【ウェビナーレポート】データを使った将来の採用予測

「必要な人材をどこから、どうやって確保するか」。これは、採用担当者にとって頭を悩ませる課題の一つです。特にIT業界では人材不足が深刻化しており、自社ニーズにマッチした優秀な人材を採用するのは簡単ではありません。
 
5年、10年先を見据えた時、必要な人材をどうすれば採用できるか。ポイントは将来の採用予測(Forecast)を立てることです。過去の失敗を悔やむだけでなく、データを使って将来予測を立て、会社の将来に投資をすることが効果的です。
 
タリスマンでは、デル・テクノロジーズの人材採用部長 田和健介氏とLinkedInカスタマーサクセスマネージャー 黒原悠理氏をお招きし、「データを使った将来の採用予測」を開催しました。今回はそのウェビナーのハイライトをレポートいたします。

プロフィール


DELL_田和様
パネリスト:デル・テクノロジーズ人材採用部長 田和健介氏

関西学院大学卒業後、2002年富士通に入社して人事部に配属。その後2007年からゴールドマン・サックスで人事デューデリジェンスやアンダーライティングを担当。2014年に日本マイクロソフト入社。HRマネージャー/HRビジネスパートナー、人材採用部長として活躍した後、2019年デルに入社し、採用部門の責任者を務める。

LinkedIn_黒原様
パネリスト:LinkedInカスタマーサクセスマネージャー 黒原悠理氏

国際基督教大学を経営専攻で卒業後、ERPソフトウェアベンダーであるSAPに営業として入社。その後、コンサルティングファームであるAccentureで調達のビジネスプロセスアウトーソーシングのコンサルタントとして勤務。現在はLinkedInにて、LinkedInタレントソリューションを活用する企業をコンサルタントとしてサポートする。また、リンクトイン・ジャパンリクルーターユーザーグループを運営し、イベントも隔月で開催している。

MC:タリスマン株式会社 代表取締役 盛内文雄

2004年、某外資系人材サーチ企業の成長期にコ ンサルタントとして入社し、その後支店立ち上げや日本のリージョナルディレクターとして、ビジネス拡大に貢献した経験を持つ。2012 年にタリスマンを設立し、マネージングディレクターに就任。 現在、国内3拠点、海外1拠点にて人材サービスを展開。 スタートアップアクセラレータープログラムのメンターも務める。

達成可能な部分にリソースを張るには「採用予測」


盛内:早速ですが、採用予測が必要な理由について教えてください。
 
田和:採用予測を行うことで、可能なことと不可能なことを見分けて、達成可能な部分にリソースを集中できます。例えば、候補者を募集してから、実際に入社するまでには時間がかかりますよね。弊社の場合、募集開始からオファー承諾まで3カ月程度、オファー承諾から入社までは40日ぐらいです。これは、職人技のように肌感覚で捉えているのではなく、ATSに基づいて管理しています。つまり、採用のスタート時点から完了までのプロセスの目途を立てること、これが採用予測になります。
 
これができていると、経営陣からの要求に数字で説明することができるんです。「今月中に100人採用しろ」と言われた場合でも、予測の数値を見せることで、現実的に達成が難しいことを理解してもらえますし、「その代わり、こうすることはできます」という代替案を出すことも可能になります。不可能な目標に時間を割くのではなく、達成可能な部分にリソースを張ることで、自分達の努力を適正に反映させることができます。ただし、予測した通りにすべてが進むわけではないので、ある程度、臨機応変に対応していくことも大切です。
 
さらに幅を広げて考えると、採用予測には「採用数」だけでなく、採用に至るまでのプロセス、つまりスカウトメールの送信やカジュアル面談の数なども関係してきます。黒原さん、LinkedInにはこの点で役立つ機能があるでしょうか。
 
黒原:LinkedInのリクルーター画面にある「レポート機能」を使うことで、スカウトメールの送信数、受諾数、辞退数などをExcelシートにエクスポートして分析できます。さらにスカウトメールのテンプレート毎、ポジション毎の返信率、カジュアル面談に進んだ数もチェックできます。これらの数値を分析することで、一人の内定を出すために必要なスカウトメールの数を割り出すことができるので、KPIや採用の目標値を立てやすくなります。

ダイレクトソーシングの組織作り


盛内:採用を進めるには、ダイレクトソーシングの組織作りも重要ですが、その点についてアドバイスがありますか。
 
田和:弊社でもエージェントを利用していますが、オンとオフの使い分けを重視しています。短期間で結果を達成すべき時には拡張リソースとしてエージェントを活用しますが、自社のコア部分はダイレクトソーシングで行います。
 
ダイレクトソーシングの内容ですが、リクルーティングチームがハイヤリングマネージャーとタレントストラテジーを決め、ソーシングチームが候補者とのエンゲージメントを行います。弊社にとってはこのスタイルがベストだと思っていますが、それでも効果が現れるまでに8四半期がかかりました。ダイレクトソーシングの方法は組織サイズやハイヤリングマネージャーの成熟度によって異なると思います。
 
黒原:ダイレクトソーシングでの成功体験が積み重なることによって、組織内の協力体制が強化されていきます。組織作りについては、ハイヤリングマネージャーと現場のコミュニケーションが取りやすい方法などを選択すると良いと思います。
 
基本的には、2つのパターンがあります。まず、業務毎に担当者を分ける方法です。この場合、担当者が一つの業務に専念できるというメリットがありますが、面接担当者とソーシングチームとの連携など、横のつながりがウイークポイントになります。
もう1つは、営業やエンジニアなどポジションごとにチームを分けるパターンです。ポジション毎に専門性のある担当者が付くので、候補者に好印象を与えやすいというメリットがあります。しかしその分、一人の担当者が全ての業務を行うので、面接とソーシングの平衡など、全体業務に偏りが出ないように注意が必要ですね。
 
最近では、LinkedInの担当が1名、○○媒体1名のように、ダイレクトソーシングの媒体毎に担当者を設定するパターンもあります。媒体毎に候補者の偏りがあることも多いので、シニアポジションでは○○媒体を使い、ジュニアポジションでは○○媒体を使うなど、組み合わせて利用すると良いですね。企業組織が大きくなると、今ご紹介したすべてのパターンを組み合わせてダイレクトソーシングを展開している事例も多くあります。

タレントマッピングの重要性と方法


盛内:具体的な採用活動についてはどうでしょうか。
 
田和:経営・役員陣のポジションやマーケティングで重要な役割を担うポジションの採用はどの企業にとっても大きな課題ですよね。それらをダイレクトソーシングで息長く行うには、タレントマッピングが重要だと思います。弊社では、競合20社の各ポジションにどのような人材がいるのかをマッピングしています。
 
盛内:LinkedInに何か良い機能がありますか。
 
黒原:「タレントインサイト」を使うと、LinkedInに登録しているメンバーのプロフィールを統計的に分析でき、獲得したいポジション人材の総数や、その人たちがどのような企業で働いているのかが分かります。さらに、ターゲット人材の「雇用の需要」や「離職率」なども参照できるので、どこから人材を見つけてくると良いかのデータを引き出せます。

Q&Aコーナー

Q:LinkedInには秘書や総務系の候補者もいる?
黒原:LinkedInのダイレクトソーシングで成功事例が多いのはエンジニア系ですが、秘書・総務、バックオフィスの方もいるのでアプローチは可能です。

Q: 年間のヘッドカウントが20~30の場合、タレントアクイジションのチームはどのくらいが適性?
田和:結論から言うと、採用ブランディングや会社の規模、知名度によって異なるため、他社と比べてもあまり意味がないと思います。採用ブランドがあって広告を出すだけで人が集まる会社と、知名度が低い会社を比較することはできないですね。参考として言うなら、弊社の場合は1~2人です。

Q: 日本でもLinkedInからデータを分析する価値がある?
田和:アメリカのLinkedInのキャプチャー率は40%ですが、日本では2%程度です。ですから、日本のLinkedInの数値をそのまま基準にして投資計画を立てるのはリスクがあると思います。しかし、様々な媒体と比較しても計測可能な数値があるのはLinkedInだと思いますし、今やグローバルのタレントベースはLinkedInなので、ここをベースにタレントストラテジーを考えるのが有効だと思います。

Q: 同じ職種でも違うポジションで呼ばれている場合、どのように検索する?
黒原:LinkedInのポジション名に「プリセールス」と入れると、プリセールスと関係する職種が検索できます。また、ターゲットのポジションがどのような名称で呼ばれているのかを検索して、それをブーリアン検索にかけるのも有効だと思います。

Q:シニアクラスの採用にはどの媒体が効果的?
田和:ITエンジニアのシニアクラスの採用はLinkedInのみですね。他の媒体は中間層ぐらいまで人材しかいない印象です。シニアクラスを採用するには、「自分の会社に来たい人」の中から選ぶのではなく、「自分の会社が必要としてる人」の中から選ぶことがポイントです。シニアクラスの多くは、今の仕事に満足していてあまり転職する気のない人が多いので、その気持ちをどうやって変えていくかが重要になります。

Qエンプロイメントブランディングで工夫していることは?
田和:弊社では、エンプロイメントブランディング専門のマーケッターを配置しています。LinkedInやTwitterなどSNSから短期的に応募が来るというだけでなく、長期的な視野で採用を捉えて、大事に部分にリソースを張っています。

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shinya iguchi