「派遣」と「出向」の違いとは? 仕組みからトラブル回避策までを解説!

「派遣」と「出向」の違いとは? 仕組みからトラブル回避策までを解説!

近年は、業界や企業の規模を問わず、人手不足が深刻化しています。背景にあるのは、少子高齢化に伴う労働力人口の減少。それゆえ、激しい人材獲得競争はこれからも続くとみられています。そのような社会情勢のなか、人手不足を補う方法として活用されているのが、「派遣」や「出向」です。2つの働き方は、似ているようでまったく異なり、わかるようでわかりづらいもの。そこで、両者の仕組みとメリット・デメリット、そこから見えてくる違い、さらにトラブル回避策を解説します。

派遣という働き方

派遣は、働き方のひとつとして、すっかり定着しました。とはいえ、労働者のうち、派遣の占める割合は雇用者全体の2〜3%ほど(※1)。派遣という言葉は知っているけれど、実態はいまいちわからない……という人も少なくなさそうです。ここでは、派遣社員を迎え入れる企業の視点から、派遣の仕組みとメリット・デメリットを確認していきましょう。

派遣の仕組み

派遣の仕組みとは、派遣会社(派遣元)に雇用されている社員(派遣社員)が、企業(派遣先)の指揮命令によって仕事に従事するというもの。「労働者派遣法」には、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」と、定義されています。

このとき、派遣会社と派遣社員の間では「雇用契約」、派遣会社と派遣先企業の間では「労働者派遣契約」が締結されています。注目すべきは、派遣先企業と派遣社員の間には雇用関係が生じないこと。そのため、派遣先企業は、派遣社員に対して給与の支払いや社会保険料の負担などの義務がありません。一方、派遣会社には派遣料金を支払います。
派遣先企業の視点で見てみると、派遣とは、採用や雇用維持にかかる時間と労力を省き、労働力を得る手段といえるのです。

派遣の仕組みに関する内容はこちらでも詳しくご紹介しています。

【人材派遣の導入を検討中の企業必見】仕組みとメリットをやさしく解説

派遣のメリット・デメリット

企業が人材派遣サービスを利用するメリットとデメリットを確認していきましょう。
まず、メリットのひとつがコストの削減。前項のとおり、派遣社員の給与や社会保険料は派遣会社が支払うため、人件費が削減できるのです。また、自社で人材募集や選考を行わなくてもよいので、採用にかかるコストも削減できます。
もうひとつのメリットが業務の効率化。たとえば、年末調整や決算などの定型業務を派遣社員に任せて、正社員がコア業務に集中するというように分業化すれば、業務の効率化が図れます。あるいは、専門性の高い業務であれば、高いスキルと豊富な経験のある派遣社員に任せることで、業務の効率化はもちろん、生産性の向上が期待できるでしょう。
他方、最大のデメリットは業務内容の制限です。派遣社員は、派遣会社と派遣先企業が締結する労働者派遣契約に明記されていない業務にはできません。
また、労働者派遣法により、派遣が禁じられている業務(適用除外業務)——港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院・診療所等における医療関連業務、弁護士・社会保険労務士等の士業——があります。ただし、これらの業界に派遣という働き方がまったくないわけではありません。たとえば建設業務の場合、大工や左官の仕事は派遣が禁止され、事務やCADオペレーターは派遣が認められています。つまり、業界の全業務を一律に適用除外しているのではなく、業務を細かく分類したうえで、適用除外業務を定めているわけです。
労働者派遣法では、原則として日雇派遣を禁じています。ソフトウェア開発や通訳、翻訳、速記などの例外業務を除き、日雇労働者(日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者)の派遣はできません。
派遣の活用を検討している場合は、派遣社員に任せたい業務が適用除外業務にあたらないのか、あるいは日雇派遣に該当しないのかをしっかりと確認しましょう。

出向という働き方

出向は、派遣よりもおなじみでしょう。小説やドラマの影響もあり、左遷と同一視されがちですが、出向=降格人事ではありません。もちろん報復人事のはずもなく、人事異動のひとつです。ここでは、出向を迎え入れる企業(出向先)の視点から、出向の仕組みとメリット・デメリットを確認していきます。

出向の仕組み

出向は人事異動の一種で、「在籍出向」「転籍出向」という2つの形態があります。いずれにしても、異動先は在籍している会社とは別の会社です。とはいえ、縁もゆかりもない会社に出向するわけではなく、多くの場合、グループ企業(親会社・子会社・関連企業)や業務提携先、取引先へと出向します。最近では、新型コロナウイルス感染症の影響に係る雇用維持対策のひとつとして、異業種間の出向に注目が集まりました。
在籍出向と転籍出向
(参照:mutualy

在籍出向

在籍出向は、労働者(出向者)が会社(出向元)に籍を置いたまま、別の会社(出向先)に勤務することです。「出向」というと、通常はこの在籍出向を指します。
出向を行うにあたり、出向元と出向先は、出向者の給与・社会保険・就業規則などについて、あらかじめ協議を重ねて、「出向契約書」を取り交わさなければなりません。その契約に基づき、出向者は出向先の指揮命令下で働き、出向期間を終えると出向元に戻ります。
出向先の視点で見てみると、在籍出向とは、期限付きで社外の人材を受け入れることで、社内に新しい風を吹き込み、イノベーションをもたらす手段といえるでしょう。

転籍出向

転籍出向は、労働者(出向者)が会社(出向元)との雇用契約を終了して、別の会社(出向先)と新たに雇用契約を結び、勤務することです。在籍出向とは異なり、完全に籍を移すため、もとの会社(出向元)に戻ることはなく、人事異動による転職といえます。そのため、転籍出向は、出向元・出向先・出向者の合意がなければ行えません。三者による協議内容をまとめ、「転籍協定書(契約書)」として取り交わします。この契約に基づき、出向元は出向者の退職手続き、出向先は入社手続きを行うのです。
出向先の視点で見てみると、転籍出向とは、採用活動の労力やコストを省き、信頼できる会社から適任者を新たに雇い入れられる手段といえるでしょう。

出向のメリット・デメリット

出向は、出向元・出向先・出向者の三者が関わるため、それぞれにメリットとデメリットがあります。ここでは、出向者を受け入れる出向先のメリットとデメリットを確認していきましょう。
そもそも出向とは、①雇用機会の確保(雇用調整など)②経営・技術指導(業績や労働環境の改善など)③職業能力開発(人材育成)④人事交流(人材交流)を目的に行われるもの。そのため、出向先のメリットには「即戦力の確保」「業務の効率化」「他社のノウハウの獲得」があげられます。最大のメリットは「組織の多様性、新陳代謝」が期待できることではないでしょうか。出向者は、自社とは異なる企業文化の中で仕事をしてきたわけですから、新しい視点や価値観をもたらしてくれます。ともに仕事をするなかで、自社の常識にとらわれていては考えつかなかった発想が生まれることもあるでしょう。それは、組織の活性化につながるはずです。
出向先のデメリットとしては、「受け入れ体制の整備」があります。在籍出向でも転籍出向でも、出向者が実力を存分に発揮できる環境がつくれなければ、期待する成果は望めないかもしれません。
また、在籍出向の場合、出向者はいずれ出向元へと帰っていきます。いかに優秀な人材で、どれだけの成果をあげてくれたとしても、長期的な戦力にはなりません。出向期間内に期待する成果を得るためにも、出向者にとってふさわしいポジションと担当業務を用意したうえで、働きやすい環境づくりにも努めましょう。

派遣と出向の違い

派遣と出向は、一見するとよく似ています。それは、派遣元・出向元が自社の労働者(派遣社員・出向者)を送り出し、派遣先・出向先の指揮命令下で業務に従事させているからです。この形態は「労働者供給」にあたります。しかし、労働者供給は、かつて中間搾取の温床になっていたため、職業安定法第44条により禁止されています。それなのに、なぜ、派遣と出向は許されているのでしょうか。
じつは、労働者派遣法に規定されている派遣は、労働者供給に含まれないのです。ただし、派遣という人材ビジネスは、厚生労働大臣の許可を得た派遣会社だけが行えます。
一方、出向はあくまでも人事異動です。まさに業として行わないからこそ、禁止されている労働者供給には該当しません。つまり、派遣も出向も「労働者供給」という形態を取りながらも、派遣はビジネスとして正式に許可され、出向はビジネスではないから認められているというわけです。なお、ビジネスか否かという違いは、派遣と出向の最大の違いといえます。さらに、3つの相違点について確認しておきましょう。

相違点①雇用契約

相違点の1つ目は「雇用契約」です。
派遣では、派遣会社と派遣社員が雇用契約を結びます。派遣先企業は、派遣会社から指揮命令権を委譲されるものの、派遣社員とは雇用関係にありません。
在籍出向の場合、出向元と出向先が取り交わす出向契約書に基づき、両者それぞれが出向者と雇用契約を結びます。つまり、出向先と出向者の間にも雇用関係が生じるのです。
転籍出向の場合、出向者は、出向元との雇用契約を解消して、出向先と新たに雇用契約を結びます。出向先にとっては、正社員を雇い入れたときと変わりません。

相違点②契約期間

相違点の2つ目は「契約期間」です。
派遣の契約期間は労働者派遣法に定められています。最短31日で、同じ企業の同じ部署での勤務は最長3年です。
一方、出向の契約期間に法的な決まりはありません。在籍出向の場合は、出向元と出向先が協議して出向期間を定めます。出向の目的にもよりますが、長期になる傾向が強いです。

相違点③労働条件

相違点の3つ目は「労働条件」です。
労働基準法では、使用者(雇用主)は、労働条件のうち①労働契約の期間②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準③就業場所、従事すべき業務④始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を二組以上に分けて就業させる場合のローテーションに関する事項⑤賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締切り、支払いの時期、昇給に関する事項⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)について、労働者に対して書面で明示することを義務づけています。
そのため、派遣の場合は、派遣会社が「労働条件通知書」と、労働者派遣法に定められている「就業条件明示書」を交付します。
では、出向元・出向先ともに出向者と雇用関係がある在籍出向の場合はどうなるでしょうか。一般的には、出向先が「労働条件通知書」を交付します。なお、出向元が代わりに用意してもかまいません。いずれにしても、出向契約書の内容に基づき、作成しましょう。
また、労働時間や休憩、休日など労務の提供に関わる労働条件は、出向先の規定を適用することが多いです。
転籍出向の場合、雇用主となる出向先が、転籍協定書(契約書)の内容に基づき、「労働条件通知書」を作成することになります。

労働条件に関連して、給与の支払いと社会保険料の納付について、確認しておきましょう。

給与の支払い

派遣の給与は、雇用主である派遣会社が支払います。同様に、転籍出向の給与は、雇用主となる出向先が支払います。
では、在籍出向の給与は、出向元と出向先のどちらに支払い義務が生じるのでしょうか。両者ともに出向者と雇用関係があるので、迷ってしまうかもしれません。じつは、労働法などに定めはなく、出向元と出向先が協議して決定します。基本的な考え方は、出向者は出向先の指揮命令下で出向先のために働くから、出向先が支払うというもの。ただし、出向元の賃金規程との差額は、出向元が負担します。そのため、次の方法を取ることが多いです。
①出向先が支払う(差額は出向元が負担する)
②出向元が支払う(出向先は負担額を出向元に支払う)

社会保険料の納付

社会保険料の納付については、保険の種類ごとに解説します。

●健康保険・厚生年金保険
健康保険・厚生年金保険は、基本的に給与の支払者が納付義務を負います。そのため、派遣は派遣会社、転籍出向は出向先が保険料を納めるわけです。在籍出向も同様で、給与の支払者が出向先であれば出向先、出向元であれば出向元が保険料を納付します。このとき、給与の負担額は関係ありません。前項の①なら出向先、②なら出向元に納付義務が生じます。

●労災保険
労災保険は、労働者を雇用するすべての事業主が加入しなければなりません。派遣は派遣会社、転籍出向は出向先に保険料の納付義務があります。在籍出向はというと、出向先が保険料を納めます。なぜなら、出向先に指揮命令権があり、出向者に対して安全配慮義務を負っているからです。

●雇用保険
雇用保険は、労災保険と同じく、労働者を雇用するすべての事業主が加入しなければなりません。被保険者は、31日以上の雇用が見込まれ、かつ、1週間の労働時間が20時間以上の労働者です。この条件に該当する労働者を雇用した場合、派遣は派遣会社、転籍出向は出向先に納付の義務があります。在籍出向はというと、給与の支払額の高い企業が保険料を納めます。

派遣と出向のトラブル回避策

派遣と出向をめぐり、知らず知らずに法を犯してしまうことのないように、トラブル回避策を確認しておきましょう。

派遣のトラブル「二重派遣」

派遣を活用するとき、注意しなければならないのは「二重派遣」です。いったいどのような派遣なのか、どのような罰則があるのか、そして回避策とは——。

二重派遣と罰則

二重派遣とは、派遣会社Aと労働者派遣契約を結び、派遣社員を受け入れた派遣先Bが、その派遣社員をさらに別の会社Cでの業務に従事させること。これは、違法行為です。派遣先Bは、「A社から派遣された派遣社員が有能だから、人材不足に悩んでいるグループ企業C社に出向させよう」などと考えてはいけません。それは二重派遣にあたります。
労働者供給を禁じる職業安定法第44条に抵触し、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科せられます。このとき、C社から手数料を受け取ってしまうと、さらに労働基準法第6条に触れ、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科されます。
ところで、二重派遣を受け入れたC社はどうなるのでしょうか。二重派遣と知らずに派遣社員を受け入れた場合、罰せられません。しかし、二重派遣とわかったあとも派遣社員を受け入れ続けた場合は、処罰の対象となります。そもそも、労働者派遣事業は許可制です。無許可派遣の受け入れは禁じられているため、違反すると行政指導の対象となります。

二重派遣の回避策

二重派遣の回避策は、まず、派遣の仕組みをしっかりと理解すること。そうすれば、自社に迎え入れた派遣社員を他社へ出向させるというような事態は防げるでしょう。次に、信頼できる派遣会社を選定すること。派遣会社の労働者派遣事業許可証を確認して、厚生労働省の許可を得ていることを確認するべきです。また、派遣会社と取り交わす労働者派遣契約の内容(派遣社員の就業場所や業務内容、指揮命令者など)もしっかりとチェックします。

出向のトラブル「偽装出向」

出向を行うときは「偽装出向」に気をつけなければいけません。偽装出向とはいったい何か、罰則や回避策とあわせて確認しましょう。

偽装出向と罰則

偽装出向とは、出向を装った労働者供給のこと。前章「派遣と出向の違い」で確認したとおり、出向の形態は労働法で禁止している労働者供給と変わりません。しかし、一般的には業として行われるものではないため、労働者供給とはみなされないわけです。逆にいうと、業として行えば、出向は労働者供給となります。
ところで、「業として行う」とは、どのようなことを指すのでしょうか。まず、出向先から対価を受け取ると、それはビジネスと判断されやすくなります。ただ、金銭が絡まなければいいという簡単な問題ではありません。というのも、複数の企業に繰り返し出向者を送っていると、事業性があると判断される可能性が高くなるからです。労働者供給は、職業安定法第44条の違反であり、出向元だけではなく、出向者を受け入れた出向先も処罰の対象となり、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科せられます。

偽装出向の回避策

偽装出向の回避策は、偽装出向と判断される要素をなくすことです。出向先が気をつけることとしては、まず、出向元に対価を支払わない。業務委託料やコンサルタント料などの名目であったとしても、対価と疑われるような支払いはするべきではありません。次に、出向の目的を明確にしましょう。なぜなら、①雇用機会の確保(雇用調整など)②経営・技術指導(業績や労働環境の改善など)③職業能力開発(人材育成)④人事交流(人材交流)という4つの目的がある出向は、適正な出向であり、労働者供給にあたらないとされているからです。いずれにしても、出向の仕組みをしっかりと理解することが、最大のトラブル回避策といえるでしょう。

まとめ

派遣と出向は、近年ますます深刻化している人手不足の解決策として活用されています。両者とも、じつは、労働法で禁止されている労働者供給という形態です。しかし、派遣は、厚生労働省の許可を得た人材ビジネスとして、出向は、ビジネスではなく、企業間の人事異動として認められてきました。
派遣と出向は、形態は同じでも、その仕組みやメリット・デメリットは異なり、それゆえに、「雇用契約」「契約期間」「労働条件」にも違いがあります。その違いを知ることは、違法行為である二重派遣や偽装出向の回避策ともなります。派遣と出向の正しいあり方を理解し、その違いを認識して、人事戦略に活用しましょう。

(※1 参考:一般社団法人 日本人材派遣協会|派遣の現状|労働市場における派遣の規模)

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