転職などのために、現職の会社を退職することを申し出た際に、引き止められることがしばしばあります。
その理由はさまざまですが、覚悟を決めた退職なら、引き止めを上手に断って辞めるほうがお互いのためによいでしょう。
また、通常会社を退職するということは、大なり小なりその職場に迷惑をかけてしまうのは否めません。退職時にトラブルになるのは避けたいものです。
この記事では引き止められる理由から説き起こし、引き止めのよくあるパターンを紹介し、円満退職を見据えた上手な断り方について解説していきます。
目次
退職しようとする社員を引き止める理由
意を決して退職の意向を告げたのに、引き止められて説得されると断りきれなくなる場合がしばしばあります。
そもそも、会社あるいは上司が引き止めようとする理由は何でしょうか。まずは、そこから考えてみましょう。
引き止められる主な理由は、以下の5通りです。
1:欠員の補充が大変 2:あなたしかできない業務に穴が開く 3:将来を嘱望していた人材だから辞めて欲しくない 4:上司が管理責任を問われるのを避けたい 5:退職者が出ると職場が動揺する |
1から3は、あなたを必要としているからには違いないのですが、それがどの程度のものかを、よくよく考えましょう。
単に頭数が足りなくなって補充するのが大変だからという程度か、あなたしかできない業務に穴が開いてしまうからか、将来を嘱望していた人材だから辞めて欲しくないのかで深さが変わってきます。
1と2、は割り切るべき範囲でしょう。多少なりとも会社に迷惑をかけてしまうのは事実ですが、よく考えてください。これはお互い様なのです。
会社都合で引き止めるということは、ケースが違えば会社都合で退職を余儀なくされる可能性もあるということなので、ドライに考えましょう。それを聞き入れていてはキリがありません。
4と5も同様に割り切ってよい会社都合の理由です。では3はどうでしょうか?
こんな場合は例外?今一度考えてみよう
3の「将来を嘱望されていた人材だから辞めて欲しくない」という場合は、それが今まで知らされていなかったけれども真実なのであれば、今一度検討する価値はあるかもしれません。
この場合は会社都合ではあっても、あなた自身の将来とも関連するので少し話が別になります。
今後の展開で抜擢や登用されることにより、本来転職したい動機になったものが手に入る可能性があれば、考え直すという選択肢もあるでしょう。
しかし、その場しのぎの言葉であれば論外ですし、そうでなくとも具体性がある話でなければ、口約束で終わってしまって後悔するおそれがあります。
これはさらに突っ込んで上司と対話する中で、信頼できる具体性がある話なのかをあなたが見極めて判断することです。
また、心から信頼できるメンターのような上司がいて、あなたのためにもう少しキャリアを積んでからの方が転職は有利だという助言をもらう場合もあるかもしれません。
これもまた、耳を傾ける価値があると考えられます。あなたを熟知した恩師の言葉なら、会社の利害を超えた心からの助言であると言えるでしょう。
もちろんすぐに考えを正す必要はないですが、これらの例外的なケースは今一度自分の市場価値と希望を考え合わせて結論を出しましょう。
よくある引き止めのパターン
引き止めは、どのようなパターンで行われるのでしょうか。心構えとして、よくある会社側の引き止めパターンを理解しておきましょう。
君が必要なのだと説得される
会社にとって、あなたが必要なのだということで引き止めの説得することは多いでしょう。場合によっては「君がいなくなると仕事が回らなくなる」などと懇願されたりすることもあります。
しかし、退職を強く決心していたりすでに他社の内定が出ていたりする場合は、前述の例外を除いて迷ってはいけません。あくまで会社都合だからです。
感情的になじられる場合も
どのような言葉をかけられても、動じないことが大切です。部下が退職を切り出せば、当然上司は動揺します。
最初は「君が必要だ」と言っていても、引き止めが無理だとわかると、感情的になってなじったり、あなたの能力を貶したりする上司もいるかもしれません。
そうなった場合には覚悟を決めて、何を言われても気にせずに聞き流すことが賢明です。
後任が決まるまでいて欲しい
退職することは了解してもらった上で、せめて後任が決まるまで退職時期をずらしてほしいと頼まれるケースも少なくありません。これに関しては、応じられる範囲で調整するのが適切な対応です。
転職先への入社予定日よりさらに先までの慰留の場合は、転職先に事情を伝えて入社日程の変更が可能か、相談してみましょう。
程度の問題もありますが、応じてもらえる可能性は充分あります。転職先の会社にしても、むしろ現職をきちんと全うしようとする責任感を感じて印象をよくする可能性もあるでしょう。
ただしそれが1ヶ月のような長期の繰り延べになると、それを断れない弱さを疑われるおそれがあります。
いずれにしても、転職先に相談してほんの少しでも難色を示されたら、無理はせずに転職先の入社日程を優先させましょう。
カウンターオファーを提案される
退職を申し出た社員に対して、会社側が給与のアップなどを提案して引き止める手法が「カウンターオファー」です。
給与面の不満があなたの本音の退職理由であった場合は、再考する価値があります。ただし、その場しのぎの口約束で後々うやむやになるケースがないとはいえません。
そうらないように、しっかり話を聞くべきです。書面などで残してもらい、その上でその場では返事せずに、一旦持ち帰って冷静に熟考しましょう。
相談できる人がいれば意見を聞くのもよいかもしれません。
また、給与以外の問題で退職を決めているなら、一切動じないで退職の意向を貫きましょう。
脅しをかけてくる
中には退職を申し出ると、脅しにかかってくる会社があるのも事実です。
それが軽いものならともかく、損害賠償を請求すると言われたり、この業界で働けないようにしてやるなどと言われたりする場合もあります。
もちろん、この手の脅しはひとつ間違えれば違法行為なので、毅然として自分自身の意向を貫けばよいのです。
万が一そういった強引な引き止めを受けた場合には、上司のさらに上位者に相談することで解決する場合も見受けられます。
合法的に速やかに退職するためには、「退職届」を提出することで、従業員側から労働契約を一方的に解約することが可能です。
たとえすんなり受理されなくても、提出から2週間が経過すれば労働契約は消滅します。(民法627条)
企業側の脅しがもし度を過ぎる場合は「労働基準監督署」へ相談しましょう。専門の相談員が解決に導いてくれるはずです。
円満退職のための引き止めの上手な断り方
退職の決意が固い場合は引き止めを断るべきですが、できれば円満退職に持っていきたいものです。
転職後も同じ業界であれば、今後の仕事で関係する可能性が大いにあります。辞め方は、その時に良い関係性が結べるかどうかに影響を与えるでしょう。
円満退職ではなかった場合は、悪い評判を流されるおそれもあります。それは前の会社だけではなく、横のつながりで他の会社にも広がる場合もありえるのです。
また、違う業界であったとしても、どこでつながりが生まれるかわかりません。
単に辞めるだけなら強引に辞めることは可能です。しかしできるだけ円満退職の形で辞めていった方が、あなたの将来にとってプラスになります。
ここでは円満退職のための、引き止めの上手な断り方を紹介しましょう。
ポジティブな転職理由を伝える
転職理由を訊かれるはずなので、極力ポジティブな動機を伝えましょう。実際は現在の職場への不満であっても、円満退職のためにそれは伏せるべきです。
会社への不満や、上司にとっての不都合な理由でなければ、関係を悪くする事態は避けられるでしょう。
また、不満に感じている点を正直に伝えてしまうと、その点を改善する提案をされて、引き止めに使われるかもしれません。
引き止めの隙を与えないような、前向きな理由を用意しておきましょう。
感謝を添えて伝える
退職を引き止めてもらったこと自体に、まず有難いという気持ちを表現しましょう。退職するけれど、お世話になってきたことに対して真摯に感謝の気持ちを伝えるのです。
そこまですれば覚悟は決まっていることが伝わって、引き止めをあきらめてくれる可能性が高いと言えるでしょう。
退職ではなく退職時期を相談
上司というものは部下の退職の話に関しては、決定するまでに相談して欲しいものです。
決定していると引き止めの説得に手を焼くけれど、未定ならこれまでの経験を活かしてあの手この手で引き止めやすいと考えています。
よって、上司に相談する際には退職するかどうかを相談するのは避けましょう。そうではなく、退職は決定しているが退職時期はいつにするかを相談するというスタンスが正解です。
ただし、転職先への入社日が決まっている場合は、相談ではなく具体的に報告しましょう。
その場合に相談という形をとると、「もう決めているくせに何が相談だ」と上司の気を悪くさせて、円満に退職しづらくなります。
繁忙期をできるだけ避ける
業界や職種、あるいは関係しているプロジェクトや決算期などにより繁忙期というものが存在します。
退職時期は、できるかぎり繁忙期を避けるべきでしょう。それ自体が引き止めの強い要素になるからです。
繁忙期はただでさえ多忙な時期なので、そこで退職すれば職場に大きな迷惑をかけるのはもちろん、業務の引き継ぎも大変となります。円満退職のためには繁忙期が落ち着いてからにしましょう。
1ヶ月以上前に退職の意向を伝える
会社に退職の意向を伝えるのは、できるだけ1ヶ月以上前にしましょう。
前述のように民法上は、退職届を提出してから2週間が経てば退職は成立します。
しかし、就業規則では退職予定日の1ヶ月以上前に申し出ることが規定されていることもあるのです。社内規定よりも法律は優先しますが、それをすると決して円満退職とはいかないでしょう。
後任者の引き継ぎや取引先への対応も含めて、スムーズに退職するための必要な工程がたくさんあります。できるだけ期間の余裕をもって退職を申し出ることで、会社との関係悪化を防げるでしょう。
待遇を退職理由にしない
会社側がその時にやめられると困る場合には、なんとか退職を引き止めようと、簡単に解決する問題であればそれに応じようとすることがあります。
このとき給与などの待遇面が理由であれば、前述のカウンターオファーで引き止めようとすることが考えられるでしょう。
会社側からすれば労働条件の変更は融通が利きやすいのです。給与面の改善を直ちに提案されて、退職を考え直さざるをえない雰囲気になることもしばしば見受けられます。
しかし、それは必ずしも長期的な社内での出世の展望につながるとはかぎりません。むしろそういうことがあると、要注意人物とみなされるおそれがあります。
その場は流れている仕事を回すために、一時しのぎとして待遇が改善してもそれが完結してしまえば、いつどんな理由をこじつけて減給や降格の目に遭うかもしれないのです。
そう考えれば、条件によっては残ってもよいという考えは、いずれまた同じ不満に直面するリスクが高いといえます。待遇面は、本音がそうであっても退職理由として伝えない方が賢明です。
会社の事情に配慮
辞めることは撤回しないとしても、できるだけ会社の状況や上司の事情を考慮した方向性の発言や行動をとるようにしましょう。
円満退職はお互いの事情を理解しあって、どちらもが妥協し合う部分があってこそ実現します。それぞれが、自分の都合だけを押し付けては平行線になるだけです。
会社側としっかり話し合い、双方が納得したうえで退職することが、転職後にスッキリした気持ちで新たな出発をするためにも欠かせません。
「退職は決定事項」の姿勢を貫く
最後は、すべてのケースの根本に据えておきたい姿勢です。
ひとたび退職を決意したのであれば、それが揺るがないことを伝え、つけいられる隙を見せない微動だにしない固い決意で臨みましょう。
たしかに、上司からの引き止めをスパッと断るのは、多少なりとも気が引けるはずです。とはいえ、少しでも逡巡するような素ぶりを見せてしまうと、上司は引き止められる可能性があると思ってしまい、意地になってしまいかねません。
上司がそういうモードになると、引き継ぎや退職日の確定が先延ばしになってしまい、転職先への入社に影響が出るかもしれないのです。
また、辞めた後もお互いにしこりが残ります。既に次の就職先が決まっているなら、それを事実としてはっきり伝えるのがもっとも効果的です。
決まっていない場合でも、転職に向けて具体的に活動中であることを伝えるとよいでしょう。
まとめ
会社に退職を告げた時の、引き止められる理由から説き起こして、よくある引き止めのパターンや円満退職のためのコツについて解説しました。
あなたの退職の意向を聞いた会社側からのよっぽどの提案がない限りは、引き止めに屈せずに、一度決めた退職の意志を貫徹してください。
ただし、さまざまな意味で円満退職に持っていく方がよいのは間違いないでしょう。
転職活動に励むみなさんには、ここで紹介した円満退職のためのコツも参考にして、スムーズに退職できて、気持ちよく新たなスタートを切れるよう願っています。