派遣先責任者とは? 派遣社員の受け入れ前に押さえておきたいポイントを一挙紹介

派遣先企業は、派遣社員の受け入れにあたり、さまざまな準備をしておかなければなりません。「派遣先責任者」の選任もそのひとつ。選任義務のある事業者がそれを怠った場合には、30万円以下の罰金に処せられることもあるので注意が必要です。

罰則規定まである派遣先責任者の選任ですが、そもそも派遣先責任者とは——?
今回は、派遣先責任者の役割や選任方法、職務など、押さえておきたいポイントを項目ごとに解説していきます。派遣先責任者について、その全容を知りたかった人にはもちろん、この部分の理解を深めたかった!という人にも役だつでしょう。

1. 派遣先責任者とは?〜どのような役割を担うのか〜

ここでは、まず、派遣先責任者とはどのような者なのか?その輪郭を見ていきましょう。さらにもう一歩踏み込んで、派遣先責任者と同様に選任しておかなければならない指揮命令者、苦情処理担当者についても解説します。

1.1. 派遣先責任者の定義

派遣先責任者を一言でいうならば、「労働者派遣に関するトラブル回避のキーパーソン」です。それを念頭に置き、もう少し掘り下げて見てみましょう。
厚生労働省の資料によると、派遣先責任者は次のように定義されています。

派遣先において労働者派遣された派遣労働者に関する就業の管理を一元的に行い、派遣先における派遣労働者の適正な就業を確保するために、労働者派遣法第41条に基づき選任される者をいいます。
厚生労働省|派遣先責任者講習

この文言からだけでは見えにくいのですが、派遣元企業(以下、派遣会社)と連絡調整を行ったり、派遣社員から受けた苦情の処理に当たるといった役割も担っています。

派遣先責任者は人材派遣に関する派遣先企業の最終責任者でありますが、むしろ派遣社員が仕事を円滑に進められるよう就業環境を整える「調整役」としての側面が大きいのです。
そのため、派遣先責任者は現場を知る(派遣社員の身近にいる)第一線の管理者が望ましいといわれています。

ただ、実際は事業所長や人事部長などを据えることが少なくありません。
というのも、派遣先責任者は、次項で取り上げる「指揮命令者」とは違って現場にいなくてもよい、という認識を持たれやすく、無難に役職者が選ばれてしまう傾向にあるからです。

1.2. 派遣先責任者と指揮命令者、兼務も可能だがその違いとは?

指揮命令者とは、派遣社員に対して業務の指示を行う担当者のこと。労働時間や休憩、残業の管理といった就業環境の適切な管理も求められる、いわば派遣先での「直属の上司」です。では、それ以外の者は指示ができないのか?というと、そんなことはありません。派遣社員が、複数の社員から指示を受けると混乱してしまう恐れがあるため、指揮命令者という担当が設けられているのです(派遣先責任者と共に雇用契約書に明記されます)。

以上のように、指揮命令者の役割は業務の指示を行うことが主となるため、現場にいなければならないと思われがちなのですが、実は現場どころか常駐さえしていなくてもいいのです。居場所が明確で、いつでも連絡が取れる状態であれば、離れたところにいてもかまいません。なぜなら、業務の指示は遠隔でも可能だからです。

常駐していなければ職務を全うできないのは、派遣先責任者のほうで、派遣先責任者は派遣社員が就業する事業所から選任する必要があります。ただ、部署まで同じであることは求められていないので、他部署から選ぶということでも特に問題はありません。できることなら、派遣社員の身近にいる者を選びたいところではありますが——。

ところで、このように見てくると、「常駐」を前提にすれば派遣先責任者と指揮命令者は、同じ人が兼務してもよさそうな気がしませんか?
法律で禁止されているわけではないので、可否でいえば、派遣先責任者と指揮命令者の兼務は可能です。
実際、兼務という方法を取り入れている企業もありますが、一般的にはそれぞれ別の者が担当し、また、それが望ましいともいわれています。というのは、指揮命令者がトラブルの原因となり、それを処理するのも派遣先責任者である当の本人という好ましくない状況が生まれてしまう可能性が考えられるからです。

1.3.派遣先責任者と苦情処理担当者との兼務について

派遣社員を扱う上で、実は大切な「苦情処理担当者」についても一緒に触れておきます。

苦情処理担当者とは、読んで字のごとく、派遣社員から苦情の申し出を受けた際に対応する担当者のこと。一言でいうならば「派遣社員の苦情の窓口」です。派遣法により設置が義務付けられており、就業条件明示書に明記されます。派遣社員から苦情を受けた場合は、速やかに派遣会社へ通知し、連携して解決を図る必要があるため、苦情処理体制が派遣社員にもわかるように明示されるのです。

もう少し掘り下げてみましょう。
2021年1月の派遣法改正で、派遣先企業を「派遣労働者を雇用する事業主とみなし」、派遣労働者の苦情に対して「誠実かつ主体的に対応すること」という内容が新しく盛り込まれました。
派遣先企業における苦情処理の義務化(苦情処理担当者の設置など)はすでに定められていたことですが、苦情の多くは派遣会社に寄せられ、中には派遣先企業が内容も把握していなかったという事例まであるくらいです。
そのため、この改正では派遣先企業の立ち位置を強調し、誠実かつ主体的に対応することを求めたのです。

ちなみに、派遣先責任者が苦情処理担当者を兼務することは可能です。しかし、指揮命令者が兼務することは望ましくないとされています。それは、派遣先責任者との兼務が望ましくないのと同様に、指揮命令者自身がトラブルの原因となってしまう可能性が否定できないからです。

2021年1月の派遣法改正については、以下の記事で詳しくご紹介しています。

2021年の派遣法改正の変更点とは?派遣受入企業が取り組むべき課題も解説

2. 派遣先責任者の選任方法

派遣先責任者は、派遣先企業の社員の中から、事業所ごとに専属の者を選任する必要があります。この場合の「専属」とは、「ほかの事業所の派遣先責任者を兼任しない」という意味で、派遣先責任者の職務のみに従事するということではありません。では、具体的な選任方法を見ていきましょう。

2.1. 派遣先責任者は誰がなれるのか?

派遣先責任者になる上で、特に資格などの規定はありません。ただ、以下に掲げるような、職務を的確に遂行できる者を選任するよう努めることとされています。

1)労働関係法令に関する知識を有する者であること
2)人事・労務管理等について専門的な知識、または相当期間の経験を有する者であること
3)派遣労働者の就業に係る事項に関する一定の決定、変更を行い得る権限を有する者であること

※厚生労働省の指定する機関で実施される「派遣先責任者講習」を受講することで、1)に該当すると認められる。
※株式会社および有限会社の監査役は業務の性格上、派遣先責任者にはなれない。

2.2. 選任数

事業所ごとに決まる派遣責任者の数

選任しなければならない派遣先責任者の数は、事業所ごとに受け入れる派遣社員の数に応じて決まります。
下記のように、「1人以上100人以下」を1単位とし、1単位につき1人以上選任するというのが基本になります。

1事業所ごとに
派遣社員の数:1人以上100人以下【1単位】 → 派遣先責任者の数:1人以上

例)派遣社員200人 → 派遣先責任者 2人以上
  派遣社員201人 → 派遣先責任者 3人以上
  派遣社員300人 → 派遣先責任者 3人以上
  派遣社員301人 → 派遣先責任者 4人以上

※1事業所における派遣社員の数と、派遣先企業が雇用する社員の数が5人以下の場合は、選任する必要はないとされています。

製造業務専門派遣責任者とは

製造業務である場合、50人を超える派遣社員を受け入れる事業では、通常の派遣先責任者の選任と同様に1人以上100人以下を1単位として、1単位につき1人以上の製造業務専門派遣先責任者を選任しなければなりません。

50人以下の場合は、通常の派遣先責任者が製造業務に従事する派遣社員を含めて担当します。なお、製造業務専門派遣先責任者のうち1人は、製造業務以外の派遣先責任者を兼ねることができます。
また、製造業務専門派遣先責任者は、製造業務に従事する派遣社員との合計数が100人を超えない範囲で、製造業務に付随する業務(製品の運搬、保管など)に従事する派遣社員も併せて担当することができます。

例① 製造業務30人、製造業務以外の業務260人
 製造業務専門派遣先責任者 → 0人 *製造業務の人数が50人を超えないため
 通常の派遣先責任者    → 3人

例② 製造業務150人、製造業務に付随する業務50人、製造業務以外の業務70人
 製造業務専門派遣先責任者 → 2人 *製造業務150人+付随業務50人
 通常の派遣先責任者    → 1人

例③ 製造業務350人、製造業務に付随する業務60人、製造業務以外の業務50人
 製造業務専門派遣先責任者 → 5人 *うち1人は、製造業務以外の派遣先責任者を兼務できるため

3. 派遣先責任者の職務

派遣先責任者の職務内容は、派遣法により次のように定められています。

1)労働者派遣法及び労働基準法等の適用に関する特例等により適用される法律の規定、 派遣社員に係る労働者派遣契約の定め並びに派遣元事業主から受けた通知の内容に ついての関係者への周知
2)受け入れ期間の変更通知に関すること
3)派遣先における均衡待遇の確保に関すること
 ・派遣先における教育訓練の実施状況の把握
 ・利用できる福利厚生施設の把握
 ・派遣元に提供した賃金水準に係る資料の種類の把握
4)派遣先管理台帳の作成、記録、保存、および記載事項の通知に関すること
5)派遣社員から申し出を受けた苦情の処理にあたること
6)安全衛生に関すること
 派遣先において労働者の安全衛生を統括管理する者および派遣元事業主と、以下のような連絡調整を行うこと。
 ・健康診断の実施に関する事項
 ・安全衛生教育に関する事項
 ・派遣契約に定めた安全衛生に関する事項の実施状況の確認
 ・事故等が発生した場合の内容や対応状況の確認
7)派遣元事業主との連絡調整に関すること。

4. 派遣先責任者は、派遣法と実務を理解して選任する

派遣先責任者は、派遣社員の受け入れがうまくいくかどうかにも関わってくる重要な存在です。しかし、名称に「責任者」と付くからなのか、事業所長や人事部長といった肩書きで選ばれることが少なくありません。いったん肩書きを脇に置いて、実務にフォーカスしてみると、おのずと相応しい人物像が見えてきます。
また、選任数や職務など法令に定められていることも多いため、理解が不足していると、実は法令違反だった……なんてことにもなりかねません。しっかり理解して、人材派遣サービスを適切に利用しましょう。

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shinya iguchi