転職市場が海外ほどは発達していない現代日本では、長い歴史を持つ終身雇用制度の影響がまだ残っています。そのため、転職回数が多いと中途採用の選考に不利になるといわれることもあるのです。
しかし、転職の経験が多いからといって、必ずしも転職が難しいわけではありません。転職の多さを逆手にとって強みとし、豊富な経験を活かして即戦力の人材として受け入れられることも多いです。
この記事では、転職回数が多いとなぜ不利だといわれるのかに目を向け、転職回数が多いことを強みに置き換える方法や選考対策、転職回数が活かせる転職先などについて解説していきましょう。
目次
転職回数が多いとなぜ不利になるのか?
海外では、キャリアアップのための転職は日常的に見られます。環境や条件の向上を求めて、転職する人も多いためです。日本でも、転職回数が特に影響しない企業や業種はたくさんあります。
しかし、元々日本の封建時代における縦社会の中で、社員というものは企業に私生活を犠牲にしてでも奉仕し、企業はそれに応えて社員の生活を護るという日本の企業風土がありました。
そのような背景のもと、年功序列と終身雇用の文化が長きにわたって続いてきたのです。
そのため、一般的には履歴書に書かれた在籍企業の数が多いと選考に不利だといわれているのが現状でしょう。
平均的な転職回数とは?
平均的な転職回数は、年齢によって異なります。20代は、ゼロ回の人が8割を超えており、あってもほとんどが1回程度です。しかし、30代になると転職経験者が半数を超え、平均的には1〜2回となります。 (参考:転職回数が多いと不利?年代別の転職回数と採用実態)
目安としては転職回数が3回を超えると「多い」と見られがちです。とはいえ、新卒で就職した企業がどうしても合わないこともあるでしょう。
あるいは、入社後に何年かして仕事にミスマッチを感じたり、仕事以外の事情で転職せざるを得なかったりすることもあるはずです。
そもそも、転職回数が多い選考に不利といわれる理由は何でしょうか?
それは、主に「定着性」と「専門性」において疑問視されるからといえます。それぞれを、少し掘り下げてみることにします。
定着性に不安
まず、入社後に転職を繰り返すと定着性が危ぶまれるということです。
なぜなら企業サイドとしては、コストと手間と時間をかけて採用活動を行うので、入社した後には極力職場に定着してくれそうな人を採用したいと考えるからです。
応募者の転職回数が多いと、保守的な企業であれば選考担当者に転職を繰り返す「ジョブホッパー」だと疑われかねません。
具体的には「飽き性なのかな」「ストレスの耐性に欠けるのだろうか」「人間関係がこじれやすい面がある人なのか」などと疑念を抱かれがちです。そのため、採用は難しくなります。
専門性に疑念
また、転職を繰り返しているということは、必然的に1社あたりの在職期間が、トータルの経験年数からすれば短くなります。
あくまで中途採用は「即戦力」を求めているのです。求める人材の職務経験年数が連続している場合は、専門性を持つ裏付けとなります。
しかしそれが連続性はなくたびたび途絶えていると、たとえトータルでの経験年数はあったとしても、専門性が身についているとはなかなか評価されにくいものです。
転職回数が多いと、選考の際にはこうした懸念によって、本当は優秀な人材であったとしても採用に至らない場合があることは否めません。
転職回数を強みに置き換える7つの視点
転職回数が多いことは、何も悪い面ばかりあるわけではありません。転職経験が多いからこそアピールできる、人より優秀な面があるのです。
前述の「定着性」と「専門性」の疑念を払拭するための視点を意識して、選考書類や面接に反映させる必要があります。
それにより自信を持って、ほかの応募者より自分の人材価値が優ることをアピールするのが、書類選考および面接突破のキーポイントといえるでしょう。
転職回数の多さを強みに置き換えるための視点を挙げると、以下の7つとなります。
キャリアの一貫性 スキル 具体的な実績 豊富な経験値 適応能力 積極性 視野の広さ
個々の視点について、詳しく触れておきましょう。
キャリアの一貫性
たとえ転職を何回か繰り返していても、応募先と同じ業界での仕事を貫いている場合には、キャリアの一貫性を充分アピールできます。
つまり、事情があって転職回数が多いけれども、転職しても同じ業界ということは、それだけその仕事に熱意を持っているのだという裏付けにもなるのです。
キャリアの一貫性があることはその仕事に対する適性を表現し、さらに後述するスキルや経験値にもプラスになります。
スキル
転職回数が多いのは、自分自身が市場に対しての人材価値を意識していることが伺えます。転職を繰り返すことができたのは、見方を変えれば場所が変わっても活躍できるスキルを身につけているからともいえるでしょう。
実績を上げることにこだわっている面から、新しい環境でも数字で結果を示せる優秀な人材力をアピールできます。
豊富な経験値
裏返せば職場を移った回数の多さは、豊かな経験値をもっているということです。キャリアが一貫している場合には、応募先の業務に必要なスキルは、充分に備えていると見られるでしょう。
それは転職後にもすぐに成果を出すことができる、即戦力という評価に通じます。そのため、同じ業界での経験の豊富さは優位性になるのです。
また、複数の業界を経験した場合も、違ういくつもの世界の経験を豊富に積んでいることにより、多方面の知識やスキルを身につけているという武器になります。
具体的な実績
過去の職場で実績を上げてきた具体的な内容を、分かりやすく簡潔に記載したり述べたりすることは、客観性を伴うアピールになります。
特に面接では、自分がどのような背景でどうやって実績を上げたかということを、選考担当者がイメージしやすいように、リアリティがある語り口でアピールしましょう。
できれば具体的な数値や第三者の評価なども添えると、より信憑性が増して効果的です。
適応能力
転職経験がなくて1社の企業文化しか知らない人の場合、職場での当たり前はほかの職場での当たり前ではないことを経験していません。一方、複数企業での業務経験がある人は、さまざまな企業文化を経験しています。
企業ごとに独自のルールがあることを深く理解し、さまざまな「常識」を見てきたからこそ、固定観念にとらわれず新しい職場の文化をすんなりと受け入れることができます。
積極性
転職回数を繰り返す人は、理由はそれぞれ違うにせよ自分自身に合った職場を探し、よりよい環境を求める行動を起こしています。
つまり、それだけ自分の持てる力を最大限に発揮できる場所を、積極的に探してきたともいえるでしょう。
たとえ現状に不満があっても、向上心がなければ転職という行動に出るのは簡単なことではありません。転職の経験が多いのは、積極性や向上心、行動力がある証しともいえるのです。
視野の広さ
1社しか経験がない人は、自身が経験した業界や担当した業務については詳しく、スキルも持ち合わせているでしょう。ただし、その企業しか知らないのでともすれば視野が狭くなりがちです。
一方、転職回数を繰り返した人は複数の環境で働いた経験から、自ずと視野が広がり、応募先の社員にはない大胆で柔軟な発想を持ち込めるポテンシャルを秘めています。
転職回数が多い場合の選考対策
転職回数が多い場合の、選考対策について詳しく解説します。まず大前提として「すべてをポジティブに表現」することです。
その上で、ここから述べる具体的な対策への落とし込み方を実践してください。
書類選考対策
書類選考の段階は、特に職務経歴書において意識すべきことがあります。
同業界の中での転職や同じ職種にこだわるなどの、キャリアの一貫性がある場合は、それを明確に伝えられるよう意識して書きましょう。
簡潔さを意識しながらも、単に職歴の羅列にするのではなく、補足する言葉を添えてスキルアップのストーリーを感じさせるのです。
「前職で培った〇〇の知見を活かして〇〇業務を担当」
「〇〇業務で得た〇〇スキルを評価されマネージャーとして就職」
以上の例のように、補足によってキャリアアップの流れを明確に示すのが望ましい書き方です。
複数の業界の場合には時系列ではなくキャリアごとにまとめる
また、複数の業界や職種になる場合は、時系列で記載するのは得策ではありません。
「営業」や「企画」「マーケティング」などの経験したキャリアごとに整理し直して、別々の企業でも同じキャリアをグループとしてまとめるのです。
当然、同じ企業で経験した別のキャリアは別のグループにまとめられます。
そうやって縦分けた上で、それぞれの段階に習得したスキルや実績を明記して、経験の価値を表現しましょう。業界がさまざまであっても散漫な印象を避けることができ、むしろある種の一貫性を出すことができます。
面接対策
面接に進むことができれば、転職回数がなぜ多いのかと問われることになるでしょう。
ここでのポイントは、書類選考は通過しているので選考担当者の質問の意図が、転職を繰り返したことでどういう経験をし、何を得たかを知りたいということです。
つまり、ネガティブな要因を話す必要はなく、複数の企業を経験してどのようにキャリアアップしてきたか、どのようなスキルを身につけることができたのかをアピールするチャンスだと考えましょう。
退職理由は次なる転職の志望動機と表裏一体であるべき
また、過去の退職の理由を聞かれることもあるでしょう。これに答える場合には、退職理由が、そのままその次の転職先に対する志望動機となるように表現するのが賢明といえます。
端的にいえば、前の企業で満たされなかった部分が満たされると思える企業に出会って、そちらに移ったというストーリーです。
これは、次々と理想を求めて職場を変わる「ジョブホッパー」と見られないかという不安もあるかもしれません。
しかし、退職理由と転職の志望動機がバラバラであると、気まぐれで自分勝手な印象を与え、そちらの方がマイナス材料になります。
そうではなく、退職理由と転職の志望動機が表裏一体である方が、はるかに信頼できる印象を与えるでしょう。
むしろ、応募先企業の行き方こそが、今まさに自分の仕事に対するビジョンと方向を同じくしているということを訴えるのです。
そして、自身の成長と努力が応募先企業の発展につながるという確信を深く抱いていることを、熱意を込めて強調しましょう。それによって、ポジティブな印象を与えることが可能です。
転職回数を活かせる転職先とは?
転職回数の多さがマイナスにならない場合や、むしろその経験が活かせる場合もあります。それは「外資系企業」「ベンチャーやスタートアップ」「専門性が高い職種や営業職」などです。個別に解説しましょう。
外資系企業は転職でキャリアアップする文化がある
日本と比べて、海外においてはヘッドハンティングや転職は日常的なことです。
そもそも終身雇用という文化もなく、能力のある前向きなビジネスパーソンはキャリアアップと転職がセットになっていることも多いといえます。
彼らはスキルを常に磨き、自分をより高く評価してくれる企業を求めているのです。
そのため、海外から日本に進出してきた外資系企業は、転職回数の多さをポジティブに評価する場合があります。つまり、キャリアの豊富さという解釈をしてくれるのです。
ベンチャーやスタートアップはポテンシャル重視の採用
また、ベンチャー企業やスタートアップの多くも、転職回数はそれほど気にせず、応募者のポテンシャルを重んじた採用をするという傾向があります。そのため、大企業では難度が高い人にもねらい目かもしれません。
とはいえ、選考では前職での成果や転職の動機などが重視されます。極力ストーリー性がありって、理由付けがなされた回答を用意しておきましょう。それがきちんとできれば、むしろ有利な材料になる可能性があります。
専門性が高い職種や営業職
専門性の高い知見が求められる職種などは、転職回数が多くても選考に取り立てて悪い影響はありません。
たとえば、ITエンジニアなどの技術職やITコンサルタントなどの専門職は、キャリアアップのために転職することが多いのです。転職回数が4回を超える場合でも、転職の成功率は高水準といえます。
また、業界を問わず営業職などは転職者が多い流動性が高い職種であるため、転職回数をそれほど気にしなくてもよいでしょう。
営業職はどのような業界にも必要な職種で、未経験でもチャレンジしやすい職種でもあります。基本的な営業スキルを身につけていれば、業界が変わっても比較的スムーズに仕事に慣れることができるでしょう。
まとめ
転職回数がたとえ平均より多くても、豊富な経験や培ったスキルを活かして即戦力としての強みに置き換える選考対策によって、前向きに転職活動に向かいたいものです。
また、転職回数が活かせる転職先もあり、決して悲観的になる必要はありません。過去の転職経験を自身のポジティブなストーリーとして捉えて、果敢に転職活動に励んでください。