IT業界は人材の長期的な不足に加えてDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、コロナ禍による企業のオンライン対応の普及などにより人材ニーズが増え、転職志望者にとって売り手市場になっています。そのため、IT業界経験者の採用だけでなく、未経験者でもポテンシャル採用が増えています。別の業界で働きながら、IT業界に興味がある転職志望者の方も多いでしょう。
今回の記事では未経験でIT業界への転職を検討している人のために、いまさら人に聞けないような事も含めて、IT業界の基礎知識をまとめてお伝えします。転職ビジョンを組み立てる際の参考にしましょう。
目次
そもそもITとは
まずはそもそもITとは何かという、基本を確認しておきましょう。IT(Information Technology)とは「情報技術」を意味し、とりわけコンピューターやインターネットを主軸としたデータ通信にかかわる技術のことです。
近年においてはハードウェア(IT機器・デバイス)はもとより、ソフトウェア(システム・アプリケーション・プログラム)が重要な役割を担っています。また、インターネットによる通信網がインフラとして普及してきたことに伴い、ITに代わって、ICT(Information and Communications Technology/情報通信技術)という言葉もよく使われるようになりました。膨大な数のデバイスが、グローバルにネットワークで接続されていて、それぞれのデバイス上で無数のプログラムが動作し続けていることを想像してみましょう。この壮大なネットワークそのものをITと呼ぶこともあります。
また、私たちが日常的に利用する電化製品や自動改札、電車や自動車、エレベーター、医療機器などもすべてコンピューターが内蔵されたITシステムです。このようにITは今や、私たちの暮らしや経済活動に欠くことのできない、社会インフラを指しています。
IT業界のトレンドを示す重要基本用語
IT業界を目指すなら最低限知っておきたい、業界のトレンドを表現する重要な基本用語として以下の10項目があります。
- IoT
- AI
- RPA
- xR
- DevOps
- ブロックチェーン
- クロステック
- 5G
- クラウド
- Webフレームワーク
個別に見ていきましょう。
IoT
IoT(Internet of Things)は「モノのインターネット」と呼ばれるもので、製品に搭載されたセンサーからさまざまなデータを取得してクラウド上に保管することや、別のユーザーと共有することを指します。さまざまな電化製品や機器がインターネットと接続することにより、利便性や危機管理において従来以上の機能と価値を生み出します。
実用化が進んでいるのは医療や農業、自動車や交通機関などの分野で、特に現在ではサーマルカメラ(新型コロナウイルスの感染防止のための非接触検温デバイス)などが大活躍しています。今後も高速大容量通信である5Gサービスの進展によって、さらにIoTの活用範囲が広がることは間違いありません。
AI
AI(Artificial Intelligence)は人工知能を指す言葉です。人間の知的行動をソフトウェアを用いて人工的に再現し、経験から学習して新たな情報に順応することで、人間が行うように柔軟にタスクを実行します。チェスをプレイするコンピューターや自動運転車などの、話題性があるAIの活用事例は、自然言語処理とディープラーニングが鍵となっています。
これらのテクノロジーによって大量のデータからパターンを学習し、従来では機械にはできなかった高度なタスクをこなせるようにAIが進化します。すでに医療や福祉関連、産業デバイスやセキュリティなどの多くの分野でAIサービスが導入されています。当初は中小ベンチャー企業の活躍が目立ったAIビジネスは大手企業の参入が始まっているので、より一層活性化するでしょう。
RPA
RPA(Robotic Process Automation)はPC上で完結するタスクを、ソフトウェア型のロボットで自動化する技術です。その技術を使った業務自動化ツールがRPAツールと呼ばれます。
企業はRPAの導入によって業務効率化、生産性の向上、人材不足の解消が期待できるでしょう。実際に事務処理作業時間を削減した、多くの事例が出ています。そのため、現在自治体や金融機関、商社、流通事業者、不動産、インフラなどのさまざまな分野で導入が広がっています。
xR
xRはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、SR(代替現実)、MR(複合現実)などの総称です。リアルとバーチャルな世界観を融合させて、かつてなかったユーザー体験が得られる技術です。
現在は主に、エンターテインメントの分野における映像作品やゲームなどにおいての活用が主流となっています。いずれは医療現場や教育現場などでの活用が期待できます。ちなみにxRによる多様な体験は「マルチエクスペリエンス」と呼ばれるので、併せてその言葉も覚えておきましょう。
DevOps
DevOpsとは従来は別々であった開発(Development)担当と運用(Operations)担当が連携、もしくは同じ人材が担当し、柔軟でスピーディーにソフトウェア開発を進める概念、および手法です。この手法を採用すると開発速度を格段に向上でき、変化の速いマーケットのニーズに対応しながらIT製品を開発できます。
ブロックチェーン
ブロックチェーンはデータを時系列で記録する技術です。金融とITが融合した事業領域であるフィンテックを支える技術で、取引履歴の改ざんができない性質からセキュリティ面で非常に優れています。もともとは、仮想通貨の技術として数年前に有名になりました。最近では改ざんできない特性を利用して、商品の流通経路の証明や電力の発電元の確認などのさまざまな分野で活用されています。
クロステック
クロステック(X-Tech)は、先端技術と既存ビジネスを組み合わせた新しいサービスを意味します。クロステックが増えつつある背景として、DXがグローバル規模で進んでいることが挙げられるでしょう。
クロステックの主な種類は、FinTech (金融)・AutoTech (自動車)・InsurTech (保険)・HealthTech (健康)・MedTech (医療)・SportTech (スポーツ)・AgriTech (農業)・EdTech (教育)・RETech (不動産)・HRTech (人事)などです。
5G
5Gは超高速・大容量、多数同時接続可能な通信技術で、2020年3月から大手通信会社でのサービス提供が始まっています。5Gの普及によってIoTが生活に浸透し、あらゆるモノがインターネットに接続される時代も遠くないでしょう。5Gの技術により、自動運転や医療の遠隔操作、xRを活用したスポーツ観戦なども精度の向上が期待できます。
クラウド
クラウドとは、正しくはクラウドコンピューティングを指します。ユーザーが物理サーバーを使用せずに、インターネットを通じてさまざまなシステムやソフトウェアを利用する考え方です。
クラウドコンピューティングでは、すべてのタスクやデータ保存がネットワーク上で行われます。従来のオンプレミス型システムに比べて、コスト効率が格段に良くなりました。また、PCのハードディスクやUSBメモリーにデータを保存せずとも、どこでもアクセスできる利便性が評価されています。
最近では、サブスク(定額で使用できる料金システム)化が進んでコスト面でのメリットも強まっています。働き方改革とコロナ禍の影響によって、クラウド型システムにシフトする企業が増えつつある現状です。
Webフレームワーク
Webフレームワークとは、Webシステムおよびアプリケーションを開発するための機能があらかじめ備えられた開発基盤のことです。Webフレームワークはプログラミング言語の違いだけでなく、使う目的によっても分類されます。
従来ではWebフレームワークは、大規模な開発プロジェクトの効率を向上させるために活用されてきました。しかし近年においてはむしろ、Webアプリケーションの開発に欠かせない存在となっています。Webフレームワークの利点はWeb開発上の共通した作業をショートカットし、開発効率を向上させることです。迅速に実装できるだけでなく品質および保守性も向上します。
IT業界躍進の原動力「DX」
DX(デジタルトランスフォーメーション)はウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授によって2004年に提唱された概念です。デジタル技術を社会に浸透させることにより、社会生活や経済活動をより良いものへと変革することを意味します。
重要なことは、DXがもたらすのはただの変革ではなく、既存の価値観や枠組みを根底から覆す革新的なイノベーションであるということです。国が経済産業省を窓口として日本の国際競争力を向上させるために、企業のDX推進のサポートを開始し、2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置しました。
しかし、企業の組織改革を含めたビジネス全体を大きく変えることは難しく、当時本格的なDX推進に踏み切っているのは先進的な企業にかぎられていまガケす。そんな現状に危機感を抱いた経済産業省は2018年9月に「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜」を発表しました。
2025年の壁とは?
このレポートは2025年を節目として、企業にとって多くの問題が立ちはだかると警鐘を鳴らしました。2025年にはIT人材が40万人規模で不足し、さらに企業の基幹システムの約6割が構築から20年を超えて老朽化対策が課題になるとしています。そうなると次世代のインフラ整備やデジタル化が必要になるにもかかわらず、人材不足で対応し切れないケースが増えるかもしれません。そしてやむなく古い技術のままで事業を続けることによる、国際競争力の低下などが懸念されます。
それが「2025年の壁」の中核的な内容です。そのため、レポートの中で強調されたのが、2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要性でした。
コロナ禍がDX推進を加勢
その後、2020年序盤から始まる新型コロナウイルス感染症拡大の影響は、全体として捉えるとDXの推進にとってはプラスの影響をもたらしました。非対面非接触化を進めるために、リモートワークや営業活動のオンライン化が、大企業だけでなく中小企業にも急速に普及します。
また、中小企業がコロナ禍での生き残りをかけて業務効率化を進めるためのクラウドシフトなど、さまざまな理由からDXが進んでいるのです。日本のDXは米国ほどは進んでいないとされ、課題も抱えています。それでもIT業界にとってはマーケットを広げ、現在の躍進の原動力となっています。
IT業界内の分野と職種
IT業界とひと口に言っても、その中でさまざまな業種、職種が存在します。ここではIT業界内の主要な5分野と代表的な8職種を紹介しましょう。
IT業界内の主要5分野
IT業界を分野別に分けると、主に以下の5つに集約されます。
【インターネット・Web業界】
インターネット・Web業界は、インターネット上でITサービスを手掛ける業界です。企業や店舗の公式サイト、Webコンテンツなどを作成し、運営するWeb制作会社やIT系の広告代理店、インターネットモールの運営企業などが当てはまります。
【通信業界】
通信業界はインターネットの通信インフラを扱う業界です。ネットワークの開発から運用などのインフラ全体の整備を行う事業者や、通信サービスを販売する電気通信事業者などが含まれます。
【ソフトウェア業界】
ソフトウェア業界はオペレーティングシステムやアプリケーションの制作・販売を手掛ける業界です。OSはPCやスマホを動かすソフトで、アプリケーションはPC上やスマホ上で特定の動作をするソフトで、ハードウェアを守るセキュリティソフトなども扱っています。
【ハードウェア業界】
ハードウェア業界とは、PCやスマホの本体、周辺機器などの物理的なデバイスの企画・製造・販売を手掛ける業界です。アイテムは企業向けのIT機器から、個人消費者向けのデバイスまでさまざまな対象があります。
【情報処理サービス業界】
情報処理サービス業界はITシステムの開発や保守運用などを手掛ける業界です。ITを活用した業務効率化を提案する、コンサルティング業務も行います。
これらIT業界の主要5分野に関しては、以下の記事で解説していますので、そちらも参考にしてください。
IT業界内の代表的8職種
IT業界の中には多くの職種が存在しますが、整理すると代表的なものは以下の8つに集約されます。
【エンジニア】
エンジニアとは、ITの技術部門を専門で担当する技術職のことです。開発系・インフラ系・営業系・その他に分かれ、各系統の中で以下のように細分化されています。
<開発系エンジニア>
- システムエンジニア
- プログラマー
- コーダー
- マークアップエンジニア
- Webエンジニア
- フロントエンドエンジニア
- バックエンドエンジニア
- データベースエンジニア
- IoTエンジニア
- AIエンジニア
- テストエンジニア
- 制御・組み込みエンジニア
<インフラ系エンジニア>
- サーバーエンジニア
- ネットワークエンジニア
- 社内SE
<営業系エンジニア>
- プリセールス
- ヘルプデスクエンジニア
- サポートエンジニア
- フィールドエンジニア
<その他のエンジニア>
- ブリッジSE
- DevOpsエンジニア
【クリエイティブ】
クリエイティブは、Web広告やWebサイト、Webコンテンツ、ゲームなどのデザイン面の制作を担当する職種で、主に以下の5つに分かれます。
- Webディレクター
- Webプランナー
- Webデザイナー
- UIデザイナー
- UXデザイナー
【セキュリティ】
セキュリティは情報セキュリティを専属で担当し、ITインフラの中でセキュリティに配慮したシステム設計と運用、サイバー攻撃から護るために調査や対策を行う職種です。
【プロジェクトマネジメント】
プロジェクトマネジメントは、ITシステムの開発プロジェクトを推進する責任者やリーダーで、以下の2つがあります。
- プロジェクトマネージャー
- プロジェクトリーダー
【IT営業】
IT営業はWebサービスやITサービス、IT製品の販売を担当する営業種で、ITシステムに関する専門知識を用いて営業活動を行います。
【マーケティング】
マーケティングはITを活用したマーケティング、あるいはIT商材のマーケティングを担当する職種です。自社のマーケティングやクライアントのマーケティングの業務委託もあります。主に、以下の3種類に分かれます。
- IT商材のマーケティング担当
- デジタルマーケティング担当
- Webマーケティング担当
【データスペシャリスト】
データスペシャリストはデータ分析をもとに統計学や機械学習、マーケティング理論なども用いてデータをビジネスに活かす職種です。
主に以下の2つに分かれます。
- データアナリスト
- データサイエンティスト
【ITコンサルタント】
ITコンサルタントは、クライアント企業のニーズを満たすシステム導入をサポートする職種で、経営課題や業務課題に関するコンサルティングを行う案件も担当します。
ここで簡潔に触れたIT業界の代表的な8職種に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考に御覧ください。
IT開発に欠かせない主要言語
IT開発に使用されるプログラミング言語は多数ありますが、すべてを習得する必要はありません。目的によって必要なプログラミング言語は絞られてきます。
ここではIT開発に欠かせない主要言語を紹介しましょう。
JavaScript
多くの言語の中で、唯一あらゆるブラウザ上で動くのがJavaScriptです。初学者でも習得しやすい言語であり、フロントエンド開発に関しては必ず習得すべき言語です。フロントエンドとサーバーサイドのどちらの開発にも使用できる汎用性の高さがあり、習得すると仕事の幅が広がります。過去の膨大な開発実績により蓄積されたノウハウが、優秀なフレームワークやライブラリに反映されて使いやすい環境があります。
PHP
もっとも広く使われている言語は、サーバーサイドのスクリプト言語であるPHPです。PHPは、動的にWebページを生成できます。
文法や仕様が他のプログラミング言語と比較してシンプルで、習得しやすい言語です。競合している言語はRubyやPythonですが、現状のシェアはPHPがおそらくトップでしょう。そのため、習得すると仕事の選択肢は大変広がります。また、日本語の解説情報が充実しており、LaravelやCakePHPなどのPHP向けのWebフレームワークも充実しています。
Ruby
Rubyは豊富なライブラリで日本語情報が潤沢な、オブジェクト指向スクリプト言語です。多くのWebサービスで使われています。スタートアップ系企業がRubyを開発言語として選択するケースが増えています。その背景には、Ruby on Railsという非常に有効なWebフレームワークの存在も影響しているでしょう。
また、Rubyのライブラリ「gem」は、Rubyで書かれたプログラムをパッケージ化しえ使えるようにしたものです。パッケージ単位で簡単にインストールやアンインストールができるので便利です。Rubyのコミュニティも非常に活発で、バグで困ったときの解決に役立ちます。
Python
Pythonは機械学習の普及によって、一躍注目が集まった言語です。日本よりも海外で人気が高く、Googleの開発基準言語のひとつとしても有名です。
習得のしやすさはPHPと同じか、多少難しい程度です。機械学習の分野においてはすでに必須の言語となっており、機械学習系サービスを提供する企業が、サーバーサイドの開発でPythonを使用するケースが大変多いです。
C言語
C言語は1972年に開発されたプログラミング言語で、古い歴史と高い汎用性を持つ言語です。簡潔に記述できるという特徴を持っています。
汎用性の高さは、C言語を学んでから、C++、Python、Rubyなどのプログラミング言語の学習に進むエンジニアが多いことでもわかります。さらに適用できる分野が、OSなどの基幹開発をはじめスマホアプリ、IoT、産業ロボット、組み込みソフトウェアまで多岐にわたるので、使えるとプロジェクトのアサインに有利です。
Kotlin
Kotlinは現在最も勢いのある言語のひとつで、JavaやScalaと同様にJVM系言語です。Androidの公式開発言語に選ばれたことで人気が出て、現在世界中のエンジニアコミュニティ内で注目されている言語のひとつと考えてよいでしょう。
従来であればJavaやScalaが選択されていたようなケースで、Kotlinが採用される事例が増えてきています。それは、Javaにはなかったモダンな文法でプログラムを記述できるからです。今後は「クロスプラットフォーム開発用言語」としても広まっていくと予想されています。
Go
GoはGoogleによって開発された、オープンソースのプログラミング言語です。信頼性の高い効率的なソフトウェアを容易に構築できると、人気が右肩上がりです。
Goを採用すればシンプルな構文でコードが書ける上に、実行速度が速いという強みがあります。マイクロサービス構成での開発において、エコシステムが整っていて事例が多いことも強みです。採用する企業が増えつつあり、その上GoogleのクラウドサービスGCPを使う際に大いに優遇されるので習得する価値があります。
IT業界の市場規模と将来性
IT業界の市場規模は、IDC Japan(IT専門調査会社)の発表によると、2020年の国内IT市場は、前年比で2.2%マイナスの17兆8,991億円でした。これには、コロナ禍による影響を反映しています。
また、2021年の予測は前年比2.7%増の18兆3,772億円です。日本経済全体の2020〜2025年度における年間平均成長率は約2.6%で、IT業界の市場規模は2025年時点で20兆3,776億円と、20兆円超えを予測されています。IT業界の市場規模と将来性に関しては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
IT業界の基本知識を、現在の業界トレンドに触れながら解説しました。プログラミング言語などについては未経験者には理解しづらい内容も含まれますが、代表的言語ということで大まかな理解をしておいてください。今後IT業界への転職活動に入る際には進む方向をよく検討して、ここで紹介した情報を参考に必要な知識をよく理解して臨みましょう。