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。
非エンジニア職に必要な資質
IT企業での営業や後方支援などの非エンジニア職では、大前提として技術的な基礎知識がまったくなくてデジタル製品やサービスを正しく扱うことはできません。
そして非エンジニア職は「エンジニア業務」への理解も必要です。ちょっとしたプログラミングひとつでもどれだけの手間がかかるのか、どのように効率化できるものなのかなどの理解があってこそ、作り手と売り手のチームプレーが成り立ちます。
また、主にエンジニアのキャリアアップの代表的なものであるプロジェクトマネージャーも非エンジニア職としての必要な資質があります。予算やスケジュール、品質、スタッフ、リスクなどの管理を同時進行で行なうためにはマネジメントスキルやコミュニケーションスキルが必要不可欠です。プロジェクトマネージャーに必要な資質に関しては、以下の記事を参考にしてください。
まとめ
折からの人材不足によって、売り手市場の様相を呈しているIT業界の現状について解説し、今後の見通しや伸びそうな分野について紹介しました。
全体的な需要の旺盛さは続くと考えられ、その中でも「AI・ビッグデータ」「IoT」「5G」「AR・VR」「ブロックチェーン」「EC」「クロステック」などの分野はますます伸びるでしょう。IT業界への転職を検討しているみなさんは、ここで紹介した情報も参考にして転職のビジョンを考えましょう。
また、私たちタリスマンはIT業界と外資系企業に強い転職エージェントです。IT業界への転職に役立つアドバイスとサポートができるので、ぜひお気軽にお問い合わせください。