元アマゾンジャパン合同会社に在籍していたプロコーチがお届けする、中途採用後の新人をどう成長させるか?第3回目。
筆者が、コーチングを用いて実際に業務の改善を行った経験をもとにフィクションのストーリー形式でご紹介しています。
中途採用後の新人が、なかなか実力を発揮できない。コーチングの活用方法がわからないという方はぜひご参考にしてください。
1回目を読まれていない方はこちらから。
前回、コーチングのお題が出ず沈黙に悩んだ菅沢ですが、今回は会社のゴール設定という角度からコーチングを行うことにしたようです。
篠原は積極的に話をしてくれるでしょうか。
背景:
彼らはオミヤゲドットコムという会社のプロジェクト推進部の社員です。
プロジェクトマネージャーの佐久間はチームメンバーの成長のためにOne on Oneをコーチングで行っています。今回部下の菅沢に新しい中途採用者が入社しました。篠原のミッションはMade in Japan以外の製品をより分けるEXOシステムの改修案のとりまとめです。
主な登場人物:
佐久間省吾 35歳 プロジェクトマネージャー
菅沢莉子 32歳 プロジェクトリーダー 佐久間にレポート
東堂聡志 28歳 プロジェクトリーダー 菅沢にレポート
篠原大輝 29歳 プロジェクトメンバー 菅沢にレポート
<ゴール設定から現状把握>
①等の番号が入った箇所については、セッションの後にコーチングのポイント解説をお読みいただけます。
「今日のOne on Oneですが、篠原さんからお題はありますか?」
「・・・・・・考えていたのですが、特にこれといってなくて」
「そうですか。では、篠原さんのゴール設定について話をしてもいいでしょうか」
「オミヤゲドットコムのブランドサイト、ジェイグッズカンパニーで扱う商品で、Made In Japan以外の商品をより分けるのがEXOですよね」
「先日一回目のEXOシステムがローンチしている。その後のシステムの改修案を十月までにまとめ、インドの開発で年内にアップデイトしてもらう」
「そうですね。①この案件における篠原さん自身の目標はなんですか?」
「自分の目標ですか?期日までにシステムのアップグレードではなくて?」
「はい、これを達成する事によってなりたい篠原さんの姿です
「②(言い方よくなかったのかな。でも、辛抱強く待たねば)」
「・・・・・・えっと・・・・・・あ、いえ・・・・・・」
「篠原さん、話がまとまっていなくても大丈夫なんです。今、ちょっと考えていた事、言葉に出して聞かせてもらえませんか」
「えっと。その、じゃあ、各部署にフォーマットをつくって今、最優先で改修してほしいシステムについて聞いています。予定では期日通りに選別して改修に回せそうですが、各部署からの優先順位よりも、このジェイグッズカンパニーのサイトの改修優先順位を皆が納得する形で持って行くことでしょうか」
「システムだけでなく、このブランドショップの改修優先順位を各部署が納得することですね」
「そこは私に任せてくださると言ってくださったところだと思います」
「はい。そうです。もう少し詳しく話しもらえますか?」
「EXOは日本製品以外を、Made in の表記を中心に、1、商品情報ページでの検知。2、入荷時の入荷箱のMade in 表記による仕分け。3、顧客からの評価を検知して、入荷商品の情報を修正するです」
「ですが、このシステムの改修に対する要望が案外すくなくて、けれど、集まってきつつある、このブランドショップの使い勝手自体の改修を望む声は多いんです。集まる内容が広範囲となることが予想されています」
「はい、結局使うのはお客様なので、システムだけでなくこのサイト全体の使い勝手を優先して改修し、みんなに納得してほしいです」
「EXO周りだけでなく、サイト全体の改修も一緒に考えたいということですね」
「はい。顧客のフィードバックも確認しましたが、Made in Japan以外の商品だったというフィードバックよりも、サイトの使い勝手や商品情報の偏りについてのもののほうが目立っていました。うまく納得してくれるようにしたいです」
「③納得という言葉が何度か出てきましたが。どんな感じですか?」
「うーん。そうですね。システムの使い勝手はお客様が使いやすいことが一番だと思うのです。取引先からの要望バランスもあると思うのですが、最終的に売り上げに直結する改修をして、どの部署もこれでよかったと思ってもらえるようにしたいのです。そうすれば、ちょっと利己的ですが、自分自身も受け入れてもらえるかなと」
「お客様の使い勝手重視で、売り上げに直結することで各部署が納得してくれると思うんですね。そして、篠原さん自身の仕事にも納得してくれるようにという感じでしょうか」
「そうですね。そういう意味では、菅沢さんが言ってくださった自分の目標というのは、納得してもらえる仕事をして、皆に受けれてもらうことですね」
「いいですね。④皆が納得する仕事をし、篠原さんの存在を受けれてもらう」
「はい、えっと、なので、このシステム改修は、顧客のインパクトをマトリックスにして見える化し、精査する方法を取りたいです。見えるようにしておけば、納得につながると思います」
「それは数値で顧客のインパクトをはかれる様にしたいということですね」
「精査から具体的な方法に2ヶ月取るとして、できればこの1ヶ月で」
「1ヶ月後までにですね。⑥現状について教えてください。達成が100%だったとしたら今の達成度は何%くらいですか?」
「たたきのような物を作っている途中ですので、まだ5%くらいでしょうか」
「わかりました。では、次回のOne on One にて、課題、アクションプランを具体的におききしますね」
「そのつもりでお聞きしています。具体的な仕事に沿ってコーチングをしたほうが良いかと思ったので。話をしてみてどうですか?」
「あの、菅沢さんが私の話にすごく集中して聞いてくれたので、自分の心と会話することができたように思います
「それはよかったです。篠原さんはまだ二ヶ月に入ったところなので、わからないこととか、疑問に思うことは何でもぶつけて聞いてください。メンターの東堂さんとはどうですか?」
「すごく助けてもらっています。東堂さんはどの部署の人とも仲がいいんですね。それにとても信頼されている」
「そうかもしれないですが。でも、うらやましいです」
「あんな風に、各部署の人と話せるようになりたいなと」
「これからどんどん仕事で関わっていくのだから、きっと、そうなりますよ」
セッションのポイント
ゴールについての本人の目標を聞きます。仕事をそつなくこなしていくだけの人材を会社は求めておらず、仕事を通して成長し、より大きな存在となって会社に貢献していってもらいたいと上司は思っているものです。そのための質問です。
1、沈黙に耐えている時、コーチは不安に駆られるものです。ですが、何度も言いなおすとコーチされる側の思考を妨げる可能性があります。ここは勇気をもって待ちます。
2、コーチは相手の言葉を全身耳にして集中して聞く必要があります。その際に、相手が何度か繰り返し使う言葉があったとしたら、言葉をひらって、明確にします。そこに、相手の潜在意識が隠れているものです。
3、目標が出てきたときには、要約して相手に聞かせましょう。
4、具体的な目標がでてきたら、期日を聞きます。
5、そのあと、現状でできているところを確認します。
コーチングのチェックポイント
ゴール達成のためのコーチングフローに従って話を聞く場合、目標、期日、現状把握、ギャップ、障害、課題、アクションプラン、フォローアップの順番に聞きます。
コーチングが途中になった場合も、「話をしてみてどうですか?」と新たな気づきがあったかどうかを確認していきます。
まとめ
今回も“お題が特に思い浮かばない”から始まったコーチングでしたが、菅沢が、篠原のミッションについて聞き、最終的に仕事を通して成長したい自分の姿に気づきました。
中途採用の新人は早く仕事で成果を出さなくてはと考えがちですが、本当のところ、自分を雇ってよかったと思ってもらいたい、自分を受け入れてもらいたいという気持が何より強いものです。
上司やチームメートはそんな焦りを受け入れつつも、新人がのびのび自分のより良き仕事の考えを表明できるようにサポートできることが何より大事だと考えます。
最期に同僚の東堂を気にしていた篠原さん。あまり気にしすぎないで頑張ってもらいたいものです。次回は目標達成のためのコーチング後半です。菅沢にとっても、コーチングの腕の見せ所です。
最後までお読みいただきありがとうございます。コーチングについてのご質問などお気軽に
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*この物語に登場する人物名、団体名、システム等はすべて架空のものです。