傾聴・承認・質問のサイクル【育成コーチング4】

コーチングは傾聴、復唱、承認、そして質問の繰り返しです。

前回、課題について佐久間が確認し、菅沢から3つの課題が上がり、一つのアクションプランが導きだされました。

物流部との顔を合わせたミーティングをするために、菅沢は出張するというアクションプランでした。

今回は前回の振り返りと続けて同じ課題に進むのか、別の課題にすすむのか、それもコーチされる側が決めます。

背景:
彼らはオミヤゲドットコムという会社の社員です。彼らはMade in Japanの製品だけを売る通販のジェイズグッズカンパニーという部門を2020年4月までに立ち上げなくてはなりません。プロジェクト推進室の使命は、このビジネスの中核となるMade in 他国製品を制御する“EXO”というシステムを、3月第一週までに立ち上げることです。

プロジェクトマネージャーの佐久間はチームメンバーの成長のためにOne on One(一対一の面談)をコーチングで行うことにしました。主に直属の部下で、女性管理職のプロジェクトリーダー菅沢を対象としています。

主な登場人物:
佐久間省吾 35歳 プロジェクトマネージャー
菅沢莉子  32歳 プロジェクトリーダー
東堂聡志  28歳 プロジェクトメンバー

課題を明確にし、原因を探り、アクションプランにつなげる

佐久間
佐久間
おつかれさまでした。出張どうでしたか?①
ありがとうございました。とてもいい話ができました。生産性の件は私から話をすることで、物流部が不安に思っていることを確認できました。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
というと?
物流の生産性はオミヤゲドットコムの入荷もジェイズグッズカンパニーの入荷もすべて一律で計算されてしまうそうなんです。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
ビジネスの種類が完全に分かれるのは今回はじめてだからですかね。
そのようです。私から倉庫長の方に説明をする機会をもらいました。それで、この件、二つの入荷を分けて、生産性も分けて出してもらえることになりました。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
それは。
最初からジェイズグッズカンパニーの生産性の目標は少し下げてもらえることになりました。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
そうなんですね。土気さん、なにかおっしゃってましたか?
会社のプロジェクトだからなかなか言い出せなかったので、直接話ができてよかったと言ってくれてました。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
そうですか。それはよかった。
もう一ついいことがあって、実は買い付け部と商品情報部のプロジェクトマネージャーがたまたまあちらにいらしてて、話ができたんです。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
加藤さんと溝口さんですね。
はい、今回のこと、元はといえば、上流工程の商品情報でMade in Japanのものだけを選別できれば、物流の方にシステムを入れる必要はありませんでした。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
そうでしたね。
それは、買い付け部も商品情報部も思っていてくれて、今後の情報のやり取りをもっと密にしていこうという話に発展しました。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
物流部と商品情報部の情報のやり取りということでしょうか。
そうです。最終の疑似システムができあがる年末までには、なにがしかのやり取りの方法をこちらもサポートして作る予定です。そうなれば、少しでも上流工程で選別できる可能性が高くなって、生産性への影響は減少するはずです。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
生産性への影響が減少するんですね。
はい。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
いい出張になりましたね。で、今日の時間はどうしますか?課題の続きを聞きましょうか②
ええ、あの、二つ課題が残ってました。東堂さんと顧客担当者の関係と、私と東堂さんとの関係です。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
そうでしたね。
この問題について話をしてみていいですか?
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
どうぞ。
あの、その前に佐久間さんに聞きたいんですが、私と東堂さん、どういう風にみえてますか?
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
どういう風にというと?
あのぎくしゃくしているように見えているかなと思って。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
この面談はコーチングで行っているので、私の意見は最後でもいいでしょうか。菅沢さんはぎくしゃくしていると思っているということでしょうか③
すみません。最後でいいです。そうですね。今回も東堂さんを出張に連れて行かなかったのは、自分がこうしたいと思ったことがはっきりしていて、もしかしたら東堂さんはそこまでするのはへんだという気持ちを持ってるんじゃないかと思ったからなんです。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
この件に関してお互い違う意見を持っていると思っていたということでしょうか。
そうですね。……お互いに信頼関係が薄いのではないかと。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
信頼関係が薄いと思っているんですね。それってどんな感じですか?④
うーん。考え方がちょっと違うというか。たぶん、大事にするところが違うのだと思うのです。ちょっとしたコミュニケーションの方法とか。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
コミュニケーションの方法というと?
前回お伝えした、顧客担当者の疑似システムのテストリストの件です。あれも重複だといってこちらから削って返してしまうのではなくて、本当は最低電話会議をすべきだったと今、反省しています。ただ、それが本当に正解かどうかわかりません。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
というと?
東堂さんに削る前に私に事前に相談してもらいたかった。二人で考えたかったんです。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
二人で考えたかったんですね。
あの、佐久間さん。私もコーチングで東堂さんと話をすれば、彼自身がどうしたいかを自発的に聞けるんでしょうか。お互いの信頼関係も発展する手がかりになりますか。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
菅沢さんは、コーチングで話を聞くことが、彼の自発的な行動に結びつき、お互いの信頼関係が深まると思っていますか?⑤
はい、この三回のコーチングを通して私が感じたことを、彼にも感じてほしいです。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
というと?
じっくり話を聞いてもらえると見なくてはいけないと思いながら、見てなかったことに気づくという感覚です。それをもとに自分からやるべきことが正しいアクションとして思い浮かぶという実感です。
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
それは、菅沢さんが、東堂さんにコーチングで話を聞きたいというアクションプランになるのでしょうか。
そうですね。その場合、佐久間さん、アドバイスもらえますか?
菅沢
菅沢
佐久間
佐久間
では、別途時間を設けてアドバイスしましょう⑥

セッションのポイント

①アクションプランを実施した後のコーチングのセッションでは必ず、振り返りをします。この場合、前回、菅沢は物流部門と話をしに行きたいという事を伝えていましたので、成果について確認しています。

②前回の振り返りが終わったら、この時間をどう使いたいかという判断をコーチされる側にします。もし、相手が迷っていたら、前回の要約を再度伝えてもいいですが、他に気になることがあるなら、そちらを優先します。また、残りの課題のどちらを先に話をするのかも相手に委ねます。

③部下とその部下との関係性を聞かれていますが、聞かれていてもコーチはこの場では答えません。アドバイスをする形や、自分の意見を言う形に流れてしまう可能性があるからです。そうなるとコーチされる側は自分で考えることを止めてしまいます。佐久間は、「菅沢さんはぎくしゃくしていると思っているということでしょうか」と相手が感じていることとして、確認しています。意見やアドバイスはコーチングを行っている以上、佐久間が言っているように、最後にしましょう。

④「信頼関係が薄い」というのは言葉として想像つきますが、この言葉の背景を聞くことが大切です。「それってどんな感じですか?」となるべく制限のない形で聞くことによって、本人のイメージをそのまま具体的な言葉にしてくれます。結果、菅沢は自分の意見を東堂に押し付けたいのでもなく、東堂から相談を受けて、二人で考えたいと思っていたことに気づきます。

⑤菅沢からは、コーチングで聞けば信頼関係が深まりますかと佐久間は聞かれています。佐久間の意見を聞きたい気持ちになるほど、菅沢の信頼は佐久間に寄せられたということでもあります。ですが、コーチに徹する佐久間はここでも、プロのコーチとして、言葉を復唱して、そう思いますか?と相手に返します。

⑥菅沢が部下の東堂にコーチングで話を聞きたいというアクションプランを出し、佐久間にアドバイスを求めました。コーチングとしてこの後アドバイスをするのではなく、別途時間を設けるという形を佐久間は取っています。もし、続けてアドバイスするのであれば、いったんコーチングはここで終わりましょうと言って、区切ったほうがいいかもしれません。

菅沢は三回の佐久間からのコーチングを通して下記のように感じたと言います。
「じっくり話を聞いてもらえると見なくてはいけないと思いながら、見てなかったことに気づくという感覚です。それをもとに自分からやるべきことが正しいアクションとして思い浮かぶという実感です」

フィルターを出さず、常に鏡になり続けた佐久間の成果であると思われます。

すべてのビジネス判断には背景に感情があると言われています。感情にフォーカスする言葉が出てきた場合も、大事にひらって相手に返し、相手のより深い「気づき」に貢献します。

コーチングでOne on One(一対一の面談)を行う際のチェックポイント

□アクションプランのあとのコーチングのセッションでは振り返りをしているだろうか
□課題などが複数出た場合でも、相手に優先順番を決めてもらっているだろうか
□感情にフォーカスする言葉が出てきたときに丁寧に確認できているだろうか
□アドバイスを求められたときには、最後にまわせているだろうか

*この物語に登場する人物名、団体名、システム等はすべて架空のものです。

Talisman編集部

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